関東弁護士会連合会は、関東甲信越の各県と静岡県にある13の弁護士会によって構成されている連合体です。

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平成25年度 大会宣言

地方議会~議事機関としての原点回帰とさらなる活性化をめざして

地方議会~議事機関としての原点回帰とさらなる活性化をめざして
 近時,各地で地域政党が誕生する動きがみられたり,あるいは,地域に密着した課題について住民投票が行われるなど,地方自治の主役である住民の意識に変革が現れつつある。
 こうした住民意思を背景に,自治体内外に積極的にメッセージを発信する首長の動向に耳目が集まる一方,二元代表制をとる我が国の地方自治制度において,もう一つの雄である地方議会は,全体的にみると,必ずしもその存在意義を発揮しているとはいい難い。従前の議会において,実質的な討議や議論が不十分であったり,また,住民意思が的確に反映されているとはいえなかったところに,その原因があると思われる。
 憲法が地方自治の要として二元代表制を採用しているのは,住民の代表者で構成される議会での議論を重視しているからである。特に,自治体の財政が逼迫している今日であればこそ,議会には,自治体行政の無駄を省くためだけではなく,住民の納得度・満足度を高めるために,充実した議会活動を行うことが求められている。
 そこで,地方議会が,住民意思を反映した議事機関への原点回帰を図るとともに,その活動をこれまで以上に活性化させるため,当連合会は,以下のとおり提言する。

  1.  議会は,議事機関としての本来の価値を発揮するため,まず議員相互間で十分な自由討議を行い,問題点ないし争点を明確にした上で,執行機関との討議に臨み,その過程を通して上記問題点ないし争点を解明して,議会意思を形成すべきである。
  2.  議会の上記のような審議過程を重視し,かかる過程については委員会や全員協議会も含め住民に対し公開し,また,いかなる議論がなされているかの情報を適時適切に伝えるべきである。
     さらに,必要に応じて,かかる審議の過程も含めた議会活動において住民の意見等を吸収するために,議会報告会を開催したり,請願者や陳情者等からの意見聴取を行うなど,議会活動に住民が関与する機会を積極的に設けるべきである。
  3.  住民意思を議会活動に反映させるための手段として,住民投票をより一層活用すべきであり,また,議会は,住民投票の過程に主体的に関わっていくべきである。具体的には,常設型住民投票条例の制定を進めるべきであり,その制定に際しては,議会において住民意思を効果的に反映させるための適切な制度設計を図る必要がある。議会は,住民投票の実施にあたっては,住民の適切な判断を可能とするため,住民への情報提供及び争点を明確化させるための議会内外における十分な議論の確保に努めるべきであるし,その実施後も,投票結果を議会活動に反映させるとともに,当該施策の具体的実施方法等について十分な議論を行うべきである。
  4.  議会事務局の政策法務機能の強化が必要不可欠である。具体的には,議員提案の条例案作成の補助業務,適切な質問をするための調査業務などの強化が求められる。限られた人的・物的資源の中で,専門的な知見が必要となる政策法務機能を強化するために,議会事務局の政策法務業務を,弁護士・弁護士会,大学・研究者,専門的知見を有する市民などが外部からサポートすることが検討されるべきである。また,自治体間で政策法務機能等の共有化を図り,より効率的に議会事務局業務の専門性を高め,議員活動を支援できるようにすべきである。
  5.  各自治体の予算規模や議会の活動実態に応じ,議員報酬のあり方,政務活動費を適正化すべきである。ここでいう適正化とは,単なる経費の削減を意味するものではなく,議員報酬,政務活動費について,議員としての活動内容・量を精査し,その活動実態に応じた議員報酬や政務活動費となるようにし,その根拠を住民に説明し,住民の理解を得られるものにすることである。

