| 第3節 二次被害の発生とその防止 |
| 1.はじめに 犯罪による直接的な被害を一次被害と言い、刑事司法機関などの配慮に欠けた処 遇によって犯罪被害をさらに深いものとすることを二次被害化、さらに被害者に適切な対応がなされなかったために、被害者が自己破壊的になることを三次被害化という。 従来は主として刑事司法機関としての警察、検察における犯罪被害者に対する処遇諸施策が問題とされ、改善の努力がなされてきた。公判手続での二次被害対策として2000年5月に一応の立法的措置もなされた。 最近はさらにより広汎な検討が必要とされている。社会全般において被害者に適切な対応がなされなかったため受ける被害という観点からすれば、犯罪被害者支援の全施策がこれに関係するとも言える。 2.刑事手続における被害者の地位の改善 (1)捜査段階での被害者保護−警察・検察 @警察 まず、犯罪被害者は被害届を提出したり、告訴をしたりして捜査の端緒となり、またその後の捜査段階では参考人として捜査機関の取調の対象となる。この際、捜査機関から不当な取扱を受けたり、配慮に欠けた取調を受けることによって、被害が増幅され二次被害を受けることがあることは従来から指摘されてきたところである。最近は被害者の被害申告に対して、捜査機関が民事不介入などを理由として適切・機敏な対応をせず、なされるべき捜査権限の発動をしなかったために被害の拡大を防止できなかった事例が数多く指摘されている。 この不作為の点は、第1節において触れたところであるので、そこに詳細は譲るが、捜査機関の不作為が被害者に対する深刻な二次被害の発生を許していること、従って犯罪被害の申告を受けた場合、捜査機関がこれに適切に対処するべきことは法的な義務であることを再確認すべきである。 なお、警察庁は、二次被害発生防止に関し、1996年に内部通達である被害者対策要綱(資料22)や被害者連絡実施要領を定め、また1999年には犯罪捜査規範を改訂(資料20)して、被害者連絡制度や告訴をした者の名誉や信用に対する配慮、被害者の心理の理解、取調の場所などについて被害者に不安や迷惑を与えない措置を講じるべきことなどを定めた。 さらに二次被害が多い性被害者対策として、性犯罪捜査指導官の設置、婦人捜査員による事情聴取体制(しかし、これについては反対に同性に性的被害を話すことの苦痛を訴える意見もある。)、性被害者相談窓口の設置などの施策が取られている。適切な事情聴取場所の確保についても逐次改善の方向にある。 しかし、前記犯罪捜査規範の定めは概略的、一般的なものにすぎず(例えば、その定める被害者連絡制度の対象、連絡の相手方〈全ての被害者などを相手方とするのか否か〉連絡の時期などが明確でない)、また被害者対策要綱や被害者連絡実施要領などは内部通達で法的規定でないため、その実際の運用が不透明であることなどの問題がある。 なお、被害者連絡実施要領の対象となる犯罪は、人身被害に関するものに限定されている問題もある。今後の課題としては、上記施策が確実かつ積極的に運用されるような法的制度を確立するとともに、被害者の取調に際してその立場を擁護する弁護士の立会や補佐人などの付添を認める制度の導入などを検討する必要がある。 A検察 検察についても1999年から被害者など通知制度(資料21)が実施され、被害者や目撃者から希望がある場合には、検察官から被害者らに対し、事件の処理結果、公判期日、刑事裁判の結果などを通知することとなった。 また同時に、犯罪被害者相談や来庁した被害者への応対、各支援機関との連絡調整などにあたる被害者支援員制度も一部地検から導入したとのことである。 更に二次被害防止のため事情聴取についての検事研修などもなされているが、検事の取調について警察の取調と同様のことを再度聴取されたことへの不満を持つ被害者が意外に多い。刑事司法上検察の本来的任務としてそれが必要であるとしても、その負担軽減のため、警察段階で述べた被害者取調に弁護人、付添人の立会を権利として認めることが必要である。 検察は訴追権を独占し、刑事訴訟遂行権を有する。被害者を実質的一方当事者であるとする考えからすれば、検察は刑事手続において被害者を実質的に代理するといっても過言ではない。従って、検察はこの面での活動も期待されていると考えるべきである。