| 第3節 刑事手続における犯罪被害者の現状 |
|
1.捜査段階での問題点 (1)犯罪捜査を行うに当たり、何人の人権も尊重しなければならないことは当然であるが、犯罪被害により精神的打撃を受けている被害者への対応には特別な配慮が必要である。犯罪者等事件関係者のプライバシーの保護に関しては、刑訴法 196条「名誉を侵害しないよう注意しなければならない」と規定され、旧犯罪捜査規範第9条でも「名誉を害することがないように努めなければならない」と規定されていた。 しかし、捜査の現場においては、捜査の必要性を優先して捜査機関は被害者に対し、充分な配慮を欠いていた。それは捜査機関への不満としてアンケート結果にも表れている。そこで、1999年に犯罪捜査規範第9条は「名誉又は信用を害することがないように注意しなければならない」と改正され、捜査段階における被害者への配慮がなされた。 (2)まず、犯罪被害者が捜査機関に対し被害届を出すことによって、捜査機関は、犯罪を認知し捜査を開始する手がかりを与えられる。即ち、被害者の被害届は捜査の端緒となる。更に、犯罪被害者が、単に、被害届を出すにとどまらず犯罪事実を申告して、犯人の訴追・処罰を求める意思表示を行うと、これは告訴(刑訴法第230条)となり、捜査の端緒となるばかりか、親告罪では訴訟条件であり、告訴が欠けると公訴提起は無効で手続が打ち切られることとなる(同法第338条4号)。 司法警察員は、告訴を受理後速やかに事件を送検する義務を負い(同法第242条)、検察官も、事件処理の結果を告訴人に通知し、不起訴処分の場合には請求により、その理由を告知する義務を負う(同法第260条・261条)。 (3)ところで、従前は、親告罪の告訴は、「犯人を知った日から六箇月を経過したとき」はすることができないとされていた(同法第235条1項)。それ故、このような状況の中で、被害者は告訴するか否か(そして、それを維持するか否か)という決断を迫られるため、特に性犯罪被害者については、告訴期間の短さが問題視されていた。なぜなら、性犯罪被害者が短期間では精神的な衝撃から立ち直れない場合や犯人と被害者とが特別な関係にあるため短期間では告訴することが困難な場合も少なくないからである。 もともと、親告罪の告訴期間を限定した趣旨は、国家刑罰権発動の可否を私人である告訴権者の意思にかからせたまま、必要以上に長い期間放置しておくのは適当でないと考えられたからである。非親告罪では告訴期間の制限がなく、公訴時効の完成まで公訴提起が許される。これに対し、親告罪では、公訴権の適正行使の要請という被害者保護とは関係のない理由で、公訴時効期間よりもはるかに短い告訴期間の経過により、以後犯人を訴追・処罰する機会が完全に閉ざされてしまうこととなる。これでは、強姦罪などを親告罪とした制度趣旨(犯人の処罰という国家利益を犠牲にしても告訴権者の意思を尊重してその名誉などの利益を保護する)を超えて、犯人を不当に利する結果を招いているといえる。 そこで、被害者の被害後の混乱した精神状態から脱し、その後起こるべき事態をよく知った上で告訴するか否かの判断をすることができる時間的余裕を性犯罪 被害者に与えるべきであるとの視点から、2000年に性犯罪に限ってではある が、告訴期間を撤廃する旨法改正がなされた。 なお、特に性犯罪被害者の場合、PTSD(心的外傷後ストレス障害)など精神的なケアが必要となることから、告訴に先立つ被害者のためのカウンセリングや捜査機関による事件・手続関係情報の提供、法律専門家による助言等の制度改革も検討されるべきものと思われる。 (4)また、捜査段階において、犯罪被害者は、重要参考人として取調(事情聴取)の対象とされ(同法第223条)、その供述を録取した調書には、一定の要件の下に伝聞法則の例外として証拠能力が附与される(同法第321条以下)。被害者の供述は、犯行の客観的経過・状況の把握、犯人と被害者・被告人との同一性判断にとって重要な役割を演ずる。従って、事案の真相解明のために被害者の取調は必要であるが、他方で、取調により被害者の名誉・プライバシーが侵害され二次被害が生ずることもありうる(特に性犯罪被害者の場合)ので、できる限り被害者の人権を保護しその苦痛を軽減することが要請される。 このことは、法廷での証言の場合も同様であるが、とりわけ被害を受けて間もない捜査段階での取調に際して、被害者の人間としての尊厳を認識し人格尊重・プライバシー擁護に努めることは、警察・検察への信頼確保にも直接つながるものとなる。我が国の捜査(取調)が精密さを追及するあまり、必要以上に詳細な供述を求めている傾向は否定できない。 そこで、具体的な方法としては、被害者の心情に配慮して取調方法(取調場所・時期・時間・回数)を工夫したり、取調事実の秘匿について配慮することなどが求められる。警察の取調による二次被害の具体的内容として「呼び出し回数が多い」「しつこく聞かれた」などがあり、警察の綿密な捜査が被害者の負担となっている。従って、無駄のない重複を避けた取調、不必要なことを聞かない取調べが取調官に期待されることになるのである。 また、被害者は重要な証人として証人尋問の対象とされる(同法第226条、227条)。「犯罪の捜査に欠くことのできない知識を有すると明らかに認められる」者が参考人取調に応じない場合や、参考人が圧迫を受け公判期日には寝返り供述をするおそれがあり、かつ、その者の供述が犯罪の証明に欠くことができないと認められる場合に、検察官が、裁判官にその者の起訴前の証人尋問を請求する捜査手続である。