関東弁護士会連合会は、関東甲信越の各県と静岡県にある13の弁護士会によって構成されている連合体です。

宣言・決議・意見書・声明等宣言・決議・意見書・声明等

2026年度(令和8年度) 大会決議

イランをめぐる武力の応酬等を踏まえ、日本政府に対し国際法及び日本国憲法の原理に基づく平和的解決への尽力を求める決議

 当連合会は、2026年2月28日に開始されたアメリカ及びイスラエルによるイランに対する武力攻撃並びにこれに続くイランによる反撃、ホルムズ海峡の封鎖・通航妨害及びレバノンにおける戦闘の拡大等、イランをめぐる武力の応酬等を踏まえ、日本政府に対し、日本国憲法の恒久平和主義及び国際協調主義に基づき、全世界の人々の平和的生存権を尊重する立場から、違法な武力行使に加担せず、国際法違反に対して一貫した立場を示すとともに、国連を中心とする国際協調の下で、すべての当事者による武力行使の恒久的停止及び再発防止、国際人道法、国際人権法及び国際海洋法の遵守、民間人保護、人道支援の確保、独立・公正な調査と責任追及、ホルムズ海峡における自由で安全な通航の回復・維持、核問題の外交的解決並びに恒久的な戦争終結に向け、主体的かつ最大限の外交努力を尽くすことを求める。

