関東弁護士会連合会は、関東甲信越の各県と静岡県にある13の弁護士会によって構成されている連合体です。

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平成16年度 宣言

循環性の象徴として里山を保全していくための宣言

 里山は、農村の自然環境を象徴し、「里山」という言葉は、人々にふるさとのイメージを喚起し郷愁を呼び起こす。自然と人間の相互作用により形成され維持されてきたのが里山であり、里山を保全するためには、人間が関わり続けていくことが必要とされる。
 10年前に当連合会が里山保全を求める宣言をして以来、里山保全の重要性の認識は深まり、里山を保全する様々な取組みが行われた。しかし、その多くは代表的な里山を点として保全するためには有効であっても、名もなきありふれた里山を含む面的な保全に有効ではなかった。今求められている取組みは、一部の代表的な里山のみを守ることではなく、身近に存在するありふれた里山を可能な限り保全することであって、里山保全は里山が存在してきた社会システムの保全、再生の問題として捉える必要がある。
 大量生産・大量消費・大量廃棄の社会経済システムが、里山を薪炭や堆肥の供給源として維持させてきた伝統的な循環型の社会経済システムを駆逐し、里山を荒廃させ、消失させてきた。したがって、里山全体の保全を図っていくためには、里山を再び経済に取り込んでいけるような、自然生態系における物質やエネルギーの循環に則した新たな社会経済システムへの転換が不可欠である。これは、地球環境の危機を克服し、持続可能な社会を構築するための方法論と一致し、持続可能な社会では、里山が里山として保全されることが必要とされ、里山は、単に農村の自然環境を象徴するだけではなく、私たちの社会の循環性、持続可能性の象徴とされる。
 今後私たちが循環性の象徴として里山を保全し、持続可能な社会の構築を目指して行くために、少なくとも以下の具体的な課題への取組みが求められよう。

  1.  持続可能な社会は、自然生態系における物質やエネルギーの循環に従って、自然生態系と太陽エネルギーを資源として最大限利用し、環境容量内に人間の活動を抑えることが基本的条件であることを明らかにして、この条件がすべての政策の指針となる基本法を制定し、具体的な政策ごとに数値目標を設定して、その達成度を検証できる仕組みを作る。
  2.  自然生態系の循環と深く関わる農業を持続可能な社会を目指す上で重要な産業として位置づけるための合意形成を図り、循環型の持続可能な農業を展開する
  3.  里山をはじめとする森林の木質バイオマスの利用を拡大し、認証制度等を利用した国産材需要の掘り起しによって林業を再生させ、持続可能な森林経営を図る。
  4.  都市緑地を保全するための緊急措置として、税制等の改正はもとより、緑地保全地域の指定や管理協定などの具体的な保全・再生手法ごとに保全面積の数値目標を定めた保全・再生計画を策定し、都市域におけるこれ以上の緑地の消失を防止する。
  5.  里山、農地、森林を地域の共同資源として管理していく方法論・制度論を構築し、所有権の絶対性を見直し、自然に対するアクセス権を確立する。
  6.  持続可能な社会を構築していくための最も重要な担い手である子供たちに対する里山等の身近な自然を利用した環境教育を推進する。

