| 第3節 ドイツにおける犯罪被害者支援 | |
| 1.ドイツにおける犯罪被害者支援の動向 ドイツでは、1960年代後半から70年にかけて性的虐待を受けた児童や性暴力をうけた女性の保護を求める市民運動が起きた。連邦刑事局のバウルマン教授によると、これが、ドイツにおいて犯罪被害者を保護しその地位の向上を目指す被害者学が 生まれる契機となったとのことである。 1970年代後半からは、民間レベルの被害者支援が活発化し始め、1976年に後述する「白い環」が最初の被害者支援団体として活動を開始したのを皮切りに、私的団体、ボランティアグループ、自助グループが次々と生まれ、犯罪被害者を物心両面から支援した。このような支援団体やグループの中には、特定の犯罪被害者、特に性暴力やドメスティック・バイオレンスの被害者の支援を行っている団体やグループも多い。ドメスティック・バイオレンスの被害女性のための避難施設「女性の家」は、全国に100から400あり、避難場所の提供や法律相談を行っている。また、強姦被害女性の自助グループは約200,強姦被害少女の自助グループは50から100が存在する。 このような民間の支援団体ばかりでなく、公的な支援団体も少なくない。後に述べるヘッセン州の「HILFE」は、州が直轄する被害者支援団体の一つである。 被害者に直接関わる各州の警察署は「白い環」をはじめとする被害者支援団体や自助グループと協力関係にあり、被害者に支援団体等を紹介している(ただし、警察署によって対応にばらつきがあることは「HELFE」の項で触れるとおりである)。連邦刑事局は被害者学を扱う部署を1976年に局内に作り、現在、同局内では85人のスタッフからなる犯罪学的被害者救援チームが活動している。 他方、犯罪被害者に対する法的支援は、1976年の「被害者補償法」によって被害者を経済的に支援することから始まった。以後、段階的、継続的に、刑事手続における被害者の保護とその地位を強化する法制度が整備されていった。 2.ドイツの刑事手続における被害者保護制度 ドイツ法は、従前から、告訴の制度、私人訴追制度、訴訟参加制度、付帯私訴制度、証人保護規定など被害者を保護するための一定の法制度を有していたが、1986年の「被害者保護法」、1994年の「被害者対策法」、1998年の「証人保護法」など、犯罪被害者の保護とその地位強化を目的とする立法が次々と成立した。 ドイツ刑事手続きにおける被害者保護は、(1)刑事手続における被害者保護、 (2)被害者の刑事手続への参加、(3)被害者損害回復の3点に大別できる。 (1)刑事手続における被害者保護 被害者が、刑事手続、特に公判廷における証人尋問において二次被害を受ける可能性を減少させ、被害者保護をはかるものである。 @被告人の退廷(刑訴法247) 証人が被告人の前では真実を話せないような場合、16歳未満の証人が被告人の面前で尋問されることによりその健全性が害される場合などには、裁判官は被告人を退廷させることができる。同様の規定は、我が国の刑訴法304条の2にもある。 A公開性の排除(裁判所構成法171b) 被害者の個人的生活領域に属する事柄が問題となり、公判手続を公開することが保護に値する利益を侵害すると思われる場合は、これらの事柄を公開の場で解明する利益が優先しないかぎり、公開を排除できるとされている。 Bプライバシーに関わる質問の規制(刑訴法68a) 証人の不名誉となるおそれのある質問、個人的生活領域に関する質問は、必要やむを得ない場合に限定される。 Cビデオ録画による証人尋問(刑訴法58a) 1998年の証人保護法による刑訴法改正によって新設された。被害者が16歳未満又は証人を公判で尋問できないおそれがあり、かつ録画が真実発見に不可欠な場合は事前に録画した証人尋問のビデオテープを法廷で再生し証拠とすることができる。 Dビデオリンク方式による証人尋問(刑訴法247a) 同じく、1998年の証人保護法の導入により新設されたものである。証人が加害者の前で尋問を受けると証人に重大な不利益を及ぼすおそれがあり、かつ被告人の退廷や公開の排除によってはそれを回避できない場合は、公判廷外の別室にいて同時テレビ中継によって証人尋問を受けることができる。