信州中野に事務所を開設して(平成14年度)
長野県弁護士会  徳竹 一臣

T 地域の状況
 私は,実務修習地が長野で,長野市内の法律事務所に4年6月間勤務した後,平成14年10月に信州中野(中野市)に事務所を開設した。
 中野市は,長野市の北東約25キロメートルに位置し,長野地方裁判所までは車で約50分である。中野市の人口は約4万2000人,飯山市約2万7000人,山ノ内町約1万6000人,野沢温泉村約4600人,木島平村約5700人,豊田村約5200人合計約10万500人であるが,これまでこれらの地域には法律事務所は存在しなかったため,法律相談希望者は,中野市,飯山市で月1度の社会福祉協議会主催の無料法律相談を受ける機会があった程度で,半日ないし1日を潰して長野市まで赴き法律相談を受けることを余儀なくされていた。
 中野市,飯山市,下高井郡(山ノ内町,木島平村,野沢温泉村等)下水内郡(豊田村等)は,かつては長野地裁飯山支部の管轄であったが,現在では地裁の飯山支部が廃止されており,飯山簡裁と長野家庭裁判所飯山出張所が存在しているだけである。したがって,中野市は,日弁連がいう,ゼロワン地域(地裁の支部はあるが弁護士がゼロまたは1人の地域)にも該当しない弁護士過疎地域である。ちなみに,私の事務所から飯山簡裁までは車で約30分である。

U 事務所及び業務の状況
 中野市,飯山市及びその周辺市町村の人口が計約10万人もあるのに弁護士が1人もいないというのは異常なことである。司法制度改革が唱えられ,法曹人口の増加が現実のものとなりつつある今日,市民の司法参加もさることながら,市民が必要なときに法律相談を受けられることの方が重要だと考える地域もまだまだ多いような気がしてならない。私は,弁護士過疎地域に法律事務所を開設して,法律相談に応じ,紛争の解決に助力を与えることができれば,それだけでも地域社会に貢献することができるのではないかと考え,実家の所在地でもある中野市に事務所を開設した。
 幸いにも,事務所を探すに当たっては,適当な事務所候補がいくつも存在した。私は,中野市周辺の人ならば誰もが知っている信州中野駅ビルに事務所を開設することとした。広さは約25坪であり,今のところ十分なスペースもある。
 私は,広告や予告をまったくしなかったので,半年くらいは国選事件や法律扶助事件などを中心にしてのんびり過ごそうと考えていた。しかし,新聞が比較的大きく記事にしてくれたこともあり,開業当初から法律相談が後を絶たない状態に陥り,のんびり過ごすことはできなくなってしまった。

V 法律相談・当番弁護士・国選事件等
  1. 法律相談
     法律相談は,ジャンルを問わずできるだけ応ずるようにしている。なにせ,私が断れば相談者はあてもなく長野市まで出かけて行って法律相談を受けなければならず,それは弁護士が考えているほど容易なことではないからである。夫婦関係,土地の境界問題,各種代金の回収等はもとより,会社の内部紛争,特許関係,外国人関係諸問題,先物取引,宗教関係の問題,墳墓・遺骨の承継問題等多種多様である。自己破産を中心とする債務整理の案件は一年中絶えることがなく,また,昨年夏頃からはヤミ金の相談が増え始め,この暮れにはヤミ金の相談が集中し,ヤミ金の連中相手に電話で壮絶なバトルを展開中である。
  2. 当番弁護士
     中野市に事務所を開設してからは,事実上,中野警察署に留置されている被疑者からの当番弁護士の要請には私が出向くようになっている感がある。逆に長野市内の警察署へ当番弁護士として出かけることはなくなった。そのため,当番弁護士の回数は年数回に減った。
  3. 国選事件
     国選事件は,できるだけ断らないようにしているがそれでも年15件ほどである。そのうち5件は飯山簡裁に係属した事件である。飯山簡裁の国選事件は,いつの間にか飯山簡裁の書記官が電話で直接私宛に依頼をしてくるようになった。飯山市は豪雪地帯であり,冬季に長野市から1時間以上もかけて出張するにはつらいものがあるので,できるならば出張は避けたいというのが弁護士の本音であり,そのあたりの事情を裁判所も心得ているのである。ちなみに地裁本庁の国選事件は,弁護士会事務局を経由して各弁護士(長野市在住)に国選の依頼が来る仕組みになっているが,年10件以上受任している弁護士は少数である。もっとも,上田・佐久在住の弁護士の中には,一般民事を手がけるほかに,年50件以上の国選事件を受任している人もいるとのことであり頭が下がる。
W 会務その他の公務の状況
 会務については,各弁護士が,複数の委員会に所属し負担が一部に偏らないように工夫がなされている。私は刑弁委員長,民暴副委員長等として会務に携わり,関弁連や日弁連の会合にもできるだけ出席するように心掛けている。

X 生活状況
 私の事務所は,自宅から車で約5分の所にあり,一応午前9時から午後6時までを執務時間にしている。しかし,午後6時に帰宅できることはほとんどなく,7時から7時30分ころになってしまうことが一番多い。この一年間は,週末は仕事をしないようにしてきたが,そうすると起案が追いつかなく,平日に徹夜を余儀なくされることもでてきたので,今年は週末出勤も覚悟している。とはいえ,週末は,趣味のゴルフに打ち込みたいというのが本音だ。事務所の近くにはゴルフ場がいくつもあり,ゴルフ環境には恵まれている。また,スキー場も近い。志賀高原の各スキー場,北志賀竜王,高井富士,小丸山,よませ,木島平,野沢温泉,菅平,飯綱,斑尾,黒姫等のスキー場も皆近くにある。その気になれば,ナイターで毎日スキーができる。都会暮らしではこうはいくまい。さらに,温泉にも恵まれている。湯田中温泉,渋温泉等は全国的にも知られている名所であるが,その他にも大小様々な温泉がある。また,高速道路が開通したお陰で,日本海への海水浴も1時間ほどで行けるようになった。
 頭を抱える多様な仕事が多くても,ストレスを発散させる場所が近くにあるので結構充実した生活を送っていると思う。ちなみに私はロータリークラブに所属し奉仕活動にも精を出している。

Y その他日頃感じていること
 中野市にも少なくともあと2人くらいは弁護士が必要であると感じている。離婚事件や貸金請求事件の当事者双方が相談に来ることも珍しくないからである。人口からしても私1人では少なすぎる。今後,法曹人口が年々増加するに当たり,未だ弁護士が1人もいない市町村に事務所を開設し,そこで仕事をするときは,地域の期待にも応えていることを強く実感することができると思う。今後,独立開業を考える人には,ゼロワン地域を勧めたい。