| 下妻支部で開業して(平成10年度) |
| 茨城県弁護士会 佐谷 道浩 |
T 水戸地家裁下妻支部管内の現状 当支部は、6市11町2村の人口60万人弱を管内に抱え、裁判官4名が常駐し、行政事件を除くほとんどの事件に対応している。年間新受件数は、民事通常事件が300件以上、刑事通常事件が380件以上であって、弁護士20名以上を擁する土浦支部の民事通常事件数の約7割に達する。 ところが、まだまだ働き盛りの弁護士が2名相次いで亡くなったこともあり、3年ほど前に支部管内の弁護士がわずか3名となったことがあった。そのときは、残った会員だけでは弁護士会下妻支部の存続が困難となり、統廃合なども一時は検討されたとのことである。しかし、平成8年以降かく言う私を含めて毎年1名ずつの入会(いずれも東京からの登録換)があり、その結果弁護士数は現在の6名に増え、うち3名が40期代と構成も若い。それでも、国選事件や管財事件等、相当程度を水戸や土浦の先生方に負担していただいている状態で、これらを支部管内弁護士だけでカバーするには、なお一層の弁護士増が望まれている。 当支部管内の特色の一つに交通の便の悪さがある。すなわち、地家裁のある下妻には取手と下館とを結ぶ関東鉄道線が通っているものの、1時間に1本程度しかなく、また、下妻支部管内の各市(古河、結城、下館、水海道、岩井)は、地理的にみると、下妻を中心として衛星状に存在し、これらを横断的に結ぶ公共交通機関はない。こうした交通事情も手伝ってか、各市が経済的文化的独自性を有しており、弁護士は地家裁のある下妻に2名いるほか、古河に私を含めて2名、結城に1名、下館に1名という配置になっている。 U 当地における弁護士業務の状況(私の場合) 私は修習43期で、東京で6年間勤務弁護士をした後、平成9年に登録換えし、地家裁のある下妻ではなく、そこから25キロ離れた当地古河市に事務所を開いた。事務所を古河に置いた理由は、主として、下妻支部管内にあって上野まで快速で52分という利便性(市内の就労人口の3割が東京都内に通勤している)にあった。実際、霞ヶ関までは乗り換えを含めても1時間半ほどなので、高裁の事件も気軽に引き受けられるし、日弁連の委員会等に出席するのもあまり苦にならない。また、リサーチが必要になれば東弁の合同図書館に出掛けている。 しかし反面、古河から水戸へは、接続によっては一度上野に出てから常磐線の特急に乗るほうが早いほどで、車でも電車でも片道2時間半かかる。したがって、本庁の事件は原則として断らざるを得ないし、単位会での委員会も月に複数回出席するのは困難である。そして何よりも、活動の中心である下妻の裁判所まで車で、ですら片道約50分と離れているのは、日常業務の中では結構しんどい。車の運転自体に神経を使うことはともかく、移動時間を本を読んだりといった他の目的に利用できないことや、午前と午後の間に中途半端な時間が空くと、事務所に一旦戻るということもできず、時間の無駄がどうしても生じることが悩みである。もっとも、移動時間は外からの電話に追いかけられることもなく、音楽、講演等のテープやラジオを聞いたりして気分転換に充てられるし、空き時間は裁判所のすぐ隣にある検察庁での刑事記録の閲覧や拘置所での接見に充てられるので、割り切ってしまえばそれまでである。 業務の内容は、個人事件が多く、最近は破産や債務整理の相談が激増しているなど、地方都市の一般的なそれと特段変わらないと思う。しかし、国選事件が簡裁を含めて月平均で5件、年間で60件ほどあるのは、かなり多いほうではなかろうか。閲覧、接見(遠隔の警察署で要通訳事件の接見をする場合、通訳人の送り迎えを含めて半日以上がつぶれることもある)、情状証人との打合せ、示談、2回程度の公判立会いなどを型どおりにこなすだけでも、執務時間の4分の1以上を費やしている感じである。 このほか、支部管内での当番弁護士は弁護士数の関係で待機制はおろか名簿制もなく随時出動要請があるため、年に10件未満とはいえ、忙しい週末などに電話があると予定が完全に破綻する。