これにより得られた供述調書は伝聞法則の例外として証拠能力が認められる(同法第321条1項1号)ので、被害者にとっては参考人取調以上に供述しにくい面があるので、相当の注意が必要とされる。 2.公訴提起段階での問題点 (1)現行法は、公訴提起をするかどうかの判断を検察官の専権事項とする国家訴追主義・起訴独占主義を採っており(刑訴法第247条)、訴追に犯罪被害者の関与を原則として否定し、また、附帯私訴の制度も認められていない。それ故、仮に、被害者が訴追・処罰を望んでいたとしても、不起訴処分とされることがある。 これに対する抑制手段として、検察審査会の制度が設けられている。しかし、その「起訴相当・不起訴不当」とする議決に拘束力が認められておらず実効性は乏しい。立法論として、議決に拘束力を認めるべきことが検討されるべきである。 また、職権濫用罪については、告訴人には、付審判請求権が認められている。この付審判請求については、裁判所が請求に理由ありと判断すれば、前に見た検察審査会の決議とは異なり、直ちに公訴の提起があったことになる。これは、一種の起訴強制である。この場合には、告訴人の請求は、強力な権利を内包しているといえる。とはいえ、秘密審理のために請求人たる告訴人がその審理の内容に立ち入ることができないことや、仮に付審判決定があっても、その後の手続において検察官役を果たすことになる弁護士が必ずしもそれまでの手続に関与した弁護士ではないことなど、制度的な問題があり、せっかくの制度の活用が十分ではない。付審判請求の段階で請求人の代理人を努めた弁護士は審判開始後の検察官役弁護士の立場を引き継ぐ、など前に見た私人訴追の観点から見直すことが必要である。 なお、2000年には、検察審査会法の改正がなされ、被害者が死亡した場合におけるその配偶者、直系の親族又は兄弟姉妹は、検察官の不起訴処分に不服があるときは、検察審査会にその処分の当否の審査の申立をし、また、申立人は、意見書や資料を検察審査会に提出することができることとした。これは、不十分ながら、被害者の遺族などの処罰感情に配慮したものといえよう。 (2)これに対して、起訴された場合には、犯罪被害者との関係は絶たれる。起訴については、被害者の意思に反することはないと考えられているのかもしれないが、必ずしも被害者が常に加害者の訴追・処罰を望むとは限らない。しかし、被害者の意思に反した訴追が行われたとしても、被害者がこの訴追に異議をはさむことは、現在の制度ではできない。被害者の意思は、せいぜい情状として汲み上げられる可能性があるだけである。それも、あくまでも事実上そうしたことがありう るというだけであって、制度的に必ずそうしなければならないというものとされ ている訳ではない。 なお、略式裁判については、一般に刑が軽く、被害者の不満が多いことがアンケート結果に現れている。略式裁判についても、被害者に何らかの関与の機会を与えるべきではないか。 (3)このように、起訴(公訴提起)という段階では、犯罪被害者の意思はほとんど反映されていない。これは、前に見たように、国家訴追主義・起訴独占主義(同法第247条)の論理的帰結といいうるが、犯罪被害者の処罰感情への配慮が必要であると考えられる。被害者の処罰感情への配慮がなければ、刑事司法手続に対する不信感がぬぐえず、被害者の保護という視点から検討の必要がある。 3.公判段階での問題点 (1)前に見たように、被害者はその犯罪事件の直接の当事者として、事実関係を最もよく知る関係者であるから、公判段階で証人として尋問される(刑訴法第143条以下)ことになることが多い。にもかかわらず、現行法(改正前)は、被害者の権利や自由に関する特別な配慮を払っていない。 1958年に証人威迫罪(刑法105条の2)や証人尋問中の被告人退廷規定(刑訴法第281条の2、304条の2)などわずかな被害者保護のための規定が盛り込まれたにすぎず、他の規定の解釈・運用で、被害者の権利や自由に配慮が払われていたにすぎない。 この公判段階における被害者保護の態様は、@被害者証人の尋問それ自体における保護策と、A被害者が証人になることに伴う保護策とに大別することができる。 (2)被害者の証人尋問それ自体における保護については、被害者が証人として尋問されることとの関係で、被害者のプライバシーなどをどのように保護するかの問題である。 捜査段階で供述調書が作成された場合でも、被告人が証拠とすることに同意せず公判での証人尋問が決定された場合には、証人は、出頭・宣誓・供述義務を負い(同法第150条以下)、被告人側関係者も傍聴する公開法廷において、被告人・弁護人の面前で供述し、反対尋問に晒される(これらの点が起訴前の証人尋問の場合と大きく異なる。むろん、検察官や裁判官からの尋問にも答えなければならず、これは被害者が証人の場合も同様である。被害者としてのプライバシーなどを理由にした証言拒否権はない)。 しかし、証人は、発言の主体ではなく尋問の客体である(一証拠方法にすぎない)から、検察官などから質問されない限りなかなか自分の気持を表現する発言ができないばかりか、思い出したくないこと、自尊心や人間の尊厳を損なうことも供述しなければならず、そのことにより羞恥心や屈辱感、報復に対する畏怖心などのため、被害者が泣き伏したり明確な供述を渋るということも少なくない。 