わが国でも、2000年5月に成立公布された「刑事訴訟法及び検察審査会法の一部を改正する法律」により、このビデオリンク方式による証人尋問が導入された(改正刑訴法157条の4)。 E弁護士に援助を求める権利・国選被害者補佐人制度 被害者は弁護士に援助を求め、また代理させる権利を有する。弁護士は、裁判所または検察官の尋問に立ち会い、質問に対して異議申立を行い、被害者が反対しないときは公開排除の申立ができる(刑訴法406f)。被害者が訴訟参加権を有する特定犯罪の被害者グループ(刑訴法395)の場合は、弁護士の権利が強化される(刑訴法406g)。 また、証人保護法による刑訴法改正によって、まだ弁護士の補佐人をもたない証人は、尋問の継続中、自己の権利を行使することができず、かつ自己の保護に値する利益を他の方法では考慮できない場合は、検察官の同意を得て弁護士を補佐人として付けることができる。犯罪が重罪・性犯罪・常習犯罪などの場合には、弁護士の補佐人をつけることは必要的になった(刑訴法68b)。 さらに、訴訟参加資格を有する特定の被害者が性犯罪や殺人未遂罪などに基づいて参加するときなど、訴訟参加申立人が16歳未満のときなどは、手続全体を通じて弁護士補佐人は必要的となり、費用も国費で支払われる(証人保護法による改正後の刑訴法397a1項)。また、弁護士補佐人が必要的とならない場合であっても、事実的法的状態が難解であるなどの事情がある場合は、参加人は弁護士費用について訴訟費用扶助をうけることができる(同刑訴法 397条a)。なお、ドイツでは弁護士費用も法定され、訴訟費用に含められているので、訴訟費用扶助の対象となる。 (2)刑事手続参加による被害者保護規定 被害者に犯罪者を訴追、処罰するための参考人、証人としてだけでなく、手続の主体として刑事手続に積極的に関与する権限、参加する権限を認めることにより被害者の地位強化がはかられている。 @私人訴追(刑訴法374) 住居侵入などの軽微な犯罪について、検察官が公訴提起しない場合でも、被害者が直接起訴できる制度。ドイツ刑訴法に従前から存在した制度だが、利用率は低いままで、重要な制度と見られていない。被害者保護法による改正はなかった。 A訴訟参加制度 ア.制度の沿革 被害者やその遺族などが、検察官とは別個のこれに匹敵する手続的主体として公判手続に参加しうる制度。被害者保護法が導入されるまでは、訴訟参加資格を持つ被害者の範囲は私人訴追との関係で認められていた。しかし、上記のとおり私人訴追は利用率が低く、重要な制度と認められていなかったため、訴訟参加制度も「相手にされない制度」だった。ところが、被害者保護法の導入により、訴訟参加資格が私人訴追者のみならず性犯罪、殺人未遂など特定の被害者グループに拡張され(刑訴法395)、参加人の権限も強化された(刑訴法397)結果、主に強姦被害者の代理人弁護士(多くは女性弁護士)の利用が増加し、現在ではポピュラーな制度になっている。 イ.訴訟参加の重要性 日本では馴染みのない訴訟参加制度であるが、ドイツでは、被害者とくに性犯罪の被害者にとって重要な制度である。それは、ドイツ法上、検察官は、捜査にあたって被疑者に不利な事情ばかりか有利に働く事情も捜査することができ、公判においては被告人に有利な事実を主張して無罪を求刑することができるからである。 被害者、特に性犯罪の被害者は、不安、羞恥、恐怖、PTSDによる記憶障害などにより十分な証言をすることが困難であるから、もし検察官が被告人無罪を求刑すれば、そのとおりの無罪判決がでる可能性が高い。しかし、被害者が訴訟参加し代理人弁護士が検察官と違う事実を主張することによって、無罪判決を阻止することが可能になりうるのである。 さらに、被害者が訴訟参加することの利点として、訴訟の進行状態を常に把握できること、後に続く民事損害賠償請求に役立つ裁判情報を取得できることがあげられる。 ウ.訴訟参加の手続 申立は手続のいかなる段階でもできる。判決後も上訴申立のために参加できる(刑訴法395W)。訴訟参加の申立は、裁判所に対し書面で行う(刑訴法396)。裁判所は、参加人の参加資格に関し検察官の意見を聞いた上、参加許可の決定をする(刑訴法395U)。 エ.