| 第6節 弁護士(会)との関係 |
| 1.被害者側弁護士との関係 (1)弁護士(会)へのアクセス @被害者が犯罪の被害に遭ってから、弁護士に相談したという回答は76%であった。本アンケートの調査方法が前述したように、弁護士と何らかの接点のある犯罪被害者を対象としているためにこのような高い数字が出たものと思われる。 A被害者が弁護士(会)へアクセスする方法としては、法律相談あるいは知り合いの弁護士に頼るという方法などが考えられる。この点についてアンケーを採ったところ、「友人・知人の紹介」という回答が31%で最も多かった。次に弁護士会の有料相談・無料相談の利用が18%であり、これに市町村などが実施している無料法律相談を加えると28%になる。その他には、地下鉄サリン事件に関して被害者を対象とした相談会を開催する旨のマスコミ報道によって弁護 士への相談窓口を知ったという回答が11%もあった。 これはアンケート項目を作成していた段階では予想していなかった事項である。アンケート対象には地下 鉄サリン事件の被害者も含まれており、事件としての特殊性もあるが、マスコミ報道による影響力の大きさが読み取れる。また、交通事故関係では被害者団体を通じて弁護士を見つけたとの回答が47%もあった。 B被害に遭ってからどれくらいの期間内に弁護士に相談したかについては、10日以内が12.5%、1ヶ月以内が28%、3ヶ月以内が58%、6ヶ月以内が78%である。被害者の中には、1年を越えてから被害相談をしている者もいるが、大半は遅くとも3ヶ月以内に何らかの方法で弁護士に相談をしていることが窺える。 なお、交通事故関係に限ってみると45%もの人が6ヶ月後以降に弁護士に相談をしている。必ずしも断定できないが、この45%の人のほとんどが弁護士に「示談・損害賠償について」相談をしていることからすると示談・損害賠償交渉がこじれて弁護士に相談をしたのではないだろうかと推察できる。 C弁護士に対する相談内容としては、示談・損害賠償関係が最も多く、次いで被害届・告訴の手続、刑事手続一般となっている。但し、アンケートの回答結 果について民事関係と刑事関係に分けてみると刑事手続に関するものが相当数あることが分かる。現行の刑事手続では主体たり得ない被害者が刑事事件において自らの立場がどのように扱われているのかについて非常に関心を示していることの表れという見方もできよう。 また、マスコミ対策に関する相談を求めたケースもある。近時マスコミによる事件報道が加熱し、被害者および家族に対する取材などが増えたことにより、これらのマスコミ報道によって被害者がいかに困惑をしているのかを示す数字であるといえる。 (2)弁護士(会)に対する不満、批判等 @弁護士に相談した結果、満足したとの回答は65%にもなる。この65%という数字だけを見るとアンケート対象者の満足度は非常に高いものと分析できる が、本アンケートの調査方法が前述したように、弁護士と何らかの接点のある犯罪被害者を対象としているためにこのような高い数字が出たものと思われる。他方、弁護士と何らかの接点のある被害者から見ても相談結果には35%もの多数の人が不満足であったと見ることもできる。 なお、交通事故の被害者のみについてみると55%もの人が相談結果に不満足であったという回答をしており、結論が逆転している。交通事故の場合は他の犯罪と異なり損害賠償金額の類型化が相当進んでおり、この類型化にしたがった形式的な相談回答に相当不満があったのではないかと思われる。 この相談した結果に不満であると回答した人の理由としては、「自分が期待した回答が得られなかった」、「回答が不明確だった」、「親身に相談に乗ってもらえなかった」の順である。なお、その他の理由としては多忙であることを言われたり、受任するだけのメリットがないことを言われたという回答もあった。 A次に、相談の結果弁護士を依頼したという回答は76%にもなる。ただし、この数字も本アンケートの調査方法が前述したように弁護士と何らかの接点のある人を対象としていることを考慮する必要があろう。 相談したが依頼をしなかった人の理由としては、「費用が高額であること」及び「相談した弁護士を信用できなかった」ことをあげた人がほとんどであった。交通事故の被害者の場合に後者をあげた人が特に多かった。 