| 女性弁護士過疎地から(平成17年度) |
| 群馬弁護士会 赤石 あゆ子 |
T はじめに 弁護士生活は今年で6年目になります。登録後3年目の2003年夏,群馬県高崎市で独立開業しました。高崎支部は前橋本庁に次ぐ規模を持つ支部で,弁護士数は現在46名です。弁護士過疎問題とは縁のない地域ですが,「ひまわり第9号」が女性や若手(「女・子ども」!?)の特集号であると知って,私に執筆のご指名があったことに得心がゆきました。 高崎支部管内の女性弁護士の数は現在46名中4名(8.7%),群馬県全体では145名中9名(6.2%)と,いずれも10%に満たない状況です。2003年に司法試験予備校の伊藤塾が,各弁護士会における女性会員の比率を調査した結果を発表していますが,それによれば,比率の全国平均(2002年4月の資料による)は11%であり,これを超えているのは52弁護士会中11弁護士会にとどまること,その多くは都市部に集中していること,「女性ゼロワン弁護士会」が6弁護士会存在すること,女性会員数が1桁のところが35弁護士会にのぼること等が指摘されています。 私は日頃から,弁護士の仕事に男女の区別はないし,性別よりも弁護士としての姿勢や能力が重要だと思っていますので,単に数値の上で男女比が縮まりさえすれば良いとは考えていません。ただ,社会に存在する様々な職域における男女の比率は,その社会の成熟度を測るバロメーターの一つになるとは思うのです。残念ながら日本では,管理的職務や専門性の高い職業分野への女性の進出は,諸外国と比べてまだまだ遅れているようです。その意味で,今後都市部でも地方でも,女性弁護士がもっと増えて充分に力を発揮するようになることを期待せずにはおられません。 U 独立開業 独立を考えた時,多くの先輩弁護士からアドバイスを頂きました。弁護士としてのスタンスから開業準備のノウハウまで様々でしたが,全てが貴重な意見や情報であり,先輩の有り難さを痛感したものでした。また,古くからの友人が事務所用の物件探しを始めとする諸準備に力を貸してくれたおかげで,およそ1ヶ月で事務所として最低限の形を作ることができました。 少し悩んだのは事務所の名称でした。個人事務所の場合,弁護士の姓(名)を冠するのが一般的でしょうし,外から見て分かり易いということはあると思います。しかし,結婚の際に夫の姓を名乗ることにした私は,「赤石」という姓に対する違和感を払拭しきれないでいました。しかも夫は全く別の仕事をしていて事務所を開設するのは私なのに,もともと夫の姓であった「赤石」を事務所名にするのは何となく面白くない。かといっていわゆる「旧姓」も元を正せば父親の姓だったわけで,仕事でも私生活でも「旧姓」に拘るのも考えてみればおかしいような気がするし,ファーストネームを事務所名にしたら怪しい感じになるし……。因みに私は選択的夫婦別姓の制度には大賛成ですが,本当は姓不要論者です。「家」制度を廃止した以上,ファミリーネームはいらない,というのが論理的帰結だと思うのですが,本気で取り合ってくれる人は殆どいません。 さて,そんな訳で個人名でない事務所名をつけようとあれこれ考え,結局決め手は分かり易さで,「あおば法律事務所」という平凡な名前になりました。 V 事務所 開業当時は弁護士1名事務局1名でスタートしましたが,現在は事務局2名です。1名は私が弁護士になる時に新人として一緒に仕事を始めた人で,成長を競い合うライバルのような関係でもありますが,どうも彼女の方に分があるようです。 事務所の特徴としてあげられるのは,総勢3名の小規模事務所ながら全員が女性だということです。特に意識して女性ばかりにした訳ではなく偶々そうなっているにすぎないのですが,時々珍しがられることがあります。「男手が欲しいでしょう」とご心配を頂くこともありますが,今のところ女性ばかりであるがための不便は特に感じていません。サラ金やヤミ金(最近は少なくなりましたが)とのやり取りなども,性別よりもその人の資質の方がはるかに重要ですし,腕力や声の太さが特に必要な訳でもありません。もっとも,DV事件で相手方加害男性と直接やり取りをする時など,弁護士や事務局員が女性だと,虚勢を張ったり嵩にかかった態度をとったりする男性は確かにいます。しかし,そこで「女ばかりだからやりにくい」と考えるのではなく,そういう手合いに対して理性的にしかも毅然とした態度で臨むことが職業人として求められるのだと考えれば,憂いは全くありません。 W 業務の特色 クレサラ事件が多いのはいずこも同じです。2005年7月の最高裁判決で貸金業者の取引履歴開示義務が認められ,2006年1月には,貸金業規制法43条の「みなし弁済」について任意性を否定する最高裁判決が出るなど,債務者保護を重視した歓迎すべき判決が相次いでいますが,それでも高金利を原因とする多重債務問題は後を絶ちません。最近ではテレビコマーシャルの影響か,大手サラ金・クレジット業者を「名の通った」「一流の」会社と見る人が多いのには驚きます。 業務内容で特筆すべきは,離婚事件,それも女性からの依頼が非常に多いことです。ここ1,2年は,多い時には20件近く,少ない時でも10件以上の離婚事件を抱えており,その8割以上がDVの事案です。男性からの依頼を受けることもありますが,年に1件程度にとどまっています。これも自らの選択の結果というよりは,依頼された事件を受けているうちに次第にその傾向が強まったものといえましょう。群馬県では,2003年4月に設置された「女性相談支援室」が「配偶者暴力相談支援センター」として精力的な活動を続けており,こちらから事件をご紹介頂くことも度々あります。 この外,医療過誤事件や労働事件,その他の一般民事事件が少しずつ,それに個人再生委員や破産管財人の仕事なども割り当てられるようになってきました。医療過誤事件は,所属する群馬医療問題研究会を通じて受任するものですが,私のように経験の浅い者でもベテランの先輩弁護士と2人1組で仕事をさせてもらえるので大変勉強になります。国選は平均すると1ヶ月に1件程度,私選は年に1,2件といったところです。 また,通常の弁護士業務の外,女性団体等からの講演依頼を受けることも徐々に増えてきています。さしたる蓄積もない私は,講演の準備に頭を悩ませることもしばしばですが,それを機会に自分の仕事を客観的にみることもできますし,大勢の人に自分の言いたいことを聞いてもらうチャンスでもあるので,多少無理をしても請けるようにしています。 X おわりに 群馬では女性弁護士はまだまだ希少動物です。「女性で」弁護士とはすごいですね,と言われて返答に窮することも度々あります。離婚事件が多いのも,おそらく女性弁護士の数が極端に少ないことが原因だと思います。もちろん私自身は離婚事件が多いことに不満はありません。同種の事件にいくつも取り組んでいると,事件を通して社会の実相が見えてくることがあります。DV事件が後を絶たないのも,古典的な男性優位の価値観が背景にあることに加えて,今日の日本社会が弱肉強食型の傾向を強めていることと無関係ではなかろう,などと思いをめぐらすうち,忙しい日々中で溜まるストレスから幾分解放されることもあります。 それにしても,いつまでも女性弁護士が希少動物であり続けるのは,弁護士にとっても,おそらく社会にとっても好ましいことではないと思うのです。今後はもっと数を増してゆくであろう女性弁護士が,群馬にも来てくれることを願っています。いくら増殖しても,駆除されることなどありませんし,むしろ大歓迎されることは間違いありません。 |