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第1節 アメリカにおける犯罪被害者支援 | |
| (2)注目すべき制度 @保護命令 ア.保護命令とは何か? 保護命令とは、文書による裁判所の命令であり、被害者を虐待や嫌がらから守ることを目的とする。保護命令は、裁判官が、申立人の申立に基づいて、一定の裁量の範囲内で内容を決定することができ、例えば虐待者の行動について、次のようなことを定めることができる。 ・被害者又は被害者の子どもに嫌がらせ又は虐待することをやめさせること。 ・被害者、被害者の自宅、被害者の職場又は被害者の家族に近づかないこと。 ・麻薬やアルコールの影響下で被害者の自宅に近づかないこと。 ・被害者又は被害者の子どもに連絡をとらないこと。 ・被害者の子ども、ベビーシッター、保育所又は学校に近づかないこと。 ・子どもの健康、安全又は福祉に危険をもたらす行為をしないこと。 ・暴力者教育プログラムに参加すること。 イ.民事保護命令と刑事保護命令 民事裁判である家庭裁判所の保護命令制度もしくは刑罰の一種である刑事裁判所の保護命令制度の2種類がある。それぞれ、目的、要件、手続などが異なる。事件によって両方の制度を利用することもある。 家庭裁判所の保護命令は、申立人とその家族を守ることを目的とする民事裁判である。家庭裁判所の保護命令を得るには、被害者が直接裁判所に行けば、詳細なパンフレット(資料15.16)や書き込み式の申立用紙が備え置かれていたり(資料14)、専門のスタッフが援助してくれたりするので、容易に申立を行うことができる。 刑事裁判所の保護命令は、刑罰の一種であり、虐待者を処罰することが主な目的である。したがって、基本的には、虐待者が逮捕されている事案において、検察官が職権で申し立て、裁判官が保護命令を出すか否かを決定する。被害者は警察や検察官に対して保護命令を出してほしいと申し出ることはできるが、職権発動を促すという意味しかない。 ウ.仮保護命令と正式な保護命令 保護命令には、仮保護命令と正式保護命令がある。民事の保護命令においては、被害者が申立をした際、申立人だけから事情を聞き、一応理由があると認められると、早いときには申立てをしたその日のうちに、仮保護命令が出る。正式な保護命令が出るまでの間しか効力を有しないが、違反の効力は正式な保護命令と何ら変わらないので、ドメスティック・バイオレンス(DV)などに対する即効性ある強力な防御策となっている。正式な保護命令は、当事者双方が出廷し、審理を経た後に出される。ニューヨーク州では、正式な保護命令の効力は通常1年間であるが、事態が深刻化するような状況がある場合、3年間まで有効な保護命令が出されることもある。 刑事事件においては、罪状認否手続で被告人が無罪を主張し、保釈が許可された場合に仮保護命令が出される場合がある。更に、判決言渡時に刑の一部として正式な保護命令が出されることもある。この正式な保護命令は、執行猶予判決を受けた被告人に対しても出すことができる。刑事裁判の正式な保護命令は、ニューヨーク州では、執行猶予の場合1年、軽罪の場合3年、重罪の場合5年まで有効期間を設けることができる。 エ.保護命令の効力 保護命令は申立人の安全を保障するものではないが、虐待者が保護命令に違反すれば犯罪となり逮捕されることがあるので、虐待者に対して間接的な強制力を有する。また、保護命令があることにより、警察の身辺警護を受けるのが容易になったり、警察に電話などで相談した際に、警察が真剣に話を聞いてくれたりなどの実質的な効果も期待できる。こうした効力は、仮保護命令においても全く同じである。そのため、保護命令が、DVの被害者の強力かつ即効性のある防御策となっているのである。 オ.日本との比較 裁判所がその裁量で、様々な保護命令を下すことができるという点、保護命令違反が犯罪とされており、強い効力を有する点、民事の保護命令においては、裁判所に事情を聞いて申立書を作成する専門のスタッフが常駐しており、被虐待者本人が裁判所に行きさえすればよいという点、及び、仮保護命令の制度があり申立直後から有効性が認められる点が、日本の仮処分制度にはない大きな特徴である。 さらに、DVに限って言えば、わが国では「家庭内のことには警察は不干渉」との風潮が強いが、アメリカにおいては、例えばニューヨーク州の法律では、「虐待者が被害者と同居していること、逮捕により被害者に財政上の困難が生じること、虐待者と被害者がかつて又は現在結婚していること、怪我がわずかである又は見えないこと、虐待者が警察官の知り合いであったこと」などは逮捕を免れる理由にはならないとされており、DVが犯罪であるとの認識が徹底している。わが国においては、まず、DVが「犯罪」であるとの認識を社会に広めることが最優先の課題であろう。 A修復的司法( Restrative Justice ) ア.修復的司法とは 国家という概念が未だ確立していなかった前近代においては、犯罪は被害者と加害者の間の問題ととらえられ、地域社会がその解決にあたってきた。近代国家が確立し、国家が社会の治安維持という目的をもつようになると、被害者の復讐を禁じるとともに、加害者を処罰する手続と権限を国家が独占するようになった。犯罪は国家と加害者の関係の問題となり、被害者は刑事司法の当事者ではなくなり、単なる証拠(証人)として扱われるようになってしまったのである。 修復的司法は、再度犯罪を被害者・加害者・地域社会の関係の中でとらえ直そうとする考え方である。すなわち、犯罪は地域社会の中で起きてしまったマイナスの出来事であり、地域社会自体のもつ修復力をもって加害者にその責任を自覚させ自らその償いをさせるとともに、被害者の受けた苦痛や損害の回復をはかり、それによって地域の安全や人間関係を修復していこうとするものである。 