関東弁護士会連合会は、関東甲信越の各県と静岡県にある13の弁護士会によって構成されている連合体です。

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平成26年 声明

東日本入国管理センター被収容者の連続死亡事件に関する真相解明とその公表 及び 被収容者の死亡事件発生防止策(入管医療の改善・長期収容停止)を即刻講じることを求める理事長声明

1 声明の趣旨

 関東弁護士会連合会は,本年3月29日及び30日に,東日本入国管理センター(茨城県牛久市久野町1766所在)に収容されていたイラン人男性及びカメルーン人男性が相次いで死亡した事件(以下「入管連続死亡事件」という。)について,命を落とされた方々と御遺族に対して深い哀悼の意を表すると共に,法務省入国管理局及び東日本入国管理センターが,直ちに以下の行動を起こすことを求めるものである。
 即ち,

  1. ① 入管連続死亡事件につき,その真相を解明するための独立した第三者機関を直ちに設置し,同機関による徹底的な調査を受け入れること。そして,同調査結果を,直ちに公表すること。
  2. ② 今後,被収容者の死亡事件が二度と発生しないための対策として,入管医療の改善手段を直ちに策定して公表・実施すると共に,被収容者の心身に著しい負担を課する長期収容自体を直ちに停止すること。

2 声明の理由

  1. (1)入管連続死亡事件の発生
     東日本入国管理センターは,2014年3月28日に30歳代のイラン人男性の被収容者が意識不明になったため,救急車の出動を要請したが,同男性が翌29日に病院にて死亡したと発表した。
     また,同センターは,2014年3月30日に40歳代のカメルーン人男性の被収容者が意識及び呼吸がない様子で発見されたため,救急車の出動を要請したが,同男性が同日中に病院にて死亡したと発表した。
     これらの事件は,既に国内外においてマスメディアにおいて報道されており,市民社会のみならず,国際社会の注視するところとなっている。
  2. (2)真相調査と調査結果公表の必要性
     30歳代~40歳代の被収容者が連日亡くなるという異常な事態を受け,関東弁護士会連合会は,亡くなられた方々とご遺族に対して深い哀悼の意を表すると共に,両事件において亡くなった方々の死亡の経緯につき,真相を解明すべく,入国管理局外の中立的な第三者委員会が設置され,徹底的な調査を受け入れることを強く求める。
     また,その調査結果は,直ちに公表されるべきである。上述の通り,既に,弁護士会のみならず,日本の市民社会及び国際社会は,今回の入管連続死亡事件を,重大な関心と懸念をもって注視している。入国管理局も国権の行使機関である以上,国権行使による収容の末に,2名もの壮年の被収容者の死亡という尋常ならざる事態が発生したのであるから,それら事件の背景と真相を公にすることは,民主主義国家の当然の責務である。
     また,二度とかかる悲劇を繰り返さぬために,有効な善後策を入国管理局が直ちに採ることは当然としても,従来継続されてきた体制の抜本的見直しのためには,かかる体制の維持主体たる入国管理局の外からの提言や助言が必要なことに,多言は要さない。
  3. (3)入管医療の即時改善
    • ア 従前より,東日本入国管理センターを含む入国者収容所及び地方入国管理局(以下「入国者収容所等」という。)における医療の不備は,既に繰り返し指摘され,深刻な懸念が表され続けてきた。
      • (ア) 当連合会は,平成24年度大会宣言「外国人の人権に関する宣言-外国人の直面する困難の解決をめざして-」において,「入管分野では,2004年より国策として行われた非正規滞在者の半減計画に基づき,入国管理局への長期収容や複数回の収容が行われている。被収容者らは外部から遮断され拘禁反応に苦しみながら,満足な医療すら受けられていない…このような,人間の生存にかかわる深刻な問題は,直ちに解決されるべきである」と指摘して,早急な解決を求めている。
      • (イ) また,入国者収容所等視察委員会にあっては,毎年,東日本入国管理センターの医療体制の改善を求める意見を表明しているところ,一例を挙げれば,平成25年4月30日には,「診療の申出から診療を受けるまでの期間を短縮し,迅速な診療ができるよう改善願いたい」と,東日本入国管理センターに対して求めている。
