
2024年11月に特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律、いわゆるフリーランス新法が施行された。同法は、いわゆるフリーランスと呼ばれる個人の事業者等に係る取引の適正及び就業環境の整備を図り、もって国民経済の健全な発展に寄与することを目的としており、取引において弱い立場に置かれがちなフリーランスの保護を図る機運が我が国の社会全体で高まっている状況にある。
ところで、当連合会は、2025年12月に東京三弁護士会で開催された通訳人研修及び2026年1月に埼玉弁護士会で開催された通訳人研修において、研修に出席した通訳人に対して法廷通訳に関するアンケートを実施した(以下「本アンケート」という。)。その結果、本アンケートに回答した通訳人は合計で91名であり、そのうち法廷通訳人の経験がある通訳人は40名であった。
本アンケートで明らかになったことの一つは、ある通訳人が近接した時期に複数の事件で法廷通訳人を務めた場合に、裁判所から、所定の期間中に担当した全ての事件に対する通訳人報酬の金額しか明らかにされず、個々の事件ごとの通訳人報酬の金額が明らかにされないことがあるという問題である。この問題については、本アンケートにおいて個々の事件ごとの通訳人報酬の金額が明らかにされていないと回答した通訳人も明らかにされていると回答した通訳人もそれぞれ一定数存在したことから、庁又は部によって運用の差があるものと推察されるが、個々の事件ごとの内訳が不明であると、仮に裁判所側のミスで一部の事件について通訳人報酬の不払い等があったとしても、通訳人がそのようなミスの存在に気がつくことが難しくなってしまう。このような事態は、その多くがフリーランスであろう通訳人を取引においてより弱い立場に追いやるものであり、フリーランス新法の理念にそぐわないものといわざるを得ない。個々の事件ごとの内訳を明らかにしない運用は、改善することが困難なものとは考えにくく、現に個々の事件ごとの内訳を明らかにしている庁又は部が存在していることも踏まえると、早急に改善されるべきである。本アンケートにおいても、この問題について改善を求める回答は一定数存在した。
また、法廷通訳人の報酬の水準についても改善が必要である。近年のインフレ傾向の社会情勢に鑑みれば法廷通訳人の報酬の水準は民事・刑事を問わず全体として引き上げる必要があるが、特に刑事事件の裁判員裁判対象事件や否認事件は類型的に通訳の内容が複雑で多量になりやすく、裁判員裁判対象事件の場合は集中審理の負担も大きいが、現状はそうした負担が報酬に適切に考慮されているとは言い難いため、特にこれらの類型の事件については大幅な改善が必要である。本アンケートでは、法廷で適切な通訳を行うために法廷外で相当の時間をかけて準備を行っているが、そのような労力が考慮されているのか疑問である、都道府県を跨いで遠方の裁判所に出廷した場合に、遠距離移動の負担が考慮されているのか疑問である、法廷通訳は通訳業務の中でも非常に大きなプレッシャーを背負う業務なのに、報酬の水準がそれに見合っていないといった回答も見られた。このような疑問や不満に向き合わずに漫然と現状維持を貫けば、いずれ法廷通訳人の確保が困難になったり、法廷通訳人の質が低下する事態も懸念される。このような事態は、憲法で保障されている適正手続の保障や迅速な裁判を受ける権利の保障に関わる人権問題であり、また司法に対する国民の信頼に関わる重要な問題である。法廷通訳人の報酬の水準の問題については、そうした問題意識を持ち、現場の法廷通訳人の声に十分に耳を傾けた上で、改善について真剣に検討される必要がある。
以上のとおり、当連合会は、個々の事件ごとの通訳人報酬の内訳を明示するよう早急に運用を改善することを求めるとともに、通訳人報酬の水準についても改善することを求める。
2026年(令和8年)6月30日
関東弁護士会連合会
理事長 冨 田 秀 実