訴訟参加人の権利 参加人は、証人尋問される際にも公判に出廷する権利、裁判官、鑑定人を忌避する権利、質問権、裁判長の命令、質問に異議を申し立てる権利、証拠申請権、陳述する権利などの権利を有する(刑訴法397、240U、238U、242、244、257、258)。公判手続において、訴訟参加人は検察官と並んで座り、検察官と併行的に訴訟追行する。 オ.訴訟参加が認められた著名事件 訴訟参加に関してドイツで最も有名な事件は「モニカ・ワイマール事件」である。これは、母親が二人の子の殺害容疑で起訴されたところ、父親が被害者の遺族として訴訟参加し母親の責任を追及した事件である。このケースで、被告人モニカ・ワイマールの弁護人は、検察官と父親(実際は父親の代人弁護士)双方を相手として防御活動をしなければならなかった。このようなことから、訴訟参加制度に対しては、被告人の地位を悪化させるという批判がある。 Bすべての被害者の手続関与権 これには裁判手続結果の通知請求権(刑訴法406d)と記録閲覧権(刑訴法406e)がある。記録閲覧権は、被害者の代理人弁護士が、裁判所に提出された記録、公訴が提起された場合は裁判所に提出されることになる記録、職務上保管されている証拠物を閲覧する権利である。被害者が訴訟参加資格者でない場合は、記録など閲覧の正当な利益があることを明示する必要がある。 (3)被害者の損害回復 @付帯私訴手続(刑訴法403) 被害者またはその相続人が、刑事手続において民事の損害賠償請求を行う制度。従来からドイツ刑訴法に存在した制度であるが、被害者保護法によって、請求金額の制限の撤廃、一部判決を認めるなどの改正がされた。一部判決の場合、被害者は残部について別途、民事訴訟を提起できる。 被害者保護法によって付帯手続は利用されやすく改善された筈であるが、実際には、同法施行後も、あまり利用されていない。 A罰金支払の緩和(刑訴法459a) 加害者に対して罰金の支払緩和をしなければ、加害者が被害者に対し損害回復することが著しく困難な場合、執行官庁は罰金の支払緩和を承認できる。 B被害者・加害者和解 (victim-offender-reconciation=VOR、ドイツ語ではTater-Opfer-A usgleich=TOA) ア.刑法46条a 1994年に施行された被害者対策法により、刑法典に「加害者と被害者の和解、損害回復」という見出しの刑法46条aが追加され、行為者が被害者と和解して損害の全部又は大部分を回復したとき、または損害回復に向け真摯な努力をしたとき、裁判所は刑を減軽、免除ができることになった。しかし、一般刑法に関する加害者と被害者の和解プロジェクトは、すでに1984年に始まっている。 イ.VORの実施 刑法にはVORの手続面の規定がないが、実務では一般に、検察官のイニシアチブにより開始される。すなわち、まず、検察官がVORに適する事件を選んで被害者と加害者双方に和解についての書面を送る。被害者に対する書面には被害者支援団体についての情報が与えられる。実際にVORを実施するのは司法補助官(主に裁判所に所属するソーシャルワーカー)で、この補助官が被害者と加害者に接触する。被害者は被害者支援組織に相談し、支援組織のソーシャルワーカー(これは後述する[HILFE」では「社会教育家」である)を代理人として和解の席に臨む。加害者、被害者、裁判所所属のソーシャルワーカー、被害者援助組織のソーシャルワーカーの4名が検察局の部屋に同席した上、加害者が罪を認めて損害回復の方法を提示し、被害者がそれを受け入れれば和解が成立する。和解の内容は金銭の支払ばかりでなく謝罪だけの場合もある。加害者が給付を履行すると、ソーシャルワーカーが検察官に連絡し、検察官は手続を打ち切る。 VORが公判手続開始後に始まるケースは稀だが、公判では、VORに適する事件については裁判官から被害者・加害者和解の可能性が説明され、公判手続は一時的に中止されるか中断される。 ハ.VORの実際 実務では、VORで解決できるものはVORでという方向にあり、この制度はよく利用されている。VORは軽微な犯罪ばかりでなく重大な犯罪についても適用になるが、実際にVORに付されるのは軽微な財産犯が多いようである。 3.