修習後即開業した場合についての報告(平成13年度)
千葉県弁護士会  神定 大

T 地域の状況
 千葉地裁一宮支部は、房総半島の東南部を管轄している。九十九里、御宿、勝浦など海水浴で有名な地域であるが、全体としては過疎化が進んでいる。ただ、中心地の茂原市などは、千葉市、東京への通勤圏内のため人口は増加傾向にある。人口は約24万人。
 弁護士は、かつてはかなりの人数がいたが、過疎化の進行とともに減少し、しばらくゼロ人の時代が続いていたようである。
 現在の弁護士数は2人であるが、千葉市まで電車で約1時間、東京まで直通の電車で2時間程度の距離である上、管内に在住して本庁で開業している弁護士も相当数いるため、絶対的な弁護士過疎地とまではいえないかもしれない(私自身、本庁管内の自宅から通勤している)。

U 事務所開設まで
 修習2年目の10月ころ「後期修習が始まるまでに事務所を確保しておこう」と思い、物件を探し始めた。
 事務所開設候補地には、一宮町(人口8000人の田舎だが裁判所所在地)と茂原市(人口9万人)の2つがあった。
 最初は茂原市にしようと思っていたが、一宮町の裁判所の近くに、10坪・家賃月5万6000円という物件があり、安くて裁判所の近くならそれにこしたことはないと思い、一宮町内に事務所を開設することにした。
 2回試験が終わってから什器類を購入するなどして設備を整えた。これらの費用は約80万円程度であり、修習中の貯金(後期のボーナスなど)でまかなった。
 独立を検討している人に、設備の費用について質問されることがあるが、それほどかからないと思う。

V 開設後の状況と感想
1、 とりあえず、最初の3か月くらいは、ほとんどすることがない状態で、当番弁護から受任した刑事事件等で何とかやっていた(2か月近く何の依頼がないときもあり、ほんとにすることがないときは昼寝をしていた)。
 このころの売上げは、月50万円あるかないか、という状況だった。開業にあたって、事前に広告を出したり、県内の弁護士に宣伝をしたりということは全くしていなかったので、当然の結果ではある。
 今思えば、当面の収入のあてもないままに開業するとはいい度胸だと思うが、当時の私がどう考えていたかを思い出そうとしても開業前にこの点で悩んだ記憶はない。多分なにも考えていなかったのだと思う。
 ただ、千葉地裁一宮支部管内の場合、長期の弁護士不在期間が続いたため、弁護士会・裁判所が事件を本庁方面に吸い上げる仕組みができているような面もあるように思う。あまりに過疎状態が続くと不毛の砂漠化してしまうというか、かえって新規参入しにくくなる面があるのかもしれない。
 私の場合は、経費も月20万円もかかっていなかったため、何とかやっていくことはできたが、修習後即独立を考えている方は、あらかじめ電話帳広告を申し込んでおくとか、有力者の先生方にご挨拶におうかがいするとか、対策を考えておいたほうがいいかもしれない。
2、 夏頃から、他の弁護士からの紹介や法律相談から受任した事件が少しはあるようになったほか、国選事件などの仕事が来るようになったので、さすがに昼寝をすることはなくなる。国選事件は、千葉ではかなり余っており、件数をこなせば安定収入になるので、最高で月15件程度やったこともある。
 ただ、国選事件は、全部本庁の事件なので(一宮支部は在宅事件のみ)、支部で開業しながら本庁に行く回数の方が多く、自分の存在意義に疑問を感じなくもないが、自宅は本庁に近いことだし、両方を股にかけて活躍するというポジティブな考え方をすることにしている。
 国選事件のお陰で収入は安定し、売上げは少なくとも月100万くらいはいくようになった。経費があまりかかっていないので、これでもそれなりの収入にはなる。開業前は「経費もあまりかからないから、仕事がそれほどなくても気楽な生活が送れるだろう」と思っていたが、実際には、安定収入がないと不安になってしまう。修習後開業される方は、国選とか、債務整理とか、安定収入源を考えておいたほうがよいと思う。
3、 そういう状況が1年くらい続いたが、2年目の夏くらいから、多少知名度があがったのか、いろいろな所からの紹介で事件が入ってくるようになったり、管財事件が入ってきたりして、仕事が回っていくという感じになってきたような気がする。
 来年(3年目)からは、ある程度まとまった額の報酬なども入ってくると思うし、報酬が入ってこない1、2年目が苦しいのは当然なのかもしれない。
 現時点でも、有力な顧問先など、安定した収入源があるわけでもなく「もしかしたら来月は収入がないかもしれない」という不安もあるが、気長にやっていこうと思う。

W その他
1、 よく「なんで修習後すぐに、ゼロワン地区で開業なのか」と聞かれるが、それほど深い考えがあったわけでもないので、この点についてはあまり書くことがない。
 一応、修習中に、地元(出身地付近)がゼロワン地区と聞いて、それなら何とかやっていけるだろうし、それなりの社会的意義のようなものもあるかもしれないと思ったくらいである。
2、 開業時25歳であったため「年齢的に貫禄がないと依頼も来ないかな」という不安があったが、年齢が若いために敬遠されたことはないと思うので、年齢が若い人でもあまり気にすることはないと思う。
3、 開業してよかった点はあるかと言われると、特にないが(やはり仕事を覚える上でも、収入面でも、ある程度勤務をしてから独立のほうがよいと思う)、東京で低賃金で酷使されている人の話を聞くと、それよりはましかな、とも思う。
 修習後過疎地で即開業するというのは、損得というよりも趣味の問題と思うので、他の人に同じようなことを勧めるつもりもないが、独立志向の人が積極的に開業して、仲間が増えてくれるとうれしいと思う。

(※平成16年追記)
 この稿を見た人たちから、「独立しても特にいいことはない」と書いた点について、「面白い」「大変だね」とのご感想を頂きました。「過疎地でやったらとくにいい思いができるわけでもないが、経験が少なくても、公設事務所などでなくても、やる気があれば十分やっていける」というのが真意ですのでそのように読んで下さい。ちなみに現在はそれなりに忙しくしております。

以上