このことは、年少被害者や性犯罪被害者(「とくに傷つきやすい証人」)、暴力団関係者による恐喝の被害者(「危険に晒されている証人」)に顕著である。したがって、真実発見の要請や被告人の反対尋問権の保障だけでなく、二次被害やお礼参り(被害者が被告人に不利な証言をした場合に、後に被告人やその関係者が被害者やその親族に加える報復)のおそれを防止・最小限化するよう被害者保護にも十分配慮し、その間の妥当な調和点を見出さなければならない。 現行法の関係規定によれば、@証人が、「被告人の面前においては圧迫を受け充分な供述をすることができない」ときは、弁護人の在廷を条件に、検察官・弁護人の意見を聴き、その証人の供述中被告人を退廷させることができる(但し、証言後、被告人に反対尋問の機会を与えなければならない。同法第304条の2、281条の2)。また、A「特定の傍聴人の面前で充分な供述をすることができない」ときは、その傍聴人を退廷させることができる(刑訴規第202条)。 さらに、B裁判の公開は憲法上の原則である(憲法第82条1項)が、「裁判所が、裁判官の全員一致で、公の秩序又は善良の風俗を害する虞があると決した」ときは、対審(公判審理)を非公開とすることができる(憲法第82条2項前段)ので、強姦事件で具体的被害状況についての供述を求める際には公開を停止する(傍聴人を退廷させる)ことが可能である。しかし、これによっても証言全体が非公開とされるわけではなく、なお証言が不能ないし著しく困難な場合のあることは否定できない。 そのほか、C訴訟関係人の不相当な尋問を制限する裁判長の訴訟指揮権の規定(刑訴法第294条、295条)と、証人尋問の方法に関する規定(刑訴規第 199条の6ただし書、199条の13第2項1号)があり、被害者を不当な尋問から保護することが期待される。しかし、それ故に被告人の防御権を不当に侵害してはならない。 また、結局は公判廷で尋問が行われるので、被害者が法廷そのものの雰囲気とそこで被害状況の供述を強いられる屈辱感・精神的苦痛から十分な供述ができないという事情も、無視することはできない。 更に、刑事訴訟法は、D裁判所は、諸般の事情を考慮した上で必要と認めるときは、公判期日外に非公開の証人尋問を実施することができると規定する。これには、裁判所外での尋問(刑訴法第158条)と期日外での尋問(同第281条)がある。 たしかに、公判期日外の証人尋問によることができれば被害者証人にとっても有効な保護策となりうる。しかし、被害者証人保護のため公判期日外の証人尋問権の保障や公判手続の基本原則(公開主義、公判中心主義、直接主義・口頭主義など)との関係で慎重に検討されなければならない。 ここで見た刑事訴訟法の諸規定(起訴前の証人尋問規定も含む)は、その主眼が証言の確保自体(すなわち、検察官の立証の便宜)にむけられており、証人の不安解消・軽減を直接目指すものではないという点に留意しなければならない。 (3)次に、犯罪被害者が証人になることに伴う保護策としては、具体的には、証人として出頭・退去することに伴う不安などの解消や、証言したことによる日常生活に対する威迫・嫌がらせへの対処、公判廷外の日常生活における身辺警護にまで及んでいる(この問題が顕在化する典型例は、暴力団事件の被害者に証言させることでお礼参りのおそれが生ずる場合である)。これが、被害者証人にとって苦痛となり第二次被害を招く危険性は明らかであるといえる。 これについては、現行法上若干の被害者保護制度がある。すなわち、@被告人の保釈にあたって、被告人が被害者やその親族の身体もしくは財産に害を加えまたはこれらの者を畏怖させる行為をすると疑うに足りる相当な理由があるときは、保釈を認めず、あるいは、保釈を取り消すことができる(同法第89条5号、96条1項4号)。お礼参りや謝罪と称しての寛刑嘆願の強要を防止するためである。 A被告人やその身辺の者が被害者などに対し当該事件に関して面会を強請または強談威迫の行為をしたときは、証人威迫罪(刑法第105条の2)が成立する。B被害者が刑事事件の証人または参考人として捜査機関や裁判所に対し供述したため本人やその近親者が生命・身体に害を加えられたときは、国から療養その他の給付がなされる(証人等の被害についての給付に関する法律)。 しかし、これらの規定では、被害者保護という目的からすれば十分とはいえな い。すなわち、ABは不幸にして実害が発生してしまった後の対処であり、また、@も組織的犯罪の場合に、被告人以外の組織構成員による加害のおそれには、無力といえる。 そこで、1999年に証人保護を目的とする改正がなされた。すなわち、まず@刑事訴訟法295条の2項に、裁判長の指揮権行使の一環として、証人やその親族の「身体若しくは財産に害を加え又はこれらの者を畏怖させ若しくは困惑させる行為がなされるおそれ」があって証人が十分な供述をすることができないと認められるときは、これらの者の住居・勤務先その他通常所在する場所が特定される事項について、犯罪の証明や被告人の防御権行使に重大な支障を来すおそれのある場合を除いて、その尋問を制限できる旨の規定を置いた。 更に、A刑事訴訟法第299条の2として、加害行為などのおそれが認められるときは、犯罪の証明や被告人の防御に必要な場合を除き、証人らの住居などが特定される事項が被告人等関係者に知られないよう相手方に配慮を求めることができる旨の規定が付加された。 