修復的司法は、ニュ−ジ−ランドのマオリ族の伝統的紛争解決方法にその起源をもつもので、ニュ−ジ−ランド・オ−ストラリアではじめに盛んになった。ニュ−ジ−ランドでは、1989年に児童・青少年および家族法で家族集団会議(Family Group Conference )が法制化され、修復的司法調停プログラムに関する法律が制定されて以後、裁判になるケ−スが13000件から2500件に減少し、非行や犯罪を犯した若者が矯正施設に収容されるケ−スが半減したと言われている。 ヨ−ロッパでは、全体で900以上のプログラムがある。ドイツでは、調停が広まっており、統一前は21のプログラムしかなかったのが、現在では380以上のプログラムをもつに至っている。 北アメリカでは、1974年にカナダのオンタリオ州で「加害者と被害者の和解プログラム」が始まった。アメリカ合衆国でも、70年代からNGOの活動などを通じて草の根的に広まり、94年にミネソタ大学に修復的司法・調停センタ−ができ、全米法律家協会(ABA)が支持を表明した。96年には司法省も修復的司法を国内に広めるという方針を打ち出し、現在20州で法制化されており、残る30州でも法律にはよらないものの、政策として実施されている(資料17.18)。 イ.被害者加害者調停 修復的司法の具体的手法の中で最も広く用いられているのは、被害者加害者調停(victim offender mediation )である。これは、被害者ないし加害者の申立、あるいは裁判所や保護観察所からの勧めを受けて、調停者 (mediator、調停の仲介進行役)が被害者と加害者の対話を仲介し、被害者には被害の実情やその影響などを、加害者には犯罪を起こした経緯やそれに対する現在の後悔・反省などを、双方が直接対面して対話する形で語ってもらい、最後にその対話の中から自然に浮かび上がってくる謝罪や償いの方法を取り決めるという方法である。 調停者は、調停が二次被害を生まないよう、あらかじめ被害者と加害者に別々に接触し、調停について十分説明するとともに、双方の現在の心情が調停に向く状態にあるか否かを確かめる。また、調停はあくまでも被害者・加害者双方に参加の意思があることが前提であり、どちらかにその意思がなければ取り止められる。 ウ.家族集団会議(family group conference ) 少年の非行事件に用いられる手法で、裁判所や保護観察所、警察などの勧めを受けて、ファシリテ−タ−(facilitator )と呼ばれる仲介進行役が、被害者側と加害少年側との双方に連絡を取り、会議の趣旨をよく説明した上、双方が同意した場合に被害者側関係者(本人・家族・その支援者など)加害者側関係者(本人・家族・学校の教師・友人などの支援者)と地域住民(保護観察官・警察官などその事件に関係をもった人のみの場合もあれば、一般の住民が参加する場合もある)を呼んで会議を開き、そこで被害者側には被害の実情や影響を、加害少年側には非行に至った経緯やその後の心情などを、地域住民には地域が受けた影響や被害者加害者へのアドバイスなどを各々語ってもらうことにより、被害修復のための謝罪や償い、賠償や少年の更生のために取るべき手段などを取り決めるというものである。 被害修復の方法としては、加害少年が被害者の家の庭の芝刈りをするとか、地域のボランティア活動に参加するとか、そこで得られる収入から毎週少額でも賠償金を被害者に届けるなど、刑事司法における刑罰と比べ格段に柔軟な解決策が考え出される。 3.視察先の報告 (1)ヴィクティム・サービス(Victim Services) @団体の概要 ヴィクティム・サービスは、1978年に設立され、20年以上にもわたり、ニューヨーク市の5つの地域で被害者が犯罪やその後の影響にどう対処すべきかに関し手助けするため、実践的な奉仕活動、カウンセリング、そして、法廷活動の援助を行う団体である。60以上のプログラムを官公庁、裁判所、病院、及び学校で行い、毎年20万人以上の人々を援助している(うち、犯罪被害者13万人以上、ドメスティック・バイオレンス(DV)の被害者6万人以上、なお、児童は2万人以上)。ほとんどのサービスが無料である。 この団体は、ヴェラ正義協会(Vera Institute of Justice)のデモプロジェクトから生まれたものである。このプロジェクトは、1970年代中盤のブルックリン刑事法廷(Brooklyn Criminal Court)で、被害者や証人を保護することを目的とするものであったが、現在の活動範囲は、法廷内外に広く及んでいる。現在、約850人の有給のスタッフを擁しており、年間の予算は、約3500万ドルにのぼる。 この団体はNPOでありながら、その資金の100パーセントが政府(連邦、ニューヨーク州、ニューヨーク市)からの補助金であり、私的な基金・寄付には全く頼らずに運営されている。 A活動の概要 DV、性的暴力、レイプ、児童虐待、暴行の被害者、および大量殺人の遺族のための活動をしている。これらの被害者のために電話相談のほか、経済的援助(無料のフード・クーポンの支給、交通費の支給)、家やシェルターの提供、鍵の交換、調停(mediation)も行っている。とくに、暴力の禁止に力を注いでおり、そのために、青少年を対象としたユニークなプログラムを学校において実施している。これは、ピア・メディエ−ション(peer-mediation 友人調停)と呼ばれており、生徒たちの中での問題を生徒たち自身が調停者(mediator)になって解決するという方法である。 この方法の長所は、生徒は教師に指導されるよりもむしろ対などの関係にある友達に調整される方が言うことを聞くといった面をうまく紛争解決に役立たせているところにある。