東京から浜松への登録換えを経験して(平成14年度)
静岡県弁護士会  伊豆田 悦義

T はじめに
 私は,生まれも育ちも静岡県浜松市で,妻も高校の同級生でしたので,初めから郷里の浜松市で弁護士登録をするということも考えないではありませんでした。しかし,平成8年当時は浜松市で勤務弁護士(つまりイソ弁)を雇う事務所はないと聞いていたため,いきなり独立開業する自信などなかった私は,実務修習でお世話になった事務所にそのまま就職する形で第二東京弁護士会に登録しました。
 とはいえ,いずれは郷里に戻って独立開業したいという思いを持ち続けておりましたので,東京での弁護士経験が6年を超えた平成14年4月末付で静岡県弁護士会浜松支部に登 録換えし,慌ただしく開業準備をして,5月下旬から執務開始にこぎ着けました。
 そんな次第で,現時点でも登録換えから1年も経たないのですが,非常に慌ただしい毎日を過ごさせて頂いています。この原稿の依頼文書も書類の山の下に埋もれていて,年末の整理を怠けていたら原稿を落としてしまうところでした。
 入会の浅い私にどこまで正確なレポートができるのか心配ですが,東京から移り住んできた者としての感想も含めてご報告させて頂きます。

U 地域の状況
 静岡県弁護士会には,静岡支部,浜松支部,沼津支部の3支部があり,それぞれ東西に長い静岡県の中部,西部,東部に対応しています。
 私が所属している浜松支部には,現在53名の弁護士が在籍しています(平成15年4月現在)。
 浜松支部の対応区域内には,静岡地方・家庭裁判所の浜松支部と掛川支部があり,それぞれに簡易裁判所が併設されています。もっとも,掛川支部管内は,事務所を構えておられる先生がお一人ですのでゼロワン地区となっています。
 ところで,浜松支部は,最寄りの高等裁判所と言えば明らかに名古屋高裁なのですが,東京高裁管内の西の果ての支部になります。ちなみに,私の事務所は,静岡県内で最も西に所在する法律事務所だとある人から言われていたのですが,今回の原稿を書くにあたって調べてみると,東京高裁管内でも最も西の果ての法律事務所でした。
 とはいえ,浜松市は東京と大阪のほぼ真ん中に位置していますので,交通アクセスは悪くなく,東京・大阪までは,いずれも1時間半ないし2時間強で到着します(ひかり号が日に数本しか停車しないのが難点ですが・・・・・・)。

V 弁護士会支部の雰囲気など
 浜松支部では,支部会員総勢53名という規模に加え,支部内の会員相互が交流を持つ機会が多いため,とてもアットホームな雰囲気で,お互いに信頼感を持ちながら仕事をすることができます。
 支部では,年に1回の支部総会の他に,毎月1度の臨時支部総会が開催されています。裁判所に隣接する支部会館の弁護士控え室で昼食を食べながら,様々な会務運営について報告や討論がなされますが,毎回,半数以上の会員が出席しています。また,県弁護士会主催のシンポジウムや研修会などにも,浜松支部からも多くの会員が参加します。私も所用がない限り出席するよう心がけています。
 東京にいた頃には,会員数約2000人余の中の一人に過ぎないという感覚で,弁護士会に対する帰属意識が乏しく,しかも,得体の知れない「派閥」というものが嫌いだったので弁護士会の総会にすら出席したことがなかったのですが,浜松に来てからは,支部の運営について少なくとも50分の1程度は責任を負わなければいけないという気持ちになりました(裁判所移転に伴う新支部会館建築費用など,50分の1だとズシリと来ます・・・・・・)。
 また,各種の委員会活動についても活発です。浜松支部の場合,各種会合には大抵静岡支部(静岡市)まで出向いていかなければならず,新幹線でも片道30分以上を費やさなければならないのが難点ではありますが,委員会出席についての交通費と若干の日当が支給されることになっています。私の場合,東京にいた頃から委員会活動に時間を費やしていた方なのですが,県弁護士会では司法修習委員会と子どもの権利委員会に所属し,また,関弁連では「緊急時危機管理および相互扶助対策本部」検討委員会に所属することになり,やはり,移動時間まで含めると,東京にいた時以上に多くの時間を委員会活動に割かなければいけないというのが実感です。
 以上のように,浜松支部では,会務運営・会務活動について熱心に,オープンに,かつアットホームに取り組む姿勢がはっきりしていますので,登録換えという形で新たに入会した私も,支部の先生方や事務局の方より,とても温かく迎えて頂けました。約8か月が過ぎた現時点では,周りの方々がどのようにご覧になっているかは別として,自分としてはすっかり支部になじんだつもりでおります。期日の合間のちょっとした時間などに,支部会館の控え室でお茶を頂きながら他の先生方と色々な雑談をして過ごしている間に,もう何年も前から浜松支部に登録しているような錯覚を覚えることもあり,とにかく,とても居心地のよい支部であることは間違いありません。

