関東弁護士会連合会は、関東甲信越の各県と静岡県にある13の弁護士会によって構成されている連合体です。

弁護士偏在問題~ひまわり~弁護士偏在問題~ひまわり~

ひまわり No.17

平成26年11月発行(本記事に記載された内容は本冊子発行時点のものです。)

弁護士の顔が見える法律事務所に

千葉県弁護士会   岡本 吉平

1.事務所開設と大震災

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 鴨川ひまわり基金法律事務所は、千葉県内3か所目のひまわり公設として、平成23年3月に開所しました。私の出身事務所である「かながわパブリック法律事務所」は、関弁連などの支援をうけて平成21年9月に開設された都市型公設事務所であり、関弁連管内の弁護士過疎地で執務する弁護士の養成を事務所設立趣旨の一つに掲げていました。私は同事務所の被養成弁護士1期生として、養成期間が必ずしも十分とは言えず、事務所の先輩には心配もされましたが、挑戦のチャンスをいただき「鴨川ひまわり」に赴任するに至っています。
 開所直後に東日本大震災が発生しました。鴨川市では地震・津波の直接的な被害はわずかでしたが、震災を境に鴨川市への観光客の流れはストップ。町の様相は全く別のものとなりました。その後、芸能人ご一行様が南房総にある「道の駅」で豪快な買い物をする番組など、テレビで盛んに南房総を取り上げてもらい、平成26年に入ってやっと観光客の流れが元に戻ったように感じます。

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2.館山支部管内と鴨川市の状況

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 旧安房国にあたる3市1町(館山市・南房総市・鴨川市・鋸南町)が千葉地家裁の館山支部及び館山簡裁の土地管轄区域です。管内の人口は、約13万5000人。管内の登録弁護士数は5名で、うち1名は国内屈指の私立病院である亀田総合病院(鴨川市所在)の院内弁護士です。
管内の法律事務所数は1~2の時期が長かったのですが、平成23年に「鴨川ひまわり」、平成24年に館山市内に新たな事務所ができ、管内の事件は管内の弁護士で対応できる態勢は整ってきました。とは言え、現在はアクアラインを含む高速道路の整備により東京や千葉へのアクセスが容易なこともあって、私の担当する事件の相手方が東京や千葉市といった管外の弁護士となることも多く、典型的な弁護士過疎地とは事情が異なるかもしれません。
 鴨川市は人口約3万5000人。農業・漁業・観光業が主な産業で、これに従事する人のほか、先述した亀田総合病院の従業者、大都市圏からのリタイヤ組など田舎暮らしを希望する移住者、サーファーなど海が目当てで移住する人が目立ちます。

3.「鴨川ひまわり」の執務状況

 館山支部への「ひまわり公設」の設置検討段階では、館山市内に設置する案もあったとのことですが、外房では裁判所支部のある館山市から一宮町までの間(道路距離で約80キロ)が法律事務所の空白地帯であり、その中間に位置する鴨川市に開設されることになりました。
 開設以来、年間120~150件程度の新件相談を受けています。相談者・依頼者は、鴨川市、南房総市の外房側(旧和田町・旧千倉町)、勝浦市、御宿町居住の方が多く、当事務所が外房の司法アクセス向上のために貢献できていることを実感します。また、鴨川市社会福祉協議会が行っている無料法律相談事業(月2回)のうちの半分を当事務所で請負い、地元の問題を地元で解決できるようにしています。
 事務所の受任事件の内訳は、手持ち事件数ベースで家事3割、債務整理3割、交通事故1割、その他民事2割、刑事事件1割といったところです。刑事事件はほぼ国選か当番弁護経由の委託援助事件で年間40件程度あります。過払事件は、開設当時から少なかった印象で、現在ではほとんど存在しません。債務整理以外の民事家事事件が過半を占める現状は、弁護士過疎地においても本来あるべき姿なのであろうと感じます。農地や水利の問題など地域的特性のある案件もありますが、弁護士過疎地であろうと無かろうと町医者的な弁護士として必要な活動が大部分であり、日々鍛えられています。ただ、経営の面からは多数を占める民事法律扶助と刑事国選事件の報酬には愚痴をこぼさざるを得ません。

