関東弁護士会連合会は、関東甲信越の各県と静岡県にある13の弁護士会によって構成されている連合体です。

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平成25年 声明

被災者生活再建支援法施行令の改正を求める理事長声明

第1 声明の趣旨

 当連合会は,国に対し,被災者生活再建支援法が適用される自然災害について,市町村や都道府県という行政区画を基準として適用地域を定めている被災者生活再建支援法施行令第1条を見直し,同一の自然災害により被害を受けた被災者に対し,等しく被災者生活再建支援法が適用されるように改正することを求める。

第2 声明の理由

  1.  被災者生活再建支援法(以下「支援法」という。)は,自然災害によりその生活基盤に著しい被害を受けた被災者に対し,都道府県が相互扶助の観点から拠出した基金を活用して被災者生活再建支援基金を支給するための措置を定め,その生活再建を支援し,住民の生活の安定と被災地の速やかな復興に資することを目的としている(支援法第1条)。
     支援金は,住宅の被害程度や住宅の再建方法により50万円から300万円が支給される旨規定している(支援法第3条)。
     支援対象である被災世帯については,「政令で定める自然災害により被害を受けた世帯」(支援法第2条第2号)とされ,これを受けた支援法施行令(以下「施行令」という。)が,自然災害を「十以上の世帯の住宅が全壊する被害が発生した市町村の区域に係る当該自然災害」,「百以上の世帯の住宅が全壊する被害が発生した都道府県の区域に係る当該自然災害」というように,市町村や都道府県という行政区画を基準として発生した被害の程度によって定義している(施行令第1条)。
     しかし,自然災害は,市町村や都道府県などの人為的に定めた行政区画とは無関係に発生するものであるから,被災世帯をこのように定義すると,同一の自然災害により同じような住宅被害が発生した場合にも,一方の被災者は,10以上の世帯の住宅が全壊する被害が発生した市町村にあるため支援法の適用を受けられたが,他方の被災者は,これに至らない被害が発生した市町村にあったために,支援法の適用を受けられないという公平性を欠く結果が生じると従前から指摘されていた。
  2.  そうしたなか,2012年5月6日,茨城県及び栃木県において,行政区画の境目付近で竜巻による被害が発生し,茨城県つくば市は支援法の適用を受けたものの,栃木県真岡市,益子町及び茂木町の被害世帯については,施行令第1条の適用要件を満たさないことから,支援法の適用を受けられないという事態が生じた。このことについて,日本弁護士連合会及び栃木県弁護士会では,施行令第1条が行政区画を基準として支援法の適否を定めていることの不合理を指摘し,速やかにその改正を求める会長声明を表明していたところである。さらに,政府は,昨年8月15日に開催した第5回竜巻等突風対策局長級会議において,「被災者の公平性が確保されるよう,被災者生活再建支援法の在り方について早急に検討」する旨表明していた。にもかかわらず,その後も施行令第1条の改正はなされないまま今日に至っていた。
     そして,本年9月2日,発達した積乱雲にともない,埼玉県さいたま市,越谷市,北葛飾郡松伏町,千葉県野田市及び茨城県坂東市にかけて,竜巻が発生し,重軽傷者67人の被害が発生し,住宅被害は,全壊13棟(埼玉県12棟,千葉県1棟),半壊35棟(埼玉県31棟,千葉県4棟)一部損壊1349棟(埼玉県1140棟,千葉県209棟)という被害が発生した(消防庁調べ・9月13日現在)。しかし,埼玉県越谷市については施行令第1条の適用要件を満たしたために支援法が適用されたが,埼玉県北葛飾郡松伏町や千葉県野田市などの他の自治体では適用要件を満たさず,支援を受けられないという公平性を欠く事態が再び生じている。
  3.  当連合会は,以下の理由により,不合理・不平等な結果を生じさせている施行令第1条を見直し,同一の自然災害により被害を受けた被災者に対し,等しく支援法が適用されるように改正することを求める。
     第1に,自然災害は,市町村や都道府県という行政区画とは無関係に発生するものであるから,このような行政区画を基準として適用地域を定めると,前述したとおり,同一の自然災害により住宅が全壊するという被害が発生した場合において,一方の住宅には支援法が適用され,他方の住宅には支援法が適用されないという公平性を欠く結果を生じることになる。
     第2に,国は,災害対策基本法に被災者支援についての理念や基本的事項を定めるべく検討中とのことであり,「被災者に対する国の支援のあり方に関する検討会・中間整理」(平成24年3月)によれば,「支援金制度については,真に被災者の自立支援,生活再建につながるよう,見直していくことも考えられるのではないか。その場合に,支給要件を住宅被害のみにかからしめることが適当か,むしろ,生業など働く場の喪失を支給要件とすべきではないか」(中間整理20頁)とされ,住宅被害に対する支援金制度の継続に消極的であると言わざるを得ない。
     しかし,被災者にとっては働く場の喪失に対する就労支援も必要であるとともに,支援法に基づく住宅被害に対する支援も必要であり,どちらを選択するかという二者択一の問題ではない。
     また,内閣府(防災担当)により,平成22年及び平成23年に発生した災害において被災者生活再建支援金を申請した世帯等に対して実施されたアンケート調査(「平成24年度 被災者生活再建支援法関連調査報告書」)によれば,「被災者生活再建支援の見直しについて」の質問に対し,「災害対応は自助努力を基本とし,支給対象となる要件を厳しくするべき」との回答は5.3%に過ぎなかったのに対し,「負担が増大しても,給付等を充実させるべき」との回答が29.9%,「現状のままでよい」との回答が29.1%であって,合わせて約60%が現行の被災者生活再建支援金制度を評価しているものである(前記報告書64頁)。
     したがって,被災者生活再建支援制度は,被災者から評価されているのであるから,公平性を欠く結果を導いている点を直ちに見直すなど充実を図るべきである。
  4. 以上検討したとおり,自然災害は,市町村や都道府県という行政区画とは無関係に発生するものであるから,支援法が適用される自然災害について,このような行政区画を基準として適用地域を定めている施行令第1条は,不合理・不平等である。
     よって,当連合会は,国に対し,声明の趣旨のとおり,施行令第1条を改正することを強く求める。

2013年(平成25年)10月15日
関東弁護士会連合会
理事長 栃木 敏明

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