茂原法律相談センターの設置とその後の1年(平成9年度)
千葉県弁護士会  市川 清文

T 日弁連宣言の激震
 日弁連が、過疎地に法律相談センターを設置することなどを骨子とする宣言を採択してから、まもなく2年を迎えようとしている。宣言では《5年以内》という期限を自ら設け、全弁護士会の取り組みを鼓舞した。
 千葉県は、東京に隣接した大都市部を擁している一方で、房総半島という広大な人口過疎地を抱えている。この過密と過疎の併存が、千葉県の特徴のひとつとなっている。
 日弁連業務対策委員会が作成した01マップには、一宮・佐原の各支部が見事に色分けられて輝いたし、その後の04マップではこれに館山も加わった。東京周辺では相当に目立つ存在であった。
 つまり、日弁連の法律相談センター設置宣言は、そのターゲットのひとつとして確実に千葉を指していることが明らかであった。
 そこで真っ先に開設されたのが、本稿でご紹介する茂原法律相談センターである。
 97年4月1日のオープンであるから、日弁連宣言から1年を経ずして開設されたことになる。

U どうして茂原なのか
 幸か不幸か、千葉県弁護士会は、01支部を抱えている弁護士会の中では会員数も多く、人的、財政的に有利なはずであった。これが執行部にとってもプレッシャーになったようである。設置へ向けて急ピッチに準備が進んでいった。
 問題は、どこに設置するかである。
 房総半島は南北に細長く、相当に広い。宣言では全裁判所支部に作ることになっているが、とりあえず真っ先にどこに作るのか。議論は三つに割れた。01支部のある北部、佐原・香取・銚子方面に設置する案。実質01地区である館山や勝浦・鴨川などの南部方面に設置する案。そして、両者の中間の茂原地区に設置する案である。
 実は、01マップでは、千葉県下の0地区は一宮支部だけであった。つまり、01マップの指摘に応えるためには、一宮地区に法律相談センターを設置することが最もインパクトがあることになる。茂原はこの一宮地区の中心都市であった。
 ところが、地元千葉での評価では、茂原を中心とする一宮地区は、必ずしも弁護士過疎地とは考えていなかった。千葉まで、電車でも車でも30分程度。法律事務所こそないが、自宅のある弁護士が5人以上もいる。
 設置場所の議論は紛糾した。
 弁護士過疎対策を中心とすれば、どうしても北部、あるいは南部の人口過疎地に設置することが急務である。必要性は、必ずしも01マップとは符号しない。しかしこのような場所は、交通も不便で、利用者を確保するにも限界がある。設置もその後の運営も、様々な困難が予想される。財政的にも厳しさが予想された。それでも、このような場所に設置することこそが、日弁連の目指した趣旨に合致するのではないか。
 このような議論を経て、茂原に決まったのは、執行部の強力な指導があったことを否定できない。
 執行部としては、日弁連から指摘されている01支部、就中、0支部地区に設置したかったこと、当面まず1カ所ということになれば、北部地区と南部地区の中間に位置する茂原なら、その気になればいずれの地区からも利用することが可能であること、茂原市という大都市を擁し、相談者の確保が容易と思われ、過疎地対策の第一歩としては条件が有利であることなどが、強く作用したものである。その分、日弁連のいう《週1回以上》をさらに進め、週2回開催としたのである。時間も1回5時間(午前10時から午後4時)を確保した。

V 開設準備
 準備は着々と進んだ。
 場所代を浮かすなどのため、デパートとの提携や商工会議所との提携なども検討されたが、有料相談であることなどから反応はイマイチ。結局、賃貸ビルを確保することになった。
 千葉県弁護士会では、自治体相談や当番弁護士、国選の当番(国選をこなしきれないため、千葉では当番制をとっている)などについて、義務制を敷いている。正当な理由が無い限り拒むことが出来ない。一方、本庁の法律相談センターは担当希望者が多数いたため、希望制としていた。
 では、茂原をどうするか。会員からアンケートを採った結果、希望者が40人以上確保できる見込みとなったため、希望制とし正式な登録を受け付け。事務員は、会員に紹介を求めた結果、法律事務所経験者を確保できた。
 予約は平日の毎日受け付けるため、センターの非開催日は転送電話で本部の法律相談センターで対応することにした。予約連係プレーのマニュアルも作成し準備は整った。

W 宣言
 問題は、ここでも広報である。
 せっかく良いものを作っても、住民に周知しなければ利用して貰うことは出来ない。
 もちろん、各新聞社、テレビ局に告知して記者会見。地区の市町村、社会福祉協議会、商工会、商工会議所にチラシ・ポスターを持って宣伝をお願いする。茂原市では市の広報紙に宣伝の掲載をお願いした。
 また、開設披露パーティーを開き、各市町村、茂原市等の社会福祉協議会・商工会・商工会議所の関係者を招いた。
 本庁の法律相談センターへの予約電話が入った際には、一宮支部管内からの申し込みに対しては、茂原法律相談センターの案内もした。
 一方、97年末に開いていた私の個人ホームページでも、新たに茂原法律相談センターの開設を紹介した(千葉県弁護士会のオフィシャルホームページが無かったため、このホームページでは、千葉県弁護士会の関与する自治体相談、法律相談センター等の情報を提供していた)。

X 開設後の利用状況
 千葉県弁護士会では、法律相談センターの相談時間単位は1時間とされてきた。茂原法律相談センターでもこれを踏襲とした。つまり、5時間で5コマ。但し、短時間で終了した場合は、料金はそれに対応して減額する。
 この1回5人の枠は、なかなか埋まらなかった。開設当初は、新聞で取り上げられたこともあって相談者が殺到したが、しばらくすると息切れしてしまう。平均の相談者数は、キャンセルもあって1日3人程度。稼働率6割である。財政的には、毎月20万円程度の赤字が積み上げられた。
 そこで7月末には新たな広告を実施。茂原市をはじめ、付近の市町村に新聞折り込みでチラシを配布した。その効果は著しく、半月余りは相談者が殺到。しかし、その効果が切れてくると、元に戻ってしまう。さらに11月には茂原市に頼み込んで市の広報紙への再掲載を依頼。再び、相談者が殺到する。
 つまり、広報が効果を発揮すると相談者が増え、広報の効果が切れてくると相談者が減ってしまう。相談の需要はあるのに、法律相談センターの存在が知られていないため利用につながらない、というジレンマである。広報が、最大の課題であることは明らかである。
 そこで、駅の広告、電柱広告など、恒常的な広告媒体が求められたし、改訂のタイミングの関係で掲載されていなかったNTTタウンページへの広告掲載も急務であった。
 ・・・・・・このような紆余曲折を経て、法律相談センターでは現在も広報と格闘中である。道は平坦ではない。しかし、今年に入ってから、事態は若干変わりつつある。特に2月に入ってから、相談者がコンスタントに満員状態となってきたことである。原因は不明である。特別な折り込み広報紙への掲載などもしていない。考えられるのは、これまでの広報の蓄積がようやく効果を発揮してきたのではないか、ということである。地元に定着し、住民に溶け込み、住民に頼りにされ、いつでも気軽に訪れてもらえる相談センターへ。息の長い努力の積み重ねが、ここでもやはり《鍵》ということであろうか。
 この茂原の経験をテコに、千葉県弁護士会では今年4月1日には船橋にも法律相談センターを開設し、さらに県北部、県南部の法律相談センター開設を睨んで議論を継続中である。困難はある。が、弁護士会が住民の視点に近づいて、険しい道を確実に登り始めていることだけは、確かである。