| 第5章 諸外国の犯罪被害者支援 第1節 アメリカにおける犯罪被害者支援 | |
| 1.沿 革 アメリカ合衆国においては、1960年代から犯罪の増加に対する危機感が募り、1970年代に犯罪被害者援助運動が始まり、次々に全国的及び地域的援助団体が生まれていった。その経過は多数の文献で紹介されているのでここでは詳しく論じないが、当初は主に強姦や殺人被害者のための支援団体ができ、その後様々な犯罪類型ごとの被害者、また国籍や民族、障害の有無などに応じた多様な被害者に対応した援助を行うべく、サービスの内容の多様化が進んでいる。数字だけ見ても、1980年に約200、1990年に約7000あった民間援助組織が、現在では1万を超えているといわれる。さらに、近年ますます多分野に渡る専門家が共同して総合的な援助サービスを行う必要が認識され、官民問わず、総合的かつきめ細やかな援助活動が展開されるに至っている。 法制度上も、被害者補償制度については早くから発展が見られた。1965年のカリフォルニア州を初めとして、1980年までに28州、1992年までに全州 において犯罪被害者補償に関する法律が制定されている。 このような民間支援団体の活躍および被害者補償制度の発達に比して、刑事司法手続における被害者保護のための法制度整備、及び法曹界における意識変革には相当の時間を要したといってよいだろう。 まず、アメリカ合衆国の刑事訴訟法においては、日本と同様、訴追権は検察官に独占され、被害者は証人としての地位しか有さない。このような刑事司法制度において犯罪被害者は長く強い疎外感を感じさせられてきた。被害者援助運動が盛り上がる中で、徐々にこのような刑事司法制度の問題点が認識されるようになり、1982年に刑事司法システムにおける犯罪被害者の研究を行うために設置された大統領諮問委員会が出した最終報告書の68項目の勧告を受けて、被害者保護立法が整備されるようになった。 この勧告以後、州レベルで被害者の権利を立法化する動きが盛んになった。1980年代に多くの州が被害者権利章典を制定し、1990年代には州憲法修正を行う州が相次いだ。それらの内容について全州的に一貫した基準はないが、ほとんどの州の権利章典は、@利用可能な経済的及び社会的サービスについて情報を提供される権利、A被害者が加害者の身柄の状況、捜査状況、公判期日、判決などの情報や通知を受ける権利、B量刑段階や仮出獄段階において被害者影響陳述(victim impact statement)を提出する権利、C加害者から被害弁償を受ける権利、などの基本条項を備えている。これら以外にも、多くの州で加害者による脅迫から保護される権利、刑事司法手続に出席する権利、判決前報告書として被害者の被った影響に関する情報を載せることなどが規定されている。 また連邦レベルでも、基本的な法整備及び政策として、1982年に被害者及び 証人保護法が制定され、刑事司法プロセスにおける被害者と証人の不可欠な役割を強化・保護することなどが唱われ、同法により義務づけられて、1983年には被害者と関わる刑事司法当局者のための基本的政策などを規定した「被害者及び証人支援のための司法長官ガイドライン(AG Guideline)」が発表された。 さらに、民間援助団体の財政基盤確立に大きく貢献した法律として、1984年の犯罪被害者法(Victims of Crime Act=VOCA)がある。この法律により犯罪被害者基金が設立され、犯罪者が支払う罰金などを財源に、3億ドル余(1998年度)もの資金を全米各地の民間援助団体への補助などに充てている。 この他、最初の連邦レベルの被害者権利章典である犯罪規制法(1990年、「1990年被害者の権利及び被害弁償法」又は「被害者権利法」とも呼ばれている)があり、連邦の法執行官、検察官、矯正当局者らに、被害者の基本的権利 が保障されるよう最善の努力を要求している。 また、被害者が刑事司法手続に参加する権利を定めた法律として重要なのが、1997年の被害者の権利明確化法である。