 以上のとおり宣言する。

2004(平成16)年9月25日
関東弁護士会連合会

提案理由

  1.  里山を里山として保全することの意味
     里山は、数十年前まで農林業が国の基幹産業であったわが国において国民のほとんどが生活の拠点として暮らしていた農村、その農村の身近な自然環境を象徴するものである。それ故に、多くの国民が都市に暮らすようになった現代においても、「里山」という言葉は、人々にふるさとのイメージを喚起し郷愁を呼び起こす。
     豊かな水と緑に恵まれた日本列島に私たちの祖先が居住を始め、原生の自然に手を加え、人々が自然に抱かれる中で農的営みを始めて以来、自然と人間の相互作用により形成、維持されてきたのが里山である。毎年落葉がさらわれて堆肥が作られ、15年から20年おきに伐採されて薪炭となり、伐採後からは萌芽が更新することによって、照葉樹林へ遷移することなく落葉広葉樹としての里山が維持されてきた。
     したがって、里山に人手を加えないようにして原生の自然に戻すことは、里山の保全ではない。里山を里山として保全することは、人間が自然に手を加え関わり続けることを前提としており、これからどのように自然と関わっていくのかという私たちの姿勢が問われ続けることになるのである。
     当連合会は、平成6年度定期大会において「里山の復権を求めて」というテーマでシンポジウムを行ない、里山保全に関する宣言を採択した。化石燃料や化学肥料の普及によって経済的機能を喪失し、人手が加えられなくなって荒廃し、あるいは開発の対象になり消失してしまった里山が有していた生物多様性確保やアメニティ等の機能を再評価してその保全の重要性を訴え、里山を里山として保全するために環境管理計画策定等の保全手法を採用した立法措置を求めることを、当連合会は宣言したのである。

  2.  この10年間に進められた里山保全の取組み
     それから10年、里山は雑木林だけでなく、谷津田、棚田、畑、小川、採草地などを含む農的環境全体を指し示す概念として理解されるようになった。しかしどこの田んぼにもありふれて生息していたメダカやゲンゴロウが絶滅危惧種となり、かつて生物多様性の宝庫であった里山の危機の深刻さと里山保全の重要性が認識されるようになって、里山保全は日本の自然環境問題のキーワードの一つとなった。環境基本計画、生物多様性国家戦略で里山や里地が取り上げられたのをはじめ、農林水産省によって棚田100選が選定されて各地の棚田が脚光を浴び、棚田のある中山間地域に直接支払制度が導入され、環境省も里地里山30の選定・里山保全モデル事業・里山を対象にしたエコツーリズムモデル事業等の里山保全に関する施策を推進している。里山保全に関する条例を制定する自治体も現れ、NPOと行政が協働する取組も全国に展開されている。国土交通省が主管する国土審議会によって「国土の総合的点検」という報告書が公表され、その中で持続可能な美しい国土の創造が謳われ、都市近郊部や多自然居住地域など里地里山と重なる地域が重要な位置を占めている。時期をほぼ同じくして、景観法が制定され、里山等の景観保全も国レベルで取り組まれるようになり、文化財保護法の改正によって、里山等の文化的景観が文化財として指定できることになった。
     このような流れを見ると、わが国で里山保全が急速に進んでいるのではないかとの印象を受ける。しかし、一部の行政による身近な自然環境保全への先進的な取組みが進められても、それは代表的な里山を点として保全することに有効ではあっても、身近に存在する名もなきありふれた里山をも含む面としての里山の保全を図るための政策が十分展開される状況にまでは至っていない。当連合会が10年前に提唱したような里山保全を担保しうる環境管理計画が各地域に策定されることもなく、都市部では相続税の負担に耐え切れず雑木林が売却処分されて開発に供されるケースが続出し、建築基準法の地下室規制の緩和によって傾斜地に残されていた斜面林が伐採されてマンションに変わり、中山間地域では高齢化・人口減少で保全の担い手の確保ができずに里山の荒廃・消失が進んでいる傾向に一向に歯止めがかからない。絶滅危惧種が集中して生息、生育する地域の5割は里地里山に分布していると言われ、このままでは生物多様性の危機は益々深刻化するばかりで、私たちの身近に存在する名もなきありふれた里山に対する保全策は未だ無策といっても過言ではない。
     欧米先進諸国が何十年もの間自国の農林業の存続と田園の自然環境、景観を維持することに腐心してきたのに比べ、わが国のこの俄かな里山保全の動きが、根本的なところから国づくりを変え、農林業や里山をはじめとする身近な自然を本当に大切なものとして、里山を面的に保全しようという動きになり得るのか、甚だ疑問は大きい。