調停について、教師がときに援助することはあるが、基本的には生徒たち自身の自律性に任せられている。 B他の団体と異なる特色 この団体の活動は、多種多様でその全てについて視察することは出来なかったが、私たちの視察した限りにおいて感じた特色は以下のとおりである。 ア.活動拠点の数 まず驚くのは、活動拠点の数である。活動はニューヨーク市のみであるが、 実にさまざまなところにたくさんのオフィスを構えている。 イ.裁判所との連携 どの裁判所にも必ずヴィクティム・サービスの事務所や、児童センターや待合室がある。NPOというと、政府とはまったく別の活動を行っているとのイメージを抱いていたが、この団体は、裁判所と密接に連携して活動しており、裁判所の機能の一部を担っているといっても過言ではない。裁判所から、ヴィクティム・サービスの調停に事件が付託されてきたり、家庭裁判所へ保護命令の申立をしに来た被害者が、ヴィクティム・サービスのインテイク部で事前にインタビューを受け、保護命令の申立について説明を受けたりすることもある。なお、ヴィクティム・サービスには、一般人向けの保護命令のパンフレットが数種類用意されており(資料15.16)、これを読めば、通常の事案の場合、弁護士に頼まなくても1人で裁判所に行って保護命令を得ることができる。 ![]() 弁護士を雇う費用がない被害者にとっては、まさに痒いところに手が届くサービスである。また、オフィスが裁判所内にあるため、保護命令を得るために裁判所にきた被害者が、複数の機関をたらいまわしにされることが極力避けられるというのも、裁判所を利用する者の立場に立った配慮であり、私たちが見習うべきことは多い。 また、刑事事件の損害賠償の監督も興味深い活動である。これは、ヴィクティム・サービスのスタッフが、被告人とともに賠償の支払計画を立て、被告人の支払状況を監視し、裁判所・検察官・被害者に対して経過報告を行うというものである。 ウ.検事局との連携 検事局との連携も密であり、クイ―ンズ地区の検事局内には、ヴィクティム・サービスのスタッフ3人が常駐しており、検事と2人1組で仕事をする。検事局に呼ばれる被害者は困惑しているので、これをカウンセリングで落ち着かせたり、複雑な刑事裁判制度について説明したり、その他の必要な援助を手配したりするのがヴィクティム・サービスのスタッフの役割である。 チーフ検察官の話によると、この制度は、検察官にとってもメリットがあり、検察官はカウンセリングの研修は受けていないので、被害者がなかなか事件のことを話してくれないような場合にも、カウンセラ−が入ってくれるようになったため、被害者がカウンセラ−には話すようになり、それを刑事裁判の証拠として検察官が使えるということであり、事件の立件がしやすくなったとの話であった(もちろん、お互いに秘密保持義務はもっているので、被害者の承諾なしにカウンセラ−が検察官に秘密をもらしてしまうということはない)。 なお、視察の際私たちを案内してくれたキャロリン・スペクターさんは、元検察官という経歴の持ち主である。 エ.調停 幸運にも、日本でも『調停ガイドブック』(信山社)の著者として有名な久子小林レビンさんが、視察の日にわざわざ来てくださり、ヴィクティム・サービスで行われている調停についてレクチャーしてくれた。調停にもいろいろのやり方があるが、ヴィクティム・サービスが行っているのは『隣人調停』(Community Mediation)と呼ばれるもので、調停者があれこれ指示せずに、当事者に意見を出させ、それが合意に至るように促す役割を果たす促進的な(facilitative)調停である。些細な紛争を『隣人調停』で解決することにより、犯罪を未然に防止するということにも一役買っているのではと思われる。 アメリカの裁判所には「調停」という制度が存在せず、アメリカ人は何でも「裁判」にするとのイメージがあったが、裁判所ではなく、こうした地域に根ざした場所で「調停」という制度が利用されているという点にアメリカの別な一面を見た気がした。 (2)全米被害者援助機構(NOVA、The National Organization for Victim Assistance) @NOVAの概要 被害者・証人支援プログラムと、実践家・刑事司法機関・刑事司法専門家・精神衛生専門家・研究者・元被害者・その他被害者の権利とサ−ビスを認識し遂行する人々からなる非営利の民間組織。1975年の創設で、世界の被害者運動の中で最初にできた国家規模のグル−プである。被害者に対して直接的なサ−ビス(会員または嘱託の医師・ソ−シャルワ−カ−・カウンセラ−・弁護士などの協力を得て相談・診断・治療を行うほか、電話による相談・依頼に応じ、適切な助言・紹介などを行い、事例によっては法廷への付添サ−ビスも行っている)を行うこと、全米の官民の被害者援助組織やその他の専門家に対する教育・訓練・情報提供などを行うこと、立法府・行政府・司法府に対して被害者の立場を代弁し、被害者の権利に関する法律制度の運営改善への働きかけを行うことなどを目的としている。 A被害者への直接的サ−ビス NOVAは毎年被害者から約6万件の連絡を受け、第一次的な被害者のカウンセラ−・擁護者として、約1万のプログラムの中から彼らの住まいの近くで利用できるサ−ビスを紹介する。被害者からの連絡は、24時間ホットライン・手紙・ファックス・Eメ−ルで受けたり、被害者が直接ワシントンのオフィスを訪ねてきたりして受ける。 研修を受けたボランティア達の支援によって、NOVAは被害者サ−ビスログラムをワシントンで実施し、法執行機関などとともにワシントンの貧困地域における薬物犯罪にかかわる被害者へのサ−ビスも行っている。 またNOVAは、主な犯罪・災害・事故の現場に全面対応訓練チ−ムを送るコンセプトを創設した。