B弁護士に依頼した内容については、相談内容のアンケートと同様に示談交渉・損害賠償の請求が最も多く、被害届・告訴状の提出、事件内容の情報収集、マスコミ対策、刑事裁判傍聴の付添の順である。アンケートの集計によれば、被害届・告訴状の提出と示談交渉・損害賠償の請求とを併せて依頼するケースが多い。いずれか一つを依頼するのではなく、複数の事項に関して依頼をしているケースがほとんどである。 被害者としては、損害の回復という民事的手続のみでなく、自らが遭った被害について刑事上の責任も求めるという、被害者側の権利意識の高まりを見ることができる。また、マスコミ対策を求めて依頼をしたケースも多く見られる。これは、事件報道によって被害者およびその家族がいかに困惑をしているか、あるいはマスコミによる二次被害を被っているのかを示す数字であると言える。 C弁護士に依頼してよかったという回答者の内容としては、「心強く思った」が最も多く、「話をよく聞いてもらえた」、「被害回復(損害賠償)を得ることができた」、「刑事事件の手続がよく分かった」、「民事事件の手続がよく分かった」という順である。組み合わせとしては、「話をよく聞いたもらえた」と「心強く思った」の組み合わせが最も多かった。 この回答結果を見る限りでは、自らが被った被害について相談者を得たこと自体による精神的安堵感が「弁護士に依頼してよかった」という回答(69%)に繋がっていると思われる。 D弁護士に依頼をして不満という回答については、依頼をした弁護士自体に対する不満と受任した弁護士自身にというよりは、相手方、例えば警察・検察庁に対する不満と思われるものがある。 弁護士自体に対する不満としては、「請求金額を抑えられた」、「相手方に資力がなく、満足な賠償が得られなかった」という回答が多いが、受任した弁護士が「なかなか交渉・請求を進めてくれなかった」、「自分の主張を加害者や裁判所に伝えてくれなかった」、「連絡を取ろうと思ってもなかなか連絡が取れなかった」という回答もあった。 E弁護士費用に関する回答では、「被告人同様に国選制度にして無料とすべきだ」という回答が最も多く、次いで「高い」、「弁護士費用についてもっと明確 にしてほしい」という回答も多くある。特に交通事故の被害者からは「高い」という回答が最も多い。 「高い」と「被告人同様に国選制度にして無料とすべきだ」との組み合わせも多く見られ、被害者から見ると国選弁護人制度とのバランスについて疑問を感じているようにも読み取れる。また、弁護士費用について「もっと明確にしてほしい」との回答も多くあり、弁護士費用の分かり難さに対する不満が表れている。 (3)弁護士(会)に何を求め、期待するのか @アンケート回答で最も多いのが、「示談・損害賠償に関するアドバイス」、次いで「事件内容の情報収集についてのアドバイス」、「示談交渉・損害賠償の請求をしてもらうこと」の順である。 そして、「被害届・告訴状の提出」、「刑事手続一般についての説明」、「捜査についてのアドバイス」、「裁判傍聴・証言のアドバイス」、「裁判傍聴・証言等への付添」、「加害者や加害者側の弁護士がこちらの責任を追及したときの対応」、「裁判傍聴・証言についてのアドバイス」、「取調等への立会」、「マスコミとの対応」の順である。 このうち、交通事故の被害者からは「警察での取調など、捜査についてのアドバイス」、「取調などへの立会い」、「事件内容の情報収集についてのアドバイス」を求める回答が一般の被害者に比べて多数あり、回答割合も高いのが特徴である。 Aそして、裁判傍聴・証言についてのアドバイスや裁判傍聴・証言などへの付添についても要望が多い。これは、被害者自らが遭った事件について刑事裁判がどのように行われているのかという裁判に対する関心の高さと、証人として裁判所に出頭することへの強い不安感の表れと見ることができよう。 Bマスコミとの対応を求める回答については、事件報道、特に被害者に対する報道が時として加熱することなどから、被害者及び家族のみではマスコミに対 応ができなくなってきていることが理由と考えられる。 C弁護士が被害者から相談を受けるケースとしてはこれまで示談交渉・損害賠償請求という民事関係が多かったかと思われるが、被害者の権利意識が高まった今日では、捜査段階、公判段階を通じての刑事手続に関するアドバイスを求める割合が高まっている。