山梨で開業して(平成10年度)
山梨県弁護士会  原 美千子

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 山梨県の人口は、約88万人、うち甲府地方裁判所管轄地域は約68万人、甲府地方裁判所都留支部(乙号)管轄地域は約20万人である。そして、私は、都留支部管轄地域に事務所を持つ唯一人の山梨県弁護士会の弁護士である。とすれば、起多忙と思われるかも知れないが、多くの事件は、甲府・東京の弁護士が担当しており、私はほんの一部をやっているにすぎない。というのも、都留支部が東京(立川・八王子等)にも甲府にも近く、交通の便も良いからであろう(車や電車で40分〜1時間位)。従って、日弁連が都留支部管内を「〇一地域」とするのには、首をかしげざるを得ない。

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 私は、一弁修習の26期であり、東京での約10年の弁護士生活の後、昭和58年山梨県富士吉田市で開業した。当時は、先輩弁護士が一人いらしたが、数年前に他界され、今は一人である。
 富士吉田市は、富士山の北麓に位置し、富士五湖に囲まれた風光明媚な人口約5万5千人の市である。そして、市内には富士吉田簡易裁判所が存在し、たまに、調停等で利用するが、私の事件の多くは車で30分かかる都留支部である。

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 早いもので、山梨で開業して約15年、すっかり田舎弁護士している自分に満足し、つたない私にも仕事のチャンスを与えてくれる地域の人たちに深謝している。以下、田舎弁護士ならではの体験を少々・・・
1、 開業当初、足は、電車・バス・タクシーを利用すればと安易に考えたが、都会と異なり、乗りたい時になかなか動いてくれない。止むなく、40才をすぎて運転免許をとったが、とにかく車は必需品である。今では、沼津・小田原あたりまで車で仕事に行くが、昨今は健康と年齢を考えて、車依存の生活を徐々に変えなくてはと考えている。
2、 事件は、飛び入りもあれば紹介によるものもあるが、法律相談はかなり多く、対応できない時は、弁護士会の法律相談センター、県・市町村の法律相談を紹介している。種類は、一般民事・家事・刑事(但し、国選事件は年2〜3件位)が大半であり、法人でなく、個人事件がほとんどである。それ故に、ビジネスライクに事を処理する法人と異なり、依頼者との人間関係は濃くなり、殊の外神経を使う。そして、受任の枠を越えて、いやおう無しに依頼者の人生に深くかかわることもある。依頼者の喜びを是としつつも、限界を感じて逃げ出したい時もあり、難しい所である。
 又、妻から離婚相談があった後に夫からあったり、相続人の一人から相談があって半年後に他の相続人から相談があったことも何度かある。勿論判明した時点で事情を話し、結局、双方の代理人になることを辞退して処理するが、うっかり気付かなかったらとヒヤッとすることもある。相談は、話しを聞いてみないと分からず、まして、半年や1年前の相談の場合は、話しを聞いても何か特徴でもない限り忘れていることも多く、要注意である。
3、 田舎弁護士にはプライバシーはほとんどない。どんな家に住み、年齢は、家族は、乗用車は等々知らぬまに依頼者はもちろん相手方まで知っている。病気や怪我さえも知れ渡り、突然見舞をいただいて驚くことさえある。更に、狭い地域故に弁護士に関する根拠のない風評まで飛び交う。時々裁判に負けた相手が酩酊の上電話をよこしたり、手紙をよこしたりなんてこともある。これが田舎社会であろうと、腹を据えた方が良い様である。

W 弁護士以外の公的職務
 弁護士本業以外に裁判所関係では、民事家事調停委員をやっているが、委員としては、年間2〜3件位を担当するのみで負担は軽い。むしろ、地元調停委員の方々との交流(旅行・ハイキング等)は楽しく、教えられることも多い。
 又、県の審議会等委員を数件やっているが、日頃の不勉強を審議会を通して勉強させていただいている感が強く、恐縮している。

X 私的生活について
 長かった東京暮らしから山梨に戻った当初は、豊かな自然に心が踊った。農業や園芸の知識が全くないのに、庭に野菜の苗を植えたり、球根や若木を植え肥料や水をやったりとそれなりに楽しんだ。特に、厳冬期土の中で眠っていた水仙やチューリップの球根が早春の訪れと共にモコ、モコッと芽を出すと、厳しい冬を乗り越えてきただけに思わず「コンニチハ」と挨拶したりで、まるで生きる力を与えられる様で大変な感激を味わった。でも、昨今は、多忙にかまけて庭の管理は人任せとなり、少々反省している。
 又、開業から数年間は、近くのクラブで週末や夜間存分にテニスを楽しんだ。但し、ここ数年間は体力の衰えを実感して全くプレイせず、昨今はもっぱら近場の森林の中のウォーキングに精出している。

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 純朴な地域の人々の苦しみ、悩み、喜びに触れ、時には共感しながら山梨で開業して早15年、事務所が維持していけるかの不安もいつしか消え、唯々仕事に追われて15年が経過した。少しは地域の人の役に立っているのかなと思いつつ、時に無力感を痛感する日々でもあった。
 田舎で開業するということは、マスコミにのる様な華やかさもなく、多額の収入を得る程の大事件もない。更に、独特の狭い田舎社会でのわずらわしさもある。しかし、田舎では、これらいずれにも勝る依頼者との深い心のふれあいを実感できる。今後もこの実感を大事にして地域の人々にささやかな法的サービスができればと願っている。

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 あと何年弁護士を続けていけるか定かではないが、昨今多忙にかまけて読むべき本も読まず、古い知識と頼りない勘で仕事をしている自分を自戒している。特に、田舎で一人仕事をしていると、独断と偏見に陥る危険が高く、囲の中の蛙にならない様、弁護士会の勉強会等になるべく出席せねばと思っている。とまれ、時代がめまぐるしく変わる今、田舎でのんびり弁護士稼業とはいかない様である。
 他方、民間でいえば、定年も間近の年である。引退してのんびりやりたいことをしたいとの願望も強く悩める日々である。