関東弁護士会連合会は,関東甲信越の各県と静岡県にある13の弁護士会によって構成されている連合体です。

「関弁連がゆく」(「わたしと司法」改め)

従前「わたしと司法」と題しインタビュー記事を掲載しておりましたが,このたび司法の枠にとらわれず,様々な分野で活躍される方の人となり,お考え等を伺うために,会報広報委員会が色々な場所へ出向くという新企画「関弁連がゆく」を始めることとなりました。

写真

西川産業株式会社 代表取締役社長
西川 八一行(やすゆき)さん

とき
平成30年5月30日
ところ
西川産業株式会社本社ビル
インタビュアー
会報広報委員会委員 西岡毅

今回の関弁連がゆくは,「AiR」という寝具でお馴染みの西川産業株式会社,通称「東京西川」です。
同社の広告には,サッカーのネイマール選手,三浦知良選手,メジャーリーガーの大谷翔平選手等,多くのスポーツ選手が起用されており,皆様もポスター等の広告をご覧になったことがあるのではないでしょうか。
今回は,西川産業株式会社の代表取締役社長である西川八一行さんに,創業450年以上の同社の歴史から,良質な睡眠についてまでお話を伺ってまいりました。

御社の歴史について概略を教えてください。

西川さん 創業は戦国時代の1566年,近江八幡の近江商人が発祥です。元々は大工の息子だった西川仁右衛門という人が初めて行商を行ったことを起源として,その後豊臣秀次による八幡城の築城に携わり,その城下町に楽市楽座ができたことで当社の商売が始まっていきました。ところが,秀次が非業の死を遂げるとお城も城下町もなくなってしまい,地場では商売が厳しく,外地でも求められる商人となるよう努力していきました。それから少し時が経ち,徳川家康が江戸で新しい都をつくるということで,当社もそのときにお声がかかり日本橋へやって参りました。それから400年ほどずっとこちらで商売をさせていただいています。近江八幡にあった家は,今も本家として残され,現在では財団法人西川文化財団が保管管理を行い,歴史的にも貴重な文化財や美術品を大切に受け継いでいます。日本最古に近い勘定帳等も保存されています。

当初から寝具に関係する商売もされていたのですか。

西川さん 当時は,蚊帳など,生活用品を販売しておりました。琵琶湖畔もそうでしょうが,江戸となると,当時は湿地帯で非常に蚊も多かった。そこに各大名が出てくる中で,蚊帳の需要が多かったと聞いています。そのうちに,蚊帳から,畳表を作る仕事,弓矢を取りまとめる仕事等,色々な事業に転換していきました。布団の完成品を販売するようになったのは,明治になってからです。元々は,側生地と綿が別々に販売されているだけで,布団は皆さんがご自分で作られるのが本来だったのですね。その後,当社では寝具をメインに取り扱うことになり,さらに最近では,寝具の販売だけでなく,香りや音など睡眠環境を整えるアイテムの販売や,お客様の眠りを可視化し,一人ひとりに合った睡眠のアドバイスなど,トータルで睡眠のコンサルティングを行うというように変化してきました。

その人に合った睡眠に関する提案をされるということですか。

西川さん そうですね。睡眠の良し悪しには色々な要素が関係してきます。例えば,昼間の活動,ストレス,コーヒーやお酒等の嗜好品,まずはそういった普段の生活状況をお聞きします。そして,例えば,寝つきが悪いとか,途中起きてしまうとかの睡眠のお悩みをお伺いして,医療行為ではない範囲で,適切な睡眠のとり方についてご提案させていただいています。

私の場合,寝つきは良いのですが早朝に目が覚めてしまうのが悩みです。

西川さん 若い頃に比べて,年を重ねるごとに睡眠する力が減ってくるのが原因のひとつに考えられます。若い頃は,睡眠中に光が入ろうが,何か音がしようが,体に合わない寝具だろうが,睡眠を続けるパワーがあったのですが,それが年を取ると徐々に減ってくるわけです。ですから,寝室の光や音を遮断したり,寝具を体に合ったものにしたりして,目が覚めてしまう理由を1つでも減らすことが大事です。