2026年(令和8年)9月18日

関東弁護士会連合会

提案理由

  1. 1 事実の経過
     2026年2月28日、アメリカ合衆国及びイスラエル国は、イラン・イスラム共和国に対する大規模な軍事作戦を開始した。この攻撃(以下「本件攻撃」という。)は、核関連施設、防空システム、弾道ミサイル関連施設、革命防衛隊関連施設等にとどまらず、首都テヘラン中心部の最高指導者事務所にも及び、最高指導者ハメネイ師が執務中に殺害された。親族、革命防衛隊司令官、参謀総長、国防軍需相らも死亡したとされる。報道によれば、アメリカ及びイスラエルの情報機関は、数か月にわたりハメネイ師の行動様式を追跡し、高官会議の予定を把握していたとされ、本件攻撃が少なくとも最高指導者及び軍事・統治機構の中枢を重要な攻撃対象としていたことを示している。
     本件攻撃による被害は甚大であった。イラン側発表として、2月28日夜までに、全31州のうち24州で攻撃が確認され、全国の人的被害として計201人が死亡し、747人が負傷したと報じられている。その中には民間人被害も含まれるとみられ、南部ミナブの女子小学校では、児童や教員ら少なくとも計85人が死亡し、90人以上が負傷したと報じられた。その後も、アメリカ及びイスラエルは、イラン中部・西部の防空システム、ミサイル発射拠点、艦船等への攻撃を継続し、アメリカのトランプ大統領は、イランを「石器時代に戻す」などと述べ、発電所、橋、石油施設等への攻撃も示唆した。
     これに対し、イランは、アメリカ及びイスラエルの攻撃を国連憲章違反の侵略行為であるとして非難し、イスラエルのほか、中東地域に所在する米軍基地、湾岸諸国の空港・石油ガス関連施設、船舶等に対し、ミサイル及びドローンによる攻撃を行ったとされる。イスラエル、米軍関係者、湾岸諸国の民間施設等にも死傷者・被害が生じたと報じられている。さらに、イランの革命防衛隊が12歳以上を対象とする志願兵を募ったとも報じられているほか、イラン国内では通信遮断や国内の抑圧強化も報じられている。
     戦闘は、ホルムズ海峡をめぐる対立へ拡大した。イラン側による海峡の事実上の封鎖、商船への攻撃、航行妨害、通航許可制ないし通航料要求が報じられる中、アメリカも、イランの港に出入りする船舶を対象としてホルムズ海峡を封鎖する旨を表明した。同海峡は世界の原油及び液化天然ガス輸送の要衝であり、これまでの通航妨害は、第三国の商船、国際交通、エネルギー供給及び世界経済に重大な影響を及ぼしてきた。通航妨害等によるエネルギー価格の高騰は、食料・生活必需品の価格にも波及し、世界各地の人々、とりわけ貧困層・脆弱層の生活を圧迫するおそれがある。また、多数の船舶が湾内に取り残され、船員らが攻撃の危険、食料・水不足、交代困難等に直面したとも報じられている。
     また、本件攻撃後、レバノンで活動するシーア派組織ヒズボラとイスラエルとの戦闘が再燃・拡大し、イスラエルによるレバノンへの攻撃も激化した。ヒズボラは、レバノン国内に政治部門及び軍事部門を有し、イランの支援を受けてきた組織とされる。イスラエル国防相は、レバノン南部の橋や住宅の破壊を指示し、レバノン政府は、これを民間人に対する集団懲罰であり国際人道法違反であると非難した。
     本件攻撃前の経緯として、2025年6月にも、イスラエル軍はイラン国内の核関連施設等を攻撃し、その後、米軍もフォルドゥ、ナタンズ、イスファハンの主要核関連施設を空爆していた。これらの攻撃により、イスファハンでは複数施設及び地下トンネル入口に損傷が確認され、ナタンズでは濃縮関連施設及び電力等の関連インフラに広範な損傷が生じ、フォルドゥも直接被弾したとされる。もっとも、核計画全体への影響評価には幅があり、米情報機関の初期評価として遅延は6か月未満との報道がある一方、施設の広範な破壊や長期の再建困難を指摘する分析もある。少なくとも、2026年2月時点で、イランの核開発能力が直ちに武力攻撃によって抑止しなければならないほど差し迫った脅威にまで回復していたことを裏付ける客観的根拠は明らかでなく、本件攻撃前には、イラン核開発をめぐる外交交渉も継続していた。
     その後、2026年6月以降も、アメリカとイランの間では、戦闘終結、ホルムズ海峡の通航回復、核問題等をめぐる停戦、覚書、協議等が断続的に報じられてきた。もっとも、これらは、本件攻撃及びその後の武力の応酬、封鎖・通航妨害等の国際法上の問題性を消滅させるものではない。また、合意や協議が成立しまたは進展したとしても、その履行、武力行使の再発防止、ホルムズ海峡における自由で安全な通航の確保、レバノンを含む周辺地域の安定、核問題の外交的解決等には、なお継続的な取組みが必要である。
     以下では、以上のように報道されている事実関係を前提として、本件攻撃及びその後の武力の応酬等について、国際法及び日本国憲法の観点から当連合会の見解を述べる。