被害者支援団体「HILFE」 (1)組織の概要 ヘッセン州ヴィースバーデンにある被害者と証人援助公共団体。「Hilfe」は英語では「Help」、つまり助けるという意味である。ヘッセン州は、州が管理する被害者援助ネットを作った最初の州であり、「HILFE」はヘッセン州に現在四カ所ある州立の被害者援助ネットの一つで、7年前から活動している。理事3人はボランティアで、このうち2人が現役裁判官(男女各1名)、1人が現職の弁護士(女性)である。スタッフは有給で、社会教育家2人とタイピスト1人の計3人である(3人とも女性)。犯罪被害者を 援助する実働部隊は2人の社会教育家である。 (2)活動内容 @支援の端緒 HILFEから被害者にアプローチすることはなく、犯罪被害者が告訴告発に行った警察でHILFEの存在を教えられて支援を求めてくる。ただ、すべての警察が被害者にHILFEの存在を知らせるわけではないらしい。現に、私たちがHILFEを尋ねた当日の朝、強盗の被害者が警察で教えてもらったのではなく、ポスターを見てHILFEに支援を求めてきたという。HILFEの社会教育家ディフィナーさんは警察が被害者に支援団体を教えないことに怒りを覚えると言っていた。 HILFEに援助を求める被害者のうち3分の1は財産犯罪の被害者であり、3分の1が性犯罪の被害者、残り3分の1が暴力犯罪の被害者である。 A支援の方針 被害者が支援を求めてHILFEを訪れた場合、社会教育家はまずどんな支援を望むかを聞き、被害者の要望にそって情報提供し、アドバイスをする。 たとえば、自分の同棲相手から12歳の娘が性的虐待をうけたという女性に対しては、訴訟参加をすすめ、家族法を知りたいとの希望に応じて弁護士を紹介し、弁護士事務所に同行した。また、12歳の娘の精神的ケアをした。ここで社会教育家が行った精神的ケアは事件に直接関連した心理的ショックなどに対するものであり、長期におよぶ精神的ケアが必要な場合は、心理学者やカウンセラーなどの専門家のもとに被害者を連れて行く。 B具体的支援活動 HILFEの重要な活動の一つに証人援助サービスがある。被害者証人は被告人のいる法廷に立つというだけで不安がつのる。そこで、社会教育家が事前に情報提供して不安を緩和し、また、尋問の日には法廷に付き添う。特に子供の被害者が証言する場合は、予め、裁判所に連れていって法廷や裁判官を見せている。HILFEの理事であるクーベ裁判官は、証人は不安定な心理状態にあるため正確に証言することができない場合が多いが、この証人援助サービスによって、精神的に強くなりしっかり証言できるようになるから、証人サービスは裁判官として歓迎すべきことと評価している。 社会教育家は、また、交通事故のケースなどでは書類作成の手伝いをするし、訴訟開始後は、訴訟の進行状況などを伝える。さらに先述したように加害者と和解する被害者に付き添い、VORに立ち会う。@で述べたような精神的ケアが必要なケースでは精神的ケアを行う。 C他の団体との連携について HILFEは、民間の「白い環」や自助グループと密接に交流している。白い環の方からこの被害者はHILFEに送ったほうがいいと送ってくることもあり、逆にHILFEから白い環に被害者を送ることもある。自助グループによるケアのほうがよい場合は適切な自助グループを探し、仲介している。 (3)社会教育家について HILFEの2人の社会教育家は、様々な被害者支援を、2人で年間200件担当している(なお、この件数にはVORに付き添うことは含まれていない)。 ドイツに「社会教育家」という資格があるわけではない。しかし、我々が会ったHILFEのディフィナーさんは大学で社会教育学を学んだ後、児童青少年セラピーコースで養成を受けたプロフェッショナルである。もっとも、プロフェッショナルといえども犯罪被害者の支援活動という仕事がら強いストレスにさらされる。そこで、ディフィナーさんは、3〜4週間に一度、2時間くらい、精神療法医と話をしているとのことであった。 (4)感想 HILFEはヴィースバーデンの静かな住宅街の一角にあった。「HILFE」と書かれた小さなプレートがなければ普通の民家と見過ごす建物である。社会教育家が被害者と対応する面談室には玩具や本などが揃えてあり、調度品はカラフルで美しい。