これらの規定は、いずれも証人保護のため開示制限されるのは証人の住居などに限り、氏名不開示(ないし身元の秘匿)まで認めておらず、組織的犯罪における法人の保護に必要・有効なものとなるかについてなお検討が必要となる。 更に、2000年にも、証人が公判廷で十分に証言できるよう刑事訴訟法が改正された。すなわち、まず@証人尋問の際に、証人が著しく不安又は緊張を覚えるおそれがあると認められるときは、適当な者を付き添わせることができることとし(同法第157条の2)、またA証人尋問のときに、証人と被告人・傍聴人との間で相手の状態を認識することができないようにするための措置を採ることができることとした(同法第157条の3)。 加えて、B強姦罪などの被害者などを証人尋問する場合において、訴訟関係人が在席する場所以外の場所に証人を在席させ、映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話する方法で尋問するという、いわゆるビデオリンク方式による証人尋問・その状況を記録した媒体の取調べ(同法第157条の4)である。これらの規定は、証人一般に関するものであって、犯罪被害者を特別扱いするものではない。 (4)被害者の意見陳述権(同法第292条の2第1項) 従来、被害者は法廷において意見を陳述する権利が認められなかったが、2000年の法改正で犯罪被害者などは、被害に関する心情その他の被告事件に関する意見を陳述できる(同法第292条の2第1項)こととされた。 その趣旨は、犯罪被害者は犯罪によって被害を受けた当の本人であり、被害者が望む場合はその特殊な地位にあることに鑑み、犯罪被害者に法廷における意見を表明する機会を与えることが必要であると考えたからである。被害者の意見陳述により今後の裁判の運用が変わるかは現段階においては不明であるが、裁判において被害者の意見が十分に反映されたものになることが期待される。 (5)2000年には、この他に、「犯罪被害者等の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律」が制定された。この法律により、被害者などは、公判手続を優先的に傍聴でき(同法第2条)、また、公判記録の閲覧・謄写することができる(同法第3条)から、その被害にかかる刑事事件の審理の状況などについて情報を得ることが容易になった。 犯罪被害者は、その被害にかかる刑事事件の審理の状況などに深い関心を有するとともに、その被害回復には困難が伴うことから、被害者等の心情を尊重し、その被害回復に資するための措置として情報提供(受領)の制度が設けられたのである。 4.法廷傍聴 アンケートによると、実際に加害者の刑事裁判の公判を傍聴した犯罪被害者は約45パーセントであり、傍聴できなかった人のうち約半数は加害者が刑事公判にならなかった人であることを考えると、実際に刑事裁判が行われた人のうち約7割が傍聴をしていたことになる。 現実に傍聴した人については、約8割が不満を持っており、その理由は「被告人が嘘を言っている」「被害者に落ち度があるかのような主張をされた」「何の手続をしているかよくわからなかった」の順に多かった。 更に、犯罪被害者保護立法による傍聴への配慮の制度を利用したいと回答している人が全体の約6割存在していることなどを考えると、非常に多くの犯罪被害者が刑事裁判の傍聴を望んでいることがわかる。 これまでは、犯罪被害者は、自ら刑事裁判の日程を調べ、傍聴に出向いていた。これに対し、警察・検察の連絡・通知制度が行われるようになり、刑事裁判などの日程を容易に知ることができるようになった。そして、傍聴への配慮という制度が法定されたために、犯罪被害者本人に対しては優先的に傍聴できるようになった訳である。 このように傍聴制度については一定の改善がなされたが、まだ不十分な点もある。 第1点は、被害者に対する付添あるいは代理人の優先傍聴が認められなかった点である。被害者は刑事裁判の内容は知りたいが、自分自身は都合がつかなかったり、不安であったりする者もいる。公判廷で行われる内容を理解するために、あるいはきちんと内容を知るために付添人や代理人にも一定の範囲で優先傍聴を認めてもよいのではないかと思われる。 第2点は、起訴状・冒頭陳述書・論告などの訴訟資料中マスコミなどに公表されるものについて、被害者に対しても配布されてもよいのではないかという点である。ただ単に傍聴していればよいと言うことのでなく、実質的に裁判を理解するために、訴訟資料のうち一定範囲については、被害者にも配布されてしかるべきではないかと思われる。また、同様の趣旨から、裁判官・検察官・弁護人らの訴訟関係者の声を傍聴人に聞こえるようにしてほしいとの要望があったことを付言しておく。 第3点としては、傍聴券が発行されるような社会的注目を浴びる事件であって被害者の数が多い場合に、どのように「優先傍聴」が機能する事になるのかということである。そのような場合、傍聴席の多数をマスコミなどが占め、犯罪被害者が一定数占めることになると、一般傍聴者の傍聴ができなくなる。この間の調整はきちんとされなければならないし、一方では別室での法廷傍聴など、傍聴者の数を増やすための裁判所の工夫も検討されなければならない。 5.