平成25年11月発行(本記事に記載された内容は本冊子発行時点のものです。)
沖縄弁護士会 宮地 理子
八重山ひまわり基金法律事務所は、全国のひまわり基金法律事務所の中で、最も南にあるひまわり事務所で、沖縄県の石垣島にあります。
石垣島は、竹富島、小浜島、西表島、与那国島等の島々とともに八重山諸島を構成する島の一つです。
「八重山諸島は、お隣にある台湾の台北市よりも南にあります」とお話しすると、驚かれることが多いです。沖縄県の県庁所在地である那覇市のある沖縄本島から、飛行機で約1時間、約420キロメートル、東京大阪間ほど離れたところにある離島です。
八重山諸島の人口は、約5万3000人、そのうちの4万8000人ほどが、石垣島に集中しています。
八重山諸島を管轄する那覇地方裁判所石垣支部は石垣島にあり、裁判官1名が常駐しています。那覇地方検察庁石垣支部も石垣島にあり、正検事1名、副検事1名が常駐しています。
弁護士は、当職を含め5 名が、石垣島にて開業しています。
石垣島は、八重山諸島の主島であり、自動車で、2時間程で1周できる大きさです。周囲の竹富島、小浜島、西表島等の住民の方も、日用品の買い出し等の用事のため、フェリーで石垣島にいらっしゃいます。もっとも、与那国島は、フェリーで4時間(飛行機で30分程)かかるため、気軽に石垣島に来島するというわけにはいきません。
石垣島から比較的遠い島の住民の方や、ご高齢の方、身体の不自由な方等、住んでいらっしゃる島を出ることが難しい方々の法律相談の需要にこたえるため、出張法律相談等に取り組んでいかなければならないと感じております。
当職は、2010 年11 月、八重山ひまわりの2代目所長として赴任しました。
赴任当初より徐々に法律相談件数が増え、法律相談の件数は、月平均25件程、年間約300件程です。
沖縄の離島初めての女性弁護士ということもあるのでしょうか、女性の方からの法律相談が相当件数あります。特に、離婚、子どもをめぐる家事事件、DV関係の事件の法律相談が多いことを実感しています。
受任事件は、女性の依頼者による家事事件以外にも、損害賠償事件、借金、破産事件、不動産をめぐる事件、交通事故関係の事件、労働関係の事件、建築関係の事件等、多岐にわたります。
刑事事件については、重大事件が少なく、窃盗罪、暴行・傷害罪、酒気帯び運転等の道路交通法違反等の事件が多いです。年間15件程の国選弁護事件の配点をうけています。少年事件についても、比較的多数の配点を受けました。
公的な役割を果たす仕事として、石垣市の情報公開審査会の委員や、八重山保健所の感染症審査会の委員を務めています。また、社会福祉協議会主催の勉強会の講師を務めたり、消費生活センター主催の日曜法律相談会を担当したりしました。
「常夏の島」ということもありますが、季節を忘れてしまうほど、忙しく島々を駆け回る日々を送っています。
島に赴任してまず感じたことは、一般の方にとって、弁護士が縁遠い存在であること、法律事務所は敷居が高く「よほどのことが無くては相談できない」と考えていらっしゃることでした。それは、市役所や社会福祉協議会の相談員等の立場の方であっても同様でした。
住民の方々に、弁護士にどのようなことを相談できるのか、弁護士だからといって偉そうではない(笑)相談しやすい人となりを知っていただこうと、ローカルのラジオ番組で、平日5分間、簡単な法律の話等をするラジオ放送を続けています。
法律相談にいらっしゃる方を始め、家事調停委員や警察官からも、「先生、ラジオ聞きましたよ。」という声を聞くことが多くなりました。
また、行政機関の相談員との協力関係の重要さを実感しています。
最初に相談窓口となった行政機関の相談員が、弁護士が介入したほうが良いケースについて、相談者に付き添って、当事務所の法律相談にいらっしゃることが多くなりました。
たとえば、1 人のDV被害者の方を助けるためにも、沖縄県のDVセンターと連携し、シェルターの手配をしてもらったり、石垣市の女性相談員の方と連携し、生活保護申請や警察署生活安全課への相談に付き添ってもらったりと協力いただいて、基盤を整えることが必要となります。その基盤の上で、弁護士は、DV保護命令の申立や、離婚調停の申立を行っていきます。
行政機関の規模が小さく、事件の度に、窓口となる担当者が同じであったこともあり、早期に協力関係、信頼関係を築くことができました。このことが、事件処理を進めていく上で、大変有用な財産となっています。
島という小さな社会で、人と人とのつながりの濃さ、あたたかさを感じながら、またつながりが濃いゆえの難しさも感じています。
生活圏が狭いことから、食事に行った店や、買い物に行ったスーパーで、相談者や依頼者の方と、頻繁にお会いしてしまいます。
間もなく赴任して3 年となりますが、もと依頼者の方に偶々お会いすることが増えてきました。「おかげさまで、元気にがんばっています。」等の声を聞けて、嬉しいことが多いです。「ちょうど良かった。先生、また相談に行きます。」と言われ、複雑な気持ちになることもありますが・・・。
島という小さな社会で弁護士業務を行いながら、困っていた方、躓いてしまった方の力になれた、前向きに一歩を踏み出せる助けになれたと、ダイレクトに実感できる機会に、より恵まれていると感じています。
弁護士としての喜びとやりがいをもって、業務を行えることに、心から感謝しています。
今年(2013年)3月、新石垣空港が開港し、観光客が激増して、島の雰囲気が大変にぎやかになりました。この八重山の島々も変わっていくことを感じています。
夢中で走り続け、ふと気がつくと、当職のひまわりの任期終了まで、残すところあと半年となりました。来年(2014年)からは、当職と同じ法律事務所(第二東京弁護士会 東京フロンティア基金法律事務所)出身の米元悠弁護士が、八重山ひまわりを引き継ぎます。
これからも、最南の島に元気いっぱいのひまわりの花を咲かせるべく、力を尽くしてまいる所存です。今後とも、御支援のほど、よろしくお願い申し上げます。
以上