小さな地方都市の勤務弁護士の仕事と生活(平成17年度)
長野県弁護士会   大野  薫

T はじめに
 私は,司法研修所57期生です。平成16年10月12日から,長野県上田市内の法律事務所の勤務弁護士として働いてちょうど1年が経過しました。
 もちろん,登録して1年あまりの私が弁護士経験について多くを語ることはできません。
 しかし,今回の「ひまわり第9号」が,登録後まもない弁護士の特集号になると聞いて,僭越ですが,少しでもためになるお話しができればと思い,筆をとった次第です。

U 登録のきっかけ
 私の出身は埼玉県です。生まれてからずっと首都圏郊外のベッドタウンで過ごしてきました。そのため,勤務先の法律事務所の所在地である上田市とは全く縁もゆかりもありませんでした。
 そんな私が上田市で働くきっかけとなったのが,長野での実務修習でした。
 当初は多くの司法修習生同様,東京で就職することを漠然と考えていました。
 しかし,弁護過疎問題に若干関心があったこともあり(当時いただいた「ひまわり」も目を通していました。),また,実務修習を通じて,諸先生方のご活躍をまのあたりにすることで,地方の支部で弁護士として働くことを真剣に考えるようになりました。
 また,自然豊かな長野県の風土の魅力も弁護士登録をする大きな動機付けとなりました。きれいな空気は都会ではなかなか得ることのできないものです。そして,実務修習が終わるころには,住み慣れた実家を離れて,弁護士として働く決意を固めました。

V 長野県上田支部における弁護士業務について
 長野県には,県土が広いこともあって,本庁の他に,6つの支部があります。
 長野地方裁判所上田支部はそのひとつということになります。
 同支部管内の人口はおよそ25万人です。これに対し,弁護士は12人であり,弁護士1人当たりの人口は約2万人であり,弁護士の人数が足りているとは言いにくい状況です。知られざる弁護過疎地域といえるかもしれません。
 また,一般に,長野県は県を北信,中信,南信,東信と4つの地域に分けます。そして,東信には,支部として上田支部の他に,佐久支部も含まれます。
 そのため,上田支部管内の弁護士が佐久支部管内の事件を受任していることは珍しくありません。
 上田支部における弁護士業務の内容についてですが,地方の一般的な単位会と同様に,一般民事事件,家事事件から刑事事件まで,多種多様です。
 また,クレサラ事件の占める割合が高い点も近時の傾向として,同様かと思います。
 刑事事件についてですが,支部管内のほとんどの弁護士が国選事件を担当しています。裁判所の書記官から直接打診を受けて国選弁護人に選任されます。
 当番弁護士については,名簿順に1週間ごとに担当弁護士を決めて派遣するかたちをとっています。およそ2か月に1回程度当番が回ってきます。
 また,市役所や社会福祉協議会といった関係機関が主催する無料法律相談や弁護士会が主催する有料法律相談,クレサラ相談も支部管内の弁護士で担当を決めて割り振っています。このような各種の法律相談をおよそ1か月あたり1回程度の割合で担当しています。
 そして,委員会活動についてですが,弁護士の人数が少ないため,複数の委員会をかけもちするのが普通です。確かに,委員会活動の負担は軽いとはいいにくいです。しかし,委員会活動に携わることは,その分野に対する関心を深め,実務家としてさらなる経験を積む貴重な機会になっていると思います。

W 私(登録1年目)の弁護士業務について
 私の業務内容について簡単に申し上げますと,まず刑事事件についてですが,登録後1年程度で受任した件数はおよそ20件程度です。このうち,9割近くが国選事件になります。
 また,上田市は在日ブラジル人の占める人口割合が高く,近くには戸倉上山田温泉といった歓楽街もあることから,外国人事件が多いことを特徴としてあげられます。実際,私が受けた事件の2割近くが外国人事件です。
 外国人事件に関しては,コミュニケーションの難しさや通訳人との連絡など,実務に出て初めて思い知らされることが多いです。
 次に,民事事件についてですが,そのほとんどが事務所で受任している事件です。
 その内容は,貸金請求事件のような典型的な事件から,労災,医療過誤のような専門的なものまで,あらゆるものが含まれています。また,訴額も数十万円から数千万円のものまでいろいろです。事件処理に必要な知識の補充に追われる日々です。
 そして,家事事件についてですが,やはり離婚事件が多数を占めています。また,裁判所から相続財産管理人や不在者財産管理人に選任され,財産管理をしています。
 クレサラ事件についてですが,私の今までの受任件数は20件くらいになります。そのかなりの部分が,事件の性格上やむを得ないところですが,法律扶助事件となっています。
 また,管財事件をこれまでに5件ほど受任しています。弁護士の人数が少ないため,登録初年度から管財事件を受任しています。その意味でとても貴重な経験を積ませていただいています。