犯罪被害者に対する情報提供 (1)情報提供の必要性 犯罪による被害者やその遺族には、早く事件を忘れたいという気持もあるが、 逆に事件について知りたいという強い欲求もある。被害に遭い精神的に困惑した状態にある被害者やその遺族が、事件の全容や真相を知ることにより、立ち直りへ向かうこともありうる。したがって、それを望む被害者に対し犯罪直後から必要な情報を提供することは、精神的被害の回復・軽減に資することが十分に期待できる。 また、被害者が蒙った財産的・経済的被害を回復するために、被害者やその遺族に対し、加害者や事件の状況などに関する情報が提供されることは有用である。 さらに、被害者の中には、支援制度の内容や刑事手続の内容を知らない場合が多く、情報収集の方法も分からないため、自らの権利を十分行使できずにいる人も多い。したがって、被害者が刑事手続の内容や進行・被害者の地位や権利・制度上の限界を知ることは、被害者の権利行使にとって有用である。 (2)捜査、公判段階における情報提供 被害者に対し、情報を提供しうる機関としては、警察、検察庁、裁判所、弁護士、自治体、ボランティア団体などがあるが、本アンケートでは、捜査段階や刑事裁判における情報提供について調査した。 捜査段階における情報提供の制度としては、警察の連絡制度、検察の通知制度などがある。刑事裁判における情報提供には、公判手続の傍聴、公判記録の閲覧及び謄写などがあるが、以下、捜査、公判段階における情報提供の制度と現状について述べる。 @警察の連絡制度など 警察は、被害者などから直接被害届や告訴を受理することが多く、また被害発生後の最も早い段階から被害者に接することになる。各都道府県警察では、刑事手続の流れ・救済制度・相談機関など一般的に被害者の参考となる情報を掲載したパンフレットとして、「被害者の手引き」を配布している。 警察庁では、1989年に「被害者、参考人等に対する適切な応接の推進について」の通達を発するなどしてきたが、各都道府県警察における被害者への連絡の実施状況については、特に捜査状況の連絡があまりなされていないといった批判も高かった。 そこで、1996年7月、「被害者連絡実施要領」を制定し、被害者への連絡をより確実に実施し、被害者などからの照会にも適切に対応できるよう連絡制度のシステムを整備した。被害者連絡実施要領では、殺人、傷害、強姦などの身体犯並びにひき逃げ事件や交通死亡事故の被害者に対し、捜査状況、被疑者の検挙と身元、送致先検察庁、起訴・不起訴の処分結果、起訴が提起された裁判所などの情報を捜査担当官が連絡することとされている。 また、警察署には、被害からの照会に対応する被害者連絡担当係が置かれている。1999年には、国家公安委員会規則である犯罪捜査規範が改正され、捜査にあたっては当該事件の捜査の経過について被害者に通知することが義務づけられた(10条の3)。 A検察の通知制度 現行法上、検察官は、告訴人などに対し、起訴・不起訴の通知を行い、また不起訴処分をした場合、告訴人などからの請求があるときは不起訴理由を告知しなければならないとされている(刑訴法260条、261条)。しかし、これらの通知や告知の対象は告訴人たる被害者に限られ、不起訴の理由も「起訴猶予」や「嫌疑不十分」といった主文に限定されていたため、被害者への情報提供として十分ではなかった。 そこで、1999年4月から、全国の検察庁において、被害者等通知制度が実施されている。通知の対象となる事件については「受理したすべての事件」とし、通知の対象者は「被害者、その親族またはこれに準ずる者」及び「目撃者その他の参考人」である。この他、被害者などが代理人として弁護士を依頼した場合には、代理人に通知することとされている。 通知の内容は、事件の処理結果、公判期日、刑事裁判の結果のほか、公訴事実の要旨、不起訴裁定の主文、不起訴裁定の理由の骨子、勾留及び保釈などの身柄の状況並びに公判経過などである。 検察官または検察事務官は、被害者などに取調などで接した場合には、通知希望事項を確認し、通知を希望する者に対して通知することとされている。死亡事件など重大事件にあたっては、被害者の取調などを行わないときでも、検察側から積極的に被害者などの希望の有無を確認することとしている。また、被害者などから照会のあったときは、事件の処理結果等を通知することとしている。 B警察の連絡制度、検察の通知制度の現状 ア.連絡制度、通知制度の周知 連絡制度、通知制度を知っていたかどうかについて、一般の回答者の約2割は知っていたが、約8割は知らなかった。これに対して、交通事故の回答者では、6割以上が知っており、知らなかった回答者は約3割であった。 イ.連絡制度・通知制度の説明 連絡制度、通知制度の説明を受けたかどうかについて、説明を受けた人は全体の約1割で、説明を受けない人は約8割であった。 ウ.連絡制度・通知制度の実施状況 連絡制度・通知制度が実施されているかどうかについて、一般の回答者のうち、実施された人は実施されなかった人の約半数で、「適用前なのでなかった」と回答した人が約5割いた。交通事故の回答者では、実施された人の方が実施されなかった人よりやや多かったが、「適用前なのでなかった」と回答した人が約6割いた。 本アンケートの回答者の中には、連絡制度・通知制度が実施される前に被害に遭った人も多くいるため、制度の実施状況については、正確には把握しがたい。