  2. 2 国連憲章上の武力行使禁止原則に違反すること
     国連憲章2条3項は、すべての加盟国に対し、国際紛争を平和的手段によって解決する義務を課している。また、同条4項は、すべての加盟国が、その国際関係において、いかなる国の領土保全または政治的独立に対するものも、また国連の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも、武力による威嚇または武力の行使を慎まなければならないと定めている。さらに、同憲章33条は、交渉、審査、仲介、調停、仲裁裁判、司法的解決等による平和的解決を求めている。
     国連憲章上、武力行使禁止原則の例外として認められるのは、第一に、安全保障理事会が国連憲章7章に基づいて決定する軍事的措置であり、第二に、国連加盟国に対して武力攻撃が発生した場合における個別的または集団的自衛権の行使である。
     第一に、本件攻撃について、国連安全保障理事会が武力行使を授権する決議をした事実はない。従って、本件攻撃を国連憲章42条に基づく集団安全保障措置として正当化することはできない。
     第二に、国連憲章51条は、自衛権の行使について、「武力攻撃が発生した場合」に限ってこれを認めている。しかし、本件攻撃開始時点において、イランがアメリカまたはイスラエルに対し、同条にいう武力攻撃を行っていたとは認められない。アメリカ及びイスラエルは、イランの核・ミサイル能力による差し迫った脅威を主張しているとみられるが、将来の核開発のおそれ、地域的緊張、外交交渉における対立は、それ自体として、国連憲章51条にいう「武力攻撃」には当たらない。本件攻撃は、自衛権の範囲を超える予防戦争というほかなく、国連憲章上許容されない。
     仮に、極めて例外的な場合に差し迫った武力攻撃に対する先制的自衛が許容されうるとの立場に立つとしても、そのためには、危険が目前に迫り、他に選択肢がなく、対応が必要最小限度にとどまることが必要である。しかし、前年の攻撃後の核開発能力について評価に幅があり、外交交渉も継続していた中で、最高指導者殺害及び体制中枢への攻撃を含む大規模武力行使が、必要性及び均衡性を満たすとは到底いえない。
     とりわけ、他国の最高指導者及び統治機構中枢を計画的に標的とし、体制転換または体制崩壊を促す意図をうかがわせる攻撃は、当該国家の政治的独立及び主権を直接侵害するものである。国連憲章2条4項は、領土保全だけでなく、政治的独立に対する武力行使も明示的に禁止している。従って、本件攻撃は、同項が最も強く禁止しようとした「力による支配」の典型であり、国際法上到底容認できない。

  3. 3 核不拡散及び人権を理由とする武力行使は許されないこと
     イランの核兵器保有を防止することは、国際社会にとって重要な課題である。しかし、そのことは、国連憲章に反する一方的な武力行使を正当化する理由にはならない。核不拡散条約体制は、国際原子力機関による査察、国連安全保障理事会の手続、外交交渉、制裁その他の国際的枠組みによって核拡散を防止することを予定しているのであって、個別国家が自らの判断で他国の核関連施設や指導者を攻撃することを認めるものではない。
     また、イラン国内における人権抑圧が看過されてはならないことは当然である。しかし、外国による武力介入や体制転換を目的とする攻撃は、人権保障の手段として正当化されるものではない。むしろ、外部からの武力による政権転覆は、長期の内戦、治安悪化、人道危機を生じさせ、保護されるべき市民をさらに危険にさらすおそれがある。人権侵害に対しては、国際人権法、国際刑事司法、制裁、外交的圧力、市民社会への支援等、国際法に基づく手段によって対応すべきである。
     従って、イランの核開発問題及び人権問題は、国際原子力機関による査察、核合意の再構築、国連を中心とする多国間外交及び国際人権保障の枠組みによって解決されるべきであり、本件攻撃のような先制的・予防的な武力攻撃は、核不拡散または人権擁護の名によっても正当化されない。

