| 第2節 犯罪情報へのアクセス | |
| 1.犯罪被害者に対する補償の理論 通常、被害者が犯罪情報にアクセスしようとすれば、警察や検察に頼ることが多く、ときには弁護士(会)や自治体、ボランティア団体などに頼ることになる。警察庁が定めている犯罪捜査規範(資料20)10条の3には、「被害者に対する情報提供の規定」が定められている。 また各都道府県警察では、被害者の手引「刑事手続の流れと被害に遭われた方へのお願い」などという、リーフレットを作成、配布している。 ところで被害者の立場からすれば、上記のどの窓口を訪れても、窓口をたらい回しされることなく、これらを網羅した適切な相談をなし、また情報を得ることが出来るようになることが必要である。 しかし、日本では、未だにこれら諸団体相互の有機的関連がない。外国の例では、例えばイギリスでは、検察官制度の歴史が浅いこともあってか、警察が刑事手続の中で一貫して窓口としての役割を果たし、被害者が警察に申告すれば、ボランテイア団体などにも通知がなされるようになっている。日本の警察の被害者の手引にも一応のことが書かれているようであるが、それ以上の有機的つながりは出来ていない。我が国では、弁護士が各団体をとりまとめる扇の要的な役割を担えるのが理想的ではなかろうか。 2.不起訴事件の捜査記録へのアクセス (1)被害者が、刑事確定記録や刑事公判に提出された訴訟記録を閲覧謄写する 場合、一定の範囲でこれが認められている。 これに対し、不起訴事件の記録は、実況見分調書や写真撮影報告書、検屍調書などの客観的証拠で代替性がないものを除き、捜査の密行性やプライバシーの保護などを理由として開示されていない(刑訴法47条、従前は交通事故の実況見分調書だけ開示されていたが、2000年2月の法務省の通達により、被害者が損害賠償請求権その他の権利を行使するため必要と認められる場合、プライバシーなどを侵害しない範囲で、@開示対象となる事件の範囲を交通事故以外の事件に拡大、A開示の対象となる証拠を写真撮影報告書、検屍調書などの客観的証拠で代替性がないものに拡大、B被害者またはその親戚からの請求又はその代理人たる弁護士からの請求についても開示する運用となった。)。 しかし、被害者にとっては、自ら被害を受けた事件について正当な刑事裁判を求める権利があるところ、右権利が保障されているのか否か判断するため、またこれが侵害された時の不服申立、更には民事訴訟提起などの被害回復のためには、これら情報の開示が不可欠である。 近時、ひき逃げ死亡事故について、検察審査会への不服申立や検察庁に対する抗議などに基づき、再捜査して起訴に至る例が多くなっており、これが司法に対する信頼確保に役立っていることは明らかであるが、それには一定の範囲での情報開示が不可欠なのである。 この点について、九弁連は「犯罪被害者の権利と救済」において、「被害者は、不起訴通知を受けた日から1か月の期間に限り、自らまたは弁護士に依頼して不起訴記録の全部を閲覧することができることとするが、被害者その他関係者の名誉・プライバシーを侵害するおそれがある場合においては、検察官はその旨告げて当該関係者にかかる記録の閲覧にかえて要旨を告知することができるものとする、プライバシーなどへの配慮から謄写は原則禁止し、一定の場合は要旨の告知とする。」との要件を挙げ、一定範囲での不起訴記録の開示を提言している。 不起訴記録を非開示とする根拠は、前記の通り、捜査の密行性とプライバシーの保護であろう。 ところで、このプライバシーの一言で、内容を吟味することなく、全てを非開示とすることはあまりにも観念的な議論である。ここでは、問題にされるプライバシーの中身を検討する必要がある。例えば、破廉恥犯と非破廉恥犯ではプライバシーの保護の必要性は違うだろうし、また、嫌疑不十分で不起訴の場合と嫌疑は十分だが示談が成立したり、その他の刑事政策的理由で不起訴とされる場合ではプライバシーの保護の必要性の程度は違うであろう。類型的定型的にみてプライバシーの保護の必要が低い事件や記録については、その範囲を規定し、それら事件については、特段の事情がない限り、原則開示とする法整備が必要ではなかろうか。 