1986年にできた全米地域社会危機対応チ−ム(The National Community Crisis Response Team )は、テロリストによる爆破事件や学校内銃乱射事件などによりトラウマをもたらされた地域に訓練された危機対応者を送っている。 この他、被害者擁護に関する様々な貴重な資料の編集出版も行っている。 B専門家への支援 NOVAは、被害者の擁護者と彼らを援助する専門家達が、その分野で質の高いサ−ビスを確立しそれを維持できるよう、1980年から500もの国・州・地方単位のワ−クショップやセミナ−で、検察官・看護婦・精神医療専門家・ソ−シャルワ−カ−・裁判官・聖職者・法執行機関職員・被害者サ−ビス・実践家などに訓練を提供し、同時に50人から1500人が参加する38の地方会議と28の全米会議を主催した。また、そのトレ−ニングの経験を裁判官から被害者擁護者まで7つの専門家団体のためにトレ−ニングの教科書としてまとめた。 C経済的基盤 NOVAの年間予算は125万ドル(約1億3千万円)で、その内4分の1の約30万ドルが連邦からの援助金で、その他がトレ−ニングサ−ビスの委託料や寄付金で賄われている。寄付金は年に約7万5千ドル集めるが、すべて個人からの寄付であり、その額は1人年間100ドル程度である。会員は4500名の個人と機関で、会費は個人が35ドル、機関が100〜125ドルで、会員へのサ−ビスとして、年1回の総会、年12回のニュ−スレタ−とその時々の話題を提供するブックレットを送っている。 D弁護士の役割 NOVA自体は全米の「傘となる組織」なので、各地で具体的被害者支援を行っている団体とは異なり、特定の弁護士との提携は特に必要もなく行ってもいない。ただ、これまでの活動を通じて、弁護士や検察官・裁判官・法律学者などとのコミュニケ−ションはあり、支援を受けたり連絡を取り合ったりすることはある。最近はロ−スク−ルでも被害者の立場を説明するようになってきており、これも法律家たちの理解が進んだ成果だと理解している。 Eこれまでの活動と今後の課題
NOVAは、被害者賠償プログラムの普及(1980年に27州にしかなかったのが、1998年には全米に)、被害者影響陳述の普及(80年にわずかな地域にしかなかったのが、98年にはほとんどの州に)、被害者援助プログラムの普及、犯罪被害者法の制定、被害者の権利宣言の採択、州憲法に被害者の権利条項を盛り込む改正(29州)などに大きく貢献してきた。最近は、連邦憲法に被害者の権利条項を盛り込むための運動を大きく展開してきたが、これはまだ成功するに至っていない。これら法改正や被害者のための経済的援助が重要であることは言うまでもないが、現実に被害者と接していて痛感するのは、被害者に最も必要なのは心理的ケア−だということである。最近の精神科医の研究によれば、被害者が公の場で被害の実情や心情を話すことが心のケア−に非常に役立つという結果が出ている。NOVAとしてもこの研究結果を活動に生かしていきたい。 ![]() (3)ワシントンDC検事局ドメスティック・バイオレンス部(U.S. Attorney's Office Domestic Violence Unit) @ドメスティック・バイオレンス(DV)被害者への24時間以内の援助 ワシントンDCでは、DVが起きて被害者が警察に通報すると、24時間以内に警察から裁判所に報告され、検事局に連絡が入ることになっている。必要な場合には、安全な場所・シェルターの紹介なども行われる。また、DV事件のインテイク部(intake 受付窓口)が検事局の中にも裁判所内にもあり、被害者は刑事事件になっていない段階でも相談に行くことができる。 A裁判所内のDVインテイク部の構成と被害者支援 裁判所内のDVインテイク部には、@警察、A刑事保護命令の申立を行う検事局、B民事保護命令申立援助機関の3つの機関がひとつのオフィスの中にあり、被害者はここに来ることによって同時に民事刑事の様々な手続を行うことができる。民事保護命令の申立を援助しているのは、E.D.R.P.(Emergency Domestic Relation's Project 危急時家庭プロジェクト)とO.C.C.(Office of Corporation Council 家庭裁判所担当検察官事務所)の2つの機関である。E.D.R.P.はロースクールのクリニック(実務研修講座)の学生達が教授の指導を受けながら直接被害者の話を聞いて、被害者が民事保護命令を申し立てるのを援助している。また、O.C.C.は、保護命令のほかに児童虐待に対処したり、DVで分離した親から他方の親に子どもの養育費を支払わせる申立をも行っている。 B民事保護命令 保護命令を得る場合の手続・書類は非常に簡単で、同じ建物内で申立書を書き、その場で裁判所に提出すれば、2週間の仮の保護命令を出してもらえる。その後、両当事者に対するヒアリングを行い、1年間程度の保護命令が出される。 C刑事保護命令 刑事保護命令の対象となるのは、加害者を逮捕した事案である。民事保護命令は、被害者の申立てによって出されるので、被害者の意志によって取り下げることも可能だが、刑事保護命令はあくまでも刑事事件として検察官の職権で申し立てられるので、被害者の意志で取り下げることはできない。DVの多くは軽犯罪のため、陪審制では審理されず裁判官のみによる審理なので、被害者が出廷して証言しなくとも供述証拠の提出が可能である。 D検察官(US Attorney)とアドヴォケイト(Advocate 援護官)の役割分担 刑事事件になると、手続終了までに1〜8ヶ月ほどかかるため、被害者に対する精神的なケアーが必要になる。そのためここでは、特に被害者に対する精神的ケアーを専門に担当するアドヴォケイト(5名)が、検察官と2人1組で事件を担当している。アドヴォケイトは、検察官と同じく公務員であってボランティアではなく、また本来的な意味でのカウンセラーではないがカウンセリングの初歩的な研修は受けており、インテイクを行う法律的な知識もある。 E検事局レイプ部 検事局レイプ部でもアドヴォケイトが活躍している。レイプ事件における検察官の悩みは、被害者が被害についてなかなか話したがらなかったり法廷での証言を拒んだりすることだが、アドヴォケイトが最初の段階から被害者と木目細かいコミュニケーションをはかっているので、たとえば被害者に最も身近な人物を把握しておいて、証言を拒むようなときにはその人に被害者を説得してもらうなどの方法が可能になる。
