第4節 小   括
1.弁護士会活動の現況  

 単位会に対する2回のアンケートと9つの単位会に対する訪問調査によって、犯罪被害者問題に関する弁護士会の取組の現況は明らかになった。その取組は緒についたばかりであるが、2点を指摘することができる。

 その一は弁護士会内に犯罪被害者問題を扱う独自の委員会を設置する動きが急速に進んでいることである。それまでは人権擁護委員会や民暴委員会などで被害者の問題を扱ってきたのが、名古屋弁護士会(1997年4月)、大阪弁護士会(1999年11月)を皮切りに、1999年に11会、2000年に9会で犯罪被害者問題を扱う独自の委員会が設置された。ようやく弁護士会においても犯罪被害者の問題に対する認識が深まり、弁護士会としての犯罪被害者支援の必要性が意識されてき たことの表れと評価することができる。

 もっとも小規模会など過半数(29)の単位会で、犯罪被害者問題について独自の委員会を設置するに至っていないのも現実である。今後これらの会がどのような形で犯罪被害者問題に対する取組をすすめるかが問われよう。先進県の取組を知り可能な形で創造的な取組を拡げてゆくことが要請されている。

 その二は犯罪被害者に対する独自の相談窓口設置の傾向である。弁護士会が犯罪被害者に対する独自の相談窓口をもうけることの意義づけには各単位会によって差があるものの、独自の相談窓口は必要だという認識においては共通の認識が醸成さ れてきている。犯罪被害者は犯罪に遭遇した当初は、犯罪の被害者になったというそのこと自体で精神的痛手を受け混乱する。

 犯罪について適切な情報を与えられない。どこに相談してよいか分からず相談することすら思い浮かばない。ときには直ちに警察や検察庁の事情聴取に呼ばれたり実況見分に立ち会わなければならない。このような状況の犯罪被害者に対してまずできることは、弁護士会がこうした被害者の状況を十分に認識して、間口を拡げ、まず弁護士会として被害者が相談できる独自の犯罪被害者相談窓口を設けることである。

2.弁護士会の犯罪被害者支援のあり方と今後の課題

 以下に犯罪被害者が求める支援の観点から弁護士会の支援のあり方について分析を加え、今後の課題について言及してまとめに変えたい。

(1)弁護士会の相談窓口のあり方
 @犯罪被害者のアプローチを容易にする方法
どこへ相談してよいかわからずに途方に暮れる被害者に対し、駆け込み寺としての窓口を弁護士会が提供すべきだと位置づけた「駆け込み寺的窓口」の例が、大分県弁護士会である。「駆け込み寺的相談窓口」の場合は、いつでも相談できる体制を作ることが必要となる。

 大分県弁護士会では毎日24時間何らかの形で電話を受けつけ、電話があってから24時間以内に弁護士の担当者が被害者と話をすることを保証するシステムを作り上げている。刑事被疑者に対する当番弁護士制度と同様の支援を犯罪被害者にも与えよう、との理念に裏づけられている。

 これに対し駆け込み寺的に相談受付時間帯を拡げるよりも犯罪被害者からの相談ならばどのような相談でも受けつけることを目指そうとする窓口もある。たとえば東京弁護士会、第二東京弁護士会、大阪弁護士会などがその例である。これを「内容非限定型」と名付けよう。

 この型は、大阪弁護士会のマニュアルにあるように、被害者に対しての精神的支援をも重視する考えを根底に有している。法的な賠償の問題は被害者の抱える有力な課題ではあってもその一つでしかない。被害者の側に立って、被害者が喪失したものの価値を取り戻し、犯罪によって簡単に失われたものを、かけがえのない貴重なものに転換するように支援していくことが弁護士にも求められているとするのである。

 この型は必然的に弁護士にも精神的支援をするための一定の能力と心を求める。相談担当弁護士にカウンセラー的配慮が強く要請される場合もある。「内容非限定型」の相談窓口を目指す会は、そうでない会よりも弁護士の研修に力を入れている。カウンセリングなどの研修を相談担当者の事前義務としたり(東京弁護士会、第二東京弁護士会)、ロールプレイングを実践する参加型研修(東京弁護士会)なども行っている。

 A法律的援助と精神的援助
 弁護士会は犯罪被害者に対してどのような支援をすべきか、次に考えねばならない問題として、弁護士の支援は法律的援助を主とすべきか精神的援助もなすべきかという問題がある。

