過疎地域での活動をめざして(平成15年度)
千葉県弁護士会  阿部  清

T 会社法務部
 私がはじめて弁護士登録をしたのは,1980年のことである。東京で勤務弁護士としてスタートしたのだが,自分の専門とする分野がないため,困った。都会で弁護士業務を行うには専門分野をつくる方がよいとの話を聞いて,いろいろな研究会に所属してみたが,思うように専門知識を学習できない。また顧客も増えず,業績も伸びない。悶々として毎日を過ごすうちに,6年が経った。
 1986年になって新聞で企業法務担当者の求人広告を見た。その当時,東京都新宿区に所在するコンピュータ・ソフト会社である。そのころは,コンピュータ・プログラムを著作権法で保護すべきか特別法で保護すべきかとの議論が巻上がり,当時の文部省と通産省との主張が対立していた時期であった。この広告を見て,コンピュータ業界に飛び込めば,コンピュータ・ソフト法務という自分の専門分野をつくることができそうだ,と思った。そこでさっそく所属弁護士会から弁護士法に基づく営業許可をもらい,そのコンピュータ・ソフト会社の法務部員として入社した。
 入社後の仕事は,取引先との契約書作成に明け暮れる毎日であった。コンピュータ・システム開発受託契約書からはじまり,ソフトウェアの使用許諾契約書など,これまでまったく目にしたことのない契約書と格闘する毎日であった。しかも英文契約書を形式的に和訳しただけで,日本語で意味・内容を表現しようとしない契約書が多いことに驚いた。しかし月日が経つにつれてそのようなことにも慣れてきた。
 また会社員としての生活にも慣れてきた。弁護士業務は自営業であるため,収入面ではある程度不安定であるが,会社員の場合はかなり安定している。また休暇も会社員の方が多いようである。
 しかし,会社員には定年退職という問題がある。私の勤務していたコンピュータ・ソフト会社も60歳で定年退職することになっていた。私も気づくと,すでに54歳となっていた。このまま定年を迎えるべきかどうか考えた。私は,自分でできることをやってみたいという気持ちが強かった。何ができるのか。やはり弁護士業務しかない。それで会社を退職して,弁護士業務を再開することにした。

U 協力事務所
 私が「公設事務所」という話を初めて耳にしたのは,会社を退職する6ヶ月ほど前のことである。弁護士過疎地域でリーガルサービスを提供する事務所であるということを知って,自分の提供したいサービス・イメージに合致していると思った。長年の都会での生活で疲れたのであろうか,地方での生活に新鮮な魅力を感じた。このため今後の目標を,公設事務所への派遣弁護士として必要な実力を蓄えることに置いた。
 派遣弁護士を養成するための協力事務所もいろいろあることも知った。そのうち,初めから派遣を希望する地方の協力事務所に入所すべきか,それとも自宅に近い協力事務所に入所すべきかという問題が浮かび上がった。私の場合,派遣を特に強く希望する地方はなかった。そのため自宅に近い協力事務所に入所して,公設事務所に関する実情を集めることにした。
 そこで早速,日弁連のホームページに記載されている千葉市内の協力事務所である法律事務所大地に連絡したところ,面接を受けることになった。この事務所は,千葉地方裁判所まで5分もかからないで行くことができるという交通至便な場所に位置している。自宅から車で30分である。
 面接の際,事務所内の雰囲気が明るく,生き生きとした躍動感にあふれていた。これは魅力であった。そして私のような年配者でも採用していただいたのであるが,これについては本当に感謝している。
 私の場合,会社勤務の都合上,日弁連の登録を取り消していたので,再度,弁護士登録からやり直すことになった。2003年2月10日「弁護士名簿登録請求書」を千葉県弁護士会に提出し,4月18日に登録手続きが完了した。このため5月1日から法律事務所大地で弁護士業務を行うことになった。