  4. 4 国際人道法・国際人権法上も重大な問題があること
     国際法上、武力行使そのものの違法性の問題と、武力紛争において遵守されるべき国際人道法の問題は区別される。仮に武力紛争が発生した場合であっても、すべての紛争当事者は、国際人道法を遵守しなければならない。また、武力紛争下であっても、生命、身体の安全、表現の自由、集会の自由、児童の保護等に関する国際人権法上の義務が当然に消滅するものではない。
     国際人道法の基本原則である区別原則は、民間人と戦闘員、民用物と軍事目標とを区別し、攻撃を軍事目標に限定することを求める。学校、病院、空港、住宅地、橋、商船、タンカー、発電所、民間インフラ等は、それ自体として軍事目標ではない。本件攻撃により、女子小学校で児童及び教員に多数の死傷者が生じ、広範な地域で民間人被害が発生したと報じられていることに照らせば、攻撃が軍事目標に限定されていたのかについて重大な疑問がある。
     また、比例性原則は、軍事目標を攻撃する場合であっても、予想される民間人の死亡・負傷または民用物の損傷が、予期される具体的かつ直接的な軍事的利益との比較において過度となる攻撃を禁止する。さらに、攻撃に際しては、攻撃目標の確認、攻撃手段・方法の選択、警告の実施、攻撃中止の判断等、民間人及び民用物への被害を避け、または少なくとも最小化するための実行可能なすべての予防措置をとる義務がある。無警告またはこれに近い形で行われた大規模攻撃により多数の民間人が死傷したのであれば、比例性原則及び攻撃における予防措置義務に違反する疑いが強い。
     発電所、橋、港湾、製油所、液化天然ガス施設等の民間インフラへの攻撃または攻撃の威嚇も、民間人の生活、移動、医療、食料供給、エネルギー供給を危険にさらすものであり、区別原則及び比例性原則に反するおそれがある。とりわけ、原子力発電所その他危険な力を内蔵する施設への攻撃は、放射性物質の拡散等により、国境を越えて広範かつ長期の被害をもたらしうるため、国際人道法上厳しく制限される。
     レバノンにおける橋や住宅の破壊、大規模退避命令、民間人の生活基盤を破壊する行為についても、軍事目標性、必要性、比例性、攻撃における予防措置義務の各要件を満たすかが厳格に問われる。民間人の移動や人道支援物資の搬入に不可欠な橋、住宅地その他の民用物を、住民全体に圧力をかける目的で破壊することは、ジュネーヴ第四条約33条及び慣習国際人道法上禁止される集団懲罰に当たりうる。
     イラン側についても、民間空港、商船、タンカーその他の民用物を巻き込む攻撃は、区別原則、比例性原則及び攻撃における予防措置義務に反するおそれがある。また、15歳未満の児童を軍隊または武装集団に徴募し、または敵対行為に参加させることは、国際刑事裁判所ローマ規程上も戦争犯罪とされる。12歳以上を対象とする志願兵募集が、実際に児童の敵対行為への参加または軍事利用につながるのであれば、国際人道法及び児童の権利保護の観点から重大な問題である。さらに、通信遮断、表現の自由の制限、抗議行動に対する弾圧等は、国際人権規約上保障される権利を侵害しうるものであり、戦争を口実にした国際人権法上の義務違反も許されない。
     以上のような国際人道法及び国際人権法違反の疑いについては、独立、公正かつ実効的な調査が行われ、責任ある者が国際法に従って責任を問われる必要がある。少なくとも戦争犯罪の疑いについては、国家がこれを調査し、必要に応じて訴追すべき義務があるとの慣習国際人道法上の考え方に基づく対応が求められる。

  5. 5 ホルムズ海峡の封鎖・通航妨害も国際法上許されないこと
     ホルムズ海峡は、公海または排他的経済水域を結び、国際航行に使用される国際海峡である。国連海洋法条約上、国際海峡においては、すべての船舶及び航空機に通過通航権が保障され、沿岸国はこれを妨害してはならない。イラン及びアメリカはいずれも国連海洋法条約を批准していないが、国際海峡における通過通航制度は、慣習国際法としても尊重されるべき規範である。
     仮にイランがホルムズ海峡の一部を自国領海であると主張するとしても、領海においては少なくとも無害通航権が認められる。商船については、沿岸国への事前通告または許可を要しないのが原則であり、イランが商船への攻撃、航行妨害、通航許可制、通航料要求等を行うことは、通過通航権または無害通航権を侵害する。
     海上武力紛争に関する国際法の現代的整理として、1994年に人道法国際研究所により作成されたサンレモ・マニュアルがある。同マニュアルは条約そのものではないが、海上武力紛争における慣習国際法及び条約法の整理として、各国の軍事マニュアルや実務上も参照されてきた重要文書である。同マニュアルの考え方に照らしても、国際海峡における通過通航権は武力紛争時にも維持され、安全な代替航路が提供されない限り妨害してはならない。ホルムズ海峡には現実的な代替航路がないため、同海峡の封鎖・通航妨害は、国際海洋法秩序及び国際交通に重大な打撃を与える。
     同様に、アメリカが、イランの港に出入りする船舶を対象としてホルムズ海峡を封鎖することも許されない。どの国が実行するものであっても、国際海峡における通過通航を妨げる封鎖は、国際海洋法上重大な問題を生じさせる。安全保障理事会の授権も、自衛権の要件も満たさないまま、第三国商船を巻き込む封鎖措置を行うことは、国連憲章2条4項に反する継続的な武力行使であるとともに、第三国の権利及び国際交通を不当に侵害する。
     また、ホルムズ海峡の封鎖・通航妨害は、国際経済上の問題にとどまらず、船員の生命及び人間の尊厳にも関わる問題である。湾内に船舶が取り残され、船員らが攻撃に巻き込まれる恐怖、食料・水・医療へのアクセス不足、交代困難等に直面した場合、その影響は深刻である。従って、情勢のいかんを問わず、ホルムズ海峡における自由で安全な通航を回復・維持し、船舶及び船員の安全を確保することは、国際社会が優先的に求めるべき課題である。

