関東弁護士会連合会は,関東甲信越の各県と静岡県にある13の弁護士会によって構成されている連合体です。

「関弁連がゆく」(「わたしと司法」改め)

従前「わたしと司法」と題しインタビュー記事を掲載しておりましたが,このたび司法の枠にとらわれず,様々な分野で活躍される方の人となり,お考え等を伺うために,会報広報委員会が色々な場所へ出向くという新企画「関弁連がゆく」を始めることとなりました。

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株式会社時事通信社 代表取締役社長
大室 真生さん

とき
平成30年10月
ところ
株式会社時事通信社本社(東京都中央区銀座)
インタビュアー
会報広報委員会委員 井本大輔
        同 小南あかり

 日本に報道機関はたくさんありますが,「通信社」は二つしかありません。今回は,そのうちの一つである時事通信社の代表取締役社長であり,政治部の記者のご経験もある大室真生さんに,「通信社」の役割,取材の大原則,実名報道についてのお考えなどをお話しいただきました。なかでも「ソ連崩壊」時の体験談はとっても興味深いお話ですよ!

御社の歴史,設立の経緯を教えてください。

大室さん 時事通信社の創立は1945年です。国策通信社だった社団法人同盟通信社が解散し,主に新聞社向けのニュース報道にあたる社団法人共同通信社と,経済ニュースと出版に携わる株式会社時事通信社に分かれて誕生しました。当初は互いに侵食しないという協定書を結んでいましたが,その後徐々に互いの分野に乗り出して競争関係になりました。創立の経緯もあって,経済分野は力を入れています。

取材で得た情報は,どのようなかたちで新聞社などに提供されるのでしょうか。

大室さん 通信社はニュースの卸売りとも言われています。新聞社や放送局とのニュースの配信契約に基づいて,記事や写真をパッケージでお届けし,新聞社等の方々が紙面の都合やニュースの時間を考慮して必要なものをピックアップするというのが基本です。また,配信の際は,参考として当社が重要と判断する記事の見出しに星のマーク(★)を付けています。他に,特定の地域だけのイベントなどは,注文を頂いてから取材をして記事をお届けするということもあります。

取材した情報を御社で独自に発信するツールはありますか。

大室さん 当社のサイト「JIJI.COM」(https://www.jiji.com/)を立ち上げて,そこで一般の方がニュースを直接読めるようにしています。その他,金融関係のお客様とか行政機関,地方自治体向けのニュースサービスもやっております。

御社の記事は,「JIJI.COM」での発信が最速なのですか。

大室さん いいえ。「JIJI.COM」は無料サイトですから,有料で契約していただいている新聞社や放送局に先に配信するのが原則です。

取材拠点はどのぐらいありますか。

大室さん 国内は東京の本社以外に全部で77か所の拠点があります。海外は今現在,27か所です。アメリカなどは1国で複数の拠点があります。また,記者は全体で500人ぐらいです。

大室さんも記者のご経験がおありでしょうか。

大室さん 私は政治部の記者でした。4年半ぐらい,1990年の暮れから,95年の春までモスクワに特派員として赴任していました。ちょうどソ連が崩壊したとき,91年のクーデター事件を現地で取材しました。記者は,自分の目で歴史が動くのを見られるという醍醐味のある仕事でもあります。

ソ連の崩壊時に何か印象深い出来事はありますか。

大室さん クーデター事件は3日間ぐらい続いて,最初は保守派が当時のゴルバチョフ大統領を幽閉して始まったんですが,民主派改革派対保守派の闘争になって,最後は民主派改革派,のちのエリツィン大統領側が勝利して,赤の広場で勝利集会が開かれたんです。その時に私は取材に行っていたんだけれども,思わず赤の広場で「エリツィン!エリツィン!」と民衆と一緒に声をあげてしまいました。旧体制を打倒したんだ,自分達の世の中になったんだ,という空気がみなぎっていました。