同法は被害者が刑事司法手続に参加し被害者影響陳述を口述し又は提出する権利を有するべきであるということを明確化 している。 これら以外に、個別の犯罪類型に関して、暴力犯罪規制及び法執行法(1994年、性暴力、DV、性的搾取、児童虐待、遠隔取引詐欺の被害者に対して新たな権利を創設)、ミーガン法改正(1996年、有罪判決を受けた性犯罪加害者の身柄 釈放や居所について地域に知らせる法律)、反テロリズム法(1996年)、反ストーキング法(1997年)(資料1)などが制定されている。 以上、この20年でアメリカ刑事司法システムにおける被害者の地位は劇的に向上したといえる。しかし、これらの法律の多くが、運用レベルで十分に実施されているとは言い難いこと、手続参加の権利付与による被害者の満足度に関する検証が 進んでいないことなどが問題点として指摘される。また、検察官が答弁取引に先立って被害者と話し合うこと、加害者の釈放決定手続に被害者が参加できること、少年犯罪被害者の包括的権利を設けることなどが、今後の課題として認識されている。 2.アメリカにおける被害者支援制度の現状 (1)犯罪発生から矯正段階までの段階ごとの被害者支援制度 アメリカでは、犯罪被害者に対する援助サービス及び制度として、どのようなものが存在するだろうか。@犯罪発生直後、A捜査段階、B公判段階、C矯正段階と時系列に従って概観する。特に犯罪発生直後と矯正段階については、日本ではまだ十分に議論されておらず、参考にすべきところが多い。 警察機関と民間団体の共同援助活動といった例のまだない日本と比べると、アメリカでは近年ますます各種専門分野の専門家が共同して行う援助サービス、総合的なサービスの必要性が認識されている。これは、被害者を主体に、被害者が必要としていることは何であるかを原点に、あるべき援助制度を模索した当然の帰結であると思われる。 したがって、時系列に沿って、被害者を軸に制度・サービスを概観することに意義があると思われる。 また特筆すべきは、アメリカでは、法制度においても支援活動においても、「犯罪被害者」をひとくくりにして扱うことはあまりなく、殺人、交通事故、ドメスティック・バイオレンス(domestic violence=夫婦・恋人など親密な関係における男性から女性に対する暴力のこと。以下単に「DV」と記述することもある。)、ストーキング(stalking=つけ回す行為のこと)、児童虐待、強盗、詐欺など犯罪類型ごとに様々なサービス行われている点である。以下では必要に応じて、犯罪類型に応じた制度・サービスの特徴に言及する。 @犯罪発生直後 この段階では、警察機関及び民間の被害者援助組織が実に様々な援助活動を 行う。犯罪発生直後におけるサービスは極めて重要である。この段階で、被害者は、以後自分がどのような立場に置かれ、どのような扱いを受けるのか、予測をつけてしまうからである。そこで、警察官や援助スタッフは、犯罪発生時における被害者への対応を適切に行うべく、日頃から十分な訓練を受けることが義務づけられている。 ア.24時間ホットライン 被害者は、24時間の電話相談サービスを利用できる。こうしたサービスを行う公的機関・民間団体は数多い。訓練されたスタッフによるインテイク(振り分け)により、直ちに警察官や救急車が駆けつけるべき緊急のケースか否か、関係機関の紹介で足りるかなどを判断し、適切な情報提供がなされる。また、NOVA(後述)のような全国組織では、全米各地から被害者の電話を受け付け、被害者の住む地域にある適切な援助団体を紹介する。 イ.危機介入 被害者は、犯罪が起きた直後から、適切なサービスを受けられなければならない。カウンセラーや民間被害者援助スタッフが警察官と共に犯罪現場に駆けつけ、被害者を保護することがある。その際カウンセラーや民間スタッフは、あくまで自身の安全にも気を配らなければならず、例えば、犯罪が現に起きている状況で被害者からホットラインに電話が入った場合、軽率に現場に駆けつけるわけではない。