      • (ウ) 国外に目を転じれば,移住者の人権に関する国連特別報告者のホルヘ・ブスタマンテ氏は,2010年3月に,東日本入国管理センターを視察した結果,以下のように国連人権理事会に報告している。即ち,「特別報告者が面会した被収容者の多くは,様々な疾病に苦しんでおり,ケースによっては非常に重大な疾病に苦しんでいた。また,大半の者が,適切な医療を受けていないことについて不満を述べていた。彼らは収容前に受けていた薬剤治療の継続を認められておらず,代わりに軽い薬剤を与えられていた。このことは,彼らの健康および回復の可能性を重大に損なっていた。例えば,糖尿病を罹患したある被収容者は,鎮痛剤しか与えられないこと,症状が甚だしく悪化したことを報告した」として,「収容所で移住者に与える医療の水準を改善する緊急措置が適用されなければならない」と明確に勧告した(A/HRC/17/33/Add.3)。
      • (エ) 更に,国連拷問禁止委員会は,2007年5月の段階で,「多数の暴行の疑い,送還時の拘束具の違法使用,虐待,性的いやがらせ,適切な医療へのアクセス欠如といった上陸防止施設及び入国管理局の収容センターでの処遇」に懸念を表明している(CAT/C/JPN/CO/1)。
      • (オ) かように,東日本入国管理センターを含む入国者収容所等における被収容者に対する医療体制の不備につき,国内外から繰り返し深刻な懸念を示され,改善を勧告され続けてきたにもかかわらず,このたび,東日本入国管理センターにおいて,今回の連続死亡事件が起こってしまったことは,まことに遺憾の極みである。
      • (カ) 被収容者処遇規則第30条第1項には,「所長等(入国者収容所長及び地方入国管理局長)は,被収容者がり病し,又は負傷したときは,医師の診療を受けさせ,病状により適当な措置を講じなければならない」と規定されている。即ち,適正な医師の診察と措置を被収容者に与え,被収容者の健康を保つことは東日本入国管理センター所長を含む入国者収容所長及び地方入国管理局長の法的な責務である。
         り病若しくは負傷した被収容者が,適切な医療を受けることが出来ずに病状を悪化させること,まして死亡することなど断じてあってはならず,かかる事態の発生につき,入国者収容所長らと,所轄官庁たる法務省・入国管理局の責任は極めて重い。
    • イ そこで,当連合会は,上記真相解明のための調査と併行して,東日本入国管理センターを含む入国者収容所等における医療体制の早急な抜本的改革を求めるものである。
       具体的には,①医師の診察を求める願箋が被収容者から提出された場合は,施設内若しくは施設外において24時間以内に診察を実施する体制を整備すること,合わせて,②緊急事態にあっては時間をおかずに直ちに救急車を呼ぶ体制を構築すること,③患者である被収容者が医師を信頼できないと感じた場合は,施設外の医療機関に所属する医師によるセカンド・オピニオンを被収容者が求める権利を保障することが,上記改革の施策に含まれるべきである。
       かかる抜本的改革は,今回の入管連続死亡事件の調査結果の公表を待たずして行うべきであるが,調査結果の公表後には,同調査結果に基づき,広く改善に向けた意見を募ることで同改革を更に進めるべきである。
    • ウ そもそも,長期収容すること自体が,被収容者の心身に極めて過大な負担をかけていることが必定である以上,長くとも6か月間以上の長期収容自体を直ちに停止すべきことは言うまでもないが,仮に当連合会の求める医療体制の抜本的改善が直ちになされないのであればなおのこと,被収容者の長期収容は厳に慎むべきものである。
  4. (4)結論
     よって,当連合会は,今回の入管連続死亡事件につき,法務省入国管理局及び東日本入国管理センターが,①その真相を解明するための独立した第三者機関を直ちに設置し,同機関による徹底的な調査を受け入れること,且つ同調査結果が,直ちに公表されるべきこと,②今後,被収容者の死亡事件が二度と発生しないための対策として,入管医療の改善手段を直ちに策定して公表・実施すると共に,被収容者の心身に著しい負担を課する長期収容自体を直ちに停止することを強く求めるものである。

2014(平成26)年5月1日
関東弁護士会連合会
理事長 若旅 一夫

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