また、マスメディアによる事件報道の加熱とそれに伴い被害者に対する取材が増加したことによりマスコミ被害からの保護を求めるというケースがより多くなるのではないかと考えられる。 さらに回答結果から分析するならば、弁護士に対しては刑事事件で弁護人としての役割が求められるのと同様に被害者の弁護人としての役割も求められてくるようになっていると見ることもできよう。 アンケート項目のWその他の3の中でも、「加害者に弁護士が就いて被害者に弁護士が就かないのはおかしい」、「加害者には国選弁護人が就くように被害者にも何らかの弁護ないしは相談者が必ずつくような制度を求める」という回答が相当数あるのも、被害者の立場から見た現行の法制度の不備ないし不均衡感の表れと見ることができよう。 そして、この不備ないし不均衡感の解消を求めて弁護士に対して刑事手続に関するアドバイスを求めるケースが今後も増加し、これについて弁護士に対する期待がますます強まって行くのではないだろうか。 Dこの項目に関するアンケートは複数回答であり回答者のほとんどは(1)ないし(11)の全ての項目について弁護士に支援活動をしてもらいたいという回答内容である。これは、犯罪被害にあった場合にいかに被害者は多くのことを一人で悩み、その悩みの解消・解決を弁護士に求め、あるいは期待しているのかの表れと読み取ることができよう。 特にアンケート項目Wその他の3において、多数の人が「被害者の気持をくみ取ってほしい」「気軽に相談できるように」「親身になってほしい」「被害者の気持をわかってほしい」という記述による回答をしている。このように被害者からは自らが抱える悩みに対して相談者としての役割を期待しているものと見ることができる。 これら被害者が多数抱えている悩みを解消・解決するために弁護士は、カウンセラーなどの専門家の意見を聞きながら、この期待に添うよう行動する必要があるのではないだろうか。 2.加害者側弁護士との関係 (1)加害者側の弁護士をどう見ているのか @加害者側弁護士と接触する機会が少ない アンケート結果において特徴的だったことは、被害者が加害者側弁護士と「接触した」という割合が、被害者全体のうち約27%にすぎないということである。加害者が不起訴になった場合や公判中、捜査中という場合を除外し、「刑事判決が既に出た」という回答をした者に限っても、約40%にすぎない。 その理由はアンケートからは直接読みとれないが、推測されるのは、特に財産犯の中には経済力のない者が相対的に多いであろうから示談金の提示自体が困難であることが考えられる。 もっとも、交通事故関係とそれ以外に絞ってみれば、差がはっきりと出る。交通事故を除いた一般犯罪の場合、加害者側弁護士との接触率は約19%でしかない。交通事故のみに関しては、約29%にアップする。一般の場合に比較して1.5倍である。 その理由は、次の質問「どちらから接触したか」という質問の回答において、明らかになる。すなわち、「自分から接触した」という回答は、一般では13%なのに、交通事故被害者に限定すると3倍以上の約36%にもなる。交通事故では被害者側から接触しているケースが多く、その分、接触率が上がっている 交通事故の場合、加害者が保険会社に加入していることが多く、その損害賠償請求の必要性からか、あるいはそれだけ被害感情が強いのであろうか。 接触の方法では犯罪類型ごとの相違は見あたらなかった。選択肢のうち、「面談」「弁護士を介して」が比較的多い。 Aどう見ているのか─その1 刑事裁判について 加害者側弁護士と接触した被害者のうち、加害者側弁護士によって心を傷つけられたという者は、約80%に上った。 その内訳(複数回答)を見ると、まず、刑事裁判においては ア.自分たちの落ち度を指摘された 約14% イ.証人尋問で中傷するような質問をされた 約12% ウ.加害者を必要以上に弁護しているように感じた 約53% エ.その他 約21% という結果になった。 加害者側弁護士が、刑事裁判においては「加害者に有利な情状」として主張しなければならない「被害者の落ち度の指摘」が一般では約7%、交通事故に限定すると17%であった。犯罪類型によって相当異なる。 一方、「尋問で中傷された」が約12%あったが、これは評価が難しいところである。