(4)司法省犯罪被害者局(Office for Victims of Crime=OVC) @組織概要 ![]() OVCは、1984年にVOCA(1982)に基づき、犯罪被害者のためのプログラムを監督するために設立された司法省の部局である。被害者援助プログラムや補償プログラムに対 し、多額の基金を提供しており、85年には約6800万ドル、98年は約3億2400万ドルの基金を運用している。 OVCには以下の3つのセクションが存在する。 1)SCAD(State Compensation and Assistance Division、州に対する補償・援助課=州に対する補助と、援助団体に対する補助を行う) 2)SPD(Special Project Division、特別プロジェクト課=司法省から直接援助団体に補助する課だが、補助の条件は厳しい) 3)FCVD(Federal Crime Victims Division、連邦犯罪被害者課=援助団体に対し、トレーニングや情報提供を行う) A財源 援助・補償の財源は100パーセントすべて罰金や没収した保釈保証金など犯罪加害者から徴収したものであり、税金を財源にはしていない。金額は年々変動しつつも、この10年余を全体としてみれば財源は増加しているが、それは、アメリカ社会で犯罪者自身に責任をとってもらうという意識が強まってきたことの反映である。 B刑事司法制度における被害者保護の現状を解説する2000年度版テキストについて連邦職員教育に使われているテキストの2000年度版について詳しい説明を受けた。 このテキストは1983年に最初に出版されたが、その後改訂され、今は2000年版である。捜査段階、公判段階、矯正段階の3つの段階に分けて構成されているのが大きな特徴である。 折りたたまれたページを広げて見ると、カラフルなチャートがある。このチャート上に、各段階に応じて、連邦公務員に課せられた義務やとるべき手続がどの法律をベースにしているのか、またそれについて詳しく知りたければテキストの何頁を見ればよいのかわかるようになっている。さらに法律となっておらず政策にとどまっているものも列記されている。 このテキストは連邦機関において被害者と証人に接触する公務員に向けて書かれている。司法省で働く全ての法律家、検事、また連邦の法執行機関は、この本を渡され1時間のトレーニングを受ける義務が新設された。 C資料室 最後に、犯罪被害者に関連する様々な資料が陳列された資料室に案内され、どの資料も無料で取得できる旨説明を受け、視察メンバー各自は、それぞれの関心分野からたくさんの資料をピックアップして帰った。また、事前に資料やビデオなどを入手したい旨伝えていたところ、ダンボールいっぱいのビデオが用意されており、これらの重たい資料を抱えて、嬉しく帰途についた。 ![]() (5)全米法律家協会(American Bar Association) ![]() @全米法律家協会の概要 全米法律家協会は弁護士・裁判官・検察官など法律家の非強制加入団体で、全米の法律家の4分の1に当たる37万人が加入している。 全米法律家協会には税務部、独占禁止法部、刑事司法部などの多くのセクションがあり、刑事司法部内に被害者問題委員会がある。全米法律家協会に被害者委員会が設立されたのは1980年ころのことである。 A全米法律家協会の活動 ア.出版活動 全米法律家協会は、弁護士やその他の法律家が被害者関係の業務を行う際に役立つよう、書籍を出版している。書籍は、弁護士が被害者から事件を受任したときの接し方、被害者関係の立法、証人・被害者にはどのような権利があるか、といった点に関するものである。 イ.調査研究活動 全米法律家協会は、被害者に関する法についての調査研究も行っている。例えば、1986年には、裁判官・検察官・刑事弁護人に対して、被害者に 関する法律についての問題意識を問う大規模な調査を行っている。なお、この調査結果の中で、ほとんどの刑事司法関係者は被害者に関する法律について問題はないと回答し、多くの弁護士は被害者保護により被告人の既得利益が失われるとの認識を示した。 ウ.刑事裁判の基準作成 全米法律家協会は現在刑事裁判において、被害者をどう扱うかなどについての実務基準を作成中である。 エ.その他 立法段階などにおける政策提言や、被害者に対する弁護士紹介を行っている。 B憲法修正に対する立場 全米法律家協会にとって、被害者の権利を連邦憲法の条文に入れることは微妙な問題である。それは、被告人の権利が危機にさらされるのではないかという不安があるからである。例えば、子どもが被害者の事件の場合、被害者にとっては早期審理が望ましいが、被告人にとっては早期審理が望ましくないというように、被害者の権利を強調すると被告人の権利が害される場合があり得るのである。 C被害者問題に弁護士会が関わることの意味 被害者問題については、全米法律家協会が動き出す前から被害者運動があったが、例えば訴訟では当事者ではないと疎外されるなど、社会的には軽視されてきた。