このような状況では当然ながら警察機関が第一次的な責任を負い、被害者の生命・身体の保護に努める。危険が去ったことが確認された後に民間スタッフなどが捜査機関や病院への付添、送迎など、できうるサービスを行う。 警察機関と民間団体が共同で危機介入を行う州・地域もある。特に児童虐待やDVのケースでは、そのための特別部隊が設置されており、警察官が心理カウンセラーなどと組んで迅速に被害者を援助する例もある。 ウ.緊急の金銭・食料・衣服などの援助 被害者は、当面必要となる金銭、食料、衣服などの提供を受けることができる。子どもには、例えばハンバーガーのクーポン券が与えられたりもする。 エ.専門家・専門機関・シェルターなどの照会 危機的状況から被害者の生命・身体の安全が確保された後は、医師や弁護士、カウンセラー、シェルターなどの紹介を受け、または、権利実現のため様々な法的手続についての説明及び被害者が受けうる援助サービスについての情報提供を受けることができる。 オ.付添・送迎サービス 犯罪被害に遭った者は、例えば初めてレイプ検査のため病院に行き、また初めて警察の取調べを受けるにあたって、大きな不安を持つ。援助スタッフによる病院や警察への付添及び送迎サービスなどを受けることで、この不安や精神的負担を軽減できる。 カ.犯罪現場の清掃、鍵・窓の修理・取り替え 自宅で犯罪が起き家を汚された場合、現場で壊れた家具を片づけたり血で汚れた床を掃除するサービスなどがある。また、壊されたドアの鍵や窓の修理・取り替えサービスも受けることができる。こうしたサービスは些細なものに思われるかも知れないが、それまで当たり前のように存在していた整った部屋、家具、窓や鍵を突如として失い喪失感を抱える被害者や犯罪により失ったものを回復する気力すら起こらずあるいは経済力がない被害者にとっては、実際的で重要なサービスである。 キ.死亡の告知 殺人事件や傷害致死事件において、病院に運ばれた家族の死が決定的となった場合、愛する家族の死を知ることになる遺族が、その心理に十分配慮した方法で告知を受けることができるよう配慮がなされる。「死亡の告知(death notification)」と呼ばれる援助活動である。「死亡の告知」を行う法執行機関の職員の心理的負担の大きさと不適当なやり方で告知した場合の遺族に対する悪影響を認識して、法執行機関は現在適切な「死亡の告知」を行えるよう実施要領を確立しようとしている。 ク.再被害予防のための援助 さらに、DVやストーキングのケースにおいて加害者による再度の被害が予想される場合、加害者に近づかせないために緊急に保護命令(後述)の申立手続をとることができる。こうした申立手続については、援助スタッフから十分な説明と援助を受けることができる(資料12.14.15.16)。 ケ.通訳サービス 外国人の被害者は通訳サービスを受けることができる。 コ.保育サービス 警察や病院などに行っている間子供の世話をしてくれる保育サービスもある。 サ.被害回復援助 奪われた財産の回復のため、また補償や被害弁償を受けるために必要な情報の提供なども重要である。 A捜査段階 警察・検察による捜査が開始されて以降は、捜査についての情報提供に関する援助が重要となる。まずは、公的または民間のスタッフにより、今後進んで行くであろう刑事司法制度上の手続過程について説明を受けることができる。被害者は、自分が警察などで行う供述の意味や、任意提出した証拠の行方など様々な疑問につき適切な説明を受けることで、見通しをもって被害後の生活を送ることができる。一参考人としてでなく、事件の当事者として尊厳をもって扱われることで、被害者が刑事司法システムに対して持つ特有の疎外感を軽減できる。但しこの段階における被害者の手続参加の権利(以下のウエオ)は、アメリカでもまだ充実しておらず、これを認める州法は少数にとどまっている。 ア.捜査状況についての情報提供 被疑者逮捕の通知、逃亡、釈放などの身柄に関する情報を受けることができる。