関東弁護士会連合会は、関東甲信越の各県と静岡県にある13の弁護士会によって構成されている連合体です。

宣言・決議・意見書・声明等宣言・決議・意見書・声明等

平成20年度 宣言

市民の身近にあって利用しやすい司法をめざして
-司法基盤の整備と弁護士過疎・偏在の解消を-

 関東弁護士会連合会(以下「当連合会」という。)は,1994年(平成6年)の第41回定期大会における「弁護士過疎対策に関する決議」以降,弁護士偏在問題対策基金を設置するとともに,弁護士偏在問題対策委員会を設置し,弁護士過疎・偏在を解消するための活動とそのための財政的援助を行ってきた。また,日本弁護士連合会(以下「日弁連」という。)は,1996年(平成8年)の「弁護士過疎地域における法律相談体制の確立に関する宣言」(いわゆる名古屋宣言)以降,弁護士過疎地域に法律相談センターを設置し,1999年(平成11年)には,「ひまわり基金」を設置し,全会員から特別会費を徴収して,ひまわり基金法律事務所の開設を進めるなど,弁護士過疎・偏在を解消するために積極的な取り組みを進め,当連合会管内でも,現在,7箇所のひまわり基金法律事務所が開設されている。
 しかし,当連合会管内には,今なお,弁護士の足りない地域が少なからず存在しており,市民の身近にあって利用しやすい司法が実現されているとは言えない。また,地方裁判所・家庭裁判所の支部(以下「裁判所支部」という。)のうち裁判官が常駐していないところや,地方検察庁の支部(以下「検察庁支部」という。)のうち正検事が常駐していないところも少なくなく,これら裁判所支部・検察庁支部の基盤整備も不可欠である。さらには,2009年(平成21年)に始まる被疑者国選弁護の対象事件の拡大や裁判員裁判に向けた弁護体制の確立も求められている。
 そこで,当連合会は,諸改革によるひずみが急速に進行し,格差や貧困の問題が深刻になってきているわが国社会において,市民が司法に何を期待し,弁護士・弁護士会に何を求めているのか,を考えつつ,市民の身近にあって利用しやすい司法を実現するため,次のとおり宣言する。

  1.  当連合会は,当連合会管内はもとより全国の弁護士過疎・偏在地域に定着する弁護士の養成や,ひまわり基金法律事務所又は日本司法支援センターの地域事務所に赴任する弁護士の養成と任期満了後の受け入れ,被疑者国選弁護の対象事件の拡大や裁判員裁判への対応等が必要であるとの認識に立ち,管内の各弁護士会とともに,このような目的を有する都市型公設事務所を管内の各弁護士会に設置する方向で検討を進めるとともに,その設置が困難な場合であっても,これらに積極的に協力する法律事務所を増やすよう努める。
  2.  当連合会は,管内の各弁護士会と連携しながら,弁護士過疎・偏在地域への定着を促進するため,将来,当該地域に定着する意欲のある新規登録弁護士を積極的に採用するよう働きかけるとともに,司法修習生に対し,当該地域における就職情報を積極的に提供するほか,当該地域内の法律事務所の見学会や,当該地域内の弁護士との懇談会を開催し,各弁護士会が当該地域で即時独立開業する司法修習生に対して行う技術的支援についても,集合研修等を実施して積極的に協力するなど,各都県を越えた対応を行うよう努める。
  3.  当連合会は,管内の各弁護士会及び各法科大学院と連携しながら,弁護士過疎・偏在の解消に資する法科大学院教育のあり方について検討を進めるとともに,エクスターンシップをより充実させるため,法科大学院の学生の法的地位の明確化を関係各機関に働きかけるよう努める。
  4.  当連合会は,上記1ないし3の活動を行うこと,及び,管内の各弁護士会に新たに設置される都市型公設事務所等に経済的支援を行うことを目的として,弁護士偏在問題対 策基金を整備・拡充する。
  5.  当連合会は,国に対し,以下の諸施策の実現と,それに必要な財政的措置を求める。
    1. (1)  全ての裁判所支部に1名以上の裁判官を常駐させるとともに,多忙な裁判所支部にあっては,裁判官を増員すること
    2. (2)  全ての検察庁支部に1名以上の正検事を常駐させること
    3. (3)  上記(1)(2)のほか,裁判所支部,簡易裁判所,検察庁支部の人的・物的基盤を充実させること
    4. (4)  家庭裁判所出張所を増設すること
    5. (5)  裁判所支部管内の事件は可能な限り当該裁判所支部において審理すること
    6. (6)  労働審判を裁判所支部でも取り扱うこと
    7. (7)  裁判員裁判を実施する裁判所支部の範囲を順次拡大すること
    8. (8)  国選弁護報酬を増額し,民事法律扶助予算を拡大すること