しかし、全米法律家協会が被害者問題にかかわることにより、被害者問題は無視することのできない問題になった。 ![]() (6)修復的司法調停センタ−(Center for Restrative Justice & Peacemaking) @修復的司法調停センター(ミネソタ大学ソ−シャルワ−ク科)の概要 修復的司法に対する関心は、80年代にはまだ小さな動きでしかなかったが、90年代に入ると、92年にイタリアで、その後ドイツでも国際会議が開かれるなど国際的な関心として高まり、これが94年のアメリカにおける当センタ−の設立に結びついた。当センタ−は、修復的司法に関する実践と原則を支援するために、ミネソタ州・全米・国際社会における修復的司法について、技術的な支援やトレ−ニングを提供し、そのための調査研究を行うことを目的としている。 修復的司法を通じ、被害者・地域社会・加害者は、次のことを実現するために共に働く役割を担う。すなわち、被害を終わらせるために被害者を力づけること、加害者に彼らの行為が実際に被害者にどのような影響を与えたかを自覚させること、被害者と地域社会の回復のための企画をすること、などである A提供しているサ−ビス ・全米修復的司法トレ−ニング協会 ・少年司法制度における制度的な改変のための企画・支援・技術的援助 ・地域社会における調停・紛争解決に関する大学卒業者の教育 ・殺人・重大な暴力事件に関する調停 ・修復的司法・調停に関するカナダ・イギリス・アメリカなど国際的な研究 ・資料センタ− ・センタ−の活動に関する機関紙の発行 B修復的司法の手法 現在修復的司法の手法として最も古くからあり広範に実施されているのはa)被害者加害者調停(victim offender mediation )であり、最近知られるようになってきた手法にb)家族集団会議(family group conference )がある。そのほかにも、c)サ−クル・センテンス(circle sentence)、d)コミュニティ・リパラティヴ・ボ−ド(community reparative board) などの手法がある。(資料17)。 C修復的司法の実際 修復的司法は、起訴前から矯正段階、出獄後などさまざまな刑事司法の段階で適用され得るし、刑事司法以外の分野、たとえば学校における子どもの問題行動の解決などにも適用できる。その理念そのものは、重罪にも軽罪にも、財産犯にも暴力犯にも、成人の刑事事件にも少年事件にも適応可能なものであるが、実際に実施されているケ−スとしては、比較的軽微な犯罪、財産犯、少年事件などが多い。 少年事件で特に活用されている理由としては、地域社会がもともと少年に対してより同情的で共感でき、少年自身に可塑性があること、また、少年司法が成人の刑事司法に比べ柔軟性をもっていることなどが挙げられる。 しかし、成人は成熟しているため、より問題を言語化し得る能力をもっているという点で、修復的司法実施のためのメリットをもっているともいえる。また、修復的司法は、従前の刑事司法に対するリベラルかコンサ−ヴァティヴかという枠内に位置づけられるものではなく、中道的なスタンスをとった制度であるから、刑罰についての厳罰化か軽減化かという両極のどちらの方向に向かうものでもない。二つの両極の間にある考え方である。 修復的司法、たとえば最も広く行われている調停の場合、調停者(mediator)は一般市民のボランティアが3日間、ときにはもう少し長期のトレ−ニングを受けて調停者になる。家族集団会議のファシリテ−タ−(facilitator )も同様である(資料18)。実際に調停などの対象となるケ−スは財産犯が多いため、被害者に対して調停者が接触する前に被害者支援団体のスタッフなどがすでに援助活動をしているということは少ない。 したがって、調停者が被害者と最初の接触をもつときは、被害者の傷ついた心情や加害者と接触することへの恐れに十分配慮しながら接触する必要がある。これは加害者への接触についても同様で、加害者も、それが少年であればなおさらのこと、調停者や被害者に自分のした行為を非難され追及されるのではないかと恐れている。この両者の不安をやわらげ、調停の趣旨や実際に調停を体験した多くの人々がやってよかったと語っているをことなどをわかりやすく説明し、両者が調停に前向きになれるよう促すことが調停者の大切な役目である。 D修復的司法の今後 刑事司法システムが、市民から見て抽象的でわかりにくいのに対し、修復的司法の考え方は、平均的市民にとって筋の通ったわかりやすいものである。修復的司法は、歴史的発展によって抽象的になってしまったシステムを古い形に戻し、犯罪の問題を国家から地域内に取り戻したのである。 この考え方は、そもそも社会の根底から起きてきたものなので、その具体的なあり方−刑事裁判や少年審判との関係で、ダイヴァ−ジョン(画一的に刑事罰を受けさせるのを避け、より非懲罰的で多角的な処遇を受 けさせようとする方法)として行われるか、これとは切り離して行われるか、誰が主催してどのような人数で行われるかなどは、地域ごとの特色が活かされてよい。たとえば、中国や日本では、まだ修復的司法自体が十分紹介されているとはいえない実情にあるが、その根底にある地域社会が犯罪という地域にとってのマイナスの出来事を修復していくという考え方は、むしろ欧米諸国よりは中国・日本など東洋の伝統文化の土壌の中にこそあるもので、修復的司法が受け入れられる素地が十二分にあると考えられる。修復的司法は、これがその地域によって何と名づけられるか、従前の刑事司法制度とどのような関係をもつかはともかくとして、今後もますます世界中に広まっていくと考えられる。
