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宣言・決議・意見書・声明等
2025年度(令和1年度) 声明
永住資格取消事由の拡大について速やかに再改正することを求める理事長声明
- 1 出入国管理及び難民認定法及び外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律の一部を改正する法律が2024年(令和6年)6月14日、成立し(同月21日公布。以下「改定法」という。)、改定法の附則は、公布の日から起算して3年を超えない範囲内において政令で定める日から施行すると定めている。
改定法は、以下のような場合について、政府(出入国在留管理庁)が、「永住者」の在留資格を取り消すことができるとするものである。
- (1)入管法上の義務を遵守しない場合
在留カード常時携帯義務、紛失時等の在留カード再交付申請義務等に違反したときに、文言上は、故意、過失が認められなくとも、また、その違反が1度目のものであっても、永住資格取消事由となるとされている。
- (2)故意に公租公課の支払をしない場合
税金、国民年金、健康保険料等の公租公課を支払わないときに、文言上は、支払えない事情に関係なく、永住資格取消事由となるとされている。
- (3)比較的軽微な罪により、拘禁刑(懲役・禁錮)に処せられた場合
一定の類型の罪により拘禁刑を受けた場合は、執行猶予が付されたときでも、永住資格取消事由となる。
改定法は、永住者さらには永住者の家族の在留、生活を著しく不安定化させるものであることから、当連合会は、同月10日、「永住者に対する在留資格取消事由の拡大に反対する理事長声明」を発出して、法改定に反対した。
- 2 出入国在留管理庁(入管庁)は、取消事由につき、「一部の悪質な者を対象とするもの であり、大多数の永住者を対象とするものではありません」などと述べているが、条文上、そのような限定は付されておらず、永住資格の取消しが広く可能となっている。すなわち、条文上永住資格の取消しを極端に容易にしつつ、実際に取り消すか否かは法務大臣・入管庁側の運用次第・裁量次第ということになり、永住者やその家族の在留や生活を著しく不安定化させ、永住者そしてその家族ひとりひとりの日常の心理状態に恒常的に不安を与えることになる。
国連人種差別撤廃委員会も、2024年(令和6年)6月25日、緊急手続として発出した書簡において、改定法について、永住者の人権、とりわけ人種差別撤廃条約の下で保護される諸権利に及ぼしうる不均衡な影響を憂慮している、としたうえで、改定法の悪影響から、永住者の保護を確保するための措置、とりわけ改定法の見直し、または廃止のために、日本政府がとった又は検討している措置について同委員会に回答するよう、日本政府に対し要請した。
- 3 当連合会は、法案が通過する前から、永住資格の取消事由を拡大することによって、強度に外国籍・無国籍市民の人生計画・生活設計を容易に根本から揺るがすことになることから、かかる永住資格取消事由の拡大に強く反対してきたところであるが、永住者もまた、日本社会の構成員であることを改めて確認し、国会及び政府に対し、永住資格取消事由の拡大につき改めて十分な議論を行い、同事由を削除する内容での再改定を行うよう強く求める。
そして、施行までに再改定がなされなかった場合であっても、少なくとも入管庁に対し、以下のとおり求める。
- (1)永住資格取消事由の範囲を明確にすること。
- ア 「故意に公租公課の支払をしないこと」(改定法22条の4第1項8号)につき、①支払うべき公租公課を認識し、かつ支払能力があるにもかかわらず、あえて公租公課の支払をしない場合に限定し、また、②支払うべき公租公課を認識し、かつ支払能力があるにもかかわらず、あえて公租公課の支払をしなかった場合であっても、その後、支払がされ、遅延が解消されたときについては、永住資格取消事由には該当しないことを明確にすること。
- イ 法改定前の過去の入管法義務違反、公租公課不払い、前科について、改定法施行前のものについては勘案しないことを明確にすること。改定法には経過規定がないが、遡及的に永住資格取消事由には該当しないことを明確にすること。
- (2) ガイドライン作成への参画
永住資格取消事由の運用に関するガイドラインと、通報に関する運用に関するガイドラインの作成過程に、永住者当事者や、支援団体、弁護士を参画させること。
2025年(令和7年)5月29日