  6. 6 武力によらない平和的解決を実現する必要性
     今回の事態は、武力によって一時的な軍事的成果を得たとしても、紛争の根本的解決にはつながらず、かえって地域の不安定化、人道被害の拡大、国際交通の混乱、世界経済への打撃を招くことを改めて示している。戦争の目的が、核・ミサイル能力の破壊なのか、体制転換なのか、地域的影響力の封じ込めなのかすら揺れ動き、終戦の条件や出口戦略が示されないまま攻撃が拡大することは、無責任であり、国際社会を危険にさらす。
     外交交渉の最中に武力行使に踏み切り、交渉相手の最高指導者を殺害することは、対話による解決への信頼を著しく損なう。交渉の席に着いても、最後は力で覆されると受け止められれば、今後、他の国際紛争においても、外交交渉や査察を受け入れる誘因が失われ、かえって核開発や軍備拡張を促す危険がある。
     国際社会は、恒久的な戦争終結を実現するため、武力行使の再発防止、軍事的圧力の緩和、査察体制の回復、核合意の再構築、ホルムズ海峡の自由で安全な航行、レバノンを含む周辺地域での戦闘終結、地域安全保障枠組みの形成に向け、粘り強く交渉を継続しなければならない。一時的に武力行使が停止されたとしても、それだけでは中東に平和と安定は訪れない。民間人の生命と尊厳を中心に据えた恒久的な戦争終結こそが求められる。