しかし、回答者全体では、実施された人より実施されなかった人の方が多い。したがって、制度実施以後も実施されなかった人がいることが窺える。 連絡制度・通知制度について知る機会のなかった被害者は、その制度を利用することができない結果となる。したがって、情報提供機関は、積極的にこれらの制度の存在を知らせるとともに、十分な説明をすることが必要であろう。 C記録の閲覧、謄写 刑事訴訟法53条1項本文は、「何人も、被告事件の終結後、訴訟記録を閲覧することができる。」旨規定し、刑事確定訴訟記録については、原則として公開することとしている。 また、同法47条本文は、「訴訟に関する書類は、公判の開廷前には、これを公にしてはならない。」と規定し、訴訟に関する書類の公判開廷前における非公開の原則を定めている。捜査中の記録、不起訴記録及び裁判不提出記録は、この公判の開廷前の訴訟に関する記録に該当するとされている。 「刑事裁判で調べられた記録を見て、事件の内容や被告人の話の内容などについて知りたいと思うか」という質問に対しては、「是非知りたい」という回答者が最も多く、「機会があれば知りたい」という回答者と合わせると約7割になる。 「特に知りたいとは考えていない」や「絶対に知りたくない」という回答者は、1割にも満たなかった。このように、被害者の多くは、刑事裁判で調べられた記録を見て、事件の内容や被告人の話の内容などについて知りたいと回答している。被害者が損害賠償請求をするにあたっても、刑事裁判の記録は重要な資料となる。今回、制定された被害者保護法では、訴訟記録の閲覧または謄写が認められている。 (3)被害者の求める情報と情報提供の現状 @情報提供を求めたことがあるか 「自分から情報の提供を求めたことがあるか」との質問に対して、一般の回答者のうち「ある」と回答した人が約2割と少なく、「ない」と回答した人が約7割であった。交通事故の事案では、約半数が「情報の提供を求めたことがある」と回答し、「ない」と回答した人は約3割であった。情報提供を求めたことがない人は、情報の提供をどこに求めたらよいかなど、情報の入手方法が分からないために、情報提供を求めなかった人もいると推測される。 A求めた情報の内容と情報を求めた機関 情報提供を求めたことがある人について、さらに「情報を求めた機関」と「求めた情報の内容」について質問したところ、以下のような回答が寄せられた。主として、警察や検察庁に対し、事件の内容・加害者の処分・捜査や公判の進行状況などについて情報提供を求めた人が多かった。 ア.警察に対して 加害者の情報、加害者側の身内の状況、加害者の身辺や事故の状況、捜査状況、事故の状況、目撃者情報、加害者の話、事故直後の写真、事故の現場検証、110番通報した時間、事故直後の加害者の車の状況、処分の見込みなど。 イ.検察庁に対して 公判予定、犯行に使用された毒ガスに関する科学的情報、処分結果、加害者の供述調書、目撃者の話、不起訴理由、病院への搬送記録、判決結果、略式起訴になった経過、求刑など。 ウ.警察や検察に対して 殺された時の状況、事件の詳細、捜査の状況、裁判の進行状況及びその後の方針、加害者の供述、反省、謝罪の有無など加害者に関する情報、事故の事実関係、事故現場の写真、司法解剖鑑定書、処分の結果や根拠など。 エ.裁判所に対して 供述調書、裁判記録、裁判の日時など。 オ.弁護士に対して 裁判の経過、取調調書など。 B情報提供はされたか 「求めた情報は提供されたか」との質問に対しては、一般の回答では、情報を求めた人のうち、「不十分だが提供された」と回答した人と「拒否された」と回答した人が合わせて約7割いた。交通事故の事案では、情報を求めた人のうち、「不十分だが提供された」と回答した人が5割以上おり、「情報を拒否された」と回答した人も約4割いた。 犯罪被害者が、情報提供を求めても、その結果の多くは、被害者にとって不十分であったり、情報提供が拒否されていることが分かる。 C情報提供の不十分さ 「どのような点が不十分であったか」との質問に対しては、以下のような回答が寄せられた。 ア.基本的には拒否だが、非公式に教えて貰った イ.供述書に一部墨塗りがしてあった ウ.判決文は全く見ることができなかった エ.事実関係についての情報が不十分 オ.加害者に関する情報が不十分 カ.はじめは拒否だったが、少しずつ小出しにして何回目かに分けて見せて貰った キ.不起訴処分の理由を説明されなかった ク.加害者の処罰について説明が不十分で納得できない ケ.加害者の処分は決まっていたが、加害者のプライバシーということで、大まかなことしか教えてもらえなかった コ.実況見分調書をコピー不可ということで一読しただけにとどまった サ.重要な一部資料が未提出 シ.裁判記録の一部が提供されなかった ス.事故の内容について、口頭で説明され、具体的な部分は明らかにされなかった セ.第1回公判が知らないうちに終わっていた ソ.弁護士の説明が理解できなかつた タ.地検の記録は判決後でないととれない D拒否の理由 「拒否の理由は説明されたか」との質問に対しては、以下のような回答が寄せられた。 ア.送検されたため説明できないと言われた イ.捜査中、裁判中は教えることはできないと言われた ウ.裁判を聞いていればわかると言われた エ.目撃状況は教えられないと言われた オ.調書の閲覧は弁護士などでないとだめとの説明だった カ.