 以上のとおり宣言する。

2008年(平成20年)9月26日
関東弁護士会連合会

提案理由

第1 これまでの取り組み
 当連合会は,1994年(平成6年)の第41回定期大会における「弁護士過疎対策に関する決議」以降,弁護士偏在問題対策基金を設置するとともに,弁護士偏在問題対策委員会を設置し,弁護士過疎・偏在を解消するための活動とそのための財政的援助を行ってきた。また,日弁連は,1993年(平成5年)に「弁護士ゼロワンマップ」を発表し,1996年(平成8年)の「弁護士過疎地域における法律相談体制の確立に関する宣言」(いわゆる名古屋宣言)以降,弁護士過疎地域への法律相談センターの設置を進め,さらに,1999年(平成11年)には,「ひまわり基金」を設置し,全会員から特別会費を徴収して,2000年(平成12年)以降,ひまわり基金法律事務所の開設を進めるなど,弁護士過疎・偏在を解消するために積極的に取り組んできた。その結果,当連合会管内には,現在,7箇所の裁判所支部(新潟地家裁高田支部,同新発田支部,同佐渡支部,水戸地家裁麻生支部,千葉地家裁八日市場支部,静岡地家裁下田支部,甲府地家裁都留支部)管内にひまわり基金法律事務所が稼働しており,それによって大きな成果を挙げてきている。
 また,2004年(平成16年)6月に公布された総合法律支援法に基づき,2006年(平成18年)4月に日本司法支援センター(以下「法テラス」という。)が設立され,同年10月から業務を開始している。法テラスは,国選弁護等関連業務,民事法律扶助業務のほか,司法過疎対策業務をも行い(総合法律支援法30条1項4号),司法過疎地域解消のために地域事務所の設置等を行っている。地域事務所には,法テラスに勤務する弁護士(以下「スタッフ弁護士」という。)が常駐しており,現在のところ,当連合会管内には,司法過疎対策業務を行う地域事務所が3箇所(秩父,下田,佐渡)稼動している。日弁連は,これら法テラスの地域事務所に配属されるスタッフ弁護士の確保,養成及び支援に重要な役割を果たしてきた。