被害者を犯罪立証のための取調客体とするだけではなく、その実質的当事者である被害者の要望を汲み上げる方策、制度が必要であると考える。特に今回の刑訴法改正により、公判段階での被害者保護が規定されたが、その実質的運用においては、検察官は大きな責務を負ったと言わざるを得ない。 (2)公判段階での被害者保護−裁判所 被害者は、公判において証人として尋問されることがある。その際、思い出したくないことやプライバシーに関することを質問されることがあり、それによって被害が増幅され(トラウマを引き起こす可能性)二次被害となることがある。 それによって被害者に生じる精神的負担は、まず@被害状況について供述しなければならないこと自体に伴うもの、A公開の法廷で証言することによるもの、B被告人の面前で証言しなければならないことによるもの三点にあるとされる。 これらを全面的に防ぐ法的手段はないと言わざるを得ない。警察・検察は、被害者に証人に出なくて済むと約束して調書を作成する場合がある。そうなっては行き過ぎで問題である。この場合は、憲法上の裁判の公開原則、証人尋問権との関係で、被告人の刑事司法上の権利を制限したり侵害したりすることのない限度で、被害者の保護を図る外ないからである。しかし、証言をする被害者の負担を軽減する法的対応は可能である。 従来は、刑訴法295条による起訴事実に直接関係ない被害者のプライバシーに関わる質問、被害者の名誉を不当に侵害する質問についての裁判長の訴訟指揮権行使、刑訴法281条による公判期日外の証人尋問、刑訴法304条の2による被告人の退廷などの規定の活用がなされてきたが、証人の信用性を弾劾する尋問との関係、公開原則との関係において限界があり、被害者保護の点からすれば十分機能していたとはいえなかった。 この点については、2000年5月、@証人尋問の際の付添人制度(刑訴法157条の2)、A遮蔽物の設置(同法157条の3)、Bビデオリンク方式による証人尋問を導入(同法157条の4他)する刑訴法の改正がなされ、法廷における証言に伴う二次被害からの被害者保護について一応の手当がなされた。 また、刑事司法において被害者を実質的一方当事者であるとする観点からする被害者の刑事手続参加の権利、これに関する情報を得る権利として、@被害者の意見陳述権(刑訴法292条の2)、A被害者や家族の優先的傍聴への配慮(犯罪被害者保護法2条)、B裁判中の被疑者や家族の公判記録の閲覧・謄写の制度(同法3条)が立法化された。これらは、これまで一方当事者としての地位をなど閑視されてきた被害者の二次被害拡大を防止する点にも意義がある。 しかし、付添人制度については、異議権がないなど法的権限が曖昧で不十分なことや、誰がイニシアチブを取って付するのか、費用は誰が負担するのかなど未解決な点も多い。今後この点に関する支援、制度整備がなされなければ、被害者の二次被害防止の実効性は図れない。さらにいえば、被害者にとって慣れない裁判手続に関与せざるを得ないこと自体がストレスである。公判での付添人に限らず、その負担を軽減する方策が必要である。 この点は、最終的には被害者国公選弁護人制度の導入に至るものであろう。 3.マスコミ報道と二次被害 犯罪報道による二次被害は、これまで度々指摘されてきているところではあるが、その影響力の大きさにより、被害程度は深刻なものになることが多い。 犯罪被害者は、マスコミによる取材と報道によって二重に、二次被害を受けるのである。 被害者が取材対象となること自体、備えのない被害者にとって大きなストレスで ある。 特に犯罪被害者の場合、犯罪による精神的に不安定な状況の中、問答無用の質問、断ってもくり返される頻繁な電話やインターホン取材、多数の取材陣による自宅の包囲、無断での写真・ビデオ撮影など被害者の心情を無視した過激な取材攻勢がなされる。 またマスコミ報道によって氏名や個人の私生活にわたる事項を暴露され、丸裸と言っても良い状態で世間にさらし者にされる。そしてときには加害者側の一方的な言い分が報道され、反論できない(反論すれば更に報道を過熱させる。)屈辱に耐えなければならない。 更に詳細な事件内容の報道によって傷に塩を擦り込まれ、打ちのめされるのである。またこれらの行為により、仕事さえ出来なくなることもある。 