客観的に見て弁護士としては必要不可欠な質問、ないし適切に配慮した質問であっても、被害者が過敏な反応をした可能性もあるからである。 「加害者を必要以上に弁護」は、過半数に達した。被害者感情としては当然かも知れない。サリン被害者は、比較的この選択肢を選択する者が多かったように見受けられた。弁護士法第1条にあるとおり、弁護士は社会正義の実現を使命とするのであるから、加害者側にも被害者側にも必要以上に傾きすぎてはならないであろうが、その境界は難しいものがある。被害者感情に配慮した弁護活動に留意すべきであろう。 Bどう見ているのか─その2 示談交渉について 次に、示談交渉においては ア.なかなか連絡が取れず、交渉が進まなかった 約14% イ.恰も自分たちに落ち度があるかのような主張をされた 約18% ウ.謝罪がなかった 約42% エ.その他 約26% という結果になった。 「交渉が進まなかった」という回答が14%もあったことは、多忙な弁護士の実態を示唆する。しかし、それは言い訳にしかすぎず、加害者側弁護士としてはできるだけスピーディに示談が運ぶよう、心がけるべきであろう。 「謝罪がなかった」は、全体で約42%に達した。これは、弁護士の考え方 も反映していそうである。すなわち、「事件を起こしたのは加害者本人であり、謝罪すべきは加害者本人であって、仕事で示談しているにすぎない弁護士は『謝罪』という道義的なことは代理できないしする必要もない」という論理があり得るからである。 しかし、これだけの被害者が加害者側弁護士の謝罪に重大な関心を示していることは加害者側弁護士の意識とのギャップの大きさを示しているものと言えよう。 Cどう見ているのか─その3 民事裁判について さらに、民事裁判においては ア.裁判がなかなか進まなかった 約20% イ.恰も自分たちに落ち度があるかのような主張をされた 約24% ウ.謝罪がなかった 約38% エ.その他 約19% という結果が出た。 イの「被害者の落ち度の主張」に対する非難は全体では約24%であった。被害者側の過失は過失相殺事由になることから加害者側弁護士としては立場 上、どうしても主張しなければならないので、やむを得ない面もある。 ところで、前問の示談交渉では同じ質問の回答が約14%にとどまる。加害者側弁護士は、示談交渉においても提示金額の理由の中で被害者側の過失を指摘せざるを得ないのであるが、反面、指摘しすぎるとまとまる示談もまとまらなくなるのであり、裁判の場合と比較して過失を指摘しにくい面がある。また、より端的に民事裁判において過失相殺が争われることも原因であろう。 さらに、特筆すべきは、「被害者の落ち度の主張」が交通事故被害者を除外した一般犯罪では約13%に減少することである。交通事故被害者が全体の数字を押し上げている。交通事故の民事裁判においては特に被害者側の過失が争われることが影響していると思われる。 D自由記載欄について 刑事裁判、民事裁判を通じて目立ったのは、加害者側弁護士や裁判官が「加害者の嘘を前提にしている」「加害者の嘘どおりの認定をする」という趣旨のものであった。確かに、被害者が既に死亡しているなど被害者からの供述が期待できない場合、加害者の主張どおりに認定されるケースもあるかも知れない。 しかし、加害者側から見た真実と被害者側から見た真実が必ずしも一致しないことや証拠評価の問題を考えると、何が「真実」で何が「嘘」なのかは、大変困難な問題をはらんでいる。 「法廷で被害者側弁護士と加害者側弁護士が談笑していた」という批判もあった。依頼者の不信を抱かせないための配慮が必要不可欠である。 中には、裁判制度についての知識不足から来る誤解では、と思われる記載も多かった。弁護士だけでなく、裁判官などの法曹関係者も一体となって、被害者の誤解を少しでも解くべく丁寧に説明することの必要性を感じた。実際には説明に割ける時間の少なさなどから、十分に理解してもらえないことも多いかも知れないが、努力していくべきである。 (2)加害者側弁護士として犯罪被害者に対して留意すること以上をふまえて、加害者側弁護士が被害者に対して如何なることに留意して接触すべきかを考えるに、「職務としての必要性を超えて被害者を傷つける言動を取ってはならない」という事実に尽きる、と言っても過言ではなかろう。その境界線は、弁護士一人一人が、事案ごと・被害者ごとに手探りしながら見つけていくしかあるまい。 |