 これに対する各弁護士会の回答は二つに分かれるというべきである。
 その一は弁護士会が被害者に対し精神的援助もなすべきだとするもの、その二は弁護士会は精神的援助はよくはなしえないとするものである。
前記「内容非限定型」の窓口を設置する弁護士会は、弁護士も犯罪被害者に対しての精神的援助を重要な役割と認識すべきだという考え方に立っている。 この立場は被害者にとっての最重要の援助は何かと言うところから出発しているともいえよう。

 これに対して弁護士会には被害者の精神的援助は能力的になしえないという考え方に立つものがある。たとえば、福岡県弁護士会はその例である。弁護士会は身の丈にあった活動をすべきであり、専門的なカウンセリング能力はもち合わせていないことを自覚する必要があるとするのである。

 まず民間の支援センターがつくられ、そこに弁護士が個人的に参加する形で被害者に対する支援をすすめてきた茨城県弁護士会、静岡県弁護士会などの場合も、弁護士の専門的カウンセリング能力の欠如に対する厳しい自覚があったものと思われる。被害者に対してはまず精神的援助が必要なことを自覚しカウンセリング能力のある専門家やボランティアで民間の支援センターがつくられていったのも、こうした自覚と無縁ではない。

 ただこの考え方の弁護士会は、弁護士会の被害者支援の意義を法律的援助に限定するものではない。第一東京弁護士会の高井弁護士が「弁護士会は交通整理の役割をもつ」と言ったり、福岡県弁護士会の萬年弁護士が「弁護士会はコーディネーター」と言ったりするのは、弁護士会が独自の窓口を設置することによって、被害者支援のために活動する各種専門家を醸成し、あるいは弁護士会が各種専門家集団をコーディネートしてネットワークをつくるといった役割をも併せ持つことができるとしているのである。

 まず支援団体ができて既に多くの活動実績のある茨城県弁護士会、静岡県弁護士会も近い将来弁護士会の中に独自の委員会や犯罪被害者の窓口をつくりたいとしているのは、この点で注目に値する。

 法律的援助が主か精神的援助もなしうるかはこのように弁護士のカウンセリング能力への評価とも相まって難しい課題であり、軽々に結論の出る問題ではない。それぞれの弁護士会のアプローチからそれぞれに学ぶべき点は多く、今後も議論されるべき課題である。

(2)支援内容の多面化と弁護士業務
 @被害者に必要な支援内容の多面化
 ア.被害直後
 犯罪被害者が求めている支援の内容は多面的である。
被害直後の段階では、犯罪被害者の立場に立った適切な親身のサービス(救急車の手配、パトカーの手配、性犯罪の被害者であれば病院へのエスコートなど)が要請されるだろう。ここでの弁護士会の役割はそれらの親身のサービスを受けられる支援団体を紹介したり、警察の被害者相談室などを紹介するというコーディネートの役割であろうと考えられる。

 24時間以内に相談に応じられる被害者問題の相談窓口はこうした被害者の要請に答えることが可能である。もっとも親身のサービスを具体的に提供するという観点でいえば、民間の支援団体や被害者の立場に立った警察の被害者相談室などの方が適切であろう。

 イ.捜査段階
 捜査段階では、まず第一に犯罪被害者は「これからどうなっていくか」という刑事手続や少年事件手続の全体の説明を強く要望している。この説明をよくなしうるのは弁護士であろう。

 第二に性被害の場合など告訴するかどうかといった決断への助言や告訴手続への付添といった、捜査の端緒段階への関与が考えられる。この点は法律的には弁護士の援助が要請される分野ではあるが、これまで被害者の立場に立ちきれない弁護士の対応が批判されてきた分野でもある。支援団体との情報交換や弁護士のカウンセリング能力の向上のための研修、何よりも被害者の置かれた状況の理解が必要とされる。

 ただ弁護士会の活動報告において、大阪弁護士会や岡山弁護士会、東京弁護士会などで性被害(強姦、ストーカーなど)の被害者に対してエスコートや助言により解決した事案も報告されている点は評価すべきである。

 捜査段階の第三としては何が起きたかの犯罪そのものや加害者についての情報提供を求めるということがある。この点については、検察庁の通知制度の説明などが考えられるが、まだ適切な支援策にはなり得ていない。
 捜査段階の第四はマスコミなどからの被害者保護対策がある。

 ここにおいては弁護士が有用である。桶川事件においては弁護士が被害者代理人として防波堤になり、被害者をプライバシーに無配慮なマスコミ攻勢から保護した経験が報告されている。他の弁護士会でもマスコミに対する被害者保護のケースが報告されている。