 以上のとおり宣言する。

2013(平成25)年9月27日
関東弁護士会連合会

提案理由

  1.  地方分権改革の動き
     昭和22年5月に日本国憲法と同時に施行された地方自治法は,憲法第8章に規定された地方自治を受けてこれを具体化した法律ではあったが,その構造は,都道府県知事に国の機関として行政事務を行わせる機関委任事務が主要な部分を占め,市町村は,知事が国から指示された業務をこなす機関という位置づけになっていた。
     この流れを変えたのが,平成12年4月施行の地方分権一括法であり,そこでは,機関委任事務が廃止され,国と地方自治体との間の旧来的な主従関係にくさびが打ち込まれた。また,その後のいわゆる三位一体の改革によって,財政面においても地方自治体の自主性・独立性を担保することとなった。
     その後,地方分権改革推進法,地域主権改革に係る第1次,第2次一括法の施行を経て,本年6月には第3次一括法が成立し,地方公共団体の自治事務について国が法令で事務の実施やその方法を縛る,いわゆる「義務付け・枠付け」のさらなる見直しや,都道府県から基礎自治体への権限移譲が実現するなど,地方分権改革は進捗の過程にある。
  2.  地方分権改革と地方議会
     こうした中で,地方自治体の主権者である住民の意識も変化してきている。
     主に地方自治体の首長を中心とする地域政党が各地で誕生し,圧倒的な民意を背景に地方議会と対峙する現象が生じたり,あるいは,地域に密着した課題について住民投票が行われ,住民が直接的に政策決定を行う機会が増していることなどはその一つの表れであろう。
     そして,これらのことはまさに,地方議会との関係でいうと,その二元代表制機関としての存在意義や住民代表機関としての存在意義に直結する問題であるといえる。地方分権改革は,地方議会のあり方そのものを問い直す契機ともなっているといえよう。
  3.  これまでの地方議会改革の動き
    1. (1)地方議会も,そうした地方分権改革の流れの中で決して手をこまねいていたわけではない。
       「地方議会と住民投票~21世紀,地方自治の前進をめざして~」と題して開催された平成13(2001)年度関東弁護士会連合会シンポジウムでは,そうした各地の地方議会の改革の動きについて,アンケート調査や現地調査を行っているが,その質問項目を見ると,多くの部分が「議会の公開」や「議会の広報」に関する質問で占められている。これは,住民との意思疎通を図り,開かれた議会にするために,まずは議会に関する情報を住民にオープンにする必要が大であるとの問題意識に基づくものであった。
       それから10年以上が経過した今回,あらためて各地の地方議会に対して行ったアンケート調査や現地調査の結果を見ると,本会議や委員会をインターネット中継する地方議会が数多く存在するほか,会議録をホームページ上で公開したり,会議録検索システムを開設する議会も多数に上るなど,少なくとも,議会の公開・広報という点に関していえば,議会改革は確実に進んでいる。
       また,前回シンポジウム以降の特筆すべき動きとして,議会基本条例の制定が挙げられる。
       平成18年に北海道栗山町で制定された議会基本条例は,議員間の自由討議の義務付け,議会報告会開催の義務付け,請願者・陳情者の意見陳述の機会を保障したものであるが,これは,議会の公開を進める段階から,公開の質を高め,議事の内容を充実させ,さらには住民を参加させようという段階にまで議会改革が進んできていると評価できるものである。また,各地の地方議会でも議会基本条例の制定の動きが広がっている。
       大枠として,議会は,地方自治の担い手としてその姿と活動を鮮明にする方向に展開しつつある。
    2. (2)他方,今回のアンケート調査や現地調査の結果からは,地方議会が抱える課題が未だ少なくないことも明らかとなった。
       その一つは,議会が,議事機関として本来期待されている役割や機能を必ずしも果たし切れていないという点である。それは,本来,様々な考え方の議員が集まって議論すべき場であるにもかかわらず,実際の議会が,個々の議員と執行機関との間で質問応答する場になっていて,議員間の議事が住民にほとんど見えてこないという実情にあらわれている。
       また,住民の意思を的確に吸い上げる仕組みが十分でないため,ややもすると住民意思との間で乖離が生じてしまい,その結果,住民代表機関としての正統性に疑問を投げかけられる原因となっている。住民投票制度について議会の態度が冷ややかなのも,これに関連していると考えられる。
       さらに,議会の政策立案能力を存分に生かすための人的サポート体制が,多くの議会において絶対的に不足している現実がある。この点の手当が必要不可欠である。
       そして,これらの制度の改革や運用改善を実現することがよいことだとしても,その実現のためにはコストの問題を考えざるを得ない。議員報酬,政務活動費をどうするかという問題は,単純に削減・廃止の方向でのみ考えるべきではなく,議会が議事機関として有効に機能するためにどうあるべきかという観点から各議会の実情に即した見直しが必要である。
    3. (3)こうした問題意識や現状を踏まえて,以下のとおり提言する。
  4.  提言