  7. 7 日本国憲法の原理及び弁護士の使命
     日本国憲法は、前文において、政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないようにすることを決意し、全世界の国民がひとしく恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存する権利を有することを確認している。また、9条において、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇または武力の行使を、国際紛争を解決する手段として永久に放棄し、戦力の不保持と交戦権の否認を定めている。これは、戦争の惨禍への歴史的反省に基づき、全世界の人々の平和的生存権を国際協調の中で実現しようとする恒久平和主義の表明である。
     日弁連は、2025年の「戦争をしない、させない 長崎宣言」において、戦争は最大の人権侵害であり、最悪の環境破壊であること、日本国憲法は前文において全世界の国民の平和的生存権を確認し、9条において戦争放棄、戦力不保持、交戦権否認を定めることで、国家権力に戦争をさせないための最高規範であることを確認した。そして、国際法を無視するかのように戦火が世界各地で絶えない状況にあり、このような危機の時代だからこそ、日本は、軍事力に依拠するのではなく、日本国憲法の恒久平和主義及び国際協調主義の原理を世界に向けて発信し、国際平和の維持のために平和外交に最大限の努力を尽くすべきであり、同時に、国際法に基づく法の支配の回復・強化に取り組むべきであると宣言している。
     このように、戦争と平和の問題を、国家間の安全保障の問題にとどまらず、そこで生きる人々の人権の問題として捉えることは、基本的人権の擁護を使命とする弁護士及び弁護士会が、本件のような国外における武力紛争について意見を述べる理由とも深く関わる。
     弁護士法1条1項は、弁護士が「基本的人権を擁護し、社会正義を実現すること」を使命とすると定めている。戦争は、人の生命を奪い、身体を傷つけるとともに、住居、教育、医療、表現の自由を始めとする様々な権利を侵害し、人間が尊厳をもって生きるための基盤そのものを破壊する。このような重大な人権侵害を防止し、その拡大を抑え、被害の回復を図ることは、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とする弁護士及び弁護士会にとって、その使命に深く関わる課題である。
     日弁連にとって、平和と人権の問題に取り組むことは、近年になって始まったものではない。日弁連は、1950年、第1回定期総会に引き続いて広島で開催した平和大会において、日本国憲法の戦争放棄の精神に徹し、「人種国籍を超越」した平和な世界の実現を期する旨を宣言しており、後の宣言においても、この平和宣言を日弁連の原点と位置付けている。2015年5月の第66回定期総会で採択した「安全保障法制等の法案に反対し、平和と人権及び立憲主義を守るための宣言」も、「戦争は最大の人権侵害であり、人権は平和の下でこそ守ることができる」とし、これを先の大戦の重大な加害と被害に対する反省から得られた痛切な教訓と位置付けている。
     そして、日弁連は、このような理念を確認するだけでなく、現実に外国間の武力紛争が生じようとし、または生じた際にも、日本政府に対して平和的解決に向けた行動を求めてきた。2003年の「イラク問題の平和的解決を求める声明」では、「憲法と弁護士法に基づき平和と基本的人権の擁護および社会正義の実現を使命」としてきたとの立場を明示した上で、日本政府に対し、国連、アメリカ、イギリス及びイラクに、非軍事的措置による解決を主張し働きかけること、アメリカ等が武力を行使するときにはこれを支持・支援せず、反対することを求めた。さらに、武力攻撃が開始される直前の同年3月19日に発出した「アメリカなどによるイラク侵攻に反対する会長声明」では、アメリカ等による攻撃が国連憲章に違反し、国際社会における法の支配と国連の存在意義を根底から覆し、多くの市民の生命を奪って最大の人権侵害を引き起こすとして、日本政府に対し、憲法の平和主義・国際協調主義の理念に立ち返り、武力攻撃に反対することを求めている。
     さらに、平和は一国だけで完結するものではない。他国で行われる戦争であっても、そこで暮らす人々の生命、尊厳及び人権が侵害される以上、そのこと自体が看過されてはならない。加えて、現代の国際社会において、ある地域における戦争や武力の応酬は、周辺地域への戦闘の拡大、国際交通の混乱、エネルギーや食料の供給・価格への影響、難民その他の人道上の問題、さらなる軍備拡張等を通じ、国境を越えて人々の平和な生活を脅かす。今回の事態においても、イラン、イスラエル及びレバノン等における人命の損失にとどまらず、ホルムズ海峡の封鎖・通航妨害等を通じ、その影響は広く国際社会に及んでいる。
     従って、他国間で生じている武力紛争を平和的な解決へと導くために努力することは、何よりも、そこで暮らす人々の生命、尊厳及び人権を守るために必要であるが、それと同時に、国際紛争を武力によって解決することを許さず、武力の応酬が連鎖しない国際社会を形成することは、日本に暮らす人々の平和をより確かなものとすることにもつながる。
     本決議も、このような日本国憲法の原理と日弁連の長年にわたる取組みの延長線上にある。本件攻撃及びその後の武力の応酬は、国連憲章を中心とする国際法秩序に反し、またはこれを重大な危険にさらすものであり、そこで暮らす人々の生命、尊厳及び人権に深刻な被害をもたらしている。こうした事態を前に、武力によらない国際紛争の解決と全世界の人々の平和的生存を目指す日本国憲法の恒久平和主義及び国際協調主義の意義を改めて確認し、その平和的解決を求めることは、人権擁護及び社会正義の実現をその目的の一つとする当連合会の責務にかなうものである。