私たちが話を聞いた社会教育家ディフィナーさんは熱心な有能そうな人であった。重い心を抱いてここの支援を求めにきた被害者は、きっと一息つけるであろうと思えた。しかし、なによりも感銘をうけたのは、現職の裁判官が被害者支援団体の理事になり、飾りではなく実際に活動していることであった。日本では、犯罪被害者、とくに性犯罪被害に対し無理解な裁判官が少なくない。彼ら彼女らにも「現場」を知ってほしいと強く思った。 4.白い環 (1)設立 「白い環」は、1976年、テレビキャスターであるエドワルド・チンマーマンの呼びかけによって設立された。犯罪被害者の支援と犯罪の予防を目的とし、主として犯罪被害者の経済的援助を行っている。 (2)組織の概要 連邦事務所はフランクフルトに程近い マインツにあり、ドイツ国内の16の州に18の州支部事務所を持つ。ただ、実際の活動拠点はボランティアをしている人のうち約400名の個人の居宅である。7万人の会員を擁し、2000年現在、約2300 人の相談員(ボランティア)が活動している。個人の居宅である活動拠点に5〜6名のスタッフという割合である。相談員の中には弁護士もいる。 この「白い環」の活動資金は1998年では、総額2400万マルク、収入の内訳は1128万マルク(47%)が寄付金、336万マルク(14%)が会員の年会費、360万マルク(15%)が罰金の割り当て、384万マルク(16%)が遺産の贈与、192万マルク(8%)が利子その他繰越金などの雑収入となっている。一方の支出としては、年間総支出2300万マルクのうち、1219万マルク(53%)が被害者への援助に、322万マルク(14%)が管理費に、299万マルク(13%)が犯罪予防費に、460万マルク(20%)が広告費につかわれている。 (3)活動内容 「白い環」が1年間に扱う件数は約1万2000件であり、相談員一人につき、多い人では年間150件も扱うが、常に継続的な支援が必要とされるわけではなく、1回の相談で終了する場合も多いということである。 「白い環」による支援は@相談と世話、A裁判所への付添、B官庁との交渉事の援助、C他機関による援助の仲介、D金銭上の援助がある。まず@相談と世話について、「白い環」の援助を受けようとする者はテレビコマーシャル、市役所、警察の窓口などに置いてあるパンフレットなどを通じて知った「白い環」の連絡先(連邦事務所もしくは支部)に連絡をする。連邦事務所では24時間で連絡を受け付ける態勢となっており、連邦事務所では、400の活動拠点の中から適切な場所を指示し、犯罪被害者に連絡させるようにしているが、犯罪被害者のもとに相談員を向かわせることもある。被害者自らが連絡する場合が多いが、警察機関や自助グループからの斡旋も3割から4割程度ある。「白い環」が独自に判断して相談員から被害者に連絡をすることはない。イギリスと比較すると「待ちの姿勢」に徹している。相談員による相談は時間制限なく行われる。相談員はまず被害者に質問をし、その被害者にとって現在、何が必要かを判断するほか、被害者に対して必要な手続などの説明を行う。 その上で、相談員が被害者には金銭的給付が必要と判断した場合、「白い環」は、適宜この犯罪被害者に金銭給付を行う。当座に間に合わせるための金銭としては、その相談員の判断のみで500マルクまでが直ちに給付される。弁護士への最初の相談料250マルクが小切手で支払われる。それ以上の援助を必要とする場合は、相談員が被害者に対して口頭でいくつかの質問をするだけで、申請書や添付書類などが必要とされることはない。「白い環」が被害者に対して支払う金額の上限はないし、被害者に対して後で請求することもない。加害者に対する求償も行っていない。 相談員が犯罪被害者の相談を受けた結果、治療が必要と判断された場合には、医療機関の紹介も行ったりしている。紹介する病院は連邦事務所が列挙しているというものではなく、相談員個人が知っている病院などが紹介されている。必要な医療費は「白い環」によって支払われる場合もある。被害者が弁護士による法的アドバイスを希望する場合で被害者が弁護士を知らないという場合には、相談員が弁護士を紹介しているが、連邦事務所でリストを作成しているわけではなく、相談員の知っている弁護士を紹介している。