第2 直面する課題
 当連合会は,次のとおり,被疑者国選弁護の対象事件の拡大や裁判員裁判への対応を含めて,弁護士過疎・偏在の解消に向けた運動をどう進めるか,という緊急の課題に直面している。
  1.  弁護士過疎・偏在地域の存在
     当連合会及び日弁連が進めてきたこのような取り組みの結果,2008年(平成20年)6月には,裁判所支部管内に弁護士が1人もいない弁護士ゼロ地域は解消された。しかし,まだ弁護士ワン地域は全国に22箇所もある。現在,当連合会管内に1箇所ある弁護士ワン地域(千葉地家裁佐原支部)は,間もなく解消される見込みであるが,弁護士ゼロワン地域が解消されても,さらに,いわゆる「実質ゼロワン地域」(公益的活動を受任する弁護士がゼロ又はワンの地域)の解消も目指す必要がある。  また,2008年(平成20年)1月から始まった日弁連の「弁護士偏在解消のための経済的支援」においては,裁判所支部管内の弁護士1人あたりの人口が3万人を超える地区を「偏在解消地区」の1つとして定義している。しかし,弁護士1人あたりの人口が3万人を超える裁判所支部は,2008年(平成20年)4月1日付日弁連調査によれば,当連合会管内に21箇所(さいたま地家裁秩父支部,千葉地家裁佐倉支部,同一宮支部,同館山支部,同八日市場支部,同佐原支部,水戸地家裁日立支部,同龍ヶ崎支部,同麻生支部,同下妻支部,宇都宮地家裁真岡支部,同大田原支部,同足利支部,前橋地家裁沼田支部,静岡地家裁掛川支部,甲府地家裁都留支部,長野地家裁伊那支部,新潟地家裁三条支部,同新発田支部,同高田支部,同佐渡支部)も存在している。  このような状況からすると,当連合会管内においても,依然として弁護士過疎・偏在地域は存在しており,まだ市民の身近にあって利用しやすい司法が実現されているとは言えない。
  2.  被疑者国選弁護の対象事件の拡大や裁判員裁判への対応
     2008年(平成20年)3月8日に開催された当連合会主催の支部交流会では,概略以下のような議論が行われた。
     すなわち,被疑者国選弁護の対象事件の拡大や裁判員裁判への対応は大変であり,これらに支部会員だけで対応することは難しいと考える意見が少なくなかった。ところが,民事事件を考えると,弁護士は足りているとする意見も少なくなかった。刑事事件では弁護士が足りなくても,新たな弁護士を受け入れる気運はないと言いきるところもある。こうした中での具体的対策として,法テラスのスタッフ弁護士を要請することにしたところと,都市型公設事務所の開設に踏み切ったところがあるが,被疑者国選弁護が大変だと言うところでもスタッフ弁護士を要請することには消極的であり,だからといって,都市型公設事務所の開設に前向きな議論があるわけではなく,支部交流会での議論はなかなか進まなかった。
     支部交流会から半年が経過した今も,被疑者国選弁護の対象事件の拡大や裁判員裁判に対応できる弁護士を十分に確保できているとは言い難い状況にある。

第3 わが国社会の現状と弁護士・弁護士会の役割
  1.  わが国社会の現状
     当連合会が「弁護士過疎対策に関する決議」をした1994年(平成6年)は,バブル経済崩壊後,わが国の経済,社会が困難に直面し,塗炭の苦しみに喘いでいる時であった。その後,政府は,金融危機の中で不良債権処理を行い,規制緩和と自由競争の原理に基づく経済再生に向けて諸改革を断行してきたが,1990年代後半以降,そうした諸改革によるひずみが広い範囲で進行してきた。
     すなわち,わが国の自殺者の数は,昭和の時代から長く年間2万人から多くても2万5000人で推移してきたが,1998年(平成10年),一挙に3万2863人に増加して以降,2007年(平成19年)まで3万人を下ることがない。正規雇用者も特に2001年(平成13年)から急激に減少し,派遣など非正規労働者がそれだけ激増した。貧困世帯が増加し,今では「ワーキングプア」が社会問題化している。
     また,中央と地方の格差なども深刻な課題である。弁護士過疎・偏在地域においては,法の支配が行き届かず,市民の不安につけ込む新手の悪徳業者が入り込むおそれがあるし,いわゆる事件屋の跋扈や有力者による支配が強まるおそれもある。都市部においても,原油価格の高騰などによる諸物価の値上げの影響で,中小企業の倒産が増加するおそれがある。大企業でも,正社員の長時間過密労働が深刻化しているほか,偽装請負,名ばかり管理職等,問題のある労働実態が明らかになりつつある。
  2.  弁護士・弁護士会の役割
     2001年(平成13年)6月に発表された司法制度改革審議会意見書は,国民に統治客体意識から統治主体意識への転換を求め,国民が社会的責任を背負った統治主体として公正な社会の構築に参加する志を持つことを求めた。ところが,現実には,司法改革と同時に進められた諸改革によって翻弄され,経済的不安にさいなまれつつ,日々を送っている人々も少なくない。  このようなわが国社会において,「基本的人権の擁護と社会正義の実現」を使命とする弁護士・弁護士会は,都市及び弁護士過疎・偏在地域に住む市民の人権状況がどうなっているか,市民にとって社会正義が実現されているか,市民が司法に何を期待し,弁護士・弁護士会に何を求めているのか,を常に考え,市民の身近にあって利用しやすい司法の実現に向けて行動すべきである。