    (1)議会活動の活性化と住民参加について
    1. ア 具体的提言
      1. ① 議会は,議事機関としての本来の価値を発揮するため,まず議員相互間で十分な自由討議を行い,問題点ないし争点を明確にした上で,執行機関との討議に臨み,その過程を通して上記問題点ないし争点を解明して,議会意思を形成すべきである。
      2. ② 議会の上記のような審議過程を重視し,かかる過程については委員会や全員協議会も含め住民に対し公開し,いかなる議論がなされているかの情報を適時適切に伝えるべきである。さらに,必要に応じて,かかる審議の過程も含めた議会活動において住民の意見等を吸収するために,議会報告会を開催したり,請願者や陳情者等からの意見聴取を行うなど,議会活動に住民が関与する機会を積極的に設けるべきである。
    2. イ 理由
      執行機関は,法令や条例などを執行する機関であり,新たな制度を作ったり従来の制度を変えたりする機関ではない。様々な行政分野において経費の削減が求められる一方で,住民からは様々な要望が出て来る状況の中で,執行機関の判断のみでこのような状況を乗り越えていくのは極めて難しい。しかも,困難な実情は各自治体ごとに異なるから,政府の政治判断や法令で一律に対処することはできない。各自治体の実情に即した変革をせざるを得ないとなると,自治体の議事機関である地方議会が政策立案について積極的な役割を果たす必要がある。
      このような地方議会の役割からすれば,現状の議会運営は,その多くが執行機関提案の議案について議員個人が執行機関に対して質問し,その回答を執行機関から得るだけになっており,極めて不十分である。
      議会内での政策立案の議論が徹底的に行われるべきであり,議員がお互いに議論を尽くし,討論する中で争点を整理し,妥協すべきは妥協し,一つの結論に至るという過程こそが,説得力のある政策立案に繋がるのである。
      かかる過程は,住民に公開され,住民に対して明らかにされるべきである。最終的な判断は議員がその責任において議決として決定すべきものであるとしても,議会報告会や政策討論会等を通じ住民の意見を聴取する場を設けることは必要かつ有意義である。
    (2)住民投票について
    1. ア 具体的提言
      1. ① 住民意思を議会活動に反映させ,議会活動を活性化させる手段として,住民投票を明確に位置づけ,議会は住民投票の過程に積極的に関わっていくべきである。
      2. ② 具体的には,常設型住民投票条例の制定を進めるべきであり,その制定に際しては議会において住民意思を効果的に反映させるための適切な制度設計を図るべきである。住民投票の実施にあたっては,住民の適切な判断を可能とするため,住民への情報提供及び争点を明確化させるための議会内外における十分な議論の確保に努めるべきである。住民投票実施後は,投票結果を議会活動に反映させ,当該施策の具体的実施方法等について議会において十分な議論がなされるべきである。
    2. イ 理由
      従来,地方議会は住民投票に対し消極的な態度をとるきらいがあった。しかしながら,地方自治の基本理念である住民自治の観点からは,直接民主制的制度である住民投票は,住民意思を議会活動に反映させるための一つの手段として積極的に評価されるべきである。また,住民投票を実施することは,住民の政治的関心を高めると同時に,住民が議会の重要性を再認識する契機ともなり得ることから,間接的にではあるものの,議会の活性化に資する面がある。
      近時,徐々に制定例が増えつつある常設型住民投票条例の場合には,住民の一定数の署名によって住民投票の実施が義務づけられるため,個別型住民投票条例の場合とは異なり,議会の議決を要せずして住民投票の実施が可能となることから,住民投票が行いやすくなっている。また,実際には住民投票が実施されなくとも,このような条例が存在することにより住民投票が行われる現実的可能性が生じることから,議会は必然的に住民意思を意識せざるを得なくなり,住民意思をより反映した議会活動が行われることが期待できる。
      住民投票が有効に機能するためには一定の条件が必要である。まず,住民意思を効果的に反映させるための制度設計が検討されねばならないし,住民の適切な判断を可能とするためには,その前提となる情報の公開と争点を明確化するための慎重かつ十分な議論もなされなければならない。
      議会は,このような住民投票の前提となる環境整備のための知識と能力を有する住民の代表機関として,住民投票の過程に積極的に関わり,適切な制度設計,情報提供及び議会内外における十分な議論の確保に努めていくことが必要である。
      また,住民投票を実施すればそれだけですべてが解決するものではない。住民投票の結果,特定の施策を実施すべきとの意思が示された場合には,その具体的実施方法等についての検討が必要となるし,当該施策を実施すべきでないとの意思が示された場合には,これに代わり得る代替案の検討が求められることになる。こうした住民投票の結果を踏まえた具体的な政策形成はまさに議会が担うべきものであって,大きな方向性を決める住民投票と具体的な施策のあり方を議論し決めていく地方議会とは,相互に補完し合う関係にあるのである。