(7)暴力被害を受けた女性のためのミネソタ連合(Minnesota Coalition for Battered Women) @組織概要 暴力被害を受けた女性のためのミネソタ連合(以下「ミネソタ連合」という)は、ミネソタ州各地域に所在する97の組織(ミネソタ連合内では「メンバー」と呼ばれる)を統括するミネソタ州セントポールに所在するNPOであり、1978年から活動している。現在の運営スタッフは6人である。 メンバーはNPO及び個人であり、公共団体・政府機関は含まれていない。各メンバーは大小さまざまであり、シェルターを持っている大規模な組織もあれば、スタッフが1、2人しかいない小規模の組織も存在する。小規模な組織は、相談、他組織の紹介などの活動を行っている。 年間予算は約36万5000ドルであるが、収入は連邦政府及び州政府からの補助、寄付、メンバーからの会費などによっている。昨年は連邦政府から 16万4000ドル、州政府から12万9000ドルの補助を得ている。メンバーの年会費は200ドルである。 1年に1回、州全体のメンバーによるミーティングが開催される他、ミネソタ州全域が11の地区に別れており、地区ごとに1か月に1回、ミーティングが開催されている。 A活動内容 ミネソタ連合のメンバーが行っている活動には、次のようなものがある。 ア.シェルター(Shelters ) シェルターでは、緊急を要する場合の24時間の危機介入、一時的なシェルター(必要に応じて1日から60日)などのサービスを提供している。現在では、9の地方シェルターと11の都市シェルターが存在する。 イ.地域援助プログラム(Community Advocacy Programs ) 地域援助プログラムでは、シェルターとほぼ同様のサービスを提供している。現在、73の地域援助プログラムが州全体で実施されている。 ウ.安全ホーム(Safe Homes ) 個人宅の所有者が、ボランティアとして、暴力被害を受けた女性や児童のため、短期間(1泊から3泊)の宿泊保護を提供している。 エ.訴訟参加プロジェクト(Intervention Projects ) このプロジェクトは、刑事司法制度が暴力を受けた女性や子供にどのように対応しているかを監視し、逮捕率や有罪率を向上させるために、特定の管轄地域で組織されている。刑事裁判に焦点を当てているが、必要があれば民事、家事、少年事件においても援助を行っている。現在、州全体で23の訴訟参加プロジェクトが行われている。 オ.病院援助プログラム(Hospital/Clinic Advocacy Programs ) このプログラムは、暴力被害を受け病院から治療が必要と認定された暴力被害を受けた女性に援助を与えている。現在、ミネソタ州ではこのようなプログラムが6ある。 カ.暴力者再教育・更生プログラム(Batterers Re-Education/Treatment Programs ) このプログラムの多くは、執行猶予の条件として裁判所の委託を受け、訴訟参加プロジェクトの一部として機能している。ミネソタ州では訴訟参加プロジェクトから生まれた7つの再教育プログラムが存在している。 キ.州域プログラム(Statewide Programs ) 暴力被害を受けた女性やその子供のために設立された、州全域に渡るプログラムである。このようなプログラムとしては、暴力被害を受けた女性のためのミネソタ連合(Minnesota Coalition for Battered Women )、暴力被害を受けた女性のための法的援助プロジェクト(Battered Women's Legal Advocacy Project )、行動する黒人・インディアン・ヒスパニック・アジア系の女性(BIHA Women in Action (Black, Indian, Hispanic, Asian ))が存在する。 Bメンバーの一例 ア.ミネソタ州アジア女性連合(Asian Women United of Minnesota) ミネソタ州アジア女性連合は、アジア系の女性とその子供に対する暴力をなくし、アジア系の女性に力を与え、より強くより安全な社会を作ることに取り組む、地域に根ざしたNPOである。アジア女性連合には8人のスタッフが存在する。1人は委員長(executive)、1人は運営委員(administrator)、3人は地域援助者(community advocate)である。地域援助者のうちの2人は直接女性を援助する担当であり、もう1人は国外追放問題などについて移民を援助する担当である。他に、女性に代わり警察に対する説明を行い女性の負担を軽減するように配慮するリサーチ・コーディネーターが2人、他団体にアジア女性連合の活動を説明するアウトリーチ・コーディネーターが1人存在する。 イ.暴力被害を受けた女性のための法的援助プロジェクト(Battered Women's Legal Advocacy Project ) 暴力被害を受けた女性のための法的援助プロジェクトは、活動の項でも述べたとおり、ミネソタ全域で活動しているプログラムである。弁護士に対する知識提供、被害者への対応に関する援助者(advocate)へのトレーニング、裁判所の手続についての法的アドバイスなどの活動を行っている。特に委員長(executive)は存在せず、4人の弁護士と3人の援助者がいる。1人を除いて全員女性である。法的援助プログラムは州の基金及びミネソタ連合から補助を受けているが、弁護士は法的援助プログラムから給料を貰い、法的援助プラグラムに専従で働いている。なお、法的援助プログラムの弁護士の給料は、一般的な開業弁護士(プライベートローヤー)のそれよりは安いとのことであった。 Cシェルター見学 今回の視察では、ミネソタ連合に所属するメンバーであるホームフリー(Home Free)が運営するシェルターを視察した。シェルターの名称もホームフリーである 視察先のシェルター(以下単に「シェルター」という)ホームフリーはミネアポリスの中心街から車で30分程度の距離に位置するシェルターである。風光明媚な湖の湖畔に位置しているが、電話帳には記載されていない。 シェルターの職員は14人である。予算は連邦政府、州、郡、個人の寄付、United
