関東弁護士会連合会は、関東甲信越の各県と静岡県にある13の弁護士会によって構成されている連合体です。

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平成27年度 声明

少年法の「成人」年齢引下げに反対する理事長声明

  1. 1  自由民主党の「成年年齢に関する特命委員会」は,少年法の適用年齢を現行の20歳未満から18歳未満に引き下げることを検討している。これは,公職選挙法改正案が選挙権年齢を18歳以上に引き下げることに連動させようとするものである。
  2. 2  しかし,法律の適用年齢を考えるには,それぞれの法律の目的や趣旨に照らして,個別具体的に検討されなければならない。
      公職選挙法で定められる選挙権年齢の問題は,民主主義の観点から,人格形成途上の年齢にある若者について,その意見を政治に反映させるべきか否かという観点から論じられるべき問題である。
      これに対して,少年法の適用年齢は,国家が罪を犯した若者をどのように処遇するか,すなわち若者が人格形成の途上にあることを処遇のうえでどのように考慮するかの問題である。
      両者はまったく目的や趣旨を異にするものであって,両者を一致させなければならない理由はない。
  3. 3  少年法は,人格の発展途上にあって可塑性に富む少年については,処罰よりも教育的な処遇によって健全育成を図り,再非行を防止する方が効果的であって,少年本人のみならず社会にとっても利益となるとの考えのもとに,刑事手続きとは異なる手続きを定めている。
    この少年法の適用年齢を引き下げようとする意見は,少年による一部の残虐な事件の報道に触れ,重大な犯罪を犯した少年は厳しく処罰すべきで,少年法では甘いとの考えに拠っている。
     しかし,少年法の適用年齢を引き下げるべきか否かを判断するには,(1)少年事件は本当に増加しているのか,あるいは凶悪化しているのか。(2)現行の少年法の処遇システムでは十分な効果が期待できないのか。(3)少年法の適用年齢引下げによって犯罪減少を期待できるのか,などについての慎重かつ実証的な検討が必要である。
  4. 4  まず,少年事件の件数は,総数においても人口比でも明らかに減少傾向にある。また,殺人事件の件数は昭和40年代と比べると5分の1程度に減少している。家庭裁判所が審判で殺人既遂の事実を認定した少年は,年間平均15人程度(平成13年から25年まで)であり,少年事件の全体数(10万5235人,平成25年終局処理人員)からみて僅かである。少年事件の増加,凶悪化という事実は存在せず,これを根拠に少年法適用年齢を引き下げる必要はない。
  5. 5  また,現行の少年法の司法システムは概ね有効に機能している。少年法は,すべての少年事件を家庭裁判所に送致させ(全件送致主義),事件の背景や少年の成育環境等について,家庭裁判所調査官及び少年鑑別所による科学的専門的な調査を行ない(科学主義),その調査結果を踏まえて適切な処遇が決定されている。家庭裁判所の審判段階における環境調整や教育的働きかけも行われており,このようなシステムが,少年の更生及び再非行防止に有効な役割を果たしている。
  6. 6  少年法の適用年齢引下げによって犯罪の減少を期待することについては,以下のような疑問がある。
      少年法の適用年齢を引き下げるとすれば,18歳,19歳の者は通常の刑事手続きにより処罰されることになるが,この手続きでは科学的専門的調査は行われず,責任に応じた刑罰が選択される。しかも,多くが不起訴処分や略式命令による罰金で終了しており,また,公判請求されても初犯の場合は執行猶予となる確率が高く,少年事件手続に比べて,被疑者・被告人の立ち直りに果たす役割は限定的である。
      現行少年法のもとでは,全少年被疑者の約43%を占める18歳及び19歳の少年について,その未熟さを踏まえて教育的な働きかけにより更生・成長発達を図り,多くの少年の早期の立ち直りという効果をみているにもかかわらず,これらの少年を少年法の適用対象から除外してしまうとすれば,その更生の機会を奪い,再犯のリスクを高め,ひいては,社会の安全にとっても悪影響をもたらすと言わざるを得ない。
  7. 7  なお,上記のとおり,少年法の適用年齢引き下げの理由として,重大事件を犯した少年に対しても保護処分で対応する少年法は甘すぎるとの意見がある。
      しかし,この意見は正確ではない。全件送致主義のもとでも家庭裁判所が刑事処分相当と判断した事件については,検察官に送致し刑事裁判に付することとされており,重大事件を犯した少年の多くが公開法廷における刑事裁判を受け,裁判員裁判の対象ともなっている。行為時18歳以上の少年に対しては死刑判決すら選択しうるのである。また,少年事件では,成人では処罰されない「非行の虞れ」までも処分の対象としている。少年法が甘すぎるとの指摘は誤解である。
  8. 8  以上のとおり,少年法の適用年齢を18歳未満に引き下げるべき根拠はなく,却って少年法が「処罰より教育」の理念により果たしてきた,少年の更正による再犯防止とこれによる社会の安全に対して,重大な弊害をもたらすものである。

   よって,当連合会は,少年法の適用年齢の引下げに強く反対する。

2015年(平成27年)8月20日
関東弁護士会連合会
理 事 長  藤田  善六

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