また、平成10年10月に弁護士会が開設した下妻法律相談センターの相談員(支部の弁護士だけで回している)が年に10回ほど回ってくる上、複数の自治体等の法律相談などを担当しているため、月平均3日は市民相手の相談日に充てることになる。その他、常時5件以上の破産管財事件に加えて、法律扶助や地域での各種委員等のプロボノ的活動(と言えば格好がよいが、要するに経済的にはあまりペイしない仕事)、更には年に数十件の飛び込みの相談(弁護士が少なく他に相談先があまりないため、電話帳等を見ての相談も積極的に受け付けている)に、執務時間の半分以上を取られているというのが実感である。 V 当地に開業してみて 茨城というと常陸の国というイメージがあるが、古河は、かつての上野、下野、上総、武蔵の4国の境に位置し(現在でも群馬県、栃木県、埼玉県と接している)、中世には室町幕府と対抗する古河公方の居城が置かれるなど、独自の文化と歴史を育んできた土地である。また、ベットタウンとして県内の市町村の中で(水戸や土浦を超えて)最大の人口密度を有するにもかかわらず、渡良瀬川をはじめとする豊かな自然に囲まれており、その中に多くの「遊び場」がある。子育てには最高の環境であり、一度こういう場所で暮らしてしまうと、東京23区に帰ろうという気は全く起きなくなる。 何の地縁血縁もない私が当地に来たきっかけは、何よりも、本誌「ひまわり」や「自由と正義」の特集などで弁護士過疎問題が取り上げられるとともに、紹介される弁護士が生き生きと活躍し、地域の中で重要な役割を果たしていることを知ったことによる。従前勤務していた事務所は、渉外・企業法務を専ら扱っていた。もとより、これらの分野は現代の法化社会において弁護士がより積極的に関与していくべき重要分野である(実際エキサイティングな仕事も多い)。ただ、そればかりをやっていて弁護士として真の充実感を味わえるかは、各人により異なろう。伝続的なプロフェッションモデルに根本のところで惹かれる私としては、自分の指向性とのギャップを感じざるを得なかった。 6人しか弁護士がいない当地では弁護士ひとり当たりの人口は10万人近くになり、全国平均の10倍である。そして、国選事件、管財事件等の裁判所から委嘱される案件のほか、各種法律相談、法律扶助、当番弁護士、更には地元自治体から委嘱される各種委員等としての活動などを通じて、全体の中でひとりの弁護士が果たす役割は大きい。地域の司法をかなりの程度支えているという充実感は、たとえそれが勝手な思い込みだとしても、7000人からの会員がいる東京等の大都市ではなかなか味わえないものではなかろうか。そうした意味で、自らの選択に誤りはなかったと思っている。現在の仕事に疑問を感じているような方は、一度弁護士過疎地域での開業を考えてみられてはどうか(ちなみに、当支部の会員6名のうち5名は東京での数年のプラクティスを経験している)。 W 今後の課題 以上要するに、現在の私は、それなりに忙しくまた充実感を持って仕事ができている。しかし、もとより課題は多い。 統計はなく実感にしかすぎないが、現在の下妻支部における民事事件の代理人は、その約7割が他県の弁護士である。これは、水戸より東京、埼玉、栃木へのアクセスのほうがよほどよいという地理的理由(殊に古河からは、電車で1時間以内で行けることもあり、浦和や東京の弁護士への依頼がかなり多い)や、支部の弁護士の絶対数が従来少なかったことによると思われるが、地元の弁護士に十分なリーガルサービスを提供するだけの力量が不足していては、今後弁護士数が増えても事態は改善せず、むしろ、地元の弁護士が国選弁護などの負担にかなりの時間を割かれている間に、通常の事件は、東京など大都市部の弁護士に持っていかれるということも考えられる。したがって、機会を捉えての研鑽を怠らないことで、自らのリーガルサービスの質を向上させていく必要があると考えている。そして、小さな支部の個人事務所ということで、ひとりよがりの事件処理とならないか常に自戒するとともに、弁護士としての健全なバランス感覚を磨いていく必要があると考えている。 |