  3.  里山を喪失させてきた社会システムの転換
     わが国は高度経済成長期から、大量生産、大量消費、大量廃棄の道をひた走り、農林業などの第1次産業よりも第2、3次産業の保護育成を図って、身近な自然の保全に冷淡な開発優先の政策を取り続けてきた。農山村の子弟を第2、3次産業労働者として大量に都市に吸収しながら、農山村の過疎化には抜本的対策を取ろうとはしなかった。無秩序に膨張する都市のスプロール化によって都市近郊の里山が開発され、国土のあらゆる場所でダムや河川改修、圃場整備、林道建設などの土木工事が行なわれて身近な自然が傷め続けられても、生活を便利にしていくためには開発が不可欠と身近な自然の保護を二の次にしてきた。伝統的農業は時代遅れと化石燃料、化学肥料と農薬に頼った資源消費型農業に転換させて農業を変質させただけでなく、貿易黒字を少しでも解消して工業製品の輸出を維持するために農産物と林産物の輸入自由化を受け入れ農林業の弱体化を招いてしまった。いまや食料自給率40パーセント(カロリーベース、飼料用を含む穀物全体の重量ベースでは28パーセント)、木材自給率20パーセント弱と先進諸国の中で最低レベルの自給率に落ち込み、将来の担い手確保さえ難しい農林業は社会の隅に追いやられようとしている。
     生活の快適性と経済発展を目指して世界の中で突き進んできたわが国の現状は、果たして本当に私たちが望んでいたものなのであろうか。コンクリートとアスファルトだらけの都市、ゴミが捨てられ手入れもされずササに覆われた里山、減反で雑草の生い茂る水田、テトラポットだらけの海岸や川岸、これらの光景は私たちの生活環境の貧しさと、国づくりの方向性が根本的なところで曲がってしまっていることを物語っている。海外旅行を重ねれば重ねるほど、外国と比較して、東京、京都をはじめ日本の至るところが景観への配慮もなく、自然との調和も考えずに開発されてきたことが実感される。
     このように荒廃、消失しているのは里山だけではなく、わが国が何百年あるいは千年以上にわたって蓄積してきた自然と調和した伝統、文化、産業、生活習慣等々のよきものの多くも荒廃、消失してしまった。
     したがって、真に里山保全を進めていくためには、里山だけを問題にするのではなく、里山とともに多くの自然と調和した営みを荒廃させ、消失させてきたこの数十年間の日本の国づくりの方向性、社会システムをどのように転換していくべきかの問題として捉え、昔ながらのシステムの復活ではなく、自然の生態系を基礎とした新しい循環型の社会経済システムの構築を目指さなければならない。

  4.  持続可能な社会の構築と循環性の象徴としての里山保全
     大量生産・大量消費・大量廃棄の社会経済システムは、大規模な熱帯雨林伐採、フロンガスによるオゾン層破壊、二酸化炭素濃度の上昇による地球温暖化などに見られる地球環境規模での自然破壊、異常現象を招き、人類を生存の危機に直面させている。人類の諸活動は地球の環境容量をすでに2割も超えていると言われている。地球環境の基本的構成要素である大気、水、土壌、生物が太陽エネルギーの下で循環することによって支えられる自然生態系をこれ以上毀損せずに、環境容量の中で人類が持続可能な社会を構築するためには、大量生産・大量消費・大量廃棄の社会経済システムから脱却しなければならない。廃棄物を自然界に増やし続けてはならず、地球上の再生可能な資源の利用は少なくとも分解され再生される量と同じでなくてはならないという循環原則に従った新しい社会経済システムの構築は21世紀の人類最大の課題である。
     里山の荒廃と消失も、循環原則を無視する大量生産・大量消費・大量廃棄の社会経済システムが、伝統的な循環型の農業によって成り立っていた社会経済システムを駆逐することによって起こった。したがって、循環原則に則した持続可能な社会を目指すこととは、里山が里山として保全され続けるような社会を目指すことであり、その意味において、里山は農村の自然環境の象徴であるだけでなく、私たちの社会の循環性の象徴と言うことができる。
     持続可能な社会を目指す先進的な取組みが行われている国では、いずれも農業を重視し、また都市と農村のバランスに配慮している。環境の基本的構成要素である大気、水、土壌、生物に最も深くかかわる産業は農業であり、わが国において、農業が循環原則に則して健全に営まれていたときに里山は里山として維持され、また、都市のすぐ近郊に里山が存在していたのである。私たちは、循環性の象徴として里山を保全し、21世紀の日本に里山に囲まれた都市を再び出現させることによって、持続可能な社会の構築を目指さなければならない。
     そのためには、少なくとも以下に述べる具体的な課題への取組みが求められる。