第4 弁護士過疎・偏在解消に向けた人材と法科大学院
 弁護士・弁護士会が直面する課題に対処し,期待される役割を継続的に果たしていくためには,人材の養成・確保が必要不可欠であるが,本シンポジウムに向けて当連合会管内の法科大学院の学生にアンケートを実施したところ,1396通の回答が寄せられ,そのうち,弁護士過疎・偏在地域での開業を考えるとする回答が520通あった。そう考える理由について質問したところ,「そのためにロースクールに入ったから」,「そのために法曹人口増加が図られていると考えるから」,「弁護士過疎地域こそ,法的問題解決に弁護士が乗り出すべきであるから」,「制度として増やした以上,それが義務だと思う」,「そもそも自分が弁護士を目指した動機は,長年弁護士が1人しかいない地元で地元の住民のために働くことにある」,「地元での地方再興に力を注ぎたい」,「法的に救済されうるにもかかわらず,それが叶わない人を助けることができるから」,「誰かがやらなきゃいけないと思うし,誰もやらなければ,それなら自分がやろうと思うから」,「弁護士の社会的責任として活動する必要があると考えるから」などの記載が続く。
 「どちらとも言えない」と回答した学生(543通)の中にも「事情が分からないので」とか「迷っている」,「都会でスキルを身につけてからであれば考えたい」などと書いている者も少なくなかった。法科大学院や弁護士会側からの働きかけがあれば,弁護士過疎・偏在地域で働くことを考える学生の数はさらに増える可能性もある。
 今回のアンケート調査により,弁護士過疎・偏在に関心を持ち,かつ,自らその解消に貢献しようとする志の高い人材が多数,当連合会管内の法科大学院で学んでいることが明らかとなった。