身の危険は感じなかったですか。

大室さん クーデター事件が起きたときに,ある通りからモスクワ市内に戦車部隊が向かっているという情報があったので,車を運転してそっちに行ったんですよ。モスクワ市内から10キロぐらい離れたところで,向うからゴォーっと戦車の部隊が来るのが見えたので,戦車の横に並んで,戦車の上から顔を出している若い兵隊さんに「どこに行くんだ」「何しに行くんだ」と聞きました。でも「何も知らない,命令されたから行くだけだ」という答えだけです。当時車に積んでいた大きな携帯電話で支局に電話して「戦車部隊がモスクワ市内に向かっている」と,我々の専門用語で「フラッシュ」という速報を打ちました。当時はモスクワ市内に新聞社とか通信社の支局が置ける建物が指定されていて,支局も家族の住まいも同じところにあったんですけど,その建物の横にも戦車が横付けされて緊張しました。当時ホワイトハウスといわれていたロシア最高会議の建物に戦車が集結していたんですが,その戦車の上にエリツィンが立って演説したんですよね。それをよく見られる場所を確保したいと思って,近くの建物の6階に住んでいる人に「お宅に入らせてくれないか」と言ったら,「どうぞ入ってください」と。ベランダから改革派が集まって戦車を取り囲んでいる様子が全部見えるすごくいい場所でした。でもベランダに出ると,住民から「危ないから気をつけろ,建物にスナイパーがいるかもしれない」と言われました。その家には迷彩色のガスマスクとかあって,日本とはずいぶん違うなと思いました。

現場で取材をして,記事を書く,編集する,という過程はおひとりでされるのですか。

大室さん 取材部門によって異なると思います。自分で取材して自分で記事を書くのが基本ですけども,チームで取材することもあります。書いた記事はキャップとかサブキャップとか,先輩格の記者に見せて直してもらい,デスクがさらにチェックしたうえで,整理部の関門を通って,初めて記事として配信されます。

情報を得てから実際に記事として配信されるまでの時間はどのくらいでしょうか。

大室さん 通信社は時間がかかってはいけないので,「○○大臣が辞任を表明した」といった大きなニュースの場合は,フラッシュ(速報)という形でまず出します。それはもう数秒かけずに,把握した時点ですぐに電話をかけて送ります。その次に5行ぐらいの短い一報の原稿を送ります。それもフラッシュを打った電話を切らないで,数分のうちにそのまま吹き込むなどしていきます。最終的に新聞に載せられるような長い原稿になるのは,数十分とか1時間ちょっとかかる場合もあります。新聞社は締め切りまでにいい原稿を書き上げることに力を入れるのが基本だと思いますが,通信社は知ったらじゃんじゃん書いてすぐ流すのが基本ですね。後から新たに分かった事実を書き加えて記事を差し替えていくという作業になります。

弁護士にとって事実の裏付けは時間のかかる作業ですが,スピードが大事な報道機関の方は情報の正確さをどのようにして確認するのですか。

大室さん スピードが大事ですけれども,正確でないと全く意味がない。先ほどの「〇〇大臣が辞任を表明した」というような間違えようのない明白なケースでなければ,充分な裏付けを取ってからでないと,速報も打てないし,記事も流せない。正確でないニュースはご迷惑をおかけすることになるので,複数のソースに当たって間違いないことを確認します。

記者さんの七つ道具みたいなものはありますか。

大室さん 取材するときには,従来からペンと取材ノートが必須です。これらは会社から支給されます。今はスマホ,ノートパソコンも必須アイテムだと思います。スマホは,フラッシュを音声で伝える他に,撮影,録音,録画,Web・SNSの閲覧など,いろんな用途で使います。スマホだけでなくICレコーダーとかデジカメを持っている人も多いと思います。