  5.  持続可能な社会への転換を目指す基本法の制定と具体的な数値目標の設定
     持続可能な社会実現の必須の条件は、最終的にすべての人間の活動が環境容量の中で営まれるようにすることである。そのためには、循環原則に従い、地下埋蔵資源や分解困難な人工物をできるだけ使わず、地表や海の自然生態系と太陽エネルギーを資源として最大限利用しなければならない。
     わが国が持続可能な社会を構築していくためには、この条件が社会における諸活動の基本原則とされ、環境保全をはじめ産業、国土利用を含むすべての政策がこの基本原則に沿ったものでなければならないと定めた基本法が必要である。しかし、基本理念の一つに持続可能性を謳う環境基本法は国土利用法や産業法の上位法ではないため環境保全以外の政策に対する直接の拘束力を持っていない。また、循環型社会形成推進基本法は廃棄物の減少を目指してリサイクルを推進することを目的とするに過ぎない。このように現行法体系には持続可能な社会を構築していくための基本法は存在しないと言わざるを得ず、速やかな基本法の制定が求められる。
     基本法では、すべての政策に関し循環原則に則した数値に基づく目標設定を義務付け、検証の仕組みを作り、持続可能な社会の構築への取組みを具体化すべきである。

  6.  農業を重要な産業として位置づけるための合意形成と持続可能な農業の展開
     里山の荒廃・消失の原因は、循環原則に忠実な伝統的農業から化石燃料、農薬、化学肥料を多用する資源消費型農業への転換にあった。現在は、収穫される穀物の熱量の何倍ものエネルギーが投入されていると言われ、また、農薬、化学肥料による土壌汚染、水質の悪化も進んでいる。
     私たちはこの数十年あまりにも農業を軽視し、工業製品と同様に農産物を扱おうとしてきた。しかし、自然生態系における物質とエネルギーの循環によって生み出されるバイオマスのひとつが農産物であり、工業製品のように自然生態系と全く無関係に人工的に生産することは不可能である。農業は自然生態系から影響を受けているとともに、農業のあり方が自然生態系の循環に対して大きな影響を与えている。その意味において、循環型の持続可能な社会を築く上での重要な産業として農業を位置づけ、国民全体で支えていく合意形成が先ず何よりも求められよう。
     また、循環原則に従った農業を展開するためには、数十年前まで里山を里山として維持させてきた化学肥料や農薬、化石燃料に頼らない有機農業をどのように再生させていくかが基本となる。21世紀にふさわしい生態学的知見と科学技術に支えられた多くの農民の実用に耐えうる有機農業を確立し、持続可能な農業に転換していかねばならず、そのための十分な経済的助成が必要である。
     わが国の食料自給率は約40パーセントで、世界各国から食料と家畜用飼料が輸入され、それらが消費されて人や家畜から排泄される大量の窒素が窒素循環を狂わせ、窒素過剰の状態を招き、酸性雨や地下水汚染の原因となっている。また、食料輸入量に距離を乗じて環境への負荷を測る指標があるが、この指標によると日本の輸入量とその距離は、アメリカの3.7倍、韓国の3.4倍に達し、地球環境に大きな負荷を与えていることは否定できない。食料や飼料の自給率を高め、排泄される窒素の堆肥やバイオガスへの利用を促進して、地産地消を実現すべきである。
     中山間地域では、過疎が進み、農業従事者の確保ができずに耕作放棄に至るケースが増え、国土保全の観点からも問題が多い。直接支払制度がそのような問題の多い地域に集中的に適用され、中山間地域の農業の持続可能性が図られねばならない。

