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宣言・決議・意見書・声明等
2025年度(令和7年度) 声明
茨城県による「不法就労」通報報奨金制度導入及び不法就労活動の防止に関する条例案に反対し、撤回を求めるとともに、外国人労働者保護のための施策を講じるよう求める理事長声明
- 1 大井川和彦茨城県知事は、2026年度より、茨城県内の外国人の「不法就労」に関する通報報奨金制度を導入するほか、茨城県不法就労活動の防止に関する条例の制定を目指すと発表した。
現時点で公表されている情報によると、通報報奨金制度(以下「本制度」という。)は、茨城県でインターネットを利用した情報提供システムを導入し、情報を基に県の担当者が調査し、「不法就労」が確認された場合に県警に連絡するもので、外国人の摘発につながった場合に情報提供者に1万円程度の報奨金を支払う制度とするようである。
また、茨城県不法就労活動の防止に関する条例案(以下「本条例案」という。)は、不法就労活動の防止を目的とし、不法就労活動防止への必要な措置の実施や県が実施する不法就労活動の防止に関する施策への協力を事業者や県民の責務とすること等を規定内容とするようである。
- 2 しかし、本制度や本条例案は、以下のとおり、①「不法就労」の本質的解決とならないこと、②県内の事業者や県民に不利益を生じさせること、そして何より③外国にルーツを持つ人々に対する不当な差別と偏見を助長するものであることから、本制度及び本条例案は直ちに撤回すべきである。
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①「不法就労」の本質的解決とならないこと
外国人が「不法就労」に陥る最大の理由は、現在の技能実習制度をはじめ、日本で働く外国人労働者が労働者として日本国民と同様の保護を受けられる仕組みが、整えられなかったことにある。
例えば、技能実習制度では、最低賃金未満の給与を強いるなど劣悪な労働条件、暴力や体罰などのパワハラ、セクハラや性行為の強要等の虐待行為などが報告されている。このような劣悪な労働条件や虐待行為から逃れるために外部の者に相談するとしても、相談窓口の周知がされていない、または、そもそも相談窓口が存在しないため、外国人労働者が自力で保護を求めることができない状況にある。さらに、日本に入国するための借金や送り出し機関に支払う保証金のため、劣悪な労働条件や虐待行為に耐え忍ばざるを得ない事態も生じている。
外国人労働者は、このような劣悪な労働条件や虐待行為から「逃亡」できたとしても、生活の糧を得るためには、事実上摘発覚悟での「不法就労」を余儀なくされるのが実情である。本制度や条例を設けたとしても、「不法就労」の原因を改善しなければ、「不法就労」の本質的解決にはつながらない。
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②県内の事業者や県民に不利益を生じさせること
本制度や本条例案のような条例を制定すれば、県内の事業者や県民一般に対し、「不法就労」防止のために協力する責務を課すことになり、外国人の「不法就労」を探索させることを推奨するのみならず、通報等に協力しない者に対して非難や圧力を加えることにもつながりかねない。
例えば、在留資格を有しない外国人や、就労に必要な条件を満たさない外国人について、これまでは事業者が単に雇用しないという対応で足りていたものが、本制度や本条例案が導入された場合には、事業者のみならず県民までもが、積極的に通報しなければ「不法就労」に加担しているのではないかとの疑いの目を向けられかねない。
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③外国にルーツを持つ人々に対する不当な差別と偏見を助長するものであること
「外国人に見える者」が就労しているという外形だけでは、外国にルーツを持つ日本人か、日本国籍を有しない外国人かなどの区別などつけられないし、就労している者が「外国人」だったとしても、在留資格を有しているのか否か、就労に必要な条件を満たしているのか否かも分からない。
それにもかかわらず、県民一般に「不法就労」摘発に協力させることは、就労している「外国人に見える者」が「不法就労」ではないかと疑うことを推奨することになる。外国人労働者やその家族のみならず、外国にルーツを持つ日本人に対しても、偏見、差別的意識を植え付け、怪しい外国人は排除するという「排外主義の温床」を設け、分断を生じさせることになりかねない。
現時点で、茨城県としては、通報対象は不法就労者を雇用している事業者にするとのことであるが、通報の対象を事業者にしても、就労している「外国人に見える者」が「不法就労」ではないかと意識させ、不当な偏見と差別と分断を生じさせることには変わりはない。まずは、なぜ「不法就労」が生じているのか原因を分析し、原因を解決するための合理的な方策が取られるべきである。
- 3 「不法就労」を防止するために最も重要なことは、外国人労働者が、労働者に他ならないという実情に目を向けて、日本の会社や事業者に蔓延する外国人労働者軽視の姿勢、外国人労働者を尊重し人権を保障する姿勢の欠如を是正し、日本国民と同様に、労働者として保護され、人として人権保障を受けられる制度を整備すること、外国人を人として尊重するという社会内での共通認識を確立することである。
言い換えれば、外国人労働者が労働者として保護され、逃亡しなくても済む制度を構築し、外国人を偏見や差別から守り社会の一員として生活できるようにすべきである。労働条件や労働法を遵守できる企業や事業者を選択し転職・転籍できるよう制度を改めること、外国人労働者が労働者として人として保護されるように十分な相談体制を整えるとともに相談窓口について広く周知することなどが挙げられる。
また、技能実習制度は、2027年度より育成就労制度となり廃止される予定であるが、外国人を、労働者として、それ以前に人として尊重し人権を保障するという大前提を確立しないことには、制度を変えたところで、「不法就労」改善など到底見込めない。
本制度や本条例案は、「不法就労」の本質的解決にならないだけでなく、県民に対して外国人を監視対象とするような誤ったメッセージを送ることになり、地方公共団体による多文化共生施策の実現に逆行するものである。
- 4 以上より、茨城県による「不法就労」通報報奨金制度導入及び不法就労活動の防止に関する条例制定に反対し、撤回を求めるとともに、外国人労働者保護のための施策を優先的に講じるよう求める。
2026年(令和8年)3月30日
関東弁護士会連合会
理事長 種 田 誠