 ウ.公判段階
 公判段階では、第一に被害者は自分(あるいは家族)が受けた犯罪についての情報を知りたいという強い要求と、被害者自身が知らないところで手続が進んでいくという強い不満がある。今までは刑事手続において被害者がないがしろにされてきた点は事実であり、被害者の情報提供への真摯な対応は重要である。これまでの弁護士会の取組で報告されている支援としては、法廷傍聴への付添、傍聴した事件の手続などの説明、民事損害賠償の準備のための刑事関係書類の入手などが報告されている。

 少年事件手続においても審判後は民事損害賠償の準備のために一定の情報(実況見分調書や一定の調書など)を入手することは可能である。

 公判段階の第二には被害者の意見を法廷に出したいという意見表明の要望である。この点については新法で、被害者の心情などについての意見陳述が法定されたので、今後実践例の報告がなされていくと思われるが、意見陳述への助言も弁護士の役割と言うべきであろう。

 第三にこれまで被害者が法廷を傍聴したり検察側の証人として出廷したりした場合にも、法律家の適切な助言を受けることが少なかったという面がある。この点について新法では証人の付添人が認められたし、被害者やその遺族の法廷傍聴に配慮するという条項が設けられたので、今後の弁護士の援助についての実践例の積み重ねが期待される分野である。

 A弁護士業務との関係
 以上概観した犯罪被害者にとって必要な支援内容は、刑事手続の各段階において多面化している。そして弁護士に対しては、これまでの弁護士業務に対する理解の仕方の見直し、刑事や民事の事件処理という枠組みでは対応しきれない問題を投げかけていると考えられる。

 先に指摘した犯罪被害者に必要な支援の内容は従来の事件処理という枠組みでは納まりきらず、「非定型的業務」ということになり、どうしても犯罪被害者問題に関心のある弁護士だけのいわばボランティアとして対応してきてしまった面が否定できないのである。それでは今後の犯罪被害者の多面化する支援の要請に応えていくことはできない。また、こうした非定型的業務に対する法律扶助制度の利用という面でも検討が必要になっている。

 この点で岡山弁護士会での取組は傾聴に値する。同会では財団法人リーガルエイド岡山での処理ではあるが、こうした非定型的な要素をもつ支援(法廷へのエスコートなど)についても勝訴の可能性や経済的要件の検討とは異なる「援助」という側面に注目して費用を支出していることが特筆されるべきである。

 他会では法律相談を柔軟に解釈したり日当などと評価して費用を捻出することが試みられているようだが、扶助制度を利用するところまでには至っていない。ただ、今後の課題として東京弁護士会では財団法人法律扶助協会に対して犯罪被害者の支援活動についても被害者が弁護士費用を扶助申請できる制度を作るよう申し入れを行ったことは注目に値する。大阪弁護士会でも被害者支援活動に対し非定型的な弁護活動であっても法律扶助が使えるようにする必要があることが提言されている。

(3)二次被害の防止
 二次被害の防止は、犯罪被害者の相談に対応する場合、法曹関係者が留意すべき大切な問題である。この点は従来からつとに指摘されたことであり、今回の被害者に対するアンケートにおいても指摘されていることである。

 二次被害を防止するためには、弁護士会の被害者問題相談窓口での対応において担当者への研修が必須であることはもちろんであるが、被害者相談窓口が作られていない弁護士会においてこそ特段の留意が必要である。たとえば弁護士は通常の相談や事件処理において、民事の損害賠償事件(交通事故や傷害事件、殺人事件の損害賠償請求事件)を受任したり、被疑者・被告人の弁護人として被害者との示談交渉に臨んだりする。

 こういう場合に弁護士が被害者の心を傷つける対応をとりがちなことが指摘されている。したがって、犯罪被害者相談窓口のない弁護士会でこそ、弁護士に対する「犯罪被害者問題に対する理解」や「被害者の心理」に対する研修、「二次被害」についての研修を定期的に実施すべきである。第1次アンケートや第2次アンケートにおいて、独自の委員会を持たない弁護士会や独自の犯罪被害者問題相談窓口を持たない弁護士会でも、弁護士に対する研修の必要性が指摘されていることは、この観点から重要なことと考える。

(4)今後の課題
 以上、犯罪被害者が求める支援の観点から弁護士会の支援のあり方を検討した。
 以下にはそうした現状を踏まえて、弁護士会として犯罪被害者の支援に取り組む場合の共通の課題として挙げられることについて提言したい。