W 登録換え後の仕事の様子
 私が登録換えをして以降,多くの先生から,数多くの仕事を紹介して頂いています。また,弁護士会,市役所,県行政センター(管内に3箇所)などで行われる法律相談の機会も多く,そこから受任に至るケースもあります。さらに,NTTのタウンページに電話番号を載せているだけでも飛び込みの電話が週に2〜3本はあります(飛び込みが受任に結びつくケースは稀ですが)。逆に,私の郷里が浜松であるにもかかわらず,親戚や友人から事件が紹介されたということは,割合的にはごくわずかです。
 国選事件については,地裁浜松支部・掛川支部および各簡裁の係属事件が支部会館のテーブル上にまとめて置かれていて,期日を見ながら自分で選んで受任するという仕組みであり,多く受任しようとすれば制限はありません。また,外国人の国選事件については,有無を言わさず全ての会員に順番に割り当てられてきますが,東京に比べますと通訳人の数が少ないようで,接見の日程調整に難渋することもありました。なお,私も,半年で2度ほど外国人の国選事件の割り当てがありましたが,目下,特別案件となった外国人の否認事件について二人目の弁護人に就任したので,この件が係属している間は割り当てがなくて済みそうです。
 少々やっかいなのが当番弁護士で,1日1名の待機人数であることに加え,担当エリアが広く,鉄道を利用できるところは限られているため,車で遠隔地に出向かなければならない場合もあります。静岡県西部の地理が分からないとイメージできないかもしれませんが,掛川署,細江署,新居署などというトライアングルに遭遇した日などには大変です(幸いにしてまだ経験がありませんが,当番と国選を併せて1日に磐田,浜北,細江を回ったことがあります)。しかも,支部財政が厳しいため,当番の日当(及び立て替えた通訳料)がいつ払われるかは未定という不確定債権状態になっているようです。
 また,管財人や個人再生委員なども,登録後すぐに回って来ます。ちなみに,浜松支部では,一人の裁判官が200数十件の管財事件を見ておられるそうで,管財人の早期処理に向けられる裁判所の期待感には非常に熱いものがあります。
 その他,最近私の業務量の中でウェイトを増しつつあるのが債務整理案件です。東京ではほとんど扱ったことがなかったのですが,浜松支部の若手の中の非常に熱心な先生からノウハウを教えてもらい取り組むようになったところ,弁護士会でのクレサラ相談のみならず,依頼者の横のつながりから事件数が増えつつあります。
 このように,現在の浜松支部では,特に地縁や血縁などと関係なくとも,一定の事件を受任する機会が数多く存在していますので,私も何とか貯金を減らすことなく事務所を経営することができています。

X 会員増に向けて
 ところで,浜松市は,静岡県西部地区の中核都市で,人口約60万人を抱えています。また,著名な自動車メーカーや楽器メーカーの本社が所在しており,最近ではノーベル賞受賞者の研究に貢献した光学機器メーカーが脚光を浴びましたとおり,古くから製造業が盛んな地域でもあります。さらに,高校卒業以来10数年ぶりに戻ってきて驚いたのですが,日系ブラジル人の方が数多く住むようになっていて,随分と国際色豊かにもなっています。
 そして,浜松支部が対応するのは浜松市だけでなく,周辺を含めて6市17町村にまたがっていますので,その管内人口は約120万人に及んでいます。
 こうした地域の状況に照らしますと,対応する弁護士数が53名というのは,決して弁護士過疎ではないにしても圧倒的に不足しているというのが私の感覚ですし,また,支部に所属する多くの先生方も同様に感じていると思われます。そして,支部全体として会員増に前向きに取り組もうとしているところです。
 私が,7年前に東京で弁護士登録した理由の一つに,「浜松支部では勤務弁護士を採用する事務所がほとんどない」という事情を聞いていたことがあり,実際,これまでに勤務弁護士を採用していた事務所は1事務所に限られていました。しかし,今では事情が変わっており,昨秋から新たに2つの事務所が勤務弁護士を採用したことに加え,現在も複数の事務所が勤務弁護士を募集しています。
 また,昨年までは静岡支部のみで割り当てていた弁護実務修習の個別指導担当についても,今年からは,16名の修習生(予定)の内4名が浜松支部の事務所に配属される見込となっています(また,4名は沼津支部に配属の予定です)。もちろんこれは,修習生の増員に対応してのことでもあるのですが,浜松支部の中には支部会員の増加につながればという期待を持っている方もおられます。
 さらに,浜松支部では,平成18年を目処に裁判所が移転する予定となっており,それに伴って,現在の裁判所の周囲に集まっていた事務所の多くも移転するのではないかと予測されていますので,それを機会に,スペースの都合等で控えていた事務所なども勤務弁護士を募集する可能性も考えられます。
 「地方都市への登録に興味はあるけれど,大都市から遠く離れてしまうのはちょっと・・・・・・」という方には,東京,名古屋,大阪の都市圏まで新幹線で短時間でアクセスできる浜松支部は,それなりにメリットのあるところだと思います。

Y 終わりに
 「東京から浜松に移って何が一番良かったか」と聞かれたら,まずは「無駄な『痛勤』がなくなった」と答えることにしています。もちろん,浜松に来て良かったと思うことは他にも数多くあるのですが,とにかく,東京にいた頃よりは,私や私の家族の価値観においての「より人間らしい生活」ができるようになったと日々実感しており,「痛勤がない」ということは,小さいながらも分かりやすい象徴の一つだからです。
 また,東京から地方に移ってから,仕事の幅がぐんと広がってきたことも感じています。弁護士の数が少ないために,必然的に様々な種類の事件にぶつからざるを得ず,とにかくいつも新しいことを調べながら仕事をしている状況です(不勉強がたたったという面も多分にあることは自覚しています)。こうした中で,東京での経験をとても貴重な糧として役立てながらも,ある意味では振り出しに戻って1年目からやり直しているような気分を味わっています(登録時点で最年少,今でも下から3番目という立場によるところも大きいですが・・・・・・)。
 いずれにしましても,これから,周囲の温かい先生方にさらなるご指導を頂きながら,1年,2年と時間が経った時,自分がどのような弁護士になっているかを楽しみにしつつ,なお一層郷里のために貢献して行きたいと思っています。