Wayから集めているが、年間予算は約100万ドルとのことである。シェルターの規模であるが、合計で10のベッドルームがあり、30人から40人を収容することができる。現在、12人の女性と19人の子供が入居している。シェルターに男性が乗り込んでくることはほとんどないが、安全確保のため警備保障会社と契約している。 入所に際し、入所者に経済的負担はない。入所の条件は、暴力被害を受けていること及び安全な場所が必要だということである。人種的な制限も存在しない。ホームフリー側が入所を断ることはほとんどないが、以前入所して問題を起こしたような場合が例外となる。 入所の受付は24時間行っている。入所依頼はシェルターが直接受け付けるが、ミネソタ連合が入所依頼を受け付け、女性をシェルターに案内することもある。また、シェルターの担当者が女性を迎えに行くこともある。シェルターでは、警察からの連絡により状況説明を受け、被害者の援助にあたる緊急介入システムも有している。 シェルターには、通常は6週間滞在することができる。延長もできるが、これまでのところ4か月滞在が最長 である。また、退所後、シェルターに戻ってくる人も見受けられる。現状では、シェルターの部屋が不足している状況であり、満室の時には、他のシェルターやモーテルを提供することになる。モーテル代はシェルターが支払う。地区によってはモーテルが宿泊代金を値引きしてくれることもある。ところで、シェルターは、10から15人の低報酬で働いてくれる弁護士と提携している。ただ、専従の弁護士は存在しない。シェルターが依頼する弁護士は、ほとんど女性である。弁護士に依頼する場合、法律扶助が利用可能なときは法律扶助を使う。シェルターが存在する地区は郊外なので法的扶助を受けられることが多く、比較的弁護士が利用しやすい状態である。
4.まとめ・提言 (1)犯罪大国アメリカは、犯罪被害者対策においてもまた大国であった。わが国がアメリカから学ぶべき点は数多い。 しかし、歴史・文化・政治制度、特に政府に頼らない自助の精神の土壌が異なる日本では、犯罪被害者対策の分野においても、アメリカとは異なる発展形態をとらざるを得ないであろう。 (2)アメリカ視察を終えて私たちが感じたことは、大きく分けて次の4点である。 第1は、アメリカでは、犯罪被害者に対する保護・支援の分野においても、NPOが非常に発達しているということである。それも、単に公的機関の補完的な役割にとどまらず、公的機関と密接に連携しながら被害者保護・支援対策を実行している点に衝撃を受けた。政府(連邦・州・市)の犯罪被害者保護・支援サービスを実施する機関として、NPOは当初から当然に組み込まれており、財源に関しても、NPOの多くが政府の補助金によって成り立っているのである。 第2は、「保護命令」「修復的司法」という、独創的かつ有効的な制度の存在と活用である。アメリカには、被害者保護・支援のための様々な制度があるが、視察した限りにおいて特に感銘を受けたのが、この2つの制度である。「保護命令」は、わが国に導入した場合、ストーカーやドメスティック・バイオレンスに対する対策として有効であろうし、「修復的司法」は、調停という制度が存在するわが国では、導入の土壌は既に存在すると見てよいだろう。 第3は、刑事司法制度の原則については、極力手を加えていないという点である。例えば、犯罪被害者保護・支援に関する文献を見ると、法廷において被害者が証言するに際に「ついたて」を置いたり、ビデオカメラを介して別室で証言をさせたりなどの制度が必ず紹介されており、私たちもアメリカ視察まではそうした制度がごく一般的に利用されているとのイメージを抱いていた。 しかし、視察先でそのような制度について質問すると、私たちの予期しない答えが返ってきた。実際にこうした制度が利用されるのは極々まれであり、めったに利用されることがないのである。むしろ、「直接主義」「公開主義」「被告人の反対尋問権の保障」が極めて重視されているとの印象を受けた。 第4は、弁護士がいなくても、被害者保護・支援が十分に機能していることである。至る所に専門のスタッフがいるなど、アメリカの人的パワーによるところも大きいが、そもそも被害者の司法機関へのアクセスが容易なところも、わが国とは大きく異なる点である。 (3)アメリカの現実を目の当たりにすると、あたかも「被害者保護・支援の分野では、弁護士が果たすべき役割は少ないのではないか」との考えさえ抱きかねない。 しかし、そのような結論に至るのは性急である。第1に、アメリカのように各種制度が整備されるのはあくまでも「理想像」にすぎず、理想とは程遠い現状においては、残念ながら弁護士でなければ出来ないことは多々あるからである。 例えば、アメリカのような行き届いた「保護命令」の制度が構築されたならば、保護命令申立に弁護士が関与する必要はないであろうが、現行法制度のもとでは、「仮処分」制度を利用せざるを得ず、弁護士が申立を代理する必要のある事案もあるであろう。第2に、アメリカでは、そもそも政府に頼らない自助の精神が強いため、NPOの活動が活発であるが、そのような土壌・歴史・文化の希薄なわが国においては、NPOの設立・複数のNPO間の連携に弁護士が関与したり、NPOへの補助金の支出に弁護士が中心になって働き掛けをするなど、弁護士の積極的な役割が期待されるのではないだろうか。 |
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