 @支援団体との協働・連携
 犯罪被害者支援においては弁護士会と犯罪被害者支援団体の協働・連携が重要である。
 茨城弁護士会・静岡県弁護士会のように支援団体の設立が先行し、個々の弁護士が先験的に支援団体の活動に飛び込んで地歩を固め、弁護士会においても独自の委員会や窓口を設置すべきであると提言している単位会、また、福岡のように一方で民間の支援団体が活動し、他方で弁護士会の窓口が設置されて双方のネットワークと連携が模索されている単位会などの例が報告されている。
 弁護士会での犯罪被害者相談窓口が設置されて精神的支援も取り込んでいる単位会でも弁護士会での取組には限界があることが意識されている。被害者の支援団体との協働・連携の重要性をよく認識し協働と連携をどう図っていくべきかが検討されるべきであろう。

 A専門的知識のある機関、関係機関との連携
 犯罪被害者の支援については、まず第一に警察との連携や協働の問題がある。従来からも警察や警察の指導の下に作られた被害者支援団体との間で連携や協働がなされてきた。犯罪被害者と第一にかかわるのは警察などの捜査機関だからである。多くの単位会で被害者支援連絡協議会に弁護士会として参加しているのはこの観点からの連携である。

 警察との連携については種々の立場からの意見はあるものの現在その必要性を否定するものはいない。現在はどのように現実に連携していくかが問われているというべきであろう。

 警察の指導の下に設立された被害者支援センターが第一次的に被害者の相談を受け、そこで法律相談が必要と判断された場合弁護士会が被害者からの相談を受けつけるという仕組をとっている単位会も多い。この場合は心理問題と法律問題の振り分けを警察や警察の指導の下に設立された被害者支援センターが第一次的に行っていることになる。この振り分けの妥当性の検証は必要だが、弁護士会の窓口と警察や被害者支援団体との連携のひとつのあり方といえよ う。

 第二に、専門的知識のある機関や専門家との連携の問題がある。精神科医や医療関係者、臨床心理士、いのちの電話相談員などのカウンセラーなど被害者の精神面の理解に配慮のできる専門家集団あるいは専門家との連携の問題はつとに重視されるようになってきている。

 弁護士会の訪問記でも、茨城県の水戸被害者援助センターにおける常磐大学の被害者学の研究者などとの長期にわたる実践、東京弁護士会・第一東京弁護士会での東京医科歯科大学犯罪被害者相談室との連携、大阪弁護士会における大阪犯罪被害者相談室関係者を招いての研修、大分県弁護士会での臨床心理士会との交流、福岡県弁護士会での多くの専門家が参加しての支援団体の設立など、各単位会での多くの実践が報告されている。

今後もこうした専門的知識のある機関、関係機関との有機的連携を模索していくべきである。

 B当番被害者弁護制(弁護士派遣制度)の模索
犯罪被害者支援については、被害者の側からコンタクトを求めて来ることのできない場合の方が必要性が高いという指摘がある。こうした点を考慮して、イギリスのイズリントンでは地域の支援団体に警察署からその日の犯罪被害者のリスト一覧が提供され、支援団体では援助が必要と思われる被害者に支援団体の方から連絡をして必要な支援を申し出るというシステムがあると報告されている(第6章 第1節2のC)。

 大阪弁護士会で検討されている「弁護士派遣制度」は自ら支援団体にコンタクトすることのできない被害者へのアプローチとして注目に値する。また静岡県弁護士会でも自前の被害者支援センターの設立を目指しつつそこにおける活動として「危機介入」や「弁護士派遣制度」などを活動内容として取り入れていくことが検討されている。

 C財政的基盤の確立と公費負担制
 弁護士会の犯罪被害者支援活動について財政的基盤を確立していくべきである。
 第一に相談活動の経済的基盤の確立の問題がある。被害者に対する相談は、電話相談及び1回目の面接相談は無料としているところが大半である(訪問した九つの弁護士会ではすべて無料としていた)。ただし相談担当弁護士に対して日当などの費用が支払われているかどうかは会により対応に差があった。

 支援活動の継続性を確保するためには相談活動の経済的基盤を確立する必要がある。この点については、
 ア.法律相談センターの予算から支出することで対応する、
 イ.法律扶助制度の利用ができるように提言する(東京弁護士会)、
 ウ.犯罪被害者支援機関も使える基金を作る(大阪弁護士会)、
 などの対応策が提言されている。

 第二に、もっと広い意味で、弁護士会だけでなく他の犯罪被害者支援機関も含めて利用できる「犯罪被害者のための特別基金」を作れないかという問題がある。大阪弁護士会ではこの特別基金の検討が課題とされ、福岡県弁護士会でも法律扶助協会への贖罪寄付の受入を福岡犯罪被害者支援センターに移行させてはどうかが検討され始めている。具体的対応は今後検討される課題と考えるが、これらの提言は貴重である。