なるほど。睡眠に適した時間というものはあるのでしょうか。

西川さん 個人差がありますが,睡眠は7時間前後あれば特に問題はないそうです。4時間を切ると,血糖値の変化が如実に出るそうですので,少なくとも4時間よりは多くとっていただいて,その中でご自身にとって良い睡眠時間を探していただくのが良いです。

昨年流行語大賞にベストテン入りした「睡眠負債」についてお聞かせください。

西川さん 「睡眠負債」というのは,適切な睡眠時間が確保出来ていないとそれが負債として溜まり,そのツケが5年,10年後の将来に出てしまうということです。例えば,睡眠不足が続くと,生活習慣病を発症しやすいとか,脳の認知機能が衰えるとも言われています。睡眠も,食事や運動と同じで,ある1日だけきちんとしても駄目で,将来の自分の健康への投資と考えていただければと思います。そして,睡眠の質も出来るだけ高めていただいて,睡眠の時間と質の両方の負債を日々解消して欲しい,そういう思いを込めて,当社でも「睡眠負債」という言葉を提唱しています。

睡眠も長期的な視野で考える必要があるんですね。良質な睡眠のコツはありますか。

西川さん まず,睡眠に適した心と体のコンディションに持って行くことが睡眠前のコツです。興奮状態を解消して,リラックスした心と体になるために,お風呂に入るとか,パソコンやスマホを見ないようにするとかして,昼間の緊張をできるだけ抜いていきます。パソコンやスマホのブルーライトは脳が朝と勘違いして覚醒してしまうので控えたほうが良いそうです。次に,睡眠に適した状態を長く維持することも大切です。寝室環境を整えたり,体に合った寝具を使うのも良いでしょう。体に合っていない寝具で眠ると,体が本来の姿勢を保とうとして,本来休むべき筋肉が緊張してしまい,しっかり眠れません。良質な睡眠を阻害する要因を1つでも2つでも減らすというのがコツです。

最適な寝具というのはあるんですか。

西川さん 体を支えるマットレスに関しては,当社は,体圧を分散する機能と,姿勢を保持する機能,この2つ機能のベストミックスを探さなければいけないと考えています。まず,体の重さは均一ではないものですから,寝姿勢では腰と肩に高い圧力がかかってしまいます。そのため体の圧力を分散させる必要があります。もっとも,ただ圧力を分散させるだけなら柔らかい寝具でいいのですが,そうすると今度は重いところが沈んで姿勢が崩れてしまいます。そこで,寝ているときの姿勢を立っている時と同様に正しく保ち,仰向けのときは背骨がゆるやかなS字を,横向き寝のときは,背骨が頭頂部まで水平になるようにする必要があります。このように体圧分散と姿勢保持という2つの相反する機能をうまくミックスさせる必要があるため,体の重さ,筋肉量等によって,適切な寝具も違ってくることになります。さらに,体型や筋肉量は変化するため,適切な寝具かどうかは5年毎ぐらいで確認をした方がいいと思っています。例えば,ゴルフをされる方は,時々道具を変えられると思いますが,同じように,寝具も自分の体の変化等に応じて変えるべきだと思います。

御社の寝具の広告には有名なアスリートが多数出ておられますね。

西川さん アスリートの方々を広告に起用した「AiR」(* 点で支える凹凸構造のマットレス)をはじめ,様々な自社ブランドを展開しておりますが,前は,海外のビッグブランドの名前をつけて販売するというライセンス商売が非常に多く,それらの商品が大きな売上を占めておりました。でも,いつまでもこのままでは先はなく,今後は当社の技術や当社の名前をブランド化しなくてはいけないと考えるようになりました。そんななかで,2007年に日本がオリンピック開催に手を挙げたとき(* 結局はリオデジャネイロ開催。)に,ちょうど当社の創業450年が重なる年でしたので,その時にトップアスリートの活躍を陰で支えて,当社もオリンピックの役に立ったと言えるようになろうと考えました。それがアスリートの皆様と連携していくきっかけです。アスリートの方々は,良くも悪くも試合の結果によって全て評価されてしまいますので,いつもベストなコンディションを保つことを強く意識されています。ただ,アスリートの方々は,食と運動のことには詳しいのに,睡眠のことはほとんどご存知ないわけです。ですから,当社は,睡眠によって自分をリカバリーしていく手法,最高のコンディションにする手法というものをご案内しています。睡眠をサポートさせていただいたアスリートの方々からは,睡眠の改善によって,疲れの抜け方が違うため,より負荷の大きい練習ができる,怪我をしづらくなったと伺いました。幅広い種目の多くの方々を寝具でサポートさせていただき,同時に睡眠のコンサルティングもしていく中で,睡眠,寝具の大切さを共有できる方と広告の契約もさせていただいているという流れですね。選手としてのイメージだけで契約している方はいらっしゃいません。当社の商品を使っている方がハッピーになっているところを,皆さんにも知っていただきたいという思いですね。現在は,1000人以上のアスリートの方をサポートさせていただいています。