取材において大原則となるルールはありますか。

大室さん 一番大事なのは,取材源の秘匿です。「これは誰々から教えてもらったんだ」とペラペラしゃべったら,二度と教えて貰えなくなると思います。

それは社内でも秘密なんですか。

大室さん 私は基本的には上司にも報告しませんでした。上司から「教えろ」と言われたこともないですね。ケースバイケースという面もなくはないけど,ニュースソースを守るというのは大事なことで,仮に上司に報告した結果相手に迷惑がかかったら最悪なので。基本的に大事な情報は対面で聞く場合が多いですから,それが漏れると「あいつがしゃべったな」とわかってしまいます。

社内でもニュースソースが秘密となると,「それは本当の情報か」となりませんか。

大室さん それでもどうしても喋りたくない時は喋らないで通します。それはもう信頼関係ですね。取材先との信頼関係,上司との信頼関係。情報源を守らなければいけないときは徹底して守ります。

話を聞くのに信頼関係が基本であるというのは弁護士と同じですね。取材の仕方として規範のようなものはあるのでしょうか。

大室さん 記者行動規範というものを定めて,入社時や研修で確認しています。取材源の秘匿やインサイダー取引をしてはいけないというような倫理的な規範が十数項目あります。

記者さんにはどのような性格の方が多いのでしょう。

大室さん 千差万別だと思います。気の短い人も長い人も両方いると思いますし。大事な性格は,野次馬根性だと私は思います。何でも覗いてみたい,知りたい,何か隠していると見たくなる好奇心とか,それは大切だと思います。

報道については,実名報道に関して様々な議論がありますが,法律の規制がない場合でも実名報道を避けるというケースもありますか。

大室さん 実名報道が原則です。「Aさんが○○した」だと事実を伝える力が弱くなってしまいます。5W1H,記事を書く上でいずれも大事な要素ですが,「誰がどうした」というのは一番大事な要素なので,「誰が」という部分を曖昧にする匿名報道は基本的にしません。実名でお伝えすることがその事件の重大さとか大切さを分かっていただくためには必要だというのが,当社の考えでもあるし,報道機関全般にとっての考えだと思います。ここは弁護士さんたちとちょっと見解が分かれるかもしれませんね。ただ,報道による二次被害やプライバシーの問題を考慮する場合があります。被害者や加害者,またその家族の問題などは議論が続いている状況ですよね。現場では日々悩みながら,真剣に議論しながら,どうしようか判断をしているところで,大きな課題だと思います。近頃は捜査機関が実名発表しないケースがありますが,私たち通信社や新聞社は「実名発表してください,実名で報道すべきかどうかは報道機関が判断させていただきます」と求めるのが基本的な立場です。

御社の理念や今後のビジョンを教えてください。

大室さん 理念としては,6月に策定した中期計画で「1.私たちは,信頼される報道機関であり続ける。2.私たちは,プロのニーズに応える専門ニュース,情報ソリューションの提供を通じて,社会に貢献する。」ということを書きました。フェイクを含めいろんな情報が溢れているなかで,報道機関としては,信頼される情報を集めて世の中に提供し,判断材料にしていただくことが大事だと思っています。また,一般の新聞社などと違う専門サービスもしていますので,企業や自治体からの情報発信,イベント開催など様々なニーズに応えたいと思っています。今後のビジョンは理念の延長線上にあるわけですけれど,皆さんの日々の生活,経済活動,選挙で投票するなど,あらゆる状況のなかで判断をするためには情報・知識が必要だと思います。そこに報道のプロとして確かな情報を集めてお届けするというのが基本だと思います。また,当社のモットーに,「世界の動きを日本へ,日本の声を世界へ」というのがあります。世界に向けての情報発信に今後一層力を入れていきたいと考えています。あと社内で私が強調しているのは,中立公正で偏らない報道に徹することです。

最後に,弁護士に期待することがありましたら是非教えてください。

大室さん 公正な社会をつくりたいということでは,弁護士も報道機関も同じところがあると思います。守秘義務の問題とか色々あると思いますけども,是非同じ方向に向かって協力できるところはお互いに協力してやっていけたらと思います。

貴重なお話をありがとうございました。

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