第5 当連合会の今後の取り組み
 当連合会は,これまでの諸活動や,本シンポジウムに向けて行った各種アンケート調査の結果を念頭に,市民の身近にあって利用しやすい司法の実現に向けて,以下のような取り組みを行うべきである。
  1.  都市型公設事務所の設置に向けた検討
     上記のような志のある法科大学院の学生が弁護士資格を取得した後,弁護士過疎・偏在地域に赴任する前に,事件処理のスキルを修得する場所として,都市型公設事務所が必要である。また,ひまわり基金法律事務所の所長や法テラスのスタッフ弁護士としての任期が満了した後,都市部に戻って後輩の養成に尽力する拠点として,さらには,被疑者国選弁護の対象事件の拡大や裁判員裁判に対応する弁護士の拠点として,都市型公設事務所が果たす役割は大きい。そして,貧困や格差が深刻化している今日,都市部においても,社会的意義はあるが収益の見込めない事件を受任して解決に奔走する弁護士が求められており,都市型公設事務所はこのような公益的活動を受任する弁護士の拠点としての役割も期待される。
     当連合会は,管内の各弁護士会とともに,このような目的を有する都市型公設事務所を各弁護士会に設置する方向で検討を進める。仮に,諸条件からしてその設置が困難な場合であっても,人材の養成や任期満了後の受け入れ等に積極的に協力する法律事務所を各弁護士会に増やすよう努めるべきである。
  2.  各都県を越えた就職情報の提供等
     弁護士過疎・偏在を解消するためには,ひまわり基金法律事務所の所長や法テラスのスタッフ弁護士としての赴任もさることながら,そこに質の高い弁護士が定着することが望ましい方法である。そのために,当連合会は,各弁護士会と連携しながら,各都県を越えた対応を行うよう努めるべきである。
     たとえば,将来,弁護士過疎・偏在地域に定着する意欲のある新規登録弁護士を積極的に採用するよう働きかけたり,司法修習生に対し,当該区域内の就職情報を積極的に提供したり,当該区域内の法律事務所の見学会を実施したり,当該区域内の弁護士との懇談会を開催することなどが考えられる。さらに,日弁連の「弁護士偏在解消のための経済的支援」においては,司法修習修了者が弁護士過疎・偏在地域で即時独立開業する場合,所属する各弁護士会又は弁護士会連合会が技術的支援を行うことになっているが,当連合会としても,各都県を越えて集合研修を実施するなど,その技術的支援に積極的に協力するよう努めるべきである。
  3.  法科大学院との共同作業
     当連合会は,管内の各弁護士会及び各法科大学院と連携しながら,弁護士過疎・偏在地域で働くことに意欲を持った,行動的な弁護士の養成を目指すべきである。
     発足後5年目の法科大学院は,新60期,61期を輩出したが,合格率の低下などから,受験競争が激化していると言われる。しかし,前記のようなアンケート調査の結果からすれば,法科大学院には,志のある学生が数多く在学しているのであり,こうした学生への働きかけを強め,弁護士過疎・偏在解消の担い手として養成を図るべきである。  司法制度改革審議会意見書では,法科大学院は「地域を考慮した全国的な適正配置に配慮すべきである」としたが,それは,地域で働く法律家を養成するのは地元の法科大学院であるべきであるとされたからである。そのような理想を貫くには,当連合会が管内の各法科大学院に問題提起し,弁護士過疎・偏在地域で働く法律家になろうとする意欲を高めるような教育や情報提供が行われるよう努めるべきである。
     エクスターンシップはその大きな柱であるが,弁護士過疎・偏在地域の法律事務所でのエクスターンシップが可能となるような構想や,ひまわり基金法律事務所や法テラスで業務を行なう弁護士の講演会などの実施を法科大学院側と協議すべきである。  司法制度改革審議会意見書は,法科大学院において「実務との架橋を強く意識した教育を行うべきである」としたが,司法研修所の前期修習がなくなり,実務修習も半減したことを考えると,弁護士過疎・偏在の解消をも念頭に入れた教育の在り方について,各法科大学院との交流を行うべきである。
     エクスターンシップにおいて,法科大学院の学生が弁論準備手続や調停手続に立ち会えなかったとか,破産事件の債権者集会に入れなかったことなどが報告されている。刑事事件の記録を読めないとか,接見に立ち会えないなどの報告もなされている。いずれも,法科大学院の学生の法的な地位についての議論が煮詰められないまま, 法科大学院制度がスタートしたためである。当連合会は,各法科大学院と協議し,法科大学院の学生の法的地位の明確化を関係各機関に働きかけるべきである。
  4.  弁護士偏在問題対策基金の整備・拡充
     日弁連が「弁護士偏在解消のための経済的支援」を打ち出し,弁護士ゼロ地域が解消され,弁護士過疎・偏在を解消するための運動は新たな段階に入っている。14年前,当連合会は,「弁護士過疎対策に関する決議」に基づき,弁護士過疎・偏在解消のための活動等を支援するため,弁護士偏在問題対策基金を創設した。今,新たな段階に入った弁護士過疎・偏在解消運動を支援するため,これまでにも増して同基金の整備・拡充を目指すべきである。