X 登録1年目を振り返って
 登録後まだ1年しかたってないということで,やはり事件処理には相当な苦労が伴います。経験からくる見通しがたたなかったり,ある意味当然ですが,やることなすこと初めてのことばかりで,戸惑いも多いです。
 特に,手続のことに関しては勉強不足を痛感する日々です。登録当初は訴え提起すら自分ひとりでは満足にできませんでした。
 そんなときにお世話になっているのが,まず勤務先の法律事務所の事務員の方々です。法律事務所の事務員としての豊富な経験はとても頼りになります。
 また,各種裁判の手続きに関しては,裁判所の書記官の方々,検察庁の事務官の方々に大変お世話になっています。いつも教えられてばかりで,修習中の不勉強を今になって後悔するばかりです。
 そして,先輩弁護士からも豊富な経験に基づく貴重なアドバイスをいただき,事件処理上大変参考になることが多いです。
 いろいろな方々の協力のもと,自分の事件処理ができていることを改めて思い知らされています。

Y 長野県上田市の紹介
 さて,私が仕事をし暮らしている長野県上田市及びその周辺について,簡単に紹介します。
 上田市は市街地に上田城をかまえる真田家ゆかりの歴史ある町です。
 現在上田城周辺は上田城址公園として市民の憩いの場となっています。私も休日に公園内を散歩して気分転換をしています。春には桜,秋には紅葉が非常にきれいで,その光景は一見の価値ありです。
 また,郊外には由緒ある別所温泉があります。その周辺は古寺仏閣が点在し,信州の鎌倉と称されています。仕事の合間に,名湯につかり日々の疲れを癒しております。
 また,上田市近隣には菅平高原があり,さらに足をのばせば,日本有数の別荘地である軽井沢があります。夏はトレッキング,冬はスキーと余暇の過ごし方に困ることはありません。
 初夏のころには,新緑を眺めながらドライブするのも,とても快適です。
 さらに,地方で登録した弁護士のたしなみとして,ゴルフを始めました。スコアを問題にするレベルには到底達していませんが,弁護士業務同様,まだまだ向上の余地があることは確かなようです。

Z おわりに
 ここまで弁護士業務ないし事件処理についての雑多な感想を申し上げてきました。お読みいただいている方の中には,地方の支部の弁護士は大変だとの思いをお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。
 しかし,そうだからといって,地方の支部の弁護士の仕事がつらいばかりなわけでは決してありません。月並みな言い方ですが,少なくとも苦労するだけのやりがいはあるように感じます。
 昨今,東京をはじめとする都市部においては,法律事務所の専門化が進んでいると聞いています。
 これに対して,地方の支部では事件を選ばずに受任する法律事務所が圧倒的に多いです。弁護士の人数が十分でない地方の支部においてはなおさらです。
 その意味では,地方の支部は,弁護士としての能力を多岐にわたって発揮する機会に恵まれているといえると思います。そして,この点にこそ,地方の支部で弁護士登録をする大きな魅力があると私は信じています。
 また,地方の支部においては,弁護士と依頼者の距離が近く,お礼の言葉をかけていただいたときの喜びはとても言い表せないものがあります。
 最後になりましたが,もしこの拙文をお読みいただいて,地方の支部で弁護士登録をすることに少しでも興味をもっていただければ,これにまさる幸せはありません。
 そして,実際に地方の支部で弁護士登録をしていただければ,この拙文の筆者として,もう何も言うことはありません。