他の自助グループの支援が必要な場 合には、そちらに連絡する。また、被害者が転居したいとか、警察に被害届を提出するといったように、官庁との交渉事がある場合には、相談員は被害者に付添を行っているほか、被害者が裁判所に証人として出廷するような場合、相談員が付添を行う場合もあるが、主として弁護士による付添や委任がされている。 さらに、強姦事件の被害者のように、一時的にせよ現場から離れた場所で過ごす時間が必要な場合には、「休日プログラム」を提供している。「休日プログラム」とは「白い環」が費用を出して、被害者に旅行をさせるものである。計画や旅行の手配も相談員が行う場合も多い。 このようにみてくると「白い環」の活動は被害者にとって至れり尽くせりの感があるが、基本的には被害者が自分でできることは自分でさせるようにしているということである。相談員は被害者にとって何が必要かを判断し、必要とされた支援を行う。「白い環」が行っている経済的支援は、被害者に負担をかけないものであり、「白い環」は、素早く官僚的でなく支援を行うことをモットーとしており、これが被害者にとって失われた人間性への信頼回復に役立っているという。自ら犯罪被害者であると偽って給付を受けようとする者もないではない。しかしそれは全体の1パーセント程度であろうということであり、「白い環」は例え騙されることがあっても、多くの救済を必要としている被害者に対する支援ができればそれでよいと考えている。 (4)相談員の養成 相談員になろうとする者は、「白い環」が主催する週末ゼミナールと呼ばれる3日程かかる講義を受ける。通常3回から4回位の出席で、必要な講義を全て受けることができ、これによって相談員になることができる。講義は、テキストなどは用いず、もっぱら先輩相談員の経験を基にして行われる。内容は法律、広報、コミュニケーションの取り方などであるが、コミュニケーションの取り方が主である。また、既に相談員となっている者も、2〜3年に一度はこの週末ゼミナールを受けるようにしている。このほか、活動拠点ごとに経験交流会が行われている。 (5)感 想 「白い環」の被害者に対する経済的支援は極めて簡便な手続で進められる。事務局長であるエッペンシュタイン氏によると、例え「白い環」が騙された結果、給付を行うことがあっても、簡便な手続による経済的給付によって多くの被害者が人間性に対する信頼を回復されればそれでよいということであり、この発想は、被害者救済を考える上で、大切であると感じた。また、「白い環」の収入の中で、年間360万マルクという金額が罰金からの割当金であり、罰金という加害者が拠出する金員の一部が被害者に還付されるべきものととらえられていることも注目される。さらに相談員養成手続においても「白い環」では簡便手続がとられている。「白い環」では被害者に対する二次被害の発生など、まるで考えていない様子であった。被害者は困っている、ただそれだけで、まず必要なこと、できることをしていこうという姿勢も見習うべき点がある。 なお、日本を発つ前には、文献調査によって、「白い環」はドイツにおける被害者救済の中心的民間団体であるという認識を持っていた。しかし、実際にドイツに行ってみると「白い環」は経済的援助が中心であり、また、「白い環」以外の数多くの民間団体が被害者救済に貢献していることもわかった。ドイツにおける被害者救済は、被害者自らが、あるいは支援団体が自らできる部分は自らが行い、経済的支援が必要と判断されれば「白い環」のような経済的支援を行う団体を作り、これに対して国は必要な援助を行い、民間団体では困難な専門的な精神的支援の部分では国や州によって被害者センターが作られ、救済手段を広げるといった形で、相互に補完的に、団体が形成されてきているという印象であった。このような発展経緯をたどってきているためか、相互の連携もかなりうまく機能している様子であった。 (ドイツ訪問先) ドイツ連邦刑事局 白い環 犯罪学研究所 HILFE 186ページ下の写真の説明 「白い環」では、被害者に対する具体的救済の他に、広告活動を行っている。このポスターは犯罪に対して見てみぬ振りはやめましょうということをアピールする広告である。 | |