このようにして被害者は、犯罪被害の上に、精神的物理的な二次被害を被るのである。 確かに犯罪は、それ自体、国家刑罰権と関係し、公的な性格を持つことは否定できない。しかし、他方、被害者には名誉とプライバシーの権利がある。 特に被害者の氏名は、国家刑罰権の問題とは殆ど無関係であろう。 取材の信用性を担保する意味から実名報道が意義を持つことはあり得るだろうが、 少なくともそれを報道公表するには当人の同意、承諾が必要であると考えるべきである。被害者の写真報道についても全く同様である。 犯罪被害者の個人情報に関する報道は、基本的にその同意、承諾が必要であると のルールを早急に確立する必要がある。 特に性被害については匿名とする必要も高く、早急な立法的解決が必要である。 このような二次被害を防止するためには、まず報道機関自らが衿を正し、自ら二次被害について検証し、訂正する努力をしなければならない。 そして弁護士(会)も、積極的に被害者の相談にのり、事案によっては弁護士が取材の窓口となってこれを整理し、ときには不退去罪、軽犯罪法違反、迷惑防止条例違反などを根拠に警告、刑事告発、仮処分、損害賠償請求などの法的手段を活用するべきであろう。 また警察、検察のマスコミに対する被害者情報の提供も、これら二次被害の発生を充分に考慮してなされるべきである。 更には、このようなプライバシーの侵害(裏付けのない事実と異なる報道も同様)について事前防御が困難だとすれば、事後的救済(不法行為による損害賠償請求)において厚く保護することも検討されなければならない。 この点、現在の日本の不法行為による損害賠償訴訟は、原則として金銭賠償とされ、謝罪広告などの名誉回復的措置の要件が厳しいこと、賠償額が生じた損害に限定されていること、さらにその主要な部分である慰謝料額自体が低く押さえられる傾向にあることなどの問題がある。 これでは、仮にマスコミが損害賠償請求訴訟に破れても、既に報道することによってそのリスクを遙かに越えた利益を得てしまうことになる。 これに対する法制度として、マスコミによるこの種侵害に対する損害賠償請求に、被害額に限定されない懲罰的損害賠償の考え方を導入することが考えられる。それが立法的に手当されるべきか、具体的裁判を通じて司法的に実現が図れるのかは問題であるが、充分検討さるべき課題であろう。 4.弁護士の活動と二次被害 弁護士は、犯罪に関して、刑事面では、告訴などの手続を代理するなど被害者側 からの相談を受けて活動することもあるが、被疑者・被告人の弁護人として活動することが多い。 また民事面では損害賠償請求事件の被害者側または加害者側から相談を受け、訴訟外あるいは訴訟上代理人として活動する。この弁護士の活動が被害者の二次被害に関係することが少くない。 (1)被疑者・被告人の弁護活動と二次被害 刑事事件における被疑者・被告人の弁護人としての活動が、一方では弁護人として被疑者・被告人のために当然なすべき、かつ適正なものであるとしても、他方被害者の被害を増幅させる可能性があることは、常に注意すべきである。 刑事被告人(被疑者)の弁護活動に当たっても、その活動の意味を充分に説明するとともに被害者の心情に配慮することも必要である。 この点、現在日弁連においては「刑事弁護ガイドライン」(案)が提起され、「弁護人は、被疑者・被告人のため、被害回復・弁償に努めるものとする。」(研究会第二次案第10条)、「弁護人が被害者と交渉にあたっては、特に、被害者の名誉、心情、及びプライバシーに配慮するものとする。」(同第11条)などの点を盛り込むことが検討、議論されている。 しかし、刑事手続における弁護士への不満の根底には、刑事事件において 「加害者ばかりが保護されている」との被害者の不満がある。一般人からも、弁護士は犯罪者の味方ばかりしていると見られているところがある。 これに対して弁護人は被疑者、被告人のために弁護するのが本来の任務であるとか、あるいはそれは社会の偏見であると建前を言っても、不満は解消しない。 弁護士がこれまで刑事手続きにおいて被害者の権利擁護に関与することが少なかったことは否めず、このことを率直に自覚すべきであると考える。 (2)被害者の代理人としての活動と二次被害 弁護士は、被害者から、加害者に対する刑事告訴や被害賠償などについて相談を受けたりすることがある。