被害者が最も恐れるのは、報復などの再被害であるから、被疑者の身柄に関する情報の提供は極めて重要である。 イ.脅迫と嫌がらせからの保護 加害者による脅迫や嫌がらせからの保護は、極めて重要な課題であると認識されており、いくつかの州では被害者・証人に対する脅迫、嫌がらせ、又は報復を刑法上の犯罪としている。裁判所に対し、起訴前の釈放にあたって被害者の身体の安全を考慮するよう求める州もある。 また加害者が逮捕されれば、司法機関は職権で保護命令(後述)を出すことができ、被害者の生命・身体は再被害から守られる。さらに裁判所は、被害者と接触しないことを釈放の条件とすることができる(資料12.14.15.16)。 他に、DVの被害者などに対して携帯電話を支給、危険が迫ったら直ちに警察などに連絡できるようなシステムを備えている州・地域もある。 ウ.釈放手続への関与 州によって、起訴前の釈放手続における被害者の関与を認めている。具体的には、検察官に起訴前の釈放(pretrial release)について被害者と協議するよう求めている。 エ.保護観察官の起訴前調査報告書 州によって、保護観察官が作成する起訴前調査報告書において、被害者が犯罪によって受けた影響につき記載しなければならないとされている。 オ.答弁取引に先だって検察官と協議する機会の付与 州によっては、検察官に対し、答弁取引に先立って被害者と協議し、又は被害者の見解を聞くことを求めている。 B公判段階 起訴がなされて以降は、検察官など担当の公務員が犯罪被害者に公判の手続 や被害者の権利についての知識、当該事件についての情報を与えることになる。 また、加害者により被害者に対して脅迫や嫌がらせなどが行われないように、被害者を保護するための方策が用意されている。さらに、量刑手続において、被害者に犯罪による影響や意見を述べる権利を与えている州も多い。 被害者を脅迫や嫌がらせなどから保護することは刑事裁判の維持のために重要なこととされている。また、被害者が刑事手続において発言する機会を与えられることにより、手続に対する満足度が増すことが期待される。 ア.被告人の身柄に関する制度 犯罪被害者は、被告人が釈放されたかどうかなど、被告人の身柄についての情報を得ることができる。また、州によっては、検察官は、被害者らが被告人らによって暴力や脅迫を受けるおそれがあると述べた場合、釈放の取消を申し出ることができると規定する権利章典もある。 以上の措置は、被害者が加害者からさらに身体などに害を加えられないようにするためのものである。 イ.被害者待合室など 多くの州の権利章典において、裁判所は、被害者が被告人と接触しなくてもよいように、可能な場合には被害者ら専用の待合室を設けなくてはならず、待合室の設置が不可能であるときも、なるべく被害者が被告人と接触しなくてもよいような措置を取らなくてはならないとされている。なお、被害者支援組織が被害者のための待合室を裁判所内に設置している場合もある。被害者が被告人と接触しなくてすむことにより、被害者の心理的負担が軽減される。 また、裁判所内に託児所が設置されている場合もあり、証人などとして裁判所に来た被害者は子どもを預けることができる。 ウ.被害者のプライバシ−保護 州によっては、被害者らが被告人らに暴行・脅迫を受けると考えるにつき合理的理由がある場合、被害者は裁判所に証人尋問などにおいて被害者の住所・職場などを話すことを強制されないよう求めることができると規定する権利章典もある。また、児童が被害者のケースにおいて、被害者が証言する場合、証人を法廷とは別の部屋に行かせ、その法廷からはその部屋の様子をビデオモニタ−で見ることができるようにし、証人が被告人と直接対面しないで証人尋問を行う制度もある。 被害者のプライバシ−が守られることにより、加害者による被害者に対する報復などを防止することができる。 エ.手続についての情報提供 被害者は検察官から刑事手続の流れ、被害者の権利、公判の日程などについての情報提供を受けることができる。