検察に書類を全て送っていると言われた キ.少年法が適用されたからと言われた ク.加害者のプライバシーが理由だと言われた ケ.守秘義務があると言われた この他、「拒否の理由は説明されなかった」「説明もなく馬鹿にされた」「教えられないの一辺倒だった」という回答もあった。 このように被害者が、事件の内容・刑事手続の進行・加害者の処分などについて情報を求めても、十分に提供されていない現状にある。 Eまた、事件内容の情報収集を弁護士に依頼した人のうち、 ア.警察・検察が、誠意ある対応をしてくれなかった内容として以下の回答があった。 (a)加害者の住所、氏名、捜査の進展状況、起訴・不起訴の結果、不起訴となった具体的な理由、刑事裁判の期日を教えてくれなかった (b)告訴ができることを教えてくれなかった イ.裁判所の対応として、以下の回答があった。 (a)裁判の進展状況、刑事裁判の期日を教えてくれなかった (b)傍聴席を確保してくれなかった (c)刑事裁判の結果を教えてくれなかった (d)傍聴席について被害者よりも一般の人の分を重要視された (e)判決文を提出してくれなかった (f)裁判の書類が閲覧できて資料として入手できるという説明もなかった (g)記録の請求が拒否された F被害者が、捜査機関や裁判所に対し、加害者の処分や事件の内容について情報提供を求めても、被害者にとって納得できる情報が開示されていないことがこれらのアンケート結果に現れている。 (4)刑事裁判の結果に関する情報提供 @刑事裁判の結果をどのようにして知ったかについては、一般の回答では、「マスコミの報道で知った」という人が最も多く全体の半数近くであった。その次に多かったのが「刑事裁判で直接聞いた」という人や「その他の人から聞いた」という人であった。その他の人とは、具体的には、被害者の会、代理人の弁護士、弁護団、同じ被害で判決を聞いた人などであった。 交通事故の事案では、「刑事裁判で直接聞いた」という回答が全体の約3割と最も多く、次いで「その他の人から聞いた」という回答が多かった。その他の人とは、具体的には、夫や両親などの身内、弁護士、保険会社、加害者、雇主などであるが、「終わっていることを知り、検察庁へ直接電話した」「検察庁に何度も足を運び、やっと裁判記録を見ることができた」「とっくに判決が出ていた」という回答もあった。 回答全体では、警察や検察官から聞いた人は少なかった。検察庁の被害者等通知制度では、通知の内容として「刑事裁判の結果」が含まれているが、現状としては、刑事裁判の傍聴やマスコミなどから裁判の結果を知っている人が多いようである。 Aまた、「国や地方公共団体、ボランティア団体からどのような援助・サービスが提供されることが必要か」という質問に対しても、「犯人がどのような刑に服することになったか教えてもらうこと」や「犯人が釈放される時期を教えてもらうこと」という回答が多くあった。 6.法制度改善への動き (1)犯罪被害者保護法の成立 2000年5月12日、犯罪被害者の保護と権利回復を目的として、刑事訴訟法等の改正及び犯罪被害者等の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律(以下「犯罪被害者保護法」という。)が国会で成立した。 まず刑事訴訟法の一部が改正され、性犯罪の告訴期間の撤廃、証人尋問手続における証人への付添、証人の遮へい措置の導入、ビデオリンク方式の導入及び公判手続における被害者の心情その他の意見陳述の制度が定められた。また検察審査会法が改正され、検察審査会への審査申立権者の範囲が被害者の遺族に拡大された。 さらに、同法では裁判長は、被害者などが公判手続を傍聴できるよう配慮すること、裁判所は、被害者などに訴訟記録の閲覧または謄写をさせることができること、被告人と被害者間に民事上の争いについて合意が成立した場合には、刑事 事件の公判調書にその合意が記載されたときは、裁判上の和解と同一の効力を有することが定められた。 (2)法律が成立したことが周知されているか 回答者のうち、約6割の人はこれらの法律が成立したことを知っていたが、約2〜3割の人は知らなかった。 法律が改正されて間がないこと、そもそも刑事手続の内容について知らない人が多いことからすると、この改正は、まだ周知されていないといえる。 (3)周知されている内容 改正法の中で知っている内容としては以下の順で多かった。 @被害者とその遺族に対して、裁判を傍聴できるよう配慮されること A刑事裁判で被害者などが被害に関する心情等の意見の陳述ができるようになったこと B性犯罪について告訴期間が撤廃されたこと C証人尋問の際、被告人の面前だと証人が圧迫を受けて精神の平穏を著しく害されるおそれがある場合、証人と被告人との間を遮へいすることが認められたこと D判決確定前でも被害者等による刑事裁判記録の閲覧または謄写が認められたこと E一定の事件において、被害者の証人尋問の際、ビデオリンク方式によることが認められたこと F証人尋問の際、証人への付添ができるようになったこと 刑事裁判の傍聴や刑事裁判における意見の陳述など、被害者の関心のある制度ほど知られていることが窺える。またマスコミなどの報道内容も、知っている内容に影響しているものと思われる。 