      これまで住民投票条例の制定や投票の実施に至った自治体の多くは市町村合併に伴うものであり,それ以外の特定の争点に関する住民投票や常設型住民投票条例制定の動きはいまだ限定的である。今後,多くの自治体において住民投票(特に常設型住民投票条例)が制度化され,活用されていくことが期待される。
    (3)議会事務局について
    1. ア 具体的提言
      1. ① 議会事務局の政策法務機能の強化が必要不可欠である。具体的には,議員提案の条例案作成の補助業務,適切な質問をするための調査業務などの強化が求められる。
      2. ② 議会事務局の政策法務業務を,弁護士・弁護士会,大学・研究者,専門的知見を有する市民などが外部からサポートすることが検討されるべきである。また,自治体間で政策法務機能等の共有化を図り,より効率的に議会事務局業務の専門性を高め,議員活動を支援できるようにすべきである。
    2. イ 理由
      1. ① 政策法務機能の強化
        議会の活性化のためには,議会・議員をサポートする議会事務局の充実が極めて重要であることは言うまでもない。しかし,自治体財政の逼迫等に影響されて,議会事務局職員数は減少傾向にあり,議会の執行機関の監視及び政策提案に向けた調査活動に必要な人員体制が確保できない傾向がむしろ進んでしまっているのではないかと考えられる。
         議会の役割は,執行機関に対して,生活者=住民の実情から行政実務の問題点を指摘し,執行の修正や新たな業務執行を求めることにある。議員には,行政実務についての基礎的な知識は必要だが執行機関の職員と同じである必要はない。新たな問題については,むしろ,住民と身近に接して様々な意見を聞いている議員の方にこそよりよい選択のためのアイディアがある可能性がある。
        したがって,議会は,執行機関の監視にとどまらず,積極的に政策形成に関与することが求められており,議会事務局にも政策形成のサポート機能(政策法務機能)の強化が求められている。
      2. ② 外部からのサポート及び共有化
        議会が積極的に新たな政策形成に関わろうとするとき,その法的問題については,前例踏襲主義では役に立たないことが多く,憲法・法令の趣旨を踏まえた柔軟な法的思考能力が必要になると考えられるが,そのような能力を有する者を事務局内部で確保するのは容易ではない。そこで,弁護士会・弁護士,大学・研究者,さらには一般市民の中の専門的知見を有する者などが,外部から議会事務局・議員をサポートすることによって,政策法務機能の強化を図ることができる。また,外部からの意見を取り入れることで,議員と議会外の者との連携も強まり,議会活動のレベルが高まり,その活性化にも資する。
        また,財政規模が小さい町村等の自治体では,議会事務局職員数は2,3人程度で,数年で執行部に異動するというのが通常であり,議事や庶務といった基本的な機能をなんとか維持しているという状況である。
        このような状況であるから,高度の専門性が要求される政策法務機能については,本来であれば専門の職員が必要であるものの,町村においては,そのような余裕はなく,政策法務専門職員を配置している自治体はほとんどない。しかし,財政規模の小さい自治体の議会であればこそ,議会活動の活性化と充実は必要である。
        これを実現するためには,議会事務局の共同設置(地方自治法252条の7。平成23年改正)を利用することが考えられる。すなわち,議会事務局の共同設置により,議会事務局業務のうちの政策法務機能などについて,共有化を行うことを考えてもよいのではないか。具体的には,近隣のいくつかの自治体が議会事務局を共同設置し,政策法務専門の職員を採用し,各議会の開催や活動に合わせて職員が出向き,あるいは議長や副議長,議員が相談に出向いてくるなどして,議会の活動を活発化させ充実させることを検討すべきである。
    (4)議会とコストの問題について
    1. ア 具体的提言
      各自治体の予算規模や議会の活動実態に応じ,議員報酬のあり方,政務活動費を適正化すべきである。ここでいう適正化とは,単なる経費の削減を意味するものではなく,議員報酬,政務活動費について,議員としての活動内容・量を精査し,その活動実態に応じた報酬や政務活動費となるようにし,その根拠を住民に説明し,住民の理解を得られるものにすることである。
    2. イ 理由
      全国の地方議会の議員報酬の多寡や政務活動費の有無・多寡は,各議会によって著しいばらつきがある。それは,自治体の財政状態が決定的に影響を与えているとみられ,議員の実際の活動内容や量と必ずしも比例するものにはなっていないと考えられる。
      そのようなこともあって,住民からは議員報酬の金額,政務活動費の交付額ないし使途について疑問視されることが少なくない。住民と議会のこのような関係は,議事機関としての議会の活性化にとって好ましいことではない。
      そこで,議会としては,議員報酬,政務活動費について,議員全体の活動内容・量を精査し,その活動実態に応じた議員報酬や政務活動費となるようにし,これを住民に説明し,住民の理解を得られるようにすべきである。

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