  8. 8 国際法に基づく法の支配と日本政府の責任
     日本国憲法98条2項は、日本国が締結した条約及び確立された国際法規を誠実に遵守することを必要としている。国際法に基づく法の支配を重視する日本が、自ら国連憲章その他の国際法を遵守しなければならないことはいうまでもない。
     日本政府は、国際社会における「法の支配」を外交の基本原則として重視してきた。2022年の国連総会において、日本政府は、「力による支配」を脱却して国際法の誠実な遵守を通じた「法の支配」を目指すこと、力や威圧による一方的な現状変更の試みを認めないことと並んで、「国連憲章の原則の重大な違反に対抗するために協力すること」を基本原則として掲げた。この立場は、現在も外務省が「国家間の法の支配」に関する日本の基本的立場として掲げている。
     日本政府は、これまでロシアによるウクライナ侵攻について、「力による一方的な現状変更」を許してはならないとの立場を繰り返し表明してきた。そうであるならば、日本と政治・外交上緊密な関係にあるアメリカが関与する場合であっても、国連憲章に反する武力行使について法的評価を回避するのではなく、国際法に基づく一貫した立場を示す必要がある。違反を行う国との政治上または安全保障上の関係の近さによって、国際法の適用やその違反に対する態度を変えるならば、日本が重視してきた「法の支配」そのものの説得力が損なわれる。
     ホルムズ海峡の航行安全確保、エネルギー安全保障、邦人保護等が重要であることはいうまでもない。しかし、それらは、国連憲章、国際海洋法及び日本国憲法の枠内で、平和的・外交的手段によって追求されなければならない。日本政府には、国際法上違法な武力行使について、国際法上許されない形でその実行を援助または支援することなく、国際法秩序の維持・回復に向けて国際社会と協力するとともに、国際法違反に対して一貫した立場を示すことが求められる。