以上の内容に比べると、当該刑事事件の被告人と被害者との間の民事上の争い(慰謝料の支払いなど)について合意が成立し、刑事裁判期日において申立をしたうえ、合意の内容が公判調書に記載された場合、民事裁判上の和解と同一の効力を有するものとされたことを知っていると答えた人は、少なかった。この内容をよく理解することが難しいこともあまり知られていない理由と思われる。 また、法律が成立したことを知っている人のうち、内容を知らないというという回答が約2割あった。 (4)利用したいと思う制度 @利用したいと思う制度では、以下の回答が多かった(それぞれ全体の半数以上)。 ア.判決確定前でも被害者などによる刑事裁判記録の閲覧または謄写が認められたこと イ.被害者とその遺族に対して、裁判を傍聴できるよう配慮されること ウ.刑事裁判で被害者などが被害に関する心情等の意見の陳述ができること 被害者は、刑事裁判記録の閲覧や刑事裁判の傍聴によって、事件や加害者に関する情報を収集することや、刑事裁判で自ら意見を述べることを強く望んでいるといえる。 A利用したいと思う制度で、次に回答が多かったものは以下のとおりである(それぞれ全体の3割〜4割)。 ア.証人尋問の際、被告人の面前だと証人が圧迫を受けて精神の平穏を著しく害されるおそれがある場合、証人と被告人との間に遮蔽することが認められたこと イ.証人尋問の際に証人への付添ができるようになったこと ウ.一定の事件の被害者の証人尋問の際ビデオリンク方式によることが認められたこと 被害者は、証人として刑事手続に参加することを前提に、証人尋問手続における被害者保護の制度を望んでいるといえる。実際に法廷で証言した人からは、刑事手続の不満点として、「被告人のすぐ前で証言をしなければならないという設定にやりづらさを感じた」「被害者が気兼ねなく発言できる環境が必要だ」 という回答もあった。 B当該刑事事件の被告人と被害者との間の民事上の争いについて合意が成立し、刑事裁判期日において申立をしたうえ、合意の内容が公判調書に記載された場合、民事裁判上の和解と同一の効力を有するものとされたことについては、知っている人は少なかったが、利用したいという人はかなりおり、被害者がこの制度を利用したいと考えていることがわかる。 7.残された課題 犯罪被害者保護のための刑事訴訟法等の改正及び犯罪被害者保護法の制定によって法制度が改善されたが、残された課題としては以下のことが指摘される。 (1)刑事手続における被害者の地位と権利 刑事裁判に対する不満点として、「加害者の人権が保護されすぎている」「加害者側に有利」「刑事裁判は不公平である」「加害者には、情状酌量や減刑があるのに対し、被害者には何もできない」などの回答があった。 犯罪被害者は、事件の直接的な当事者として、刑事手続上重要な地位と権利を有する者であることを求めており、その地位の明確化は今後の検討課題といえる。 (2)捜査段階の取調における保護捜査段階における被害者の関与場面として重要なものに、被害者の参考人としての取調がある。 警察の取調などに対する不満点として、「性犯罪の被害者が、男性の警察官から事件に直接関係のないことを聞かれ不快であった」「こちらが被害者なのに、大変威圧的な態度であった」「被害者の気持への配慮がない」などの意見があった。 被害者への二次被害を防止するため、立法論としては、捜査段階における参考人としての取調にも、付添制度を導入することが考えられる。 (3)証人尋問手続における保護 今回の刑事訴訟法の改正によって、被害者が、公開の法廷で証言することの精神的負担の軽減が図られた。 この他にも証人尋問時において、公訴事実に直接関係のない被害者のプライバシーに関する質問などから被害者を保護し、二次被害から守るための制度の検討が必要である。 (4)犯罪被害者の経済的被害の回復制度 回答の中に、「被害回復に向けて努力しようと思うが、生活を支えるための仕事があり、物事は何ひとつ進まず、時間のみが流れてしまう」「刑事も民事も同一に進めることはできないか」「被害者が後々まで負担を強いられているのが現 状である」という意見があった。 犯罪被害者の早期の経済的被害を回復するため、付帯私訴や損害賠償命令等の制度について検討する必要があると考えられる。 (5)修復的司法 刑事裁判に対する不満として、「早く裁判を進めて被害者の救済をしてほしい」「被害者側が加害者を尋問できない」「加害者も人間だから許してあげてもいいと思うこともあるが、自分に与えられた苦痛を思うとき、それでも許せないものは許せない。そういった被害者の心がくみ取れない」などの回答があった。 修復的司法と呼ばれる被害者と加害者と地域社会の修復を図る制度が提唱されている。刑事裁判や少年事件手続などを通じて、被害者が加害者と向き合うことによって、被害者と加害者との関係を修復し、被害者の受けた精神的・経済的損害の早期回復を図ることを検討していく必要があるといえる。 (6)被害者弁護人制度 刑事裁判に対する不満点として、「一般的な言葉ではないので、わからないところがたくさんある」「被害者としては、何をどのように話しているのか、証拠は文書番号などで言われても手元に資料がないため理解できないことが多い」「被害者にも弁護人や相談者が必ずつくような制度が必要」などの回答があった。 被告人の権利擁護のために被告人の弁護人の制度があるように、被害者についてもその権利擁護のために、被害者の代理人としての弁護人の制度を設けることが検討されるべきである。 |