第6 司法基盤の整備
  1.  裁判官・検察官の大幅増員等
     他方,裁判所支部・検察庁支部の人的・物的基盤の整備は,弁護士過疎・偏在の解消と一体不可分の関係にあり,両者が相まって初めて当該地域の住民に十分な法的サービスを提供することができる。
     しかし,たとえば,水戸地家裁麻生支部管内には,複数のひまわり基金法律事務所ができるなどして弁護士数が増加し,民事通常訴訟の新受件数は顕著に増加したが,裁判官の常駐は実現していない。同支部は,交通の便の悪いところにあるが,より便利な地域への移転も見込まれていない。千葉県弁護士会京葉支部がある千葉県市川市,船橋市は人口が急増し,千葉家裁市川出張所の家事審判事件・家事調停事件の新受件数は同松戸支部を除く他のどの支部よりも多いのに,裁判所支部を新設しようという動きは裁判所からは伝わってこない。東京の多摩地域では,人口が400万人を超えているのに裁判所支部は1つしかない。人口から言えば,本庁化すべきであり,さらに本庁化に伴って,裁判所支部も数箇所あってよいはずである。ところが,2009年,裁判所支部が立川に移転しても,多摩地域の裁判所支部は1箇所のままである。横浜地家裁相模原支部やさいたま地家裁越谷支部のような人口急増地域の裁判所支部であっても,合議事件が扱えない支部もある。刑事事件を全く扱わない支部や,身柄事件を扱わない支部もある。身近にある簡易裁判所に行っても利用しにくいと言う不満の声も報告されている。
     そもそも,司法試験合格者が増加しても,裁判官・検察官の増員は進まず,両者が法曹人口に占める割合は減少している。市民の身近にあって利用しやすい司法を実現するためには,法曹三者のバランスの取れた増員が必要不可欠である。そのため,裁判官・検察官を大幅に増員して,全ての裁判所支部に1名以上の裁判官を,全ての検察庁支部に1名以上の正検事を,それぞれ常駐させるべきであり,最も身近な簡易裁判所や家庭裁判所出張所も含めて,裁判所支部・検察庁支部の人的・物的基盤を充実させるべきである。
  2.  裁判所支部の機能強化
     近年,裁判所支部で民事執行事件(特に不動産執行事件)の取扱いをやめ,これを本庁に集約する動きが顕著である。また,従来,刑事合議事件を扱っていた裁判所支部でも,裁判員裁判の対象となるような刑事重大事件が管轄する裁判所支部ではなく,本庁に起訴されるという現象が一部で起きている。刑事合議事件を扱っていた裁判所支部であっても,裁判員裁判が始まると,多くの刑事合議事件が本庁に起訴され,裁判所支部が扱う刑事合議事件は相当減少してしまう。
     このように裁判所支部での取扱事件が縮小され,裁判所としての機能が低下するようなことがあれば,当事者に不便となりかねないほか,弁護士も地域住民の法的ニーズに十分応えられなくなるおそれがあり,弁護士過疎・偏在地域への弁護士の定着を阻害する要因にもなる。
     法務局の統廃合や検察審査会の統廃合など,地方からの国の撤退,市町村合併の名による過疎地からの行政サービスの撤退が進行しており,放置していると,遠くない将来,裁判所支部や簡易裁判所の再度の統廃合が行われるのではないかという危惧も出てくる。
     そのため,裁判所支部管内の事件は可能な限り当該裁判所支部で審理すべきであり,裁判所としての機能低下を招く取扱事件の縮小はすべきではない。労働審判も,現在は地裁本庁でしか実施されていないが,雇用関係は地域を問わず存在するし,労働相談の件数からして潜在的な需要は非常に多いことが見込まれるから,地裁支部でも労働審判を取り扱うようにすべきである。また,裁判員裁判に関しても,本庁を中心にして行われると,裁判員となる市民に負担をかけたり,弁護人の公判等へ出廷や接見に多大な時間と労力を要する場合があること等に鑑み,裁判員裁判を実施する裁判所支部の範囲も順次拡大すべきである。
  3.  国選弁護報酬の増額と民事法律扶助予算の拡大
     そして,弁護士が被疑者国選弁護の対象事件の拡大や裁判員裁判に十分に対応していくためには,労力に応じた適正な国選弁護報酬の支払が必要不可欠である。また,貧困や格差が深刻化している中で,経済的弱者の「裁判を受ける権利」を実質的に保障するため,民事法律扶助はますますその重要性を増しているが,国際的に見ても,わが国の民事法律扶助予算は低廉である。そのため,国選弁護報酬の増額と民事法律扶助予算の拡大は,従来から要請されているところであるが,当連合会としては,これらをさらに強く求めるものである。

 以上の理由により,平成20年度関東弁護士会連合会定期大会宣言「市民の身近にあって利用しやすい司法を目指して-司法基盤の整備と弁護士過疎・偏在の解消を」をここに提案する。

以上

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