4.館山の裁判所について

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 館山の裁判所は若手書記官の赴任地でもあり、3年間程度の赴任期間中にあらゆる分野の書記官事務にあたり経験を積んでゆきます。難解な手続について書記官とともに研究をしながら進めることもあり、事前に生じるであろう課題が分かっている場合には、書記官に予め連絡し、スムーズに進むように心がけています。若くて意欲あふれる書記官との協働作業は楽しく刺激になります。
 裁判所の開廷日は、地家裁が週2日半、簡裁が週2日で交互に開廷する形です。いずれの裁判官も木更津支部との兼務で、保釈や保全ではスピード感に欠ける面があり裁判官の常駐が望まれるところです。また、全ての曜日が開廷日であるため、月:民事調停、火:地裁刑事、水:簡裁民事、木:家事調停、金:地裁民事といった形で、毎日、鴨川から館山へ通う羽目になることも…。期日をまとめると1日がかりの出張となるので、期日調整は悩みの種です。

5.車による移動と刑事事件の負担

 裁判所が無い町での弁護士業では移動がつきものです。赴任当時から覚悟をしていたものの、想像以上でした。ホームスタジアムたる館山支部まで車で50分、隣接市である勝浦市を管轄する一宮支部までは車で1時間半弱といったところです。運転中の時間を無駄にしないため、スマホをハンズフリーにして事務員さんに口述筆記を頼んだり、音声認識ソフトで書面の下書きをするなど電車ではできない自動車ならではの工夫をしています。
 一宮支部で刑事事件の処理ができないため多大な影響も受けています。勝浦警察署勾留の被疑者事件の捜査担当検事は千葉本庁、起訴されると身柄は千葉市の(刑務所内)拘置施設へ移され、公判も千葉本庁となります。しかし、「鴨川ひまわり」が勝浦署から一番近い法律事務所である以上、充実した被疑者弁護活動に貢献するとの事務所設置趣旨からして受任せざるを得ません。また、少年事件(館山支部でも扱わず、木更津支部となる。)も同様の負担が生じます。
そこで、刑事事件でしんどい時は、①館山支部で民事事件期日、館山署で被疑者接見→②木更津支部で少年事件の社会記録閲覧とカンファレンス→③千葉市の鑑別所の少年や拘置施設の被告人に面会→④いすみ市で刑事事件の示談交渉→⑤勝浦署で被疑者と接見といった按配になり、房総半島を一周してしまうこともあります。
職住近接で通勤時間が短いことを割り引いても負担感はあります。

6.福祉関係機関との連携

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 鴨川市も過疎地の例に漏れず高齢化が進んでおり、高齢者をめぐる虐待、多重債務、権利擁護(後見含む)など課題が山積みです。「鴨川ひまわり」では、鴨川市の福祉関係部署(地域包括支援センターも直轄しています)や社協と定期的な勉強会を開催し、社協による法人後見受任の仕組みを構築するなどしています。また、生活困窮者自立支援への取組みにも参画しています。「ひまわり公設」の性質上、市などが当事者となる案件の相談を受けることは難しいのですが、市などを経由して持ち込まれる市民の相談については積極的に対応するようにしています。

7.まとめ

 先述した福祉関係機関との連携は、私が担当する成年後見事件で身上監護方針に悩んだ際に、市役所の地域包括支援センターに相談に行き、弁護士のやっていること・できることを知ってもらったことがきっかけでした。地域で数少ない弁護士として活動して行くためには、時間を惜しまずに機動的に活動すること、地域の皆様や関係各所と「顔が見える関係」を作ることが大切だと痛感しています。

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以上

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