  7.  木質バイオマスの利用拡大と持続可能な森林経営
     森林は、光合成によって地球温暖化の原因とされる二酸化炭素を吸収し濃度を低下させる機能を有することが注目されている。しかし、バイオマスをエネルギー利用することで、排出される二酸化炭素が再びすべて植物に吸収される循環によって二酸化炭素濃度を一定に保つ機能の方が、地球温暖化対策にとってはむしろ重要であると言われている。
     この観点から、持続可能な社会を目指すために、里山の落葉広葉樹はもとより用材産出林として植林された人工林の木質バイオマスを最大限に利用し、コストの問題から間伐された樹木のほとんどが現地に打ち捨てられている現状を変えていくためには、チップやペレットとして木質バイオマスを利用していくことが不可欠である。
     国産材は安い外材に駆逐されて木材自給率は20パーセントを下回り、コストに見合わないため管理放棄されている事例が数多く存在しており、その荒廃の現状は、里山の荒廃と同様である。森林の健全性という観点からは針葉樹と広葉樹を混交させ、また択伐と植林による複層林への転換を図った持続可能な森林づくりが求められる。当然水源税や森林税といった森林保全の費用負担を求める税制の導入も必要である。同時に、コストに見合った林業による持続可能な森林経営の確立が目指されるべきである。林業の再生のためには、機械化、流通機構の簡素化等の努力は当然として、国産材への需要の掘り起こしが必要であり、外材に引けを取らない品質管理、供給体制を確立し、また、既存の認証制度の利用や新たな国内の認証制度の創設によって、消費者が多少高価であっても環境に配慮して生産された木材を選択できるシステム作りが急務であろう。

  8.  都市緑地を保全・再生するための緊急措置
     循環原則に従った新しい社会経済システムに転換するためには、農村に里山を再生するのはもとより、農村から都市へと向かっていた都市化現象に歯止めをかける必要がある。都市のコンパクト化を図って環境に与える負荷を低減し、都市に緑や自然を再生して自然生態系の循環を蘇らせ、里山環境に囲まれた持続可能な都市を目指していかねばならない。
     首都圏の緑地の現状は、武蔵野台地や多摩丘陵にあったかつての里山環境はそのほとんどが消失し、まとまった緑の存在が数えられるほどに減少している。都市緑地法による緑地保全地域の指定や管理協定などの具体的な保全・再生手法ごとに保全面積の数値目標を定めない限り、緑地の消失傾向に歯止めをかけることはできない。保全手法ごとの数値目標を設定した保全・再生計画を策定し、その達成度を毎年チェックしていく仕組みを作ることが緊急の課題である。
     制度上早急に見直しが求められるのは、相続税と建築基準法である。都市緑地保全法が都市緑地法に改正されたのに伴い、地区計画によって保全される緑地の適正評価や管理協定が締結された土地の評価の軽減等が実現されたが、相続税対策として数多く利用されている物納制度を利用した公有地化による保全などの施策は、社会的合意さえ得られれば速やかに実行できるであろう。また、平成6年の建築基準法の改正によって地下室建設に関する容積率の規制を緩めてしまった結果、今まで利用もできず斜面林等の緑が残されてきた傾斜地でのマンション開発が進んでおり、速やかに傾斜地が保全されるように規制強化がなされるべきである。

