関東弁護士会連合会は、関東甲信越の各県と静岡県にある13の弁護士会によって構成されている連合体です。

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平成25年度 決議②

各人権条約に基づく個人通報制度の早期導入及び
パリ原則に準拠した政府から独立した国内人権機関の設置を求める決議

 当連合会は,わが国における人権保障を推進し,国際人権基準の実施を確保するため,2008年の国際人権(自由権)規約委員会の総括所見をはじめとする各条約機関からの相次ぐ勧告をふまえ,国際人権(自由権)規約をはじめとした各人権条約に定める個人通報制度の導入及び国連の「国内人権機関の地位に関する原則(パリ原則)」に合致した,真に政府から独立した国内人権機関の設置を政府及び国会に対して強く求める。

 以上のとおり決議する。

2013年(平成25年)9月27日
関東弁護士会連合会

提案理由

第1 個人通報制度について

  1.  個人通報制度とは,人権条約の人権保障条項に規定された人権が侵害されているにもかかわらず,国内での法的手続を尽くしてもなお人権救済が実現しない場合に,被害者個人等が各人権条約の定める国際機関(以下「人権条約機関」という。)に通報し,救済を求める制度である。
     申立に対する人権条約機関の見解や勧告を踏まえ,政府が個別救済のための何らかの改善措置や,立法・法改正を行うことにより,個別事件だけでなく同種の事件での救済が前進することが期待されている。また,日本の裁判所は,各人権条約の適用について消極的であり,民事訴訟法の定める上告の理由には国際条約違反が含まれず,国際人権基準の国内実施が極めて不十分となっている。そのような中で個人通報制度が導入されれば,被害者個人が人権条約機関に見解・勧告等を直接求めることが可能となり,日本の裁判所も国際的な条約解釈に目を向けざるを得なくなる結果,日本における人権保障水準が国際基準にまで前進し,また憲法の人権条項の解釈が前進することなどが期待される。
  2.  個人通報制度は,国際人権(自由権)規約,女性差別撤廃条約においては条約本体に附帯する選択議定書に定められ,人種差別撤廃条約及び拷問等禁止条約においては条約本体の中に個人通報受諾条項が定められている。したがって,これら各条約の個人通報制度を導入するためには,それぞれ選択議定書の批准あるいは本体条約の当該条項の受諾宣言をすることが必要である。
     しかし,日本政府は未だに批准又は受諾宣言を行っていない。
     2013年1月現在,国際人権(自由権)規約批准国167カ国中,119カ国が個人通報制度を設ける第1選択議定書を批准しており,OECD34カ国中で,いかなる個人通報も利用できない国は,日本とイスラエル,G8の中では日本だけである。
  3.  このような事態を踏まえ,2008年の国際人権(自由権)規約委員会による第5回日本政府報告書審査に基づく総括所見を初めとして,各人権条約機関から,政府に対し,個人通報制度の導入について度重なる勧告を受けるに至っている。
     日本政府は,個人通報制度の導入を視野に入れて,2010年4月に,外務省内に人権条約履行室を立ち上げたものの,以降,具体的な進展は見られない。
     日本には,人権侵害や差別に苦しむ人々がなお多く存在し,各人権条約の人権条約機関が日本政府に多くの勧告を行い,人権状況の改善を求め続けているにもかかわらず,その状況の効果的な改善は進んでいない。このような中で,個人通報制度の早急な導入によって日本の人権状況を改善する必要性は明らかである。

第2 国内人権機関の設置について

  1.  国連決議及び各人権条約機関は,国際人権条約及び憲法などで保障される人権が侵害され,その回復が求められる場合,司法手続よりも簡便で迅速な救済を図ることができる国内人権機関を設置するよう求めており,多数の国が既にこれを設けている。
     国内人権機関を設置する場合,1993年12月の国連総会決議「国内人権機関の地位に関する原則」(いわゆる「パリ原則」)に沿ったものである必要がある。具体的には,法律に基づいて設置されること,権限行使の独立性が保障されていること,委員及び職員の人事並びに財政等においても独立性を保障されていること,調査権限及び政策提言機能を持つことなどが必要とされている。
     このような国内人権機関は,憲法などの国内法とともに,各人権条約などの国際人権基準にしたがって,日本における人権状況の改善を図ることがその本来的任務である。このため,個人通報制度とともに,国際的な人権保障システムの一環としても位置付けられる。
  2.  これに対し,現在,日本には法務省人権擁護局の人権擁護委員制度があるが,パリ原則から見たとき,その任務,独立性等の点からも極めて不十分な制度である。このため,日本に対しては,国連人権理事会,人権高等弁務官等の国連人権諸機関や各人権条約機関の各政府報告書審査の際に,早期にパリ原則に合致した国内人権機関を設置すべきとの勧告がなされており,また,国内の人権NGOからも国内人権機関設置の要望が高まっている。本年に入ってからも,日本政府は,国際人権(社会権)規約委員会と拷問等禁止委員会や国連人権理事会の普遍的審査の場で,早期の設置を促す勧告を受けている。
     日本弁護士連合会も,2008年11月18日,パリ原則を基準とした「日弁連の提案する国内人権機関の制度要綱」を発表した。
     これらの動きを受けて日本政府も,2012年11月,新たな国内人権機関の設置を内容とする「人権委員会設置法案」を国会に上程した。この動きは,人権救済と人権教育,人権政策の総合的推進などを目的とする新たな国内人権機関の設置に向けた一歩ではあったが,同法案における人権委員会は,法務省の外局とされ,その事務局の事務を法務局長又は地方法務局長に委任することができるなどパリ原則の求める独立性の観点から不十分であるといわざるを得ない。
     なお,同法案も同年の衆議院解散によって廃案となり,その後,国内人権機関設置に向けた法案の提出はなされていない。
  3.  現在,日本の刑事関係,入管関係の拘禁施設における人権状況はなお改善の必要が高く,学校における深刻ないじめ問題などの子どもの権利の侵害や,性別,民族などに基づく差別はなお解消されていない。また,本年6月に障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律が制定され,この法律が指摘する種々の差別からの救済機関を早期に設立することが求められている。このような中で,パリ原則に合致した,政府から独立した国内人権機関設置の必要性はより高まっている。

第3 まとめ
 当連合会は,わが国における人権保障を推進し,また国際人権基準を日本において完全実施するための人権保障システムを確立するため,国際人権(自由権)規約をはじめとした各人権条約に定める個人通報制度を一日も早く導入し,パリ原則に合致した真に政府から独立した国内人権機関をすみやかに設置することを政府及び国会に対して強く求めるものである。

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