また、検察官は、被害者に対して迅速に被告人が有罪となったか、被告人は何罪で有罪となったかなどの情報を提供しなくてはならない。民間あるいは公的支援組織が被害者に手続について教え、公判期日の連絡を行うこともある。 これらは、被害者の当事者としての知る権利に応えるものである。 オ.迅速な審理 州によっては、児童虐待、性的被害事件について、検察官は裁判所に一定の期間内に手続を行うよう求めることができると規定する権利章典もある。 カ.被害者の出頭保障 州によっては、被害者が証人として出頭するために会社を休んだために解雇や懲戒処分にされた場合、解雇などをした者には刑罰が課されると規定する権利章典もある。 キ.Victim Impact Statement(被害者影響陳述)及びVictim Statement of Opinion(被害者意見陳述) 多くの州では、被害者は判決前調査報告書作成の準備のために、または量刑のために、書面または口頭で、被害者が犯罪によりどのような被害を被ったか、あるいは量刑についての意見を陳述することができるという制度がある。このように、被害者が犯罪によりどのような被害を被ったかを陳述することを Victim Impact Statement(VIS、被害者影響陳述)、被害者が量刑について意見を陳述することを Victim Statement of Opinion(被害者意見陳述)と言う。(資料13) ク.被害回復 裁判所は被告人に対して、被害者への被害弁償を命じることができる。被告人が賠償命令に合理的理由なく応じなかった場合、被告人が保護観察中であるときは保護観察を取り消されて収監され、また新たに刑を科している州もある。 これらは、被害者の損害を早期かつ簡易に回復するための制度である。 ケ.法廷への付添 被害者は民間あるいは公的な犯罪被害者支援組織から法廷への付添サ−ビスを受けることができる。付添により、被害者の不安・緊張が軽減される。 C矯正段階 近年においては、刑の執行に携わる機関の基本的な哲学が急激に変化しつつあり、以前は受刑者に対する制裁や社会復帰のみがその役割と考えられてきたが、現在では犯罪被害者援助もその役割と見なされるに至っている。具体的には、犯罪被害者は手続にその意見を反映させることができ、受刑者の身柄情報を得ることができる。 ア.情報提供 執行関係者は、被害者に仮釈放のためにヒアリングが開かれること、受刑者の釈放・仮釈放など時期、受刑者が逃走したこと、仮釈放の条件違反があったことなどを告知しなくてはならない。州によっては、被害者はコ−ルセンタ−に電話をして、受刑者の身柄情報を常時知ることができる。また、インタ−ネットで、被害者及び一般市民に受刑者の身柄情報を提供している州もある。 受刑者の身柄についての情報などを与えられることにより、被害者は自己の安全を図るための予防策を講ずることができる。 ほとんどの州において、釈放された性犯罪加害者の所属する地域か特定の個人に、その性犯罪加害者の所在といった情報を通知するという内容の法律がある。これは、ミ−ガンという7歳の女の子が仮釈放中の常習的性犯罪者に殺害されたという事件がきっかけとなっている。 ウ.受刑者による被害者に対する報復などへの対応 受刑者が被害者に嫌がらせなどを行う場合があり、そのような場合、刑期を長くする、より重い受刑分類に変更する、嫌がらせなどを根拠に起訴のための捜査を捜査機関に求める、仮釈放の取消を推奨するなどの対処をとることになる。 カリフォルニア州では、受刑者が被害者に嫌がらせの手紙や電話をすることができないように、手紙の検閲などをしている。 受刑者が施設外処遇をされている場合、その監督に当たる公務員は、受刑者が被害者に害を与えないように、受刑者を監視する。性犯罪やDV事案については、特別なトレ−ニングを受けた公務員が集中的に監視を行う。 