また捜査の密行性の点でも、既に不起訴が確定している事件では、これを余り重視する必要はないのではなかろうか。 要するに、不起訴記録を一律非開示とするのではなく、各所の利益状況を勘案し、柔軟に判断、運用できる制度が求められるのである。 (2)仮に、類型的定型的に原則開示のカテゴリーを定立するとしても、右のカテゴ リーに該当するかどうかの判断を誰がどのようにするのか、また、原則開示のカテゴリーに入らないが個別具体的にみて開示すべきケースについて裁量的判断が必要なときなど、これを誰が判断し、その判断の公正さをどのようにチェックするかという問題がある。 この点については、不開示についての不服申立制度の創設とその手続の中でのインカメラ制度の導入を提案したい。インカメラの手続きは正に真に保護されるべきプライバシーへの配慮からである。 (3)以上検討してきたとおり、不起訴記録開示の制度化が必要であるが、そのた めの、定型的に開示すべき犯罪類型と情報の規則化、不開示に対する不服申立制度の法制化なども含めた、不起訴記録などの開示に関する法律の制定が望まれるところである。そして立法に関しては、各種情報開示条例などの規定の仕方などが立法技術の上で参考になるのではなかろうか。行政機関の保有する情報の開示という点では類似点があるからである。 3.少年事件の情報ヘのアクセス 現行法上、少年の健全育成を図るという少年法の精神から、少年審判は非公開とされているため(少年法12条2項)、加害者が少年である場合、被害者が犯罪事件や加害者の氏名などの情報を得ようとしても困難が伴う。 これを得ようとするならば、民事の損害賠償請求を提起し、そのなかで家庭裁判所に少年の被疑事件に関する記録の送付嘱託を求めるしかない。 なお、国会に提出された少年法改正案では、「事件を終局させる決定をした場合、被害者又はその代理人などから申し出があるとき、家庭裁判所は少年及びその法定代理人の氏名及び住居並びに決定の主文及び理由の要旨を申出人に通告する。ただし、通知することが少年の健全な育成を妨げるおそれがあり相当でないと認められるときはこの限りではない。」との規定がある(少年法31条の2の改正案)。 4.受刑情報へのアクセス 前記の通り、受刑情報の被害者への開示に関する規定はない(損害賠償請求などのため、受刑者の受刑場所などを弁護士法23条の2によって照会すれば、これに回答する例はある)。 アメリカでは、夫の虐待を警察に通報した妻が、夫が刑務所から一時帰休することを知らなかったため、夫によって殺害されるというような事件が数多くあるとのことである(諸澤栄道『新版犯罪被害者学入門』161頁)。 日本でもJT社員殺害事件のようなお礼参り殺人事件が発生している。 これでは被害者は、安心して被害届けを出すことも出来ないし、これを防ぐことが出来ないなら、司法制度に対する信頼が損なわれることは明らかである。 従って、このような被害者に対するお礼参りなどの被害防止のためにも、受刑者の所在施設、出所予定日、出所理由などの開示は不可欠である。 この点、これが受刑者のプライバシーの保護や前歴者を犯罪予備軍扱いすることになって更生の妨げになるのではないかという反論が考えられるが、少なくとも、@被害者にお礼参りなど危害が加えられる具体的危険性が認められる場合、あるいはA脅迫、恐喝、ストーカー行為など犯罪者が同一の被害者に対し繰り返し犯罪を行ってきたことが確認できる場合などについては、前記情報を開示する必要性 が高く、これを不許可とする理由はない。 したがって、早急に、現在実施されている被害者通知制度などを拡大し、希望者には、受刑者の受刑場所、出所予定日、出所事由などを通知し、警察もこれらの相談に対応できる体制を作るべきである。 【参考文献】 『ジュリスト』1163号18ページ以下 九州弁護士連合会/大分県弁護士会編『犯罪被害者の権利と救済』(現代人文社) 東京弁護士会『犯罪被害者救済に関する協議会答申書』) )。 |