V 自動車免許
 都会ではない地域で活動するには,自動車の運転が不可欠と思った。しかし自分は運転免許証を持っていない。となると運転免許証を取得するしかない。しかし不器用な自分が,はたして運転免許試験に合格できるだろうか。教科試験はともかく,実技試験に合格するのは大変なことだと思った。気持ちは重いが,とにかくやるしかない。そこで自動車教習所に通うことにした。
 11月28日,葛飾区新小岩の自動車教習所に入所した。有給休暇を利用して教習プログラムを消化することができたことから,入所後1ヶ月近い12月20日に仮運転免許を取得することができた。そして恐怖の路上教習を経て,2003年1月19日何とか自動車教習所の卒業試験をパスし,1月27日晴れて自動車運転免許証(AT車限定)を取得することができた。
 ただ,視力検査の際,裸眼では視力が不足したため,眼鏡を掛けることを免許条件とされた。眼鏡を掛けて運転するのは初めてである。この点は運転上の不安材料となった。
 免許取得後の方が大変であった。つまり実地の運転では,教習所で習った知識や経験では対応できないほど,変化に富んでいる。交通ルールを遵守しない運転者に対しても,事故を起こさないように対応しなければならない。このため,どのようにすれば問題なく実地に通用する技術を習得することができるのかが問題である。幸いなことに,妻は第2種運転免許を所持している大先輩のため,妻に実地の運転教習をお願いすることにした。また図書館で資料を探し,長山泰久先生の「新版ドライバーの心理学 運転センスの養成と防衛運転」を事故防止の教科書として読むことにした。おかげでこれまで事故に会わずに運転を続けている。
 車の運転とともに重要な事項として,道路地図がある。私は長い間会社員であったため,干葉県内の道路地図はまったくわからない。このため当番弁護士で警察署に行こうと思っても,どのような道順で行けば良いのかわからない。このためカーナビの購入を検討した。しかし当然ではあるが,カーナビは車がないと役にたたない。電車で出かける場合にはどうすればよいのか。この点を考慮して,モバイルPCに地図ソフトを設定し,USB接続で使用できるGPSアダプタを購入した。
 使用方法は簡単である。出かける前に机上で道順を地図上にマーキングし,モバイルPCに接続したGPSアダプタを作動させると,地図上に自車の位置がマークで表示される。このため予定した道順に合致しているかどうかが即座にわかるし,道に迷っても脱出方法がすぐわかる。また目的地の近くに近づくとビープ音を出すように設定することもできる。さらに携帯電話に接続して持ち歩くこともできる。注意点は,車で使用する際は,安全運転のために運転中は画面を見てはならないことである。また山間部の地図データ量が少ないことである。

W 現在の業務状況
 現在の手持ち事件の内訳はつぎのとおりである。
(1) 刑事事件:7件(国選5件,私選2件)
(2) 破産申立(個人):6件
(3) 少額破産管財:4件
(4) 民事訴訟関係:2件
(5) 顧問,契約書検討など:2件
 まだ余裕はあるが,高速道路を利用して出頭しなければならない事件が多いため,移動にかなり業務時間をとられている。
 このほか当番弁護士や法律相談を担当させていただいている。

X 今後の展望
 今後の活動予定であるが,千葉県の弁護士過疎地域において,リーガルサービスを提供していきたいと思っている。具体的には,2004年6月を目標として,八日市場地区を活動拠点とする事務所を開設したい。これは都会も好きだが,都会よりも田舎の方が好きだという自分の好みからである。
 開設予定の事務所であるが,事務所経営の基本理念は,スモールオフィス・ホームオフィス(SOHO)である。ホームオフィスという観点から,できれば事務所は古い民家を使用したいと思う。庭を広く取り,美しい草花を育てるだけでなく,畑も作りたい。畑にはダイコンやネギなどの農作物を育てる。またニワトリやアヒルといった家畜もいてほしい。事務所内では囲炉裏の前で依頼者との打合せを行いたい。このような環境は,依頼者の疲れ切った心を少しでも癒すために必要であろう。
 一方,業務のIT化も推進したい。ADSLを利用したインターネット接続は当然のこととして,FAXの送受信もPC経由で行うことにする。電話は携帯電話を中心として,授受する書面はスキャナーを利用してのデジタル化を進めたい。依頼者は事務所のホームページを閲覧することで,依頼した事件の進行具合を確認することができるようにしたいと考えている。