  9.  共同資源管理の方法論・制度論の構築と所有権概念の再構成、アクセス権の確立
     持続可能な社会においては、自然環境は人類の生存を支える資源として位置づけられ、自然生態系が地域ひいては人類全体の共通の財産として共同管理の対象となる。これからの里山保全や持続可能な農林業への転換は共同資源管理の問題として捉えていくべきである。現実的にも、過疎が進む中山間地域で多くの集落が消失し、都市農業従事者も減少の一途を辿っている現状では、里山を保全・再生させ、持続可能な農林業に転換していくために、担い手となる人材を農林業従事者だけに求めることはできず、所有者、NPO、都市住民、消費者、企業、行政、児童・学生、教育関係者、研究者等々様々な主体が協働して里山の保全・再生、持続可能な農林業への転換を目指していく必要がある。
     環境経済学、環境社会学を中心に、共同資源管理制度及びその管理の対象となる資源についてコモンズと呼び、コモンズ論が活発に展開されている。共同資源管理の方法論を考えていく上で、たとえば、霞ヶ浦で実践されているアサザ・プロジェクトのように、従来の行政主体の完結型の公共事業と異なり、様々な主体がネットワークでつながり、湿地の再生、里山の再生、環境教育等が連鎖状に行われていく市民型公共事業は極めて示唆に富み、自然再生推進法が想定している枠組みには到底収まりきれない柔軟性、多様性が認められる。従来の公共事業のあり方から脱却を図り、市民が直接参加できる市民型公共事業のような取組みを全国的に展開していくためには、方法論と制度論の構築が急がれる。しかし、今までの市民参加の発想から、市民の提案や活動が中心となりそれに行政も参加するというような発想への根本的な転換がすべての前提となろう。
     共同資源の観点からすれば、所有権の絶対性もその内実を見直していく必要がある。森林法では、間伐が行われない森林の所有者が施業の勧告に応じない場合に権利移転や施業委託の協議を勧告したり、調停申請・裁定ができる制度があり、裁定するための要件のひとつに「環境悪化のおそれ」も加えられている。この考え方を一歩進めれば、里山においては里山を里山として利用・管理していく義務、自ら管理できなければ協働する主体の管理を受け入れる義務等を内包する権利として所有権を再構成することが可能となろう。さらに所有者と協働する主体にとっては、かつての入会権のように、所有権と両立する管理・利用に関する権利が認められるべきである。
     また、イギリスの歩く権利や北欧の自然享受権は、市民が自然にアクセスするために一定の範囲で私有地への立ち入りを認める権利であるが、すべての人々にとって貴重な資源である自然に誰もがアクセスできる権利は、当然に認められるべきものと言えよう。

  10.  里山等の身近な自然を利用した環境教育の推進
     里山に郷愁を感ずる世代は確実に高齢化しており、生まれた時からほとんど自然に接することなく、人工的な環境のみを生活空間とする世代が多数派となりつつある。多くの市民が自然生態系によって私たちの生活が支えられている感覚を喪失していることは、自然生態系を私たちの生存の基礎として持続可能な社会の構築を目指す上で大きな障害である。年齢を問わずすべての市民に里山などの身近な自然を利用した十分な環境教育が必要とされる。
     とりわけ子供に対する環境教育は重要である。幼児期から少年期までに多くの自然体験を持つことによって、はじめて自然界の物質やエネルギーの循環の恩恵を体感できる。各地で、里山等の身近な自然環境を子供の環境教育の場に利用しようという取組みが展開されており、そのような機会を与えられた子供たちが自分たちの生活する場所の自然、文化、社会への関心を高め、自立的な学習意欲を持つことができるようなった成果も報告されている。
     持続可能な社会を構築していくためには、将来の担い手である子供たちに、里山をはじめとする身近な自然を十分に体験させる環境教育を実践することが、すべての取組みの基礎になると言えよう。
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