また、電子監視装置の使用、外出禁止(house arrest)、抜き打ちのアルコ−ル及び薬物検査、被害者の居住地域外への仮釈放などの措置も被害者の安全を確保するために用いられる。 エ.Victim Impact Statement(被害者影響陳述) 被害者は、受刑者の仮釈放などについて権限を持つ委員会の参考のために、書面を提出するなど意見(VIS)を述べる権利を持っている。仮釈放のためのヒアリングに被害者が出席して意見を述べることができる州もある。 被害者の恐怖を和らげるため、ヒアリングの際、仮釈放を行う部局のスタッフが被害者に付き添う、仮釈放委員会が受刑者とは別に被害者から意見を聞く、被害者の側からのみ受刑者を見ることができるガラスを被害者と受刑者の間に置くなどの措置がなされている。 オ.受刑者に対する被害についての教育 矯正施設において、受刑者に対して、犯罪により被害者がどのような被害を受けたかを教育するプログラムが行われ、被害者もそのパネリストとして参加している。 被害者がこのようなプログラムに参加することにより、被害感情がなだめられることもある。 カ.損害賠償 加害者は被害者に損害賠償金を支払うのを嫌がる傾向にあるので、各州が賠償支払を監督したり賠償資金を集めるなど、その支払について積極的な役割を演じている。賠償資金には、受刑者の労役による賃金、税金の還付分などが充てられる。 カリフォルニア州では、州の矯正局は受刑者の預金に直接執行し、被害者に対する損害賠償に充てることができる。いくつかの州では、保釈保証金を直接被害弁償に充てることができるようになっている。 キ.被害者加害者対話プログラム(Victim-Offender Dialogue) 行刑段階でも、特に少年の保護観察段階において、被害者加害者対話プログラムが行われてきている。これらのプログラムは主に財産犯において行われ、被害者がその損害を回復するのに有用だと認められている。近年では、矯正機関は、暴力犯罪事案での被害者加害者対話プログラムにも取り組んでいる。 D恒常的な制度活動 ア.啓蒙・宣伝 (a)被害者などに対する啓蒙・宣伝 アメリカでは、公的機関及び民間団体のそれぞれが、犯罪被害者支援に関する啓蒙・宣伝活動を積極的に行っている。 公的機関及び民間団体の啓蒙・宣伝活動としては、まず犯罪被害者支援に関するパンフレットの配布、機関誌の発行などがあげられる。 今回の訪問先のいずれも、犯罪被害者などに配布するための多数のパンフレット、ポスターなどが準備されており、視察団も数多くのパンフレットなどを持ち帰ることができた。パンフレットなどは基本的に英語によるものであるが、ニューヨークのヴィクティム・サービスでは、英語以外にスペイン語のパンフレットが準備されていたのが特徴的であった。また、司法省犯罪被害者局の資料室には、犯罪被害者問題に関する数多くの資料が展示されていた。 その他の方法によるものとしては、ほとんどの団体がホームページを開設しており、これを通じて各種犯罪に対する対処方法、犯罪被害に関する文献紹介などの情報を発信していることが特筆されるべきである。中でも、司法省犯罪被害者局のホームページは極めて充実しており、そこで紹介されている「New Directions from the Field:Victim's Rights and Services for the 21st Century」(テキスト又はPDFファイルにて全文のダウンロードが可能となっている)は犯罪被害者問題に関する概説書として、犯罪被害者支援問題全般にわたり非常に有益な情報が記載されている。 民間団体であるNOVAは、スタッフ総勢9名の少人数で運営されている団体であるが、充実した内容のホームページを公開している。 (b)立法機関に対する働きかけ アメリカでは、被害者支援の民間団体による立法機関へのロビー活動が非常に盛んである。ロビー活動を行うのは、主に連邦全体あるいは州全体を統括する「傘となる組織」である。連邦レベルでは、例えばNOVAが連邦憲法中に被害者の権利を保障する条項を加える憲法改正に力を入れて取り組んでおり、州レベルでもNPOによる積極的なロビー活動が行われている。 