その場合、法的結論の説明に終始したり損害賠償額のみを問題にしたりすると、被害者は、弁護士は被害者の心情を理解せず、結論だけを押しつけるなどとの感情を抱き、二次被害を増幅させることがある。 したがって弁護士は、被害者からの相談や依頼を受けた場合には、他からの二次被害を防止について努力するだけでなく、自らが与える可能性のある二次被害についても留意しなければならない。 具体的には、 ア.被害相談などを受けた場合には、刑事告訴や損害賠償などの法的手続について説明するだけでなく、被害者の説明を良く聞いてその複雑な心情を理解するように努めること、 イ.必要であればこれらの手続の代理をするだけでなく、告訴やその後の事情聴取、法廷傍聴などの際に被害者に付き添って出頭し、あるいはその刑事手続について説明して、これら手続が円滑に進むように助力するとともに被害者の不安感を取り除くよう配慮すること、 ウ.加害者側との交渉やマスコミの取材の窓口となって二次被害の発生防止努めること、 エ.被害者との連絡を密にし、情報を速やかに伝達すること、 などが求められる。 弁護士、弁護士会は、これらに対する対策、対応が不十分であったことを謙虚に反省し、弁護士が二次被害の加害者になることを防止するための研修などを実施し、あるいは被害者支援組織の相談窓口の開設などに積極的に参加すべきである。 しかし、上記アないしエの施策を具体化することを弁護士のボランティア活動のみに頼ることには無理があり、誰がその費用を負担するのかが問題となる。最終的には被害者国選弁護制度などの立法論的解決を検討すべきである。 なお、被害者との関係において、弁護士関与にも限界があることを認識しておかなければならない。民事の場合、被害者救済の手段は原則として損害賠償に限定される。それが犯罪被害者の要求と一致する場合はよいが、そうでない場合も多い。曰く、「金の問題ではない」と。また、弁護士としては判決後の執行の可能性まで考えた見通しを教示し、説明せざるを得ない場合があるが、執行が不能であったり、執行が事実上困難事案については、その説明を聞くこと自体が被害者のストレスになる可能性も否定できないことに留意すべきである。(週間法律新聞論壇『福岡県弁の犯罪被害者支援、その基本姿勢と活動』は、弁護士にカウンセラーの能力はないし、むしろそれをやるべきではないとし、相談窓口の設定とカウンセルの必要性の振り分け、法的支援・援助に割り切るべきとする。被害者の要求の全てに弁護士が応えられるものではないこと、司法上の被害者支援のシステムは、経済的支援、精神的支援・ケアーを含めた広汎な被害者支援のシステムの一部にすぎないとの自覚が肝要か)。 5.受刑施設の出所情報の開示 二次被害を防止する観点から、受刑施設などからの出所情報などの通知制度の必 要が主張される。アメリカの「メーガン法」は、公衆の保護のうえで必要な場合は犯罪情報を公開し、性犯罪者が釈放されるときは社会にこれを知らせることを認めている。日本でもこのような出所情報などを開示して、いわゆるお礼参りによる被害や、逆恨みによる被害から被害者などを守ることを考える必要がある。現実に起こった事件からすれば、これが有効な施策である面は否定できない。 しかしながら二次被害の面からすると、これを知らされることによって忘れかけようとしている被害者に記憶を呼び戻し、新らたな二次被害を招く虞もある。静かにしておく必要がある場合もあるのである。その情報の連絡先も単に被害者にするのではなく、支援する代理人にするなどの工夫が必要であろう。 また、それが知らされたからと言って被害者だけで有効な防御ができるわけではない。この場合、情報を知ること自体に価値があるのではなく、その情報によって被害者保護の対応が適切になされることが大事なのである。被害者に対する再度の危害の虞のあるとき、被害者を保護する社会的システムが存在し、それが有効に働くようなものでなくてはならない。現在は、そのような場合に一時避難する場所さえない。元来個人の権利と自由を保護することを目的として設置された機関である警察が、このような任務を負担すべきであるが、そのような体勢になっていない。このような場合、被害者を保護するための社会的システムが確立される必要がある。 |