第2章 犯罪被害者の置かれている実状

第1節 犯罪被害者アンケートの実施について
1.アンケートの目的

 犯罪被害者の実状を全般的に把握することは困難が多い。犯罪被害者は、捜査機関に対して被害申告することが多いものの、被害を申告しない「暗数」も多いと言われているとともに、捜査機関において完全にフォローされているわけではないし、また、フォローする公式な機関があるわけでもない。従って、犯罪被害者が被害を受けた後、どのような状況になっているのかを的確に把握している組織などがあるわけではない。

  このような犯罪被害者の全般的な状況について、わが国で初めて大規模な調査を行ったのが、1992年から3年余の時間をかけて「犯罪被害者実態調査研究会」が行った実態調査であり、その調査の成果は、1995年に「犯罪被害者の研究」(宮澤浩一ほか編・成文堂)としてまとめられている。この優れた調査の後には、警察庁が交通事故の被害者を対象として行った調査報告、そして、法務総合研究所が行った調査(平成11年版犯罪白書)などが報告されている。また、四国弁護士会連合会においては、犯罪被害者の相談にのった同連合会管内の弁護士を対象にして、アンケートを行っている。

 私たちは、犯罪被害者問題を、関東弁護士会連合会の平成12年度のシンポジウムのテーマとして取り上げる際に、近時の犯罪被害者問題に対する社会的関心の高まり、いろいろな取り組みが行われ始めている時期などから考え、既に行われた調査だけを元にするのではなく、改めて現在の状況を踏まえた形で、直接犯罪被害者の方々へのアンケートを行って、実状調査をする必要性を感じ、実施することとした。

2.アンケートの実施方法

 アンケートの実施については、次のような方法で行った。
 シンポジウム実行委員においてアンケート項目を検討し確定した。この際、アンケートの分量の関係から、犯罪として一般的な質問項目のみとし、性犯罪や少年犯罪など、一定の犯罪類型に対する質問項目は設けないこととした。  

  調査対象者については、@シンポジウム実行委員各自が関係している犯罪被害者、A犯罪被害者が組織している団体(犯罪被害者の会、地下鉄サリン被害者の会、交通事故遺族の会)関係者、B犯罪被害者を支援する団体(東京医科歯科大学犯罪被害者相談室、被害者支援都民センター、みずら)関係者である。それぞれの団体については、調査対象者の選定については、団体にお任せすることとした。

 アンケートは、それぞれの弁護士あるいは団体から郵送などで犯罪被害者の方々へお送りしていただくこととし、無記名で、関弁連事務局(ないし関係団体)へ郵送して回答していただくこととした。

 その結果、全体として、842通のアンケートを送付した。回収されたアンケートは、234通(一般70通・交通事故164通)であり、約27パーセントの回収率であった。
 アンケートの結果集計については、資料編に載せておいた。集計にあたり、交通事故関係は特徴があったので別に集計もした。

3.アンケートの限界と問題点

 具体的にアンケート調査を行って行くにつれて、いくつかの限界を感じざるを得 なかった。特に、被害者団体や支援団体の方々からは、様々なおしかりや問題点の指摘を受け、考えさせられた点が多かった。本アンケート調査自体では、これ以上の改善をすることは技術的に難しかったが、今後同様の調査等を行う際には、参考となると思われるので、指摘しておきたい。

 第1に、アンケートなどに答えることのできる犯罪被害者は、相当程度に精神的苦痛から回復している人たちであるという指摘である。これは、関係団体に協力をお願いしている際に、ほとんどの団体からご指摘を受けた。いろいろな調査に対して回答できるということは、それなりに客観的に物事を見ることができる余裕のようなものが必要であり、犯罪被害を受けた直後で精神的な混乱が続いている被害者には、回答は難しいというのである。   

 第2に、本アンケートは、極めて長く、選択ではなく記述の部分が多かった。こ れは、第1点の指摘とも相まって、回答することが極めて難しいのである。このような詳細な調査を行うのであれば、面接調査の形式をとらなければ回答できる人は相当限られてしまうのではないかとの指摘もあり、考えさせれる点が多かった。

 第3に、本アンケート調査の方法が前述のとおり、弁護士関係者や被害者団体・被害者支援団体を軸にして調査対象者を選定したため、被害者側の弁護士と接点がある犯罪被害者が圧倒的に多くなってしまったこと、しかも、被害者側の弁護士との関係が良好な方々が多くなってしまったということである。この点においては、調査結果の読み方について、かなり限定的に解釈する必要がある。

 第4に、調査対象者が、交通事故の関係者や地下鉄サリン事件の被害者、さらには弁護士関係者が圧倒的に多いことから、経済的被害回復についてもそれなりに行われているということである。おそらく、本調査結果は、一般的な被害者よりも何らかの経済的回復がなされているということになるだろうと思われる。