  9. 9 日本が果たしうる外交的役割と日本政府に求められる対応
     以上に述べた日本国憲法及び国際法上の要請は、日本が本件の各当事国とどのような外交関係を有するかによって生じたり消滅したりするものではない。他方、その要請を具体的な外交行動に移し、平和的解決に向けて実効的な役割を果たす上では、日本がこれまで築いてきた各国との関係及び外交上の立ち位置を十分に活かすことが重要である。
     日本とアメリカとの間には、首脳・外相レベルを含む緊密かつ継続的な政府間の意思疎通の経路が存在する。今回のイラン情勢についても、首脳・外相レベルで直接の意見交換が行われている。このような関係の存在は、アメリカによる行為について国際法上の評価を差し控え、これに追随する理由となるものではない。むしろ、日米間に存在する緊密な意思疎通の経路を、国際法の遵守、軍事行動の自制及び武力によらない平和的解決を率直に働きかけるために活かすべきである。
     また、日本は、1979年のイラン革命後もイランとの外交関係を維持し、長年にわたって政府間の対話を継続してきた。今回の事態が生じた後も、日本とイランとの間では外相による電話会談が繰り返し行われ、同年8月には首脳電話会談も行われており、日本からイランに対し、情勢の緊張緩和、外交交渉への取組み、ホルムズ海峡における自由で安全な通航の確保等を直接働きかけている。このように、日本は、情勢が深刻化した中においても、イランとの間で直接かつ継続的に意思疎通を行いうる外交上の経路を有している。
     イスラエルとの間でも、日本は1952年の国交樹立以来、政府間の関係と対話を継続してきた。今回の事態においても、日本政府はイスラエル政府と直接意思疎通を行い、イランの核問題をめぐる外交的合意に向けた適切な対応を求めるとともに、レバノン情勢について、民間人の犠牲やインフラの破壊に深刻な懸念を示し、最大限の自制を直接求めている。従って、日本は、イスラエルに対しても、国際法の遵守、自制及び武力によらない解決を直接働きかけうる関係を有している。
     さらに、日本は、湾岸諸国を始めとする中東諸国との間で、エネルギー、経済、人的交流等を通じて長年にわたる関係を築いてきた。中東地域に固有の宗派的・領土的対立の直接の当事者ではないが、日本自身が、エネルギー供給を始めとしてホルムズ海峡の自由で安全な通航に深い利害を有している。日本には、中東の平和と安定を遠方の地域における問題として捉えるのではなく、自らにも深く関わる国際的課題として、その解決に取り組むべき現実的な理由がある。
     実際、日本政府自身も、2026年4月3日の外務大臣記者会見において、アメリカとの緊密な関係、イスラエル及びイランとの長年の関係、湾岸諸国との深い関係を有していることを踏まえ、日本の立場と率直な意見交換を行うための経路を活用し、情勢の早期沈静化に向けて外交努力を続ける考えを明らかにしている。その時点までに、日本政府は、アメリカ、イスラエル、イランのほか、湾岸諸国や仲介に当たる国々とも広く意思疎通を行っていた。このような日本政府自身の認識及び実際の外交行動からしても、日本国憲法の恒久平和主義及び国際協調主義に基づく平和外交は、抽象的な理念にとどまるものではなく、日本が現実に有する外交上の経路を通じて実践しうるものである。
     もちろん、日本だけの力によって今回の事態を解決できるものではない。しかし、日本が、アメリカ、イラン及びイスラエルのいずれとも外交関係及び直接の意思疎通の経路を有し、さらに周辺の中東諸国や仲介に当たる国々とも関係を築いてきたという外交的基盤は、国際法という共通の基準に立って各当事国に働きかけ、アジア諸国、中東諸国、欧州諸国、仲介に当たる国々、国連その他の国際機関と連携しながら、平和的解決に向けて日本としての役割を果たすことを可能にするものである。
     従って、日本政府には、受け身の姿勢にとどまることなく、これまで築いてきた外交関係と意思疎通の経路を積極的に活用し、国際法に基づく法の支配を共通の基準として、すべての当事者に対し、武力行使の恒久的停止及び再発防止、国際人道法及び国際人権法の遵守、民間人の保護及び人道支援の確保を働きかけることが求められる。あわせて、ホルムズ海峡における自由で安全な通航の回復・維持、イランの核問題の外交的解決、レバノンを含む周辺地域における戦闘の終結等に向け、国連及び関係国と連携した粘り強い外交を行わなければならない。
     アメリカ及びイスラエルによるイランに対する武力攻撃並びにその後の攻撃拡大、イランによる民間人・民用物を巻き込む反撃、ホルムズ海峡の封鎖・通航妨害及び児童を対象とする志願兵募集、並びにイスラエルによるレバノンにおける民間人・民用物を危険にさらす攻撃については、以上に述べたとおり、国際法上重大な問題がある。すべての当事者による武力行使の恒久的停止及び再発防止、国際人道法、国際人権法及び国際海洋法の遵守、民間人保護、人道支援の確保、独立・公正な調査と責任追及、並びに外交交渉による解決が必要である。
     このような状況を踏まえ、当連合会は、日本政府に対し、日本国憲法の恒久平和主義及び国際協調主義に基づき、全世界の人々の平和的生存権を尊重する立場から、違法な武力行使に加担せず、国際法違反に対して一貫した立場を示し、国連を中心とする国際協調の下で、恒久的な戦争終結、ホルムズ海峡を含む国際交通の安全確保、人道被害の救済、核問題の外交的解決並びに国際社会における法の支配の回復に向け、主体的かつ最大限の外交努力を尽くすことを求めるものである。

PAGE TOP