新潟県長岡市でUターン開業して(平成14年度)
新潟県弁護士会  細貝 厳

T Uターンの経緯
 「米百俵の精神」ですっかり有名になった新潟県長岡市で開業して5年目になる。長岡は,戊辰の役で西軍との戦いの場になり,同精神を唱えた小林虎三郎,司馬遼太郎の「峠」の主人公である河井継乃助,太平洋戦争開戦時の連合艦隊司令長官を務めた山本五十六,司法関係では,戦前・戦後に司法大臣,法務大臣を務めた小原直など,その他長岡支部管内の出雲崎出身の良寛さまなどを含んで,歴史上の人物を数多く輩出した土地柄である。
 ご関心のある方は,長岡市を紹介するHPをご参照いただきたい。
http://www.city.nagaoka.niigata.jp/dpage/kankou/kankou/index.html
 また,長岡市といえば,日本一の大河信濃川の河畔で,例年,8月2,3日に行われる大花火大会が有名である。日本海側特有の冬の自然の厳しさがある反面,四季がはっきりしていて,スキー,登山,ゴルフ,テニス,海水浴などの屋外活動を好む方には,格好の開業地といえるだろう。
 私は,司法研修所は44期,富山市で実務修習を経験した。
 平成4年4月,第二東京弁護士会に登録後,都合5年余にわたり,特徴のある渉外事務所と一般民事を扱う国内事務所の2つの法律事務所に在籍し,幸運にも貴重な体験をさせてもらった。しかるに,いろいろ考え悩んだ末に,約2年間の米国生活をはさんで地元にUターン(Iターン)することを決意した。
 都会での仕事はそれなりに刺激的であった。もう少し適性と忍耐力があればそのまま継続できたかも知れないが,もっぱら,Uターンを決意したのは,
1) 都会での仕事を経験する内,故郷で具体的な人(や人とのつながり)の見える範囲で弁護士業務を行いたい,と思うようになったこと
2) 地方都市でも企業の国際化が進んでいるので,これまでの修業や経験が生かされるのではないか,と考えたこと
3) 修習地が地方都市であって,業務を取り巻く環境も似ており,故郷での新規開業にそれほど不安はなかったこと
4) 親族,友人,知人とのつながりや自分自身の後半生を考えると,40代の前半でのUターンはいい機会であると考えたこと
などによる。
 では,Uターンした結果はどうかと問われると,語気強く「これこれ」と言い切るほどではないが,さまざまなチャンスを与えられ十分に仕事と生活を楽しんでおり,今のところ悔いはない。

U 新潟地方裁判所長岡支部を取り巻く現況
 我々地方に在住する弁護士にとって,現在の時代的要請は,地方自治的な視点からは市町村合併に伴う広範な法律実務の需要と供給の増加であり,司法改革の視点からは弁護士過疎の解消(いずれも司法サービスの充実)であろう。
 合併により都市の人口が(名目上)増えると,若手弁護士が魅力を感じて集まってくれるかは定かではない(当地では,冬季の降雪量が多いためもっぱら奥方の意見が決め手といわれている)。法曹人口の増加が適切な弁護士需要や供給の増加をもたらすことを望んではいるが,見通しは不透明である。
 新潟地方裁判所長岡支部は,長岡市を含み6市7郡を管轄する。管轄下の人口は60万人を超えている。同支部を活動の中心とする弁護士は,登録上17名である。全国平均と比べてもかなり低い人口比であり,近隣の高田支部,三条支部を中心として活動する弁護士事情と並んでまさに弁護士過疎地域といえよう。
 仕事の内容は,大抵の地方の弁護士と同様,民刑事の訴訟案件のみならず,昨今は,企業個人を問わず債務整理等の依頼が多くを占めるのではないか,と思われる。先述の登録弁護士数と人口との比率もあって,私自身を振り返っても,法律相談(週1〜2回),国選事件(月2件程度),当番弁護士(およそ10日毎),講演(週1回担当している専門学校の講義も含めると月5〜6回),管財事件(年数件)だけでも合計するとその負担はかなりのものがある(しかも,支部ということもあり,会務をかなり免除していただいてである)。
 そのような訳で,私のUターンと前後して,個人的にも親しくしていただいた地元のお二人の先生が亡くなった。弁護士の数が足りず,いや応なく仕事が累積してしまい健康を害されたのではないか,と懸念された。健康管理は仕事の前提,と弁護士同志でお互いに声を掛け合って十分に注意するようになっている。
 ともあれ,このように我が長岡支部における弁護士の仕事は,多岐に渡り,現在の専門分化の期待される都会での弁護士業務の趨勢とは異なったあり方で進んでいる。

V 日々の生活
 先般も県弁護士会の座談会で趣味を語る機会があったが,言葉に窮した。当面は,仕事や生活基盤を確立することや人と人のつながりを求めることで精一杯であり,近々,このような場で語れるほどの趣味や特技を持ちたいものである。
 しかしながら,地方在住の各先生がこれまでの「ひまわり」などで書かれていたように,その気になれば,アウトドア・スポーツを楽しむ環境は整いやすい。わずかな意欲さえあれば,簡単にその世界を実現することができる。又,長岡支部においては,法曹三者によるソフトボール大会(雨天の際はバレーボール大会)や有志によるゴルフ大会を定期に開催する他,裁判官,検察官の歓送迎会,新年会,新制度の勉強会などを随時行っており,人的交流には事欠かない。
 いずれにせよ,老若男女・技量を問わず受任する事件もそれぞれのレベルによる違いこそあれそれなりの数を抱え,大抵の弁護士は,仕事過多で多忙な日々を送っている。
 若手弁護士,修習生の方々,司法界全体を見渡して任官・任検するもよし,故郷であろうとなかろうと法律家の需要を求めて支部にまつわる地域での開業を目指して一歩を踏み出すこともよし。迫りくる大量増員時代に備えて,早めに地方都市で経営基盤を固めることも(頭の片隅で)考えてはいかがだろうか。もちろん,私どもと一緒に長岡支部を弁護士活動の拠点にしていただければ言うことはない。