関東弁護士会連合会は、関東甲信越の各県と静岡県にある13の弁護士会によって構成されている連合体です。

宣言・決議・意見書・声明等宣言・決議・意見書・声明等

平成27年 声明

消費者庁・国民生活センター・消費者委員会の地方移転に反対する理事長声明

 政府は,「まち・ひと・しごと創生総合戦略」に基づき,「政府関係機関移転に関する有識者会議」を設置して,東京一極集中を是正する観点から政府関係機関の地方移転を検討しているところ,現在,徳島県からの誘致提案を受けて,消費者庁,国民生活センター,消費者委員会(以下「消費者庁等」という。)を同県に移転することが具体的に審議されている。

 政府関係機関の地方移転については,その地域の発展に資するかという観点からだけではなく,その地方に移転をすることによって,国の機関としての機能が維持され,向上することが期待できるかいう観点から検討されるべきである。しかるに,消費者庁等が地方に移転した場合には,消費者庁等の機能を大幅に低下させ,我が国の消費者行政の推進を阻害することになると考えられることから,当連合会は,消費者庁等の地方移転に反対する。

 消費者庁は,中国製冷凍ぎょうざ事件や事故米穀の不正規流通問題,ガス瞬間湯沸器による一酸化炭素中毒事故,エレベーター事故などの消費者事故,また,高齢者を狙った悪質商法の横行などの国民生活の安全,安心を脅かす問題が次々と起こり,大きな社会問題となったことから,従来の各省庁の縦割り行政を見直して消費者行政を一元化し,消費者の立場から施策や行政の在り方を見直し,消費者が主役となって安心して暮らすことのできる社会を実現するため,強い権限を持つ新組織として発足した。消費者庁は,消費行政の司令塔として消費者基本計画の策定をし,消費者・事業者等から消費者被害情報や事故情報を一元的に集約・分析・原因究明し,政府や各省庁と一体となって被害の拡大防止,再発防止,被害救済を目指すものであるから,政府や各省庁と緊密に連絡をとる必要がある。また,消費者庁は,消費者の被害実態を踏まえて必要な法律改正を行うため,関係各省庁と意見交換をしたり,審議会・検討会も行いながら,法案を作成する内閣法制局と頻繁に協議を行い,国会審議にあたっては各政党・国会議員に事前説明を行う必要があることから,政府や関係各省庁,国会の近くに位置する必要がある。さらに,消費者の生命・身体の安全に関わる緊急事態にあっては,官邸と一体となって緊急対応を行う必要もある。

 このように,消費者庁は,政府や各省庁と日常的に情報交換し,協議したりするほか,緊急時には迅速に対応することが求められているが,消費者庁だけが地方へ移転すれば,関係省庁と緊密な連絡がとれず,関係省庁に対する消費者行政の司令塔としての役割を果たすことは困難となり,国会対応等も速やかに行うことができないおそれが大きい。また,消費者庁は,消費者団体や事業者等とも日常的に意見交換・情報交換を行っているが,これらの団体・事業者は首都圏に集中している。消費者行政に携わる専門性の高い人材も,地方では十分に確保することができないのではないかとの懸念もある。

 また,国民生活センターは,全国の消費生活センターや消費生活相談から集められた相談情報を集約・分析し,国民に対して注意喚起を行ったり,消費者庁や各省庁の消費者関係法制度の不備や見直しの問題提起を行ったり,消費者関連法の制定・改正を行う際の立法事実としての消費者相談情報の提供や意見交換を行う等しており,極めて重要な役割を果たしている。こうしたさまざまな役割を担っている国民生活センターが地方へ移転すれば,関係各省庁の担当者と直接対面しての緊密な意見交換等ができなくなる。また,国民生活センターの職員は,半数以上が非常勤職員であるところ,地方移転によってこれらの職員が退職するおそれがある。他方で,地方ではそのような専門性のある人材を多数確保することが困難であると思われる。さらに,ADRは,国民生活センターの重要な役割であるが,事業者の多くが首都圏に集中し,消費者被害も首都圏で多く発生しているにもかかわらず,ADRを地方で行えば,紛争解決委員が消費者や事業者と直接対面して,説明・説得して仲裁を行うことができず,ADRでの和解の成立率が低下することも懸念される。

 そして,国の消費者行政は,消費者庁・国民生活センター・消費者委員会が相互に連携をしつつ,それぞれの役割を果たすことが期待されていることから,消費者委員会の地方移転についても反対である。消費者委員会は消費者庁等からの諮問事項を審議するほか,任意のテーマを自ら調査して他省庁への建議等を行うという監視機能も有している。他省庁からの諮問について,諮問した省庁等との連絡を密にすることはもちろんであるが,建議等の監視機能の行使においても,他省庁や関連事業者,事業者団体からの事情聴取・協議も頻繁に行い,直接の面談,説明,説得が重要であることは言うまでもないところである。

 以上のとおり,消費者庁等が地方へ移転することにより,我が国の消費者行政全体の機能低下が強く懸念され,ひいては消費者全体の利益を大きく損なうことになると考えられる。よって当連合会は消費者庁等の地方移転に反対する。

2016(平成28)年1月21日
関東弁護士会連合会
理事長 藤田 善六

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