アスリートの方々との連携は貴社の商品開発にも反映されていますか。

西川さん 当社の「AiR」という商品は,アスリートの方の声を元に開発されたものも多いです。クッションもそうですね。スポーツによっては,プラスチックの椅子で長時間待っていて,突然出番がくるということがあります。そうすると彼らが発達させているお尻の筋肉が潰された状態から突然フルパワーを出さないといけなくて,怪我のリスクや,最大限のパフォーマンスができないということがあるようです。あるいはバスや飛行機の移動のときに筋肉のダメージを減らしたい,という話も聞きました。それで,椅子の上にセットするためのシートクッションを「AiR」として作らせていただきました。それが非常に評判を呼び,デスクワークや長距離の運転のときにも良いということで,一般の方にも広がっていきました。

御社の今後のビジョンはどのようなものでしょうか。

西川さん 次のビジョンとしては,医療コスト削減への貢献ですね。良質な睡眠によって疾病の率を下げたいと考えています。いま国内では睡眠に悩みをもつ人が3人に2人いると言われています。しかしどのように改善をしていったら良いのかを知らないという方がほとんどです。我々が力を入れている睡眠のコンサルティングは,病院に行く一歩手前の場所として,お客様のお悩みを聞き,一人ひとりに合わせたアドバイスを行う“相談所”としての役割を担っています。病気になった後で治療するのではなく,病気になるのを予防することで,最終的には医療コストを下げることに役立つだろうと思っています。「ねむり」の相談所が皆様の身近な存在になるためには,地域に根差した取り組みが必須となります。具体的には,地元の寝具専門店さんで,ボランタリーチェーンというものを構築しています。当社から,店頭の見え方の工夫やお客様が入りやすいような改装プランのご提案,販促活動の支援などを行っています。次世代の人も,長くお店を続けられるようなお手伝いをしています。

御社の歴史は非常に古いですが,独自の理念みたいなものはありますか。

西川さん もう200年以上も前,景気が悪かった時に,7代目の利助という当主が,「三ツ割銀」という制度を考えました。収益状況を従業員全員に見せて,利益を3つに分けましょうと。1つは,将来のための内部留保,1つは保険としての積立,残りの1つは従業員に配分しましょうというものです。これが日本のボーナス制度の元になっていると言われています。そのため当社では,通常のボーナス夏冬の他に,決算期にも利益状況に応じて,士気を高めてもらうため従業員に利益を配分しています。また,もともと近江には,三方良し「売り手良し,買い手良し,世間良し」の考えがあり,当社も「誠実・親切・共栄」が社是(* 経営上の方針)になっています。さらに,1807年の当社の「定(店則)」には,必ず法令を守るようにということや,商品を1つ1つ吟味して暴利を取らないようにということが書いてあったりして,それが今で言うCSRやコンプライアンスに繋がっています。

御社は200年以上前からコンプライアンスを意識されていたということですが,現代で弁護士に期待することは何ですか。

西川さん 法律問題というと,あまり良くない状況のときに弁護士にお願いするというイメージがありますが,私はもっと弁護士の方に普段から常に寄り添っていただき,いつかトラブルが起きたときの考え方等について,もっともっと普段からコミュニケーションを取れるようになると,より良いのかなと思います。大変なトラブルがあってからお世話になるのではなくて,かかりつけ医のような,普段から「どうですか」とか「心配なことはありますか」という形です。

今は弁護士もそういう意識を持っているところだと思います。是非今後は,普段から継続的にお付き合いいただければと思います。本日はありがとうございました。

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