イ.訓練 アメリカでは、公的機関及び民間団体のそれぞれが、犯罪被害者支援に与する人に対するトレーニングを提供している。 (a)公的機関の取組み 司法省犯罪被害者局は、犯罪被害者問題に関する様々なトレーニングに財政的援助を行っているが、トレーニングの対象者は多岐にわたっており、裁判官、検察官、法執行機関、裁判所書記官、身体的・精神的医療に関わる人々が含まれている。犯罪被害者・証人についてのトレーニングは、連邦の70の法執行機関に対しても提供されており、その中にはFBI(連邦捜査局)、国防省も含まれている。司法省犯罪被害者局は、トレーニング用の詳細なマニュアルを作成している。 司法省犯罪被害者局は「犯罪被害者局トレーニング・技術的援助センター(TTAC)」を設立したが、このセンターは司法省犯罪被害者局の提供するトレーニングと技術的援助に関する情報の集約的なアクセスポイントとなっている。 (b)民間団体の取組 アメリカでは、連邦レベル、州レベルを問わず、NPOによる、犯罪被害者支援問題に関与する人たちに対するトレーニングの提供が積極的に行われている NPOによるトレーニングも、その対象者は、裁判官、検察官、法執行機関、精神医療専門家、看護婦、ソーシャルワーカー、聖職者など、多岐にわたっている。また、NPOが作成するトレーニング用のマニュアルも、実践的で非常に充実した内容となっている。 ウ.カウンセリング (a)被害者にとってのカウンセリングの重要性 被害者の話をよく聞きその心情を理解することは、被害者支援の基本であり、このような広い意味でのカウンセリングは、公的機関であると民間機関であるとを問わず、また犯罪発生の当初であると刑事手続の終了後であるとを問わず、ほとんどの被害者支援組織・制度で行われているといっても過言でない。 また、特に殺人・強姦・DV・児童虐待などの被害者は、心に深い傷を負い深刻なトラウマやPTSD(Post-traumatic Stress Disorder心的外傷後ストレス障害)を抱えてしまうことが多い。家宅侵入窃盗や路上強盗などの財産犯であっても、独り暮らしの高齢者や女性が、被害の後も恐怖心から独りで家にいられない、外を出歩けないなどの心的後遺症を抱えてしまうことがある。これら深刻な精神的被害に対して、被害者支援組織・制度は、精神医療・心理学の専門家やカウンセラ−を紹介し、継続的なカウンセリングを受ける機会を提供している。 (b)被害者支援を行う人々によるカウンセリング 民間団体でも警察・検察・裁判所などの公的機関でも、被害者と接する人々には、被害者の心理や被害者と話すときの心構えなどについての研修が行われ、そのためのトレ−ニング・プログラムやマニュアルなどが作成されている。テキサス州オ−スティンでは警察の危機対応部隊にカウンセラ−を同行しており、ニュ−ヨ−ク市では警察・検察・裁判所と民間団体のカウンセラ−が協力してDV事件にあたる制度が実施されており、警察は事件発生現場からカウンセラーに連絡し、検察官はカウンセラ−とペアで事件を捜査し、裁判所はカウンセラ−が被害者に同行して法廷に来ることを認めている。 (c)精神医療・心理学などの専門家によるカウンセリング アメリカで被害者支援制度が発達したひとつの要因に、広範な調査と豊富な情報に基づく被害者学の発展があげられる。精神医学や心理学における被害者の研究も盛んで、たとえばアメリカ精神医学会のPTSDに関する診断マニュアルは世界的に用いられているし、サウスキャロライナ医科大学にある全米犯罪被害者調査トリ−トメントセンタ−では被害者化の調査研究やカウンセリングの方法が研究され、専門家が養成されている。こうした背景に裏づけられて全米各地の病院や援助機関で精神医療・心理学などの専門家が活動しているのである。 |
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