信州の片田舎から(平成13年度)
長野県弁護士会  川島 一慶

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 38期である私が、第二東京弁護士会から長野県弁護士会に登録換えをし、長野県飯田市に事務所を開業したのは、昭和62年5月でした。当地に開業したのは、ここが私の故郷であるからにほかなりません。
 長野県飯田市は、長野県の南端に位置し、人口約107,000人。県内では、長野市、松本市、上田市に次ぐ4番目の人口を擁する都市(?)です。
 飯田市には、一応いわゆる甲号支部である長野地方・家庭裁判所飯田支部と、飯田簡易裁判所とがあります、「一応」としたのは、裁判官が2名しか常駐しないからであり、合議事件には、隣接の伊那支部長が右陪席として加わります。
 しかも、飯田簡易裁判所には別に簡易裁判所判事はおらず、2名の裁判官が簡易裁判所判事も兼任しています。すなわち、2名の裁判官で、地裁の民事刑事、家裁の家事少年、簡裁の民事刑事すべての事件を扱っているわけです。
 ここでは、簡裁から地裁へ移送された民事事件や刑事事件の担当裁判官がそのまま、あるいは夫婦関係調整調停事件で不調となった離婚請求事件の担当裁判官が同じ、といった、大規模庁では予想もできない事態が日常のものです。
 飯田支部の管轄は、飯田市と下伊那郡の1市17町村であり、管内人口は約17万人。面積は、ほぼ香川県に匹敵します。
 事件数は比較的少なく、地裁民事通常事件が約100件ちょっと、地裁刑事事件が約70件というところです。
 そのため、新民事訴訟法の理念も忠実に具体化されており、民事通常事件の口頭弁論も、午前10時に同時に何件も指定されるといったことはなく、1件が午前10時に指定されれば、次の事件は午前10時30分といった具合で、第1回口頭弁論期日から、審理時間は15分から30分は確保されます。2回めの期日は、ほとんどラウンド法廷での弁論準備手続が行われています。

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 長野県弁護士会は、他会のように本庁に弁護士が集中するということはなく、各支部単位で、在住会と呼ばれる組織を形成しています。飯田在住会は、飯田市に事務所を置く弁護士全員で組織されており、現在は8名です。この在住会が、長野県弁護士会の常議員や各種委員選出の母体ともなります。
 飯田市は、弁護士会館がある長野市までの交通の便が悪く、JRでは長野市まで直通の快速電車が朝午前6時発と夜午後7時14分発の1日2本しかなく、しかも3時間50分もかかってしまいます。現在は、中央道と長野道とを経由する高速バスが1日9本出ているので、公共交通機関の利用はもっぱらこの高速バスということになりますが、それでも片道約3時間かかります。
 3時間といえば、新幹線なら東京大阪間の時間距離に匹敵します。つまり、私たちが長野県弁護士会館で開かれる県弁護士会の各種委員会に出席するということは、東京の先生が大阪で開かれる会合に出席されるようなものなのです。
 しかも、人数が少ないためにいきおい一人でいくつもの委員を掛け持ちしなければなりません。私個人としても、平成13年度は、綱紀委員会、司法修習委員会、司法制度調査会、民事訴訟運営協議会対策委員会と4つの委員会に名を連ねています。
 土曜日午前10時30分から2時間程度開催される委員会に高速バスを利用して出席するときは、私は午前6時30分に家を出て、帰宅は午後6時ころとなります。
 日帰りのバス旅行に参加したような気分になります。

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 委員会出席率が悪いことへの言い訳はこの程度にしておくこととして、私事ではありますが、私は開業以来事務所を2回移転しました。
 最初は貸しビルの1室を賃借し、2年弱事務所としました。2度目は、中古店舗を購入して改装し、約10年間事務所を置きました。
 そして、平成12年1月に、JR飯田駅から徒歩2分という現在地に事務所兼自宅を新築して引っ越しました。約100坪の敷地に延べ床面積90坪の2階建てとし、1階を主に事務所、2階を自宅としているので、事務所の面積だけでも約35坪あります。弁護士1人あたりの床面積としては、大都市ではなかなかこうは確保できないと思います。
 事務所併用住宅とする利点は、通勤時間がゼロであるということでしょう。午後6時30分に事務所を閉め、通用口のドアを開ければ、ドラえもんのどこでもドアよろしく、そこが自宅の玄関です。毎日朝食も夕食も子供たちと一緒に摂ることができます。何と人間的な生活であることか。
 もちろん、プライベートな生活を確保するために事務所と自宅との電話は別回線にしてあり、しかも自宅の電話番号は電話帳には載せていません。
 事務所からは、裁判所、検察庁、警察署、法務局、拘置所、市役所いずれも自動車で10分以内であり、十分徒歩圏内であると思います。「思う」というのは、ほとんど自動車を利用するためで、通勤がないこともあり、地方で自宅と事務所とを併用する弁護士の共通の欠点は、運動不足に陥りがちであることだと思います。
 体を動かそうと思えば、1時間以内の距離にゴルフ場が9ヶ所、スキー場が6ヶ所あって、中には早朝、スキー場へ行って午前10時の弁論に出廷される先輩もいらっしゃいますが、なかなかそこまでの「ずく」はないのが実情です。

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 事件数、管内人口から見れば、弁護士8名というのは比較的多い方であり、弁護士過疎ということはありません。
 しかし、対外的には、在住会として飯田市社会福祉協議会の主催で、無料法律相談を毎月1回4時間だけ行っていますが、毎回何日も前から予約で一杯の状況です。
 まして17町村に対しては、法律扶助協会の主催で年に3ヶ所だけ無料法律相談を実施しているにすぎません。現状でも潜在的に弁護士需要は多いと感じられるのに、8名では公的な相談の機会をこれ以上増やすことは困難です。
 また、今後成年後見等弁護士の活動領域の拡大が期待される中で、私個人としては手持ち事件の処理で手一杯の感があります。
 法人の破産を申し立てても、管財人がなかなか決まらず宣告までに2ヶ月近くを要する場合がある現状では、新規開業者の参入の余地は十分あると思われます。
 地方で弁護士を開業するということは、良くも悪くもその土地のいわゆる名士となることであると思います。
 私は、12年間青年会議所に身を置き、その結果地域経済界等の方々とも幅広い交際が持てました。また、法務省の人権擁護委員、飯田市情報公開制度審議会委員等に委嘱されるなど、公的な役割を求められる機会も多くあります。
 都会で、執務時間外は雑踏の中で群衆に埋没する生活も確かに魅力的ですが、アイデンティティの確立という面では、地方での生活もなかなか捨てたものではないと思っています。
 偏在問題の解消のためにも、多くの若手が、進んで地方に、しかも支部管内に根を張ることを考えてくれたらと願っています。