関東弁護士会連合会は、関東甲信越の各県と静岡県にある13の弁護士会によって構成されている連合体です。

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平成27年度 決議

武力ではなく対話による平和の実現を求め,集団的自衛権行使を容認する閣議決定,当該閣議決定に基づく日米防衛協力のための指針並びに平和安全法制整備法案及び国際平和支援法案の撤回,廃案を求める決議

  1.  日本国憲法は,武力ではなく,専ら対話(外交)による平和の実現を基本原理として要請するものであり,政府は,日本国憲法におけるこの基本原理に則って外交・防衛政策を策定・実施すべきである。
  2.  2014年7月1日になされた「国の存立を全うし,国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」と題する閣議決定,及びかかる閣議決定に基づき2015年4月27日に日米安全保障協議委員会で合意された日米防衛協力のための指針並びに同年5月15日に衆議院に提出された平和安全法制整備法案及び国際平和支援法案は,集団的自衛権の行使を容認することを前提としている。これらは,専ら対話(外交)による平和の実現という日本国憲法の基本原理に違背し,立憲主義,前文及び第9条にも違反するものである。しかも,憲法に違反する法案等について,憲法改正手続を経ずに法律の制定,改正で実現しようとし,さらには十分な審議をしないまま強行採決する所為は,日本が自国の憲法を無視し,法の支配がなされていない国として,国際社会からの信用を著しく低下させるものである。したがって,これらの撤回,廃案を強く求める。

 以上のとおり決議する。

2015(平成27)年9月18日
関東弁護士会連合会

提案理由

第1 日本国憲法における平和主義の意義

 当連合会は,内閣が昨年7月1日に行った「国の存立を全うし,国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」と題する閣議決定(以下「本閣議決定」という。)に対し,昨年9月26日,平成26年度定期弁護士大会において,武力ではなく対話による平和の実現を求め,集団的自衛権行使を容認する本閣議決定の撤回を求めるとともに,本閣議決定の内容を実施するための日米防衛協力のための指針の改定及び関連諸法令の制定又は改正も,日本国憲法が掲げる平和の基本原理,前文及び第9条に違反するものであるから,これらを行わないことを強く求める大会決議を行った(別紙)。
 しかしながら,その後,内閣は,本年4月27日,日本の集団的自衛権の行使を前提とする新たな日米防衛協力のための指針(The Guidelines for Japan-U.S.Defense Cooperation,以下「新ガイドライン」という。)を日米安全保障協議委員会において外務大臣・防衛大臣と米国務長官・米国防長官との間で合意した。同月29日,安倍晋三内閣総理大臣は,米国議会における演説において,「この法整備によって,自衛隊と米軍の協力関係は強化され,日米同盟は,より一層堅固になります。それは地域の平和のため,確かな抑止力をもたらすでしょう。戦後,初めての大改革です。この夏までに,成就させます。・・・日本は,世界の平和と安定のため,これまで以上に責任を果たしていく。そう決意しています。そのために必要な法案の成立を,この夏までに,必ず実現します。」と集団的自衛権の行使容認等を内容とする法案を本年夏までに必ず実現する旨米国議会に対し明言した。そして,その2週間後の5月14日,我が国及び国際社会の平和及び安全の確保に資するための自衛隊法等の一部を改正する法律案(自衛隊法,国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律,周辺事態に際して我が国の平和及び安全を確保するための措置に関する法律,周辺事態に際して実施する船舶検査活動に関する法律,武力攻撃事態等における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律,武力攻撃事態等におけるアメリカ合衆国の軍隊の行動に伴い我が国が実施する措置に関する法律,武力攻撃事態等における特定公共施設等の利用に関する法律,武力攻撃事態における外国軍用品等の海上輸送の規制に関する法律,武力攻撃事態における捕虜等の取扱いに関する法律,国家安全保障会議設置法等,以下「平和安全法制整備法案」という。)及び国際平和共同対処事態に際して我が国が実施する諸外国の軍隊等に対する協力支援活動等に関する法律案(以下「国際平和支援法案」という。平和安全法制整備法案と国際平和支援法案を総称して「安保関連法案」という。)を閣議決定して,翌15日衆議院に提出した。

 その後,同月26日より衆議院で審議が開始されたが,本年6月22日,自民党,公明党と次世代の党の賛成によって95日間(本年9月27日まで)会期延長が決定され,計11の法案であるにもかかわらず約116時間という審議時間で,本年7月15日,衆議院我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会(以下「衆議院平和安全法制特別委員会」という。)において強行採決,翌16日には,衆議院本会議において強行採決され,本年7月27日に参議院で審議が開始されたが,本年9月17日に参議院我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会(以下「参議院平和安全法制特別委員会」という。)において強行採決され,参議院本会議で審議中である。

第1 日本国憲法における基本原理

  1.  日本国憲法の基本原理である平和主義の意義
     日本国憲法は,我が国が太平洋戦争において,極めて多数の国民の生命を失わせるなど,戦争により多大な惨禍を生じさせたことを深く反省し,前文第1段において「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し,・・・」とし,さらに,前文第2段において,「・・・平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して,われらの安全と生存を保持しようと決意した。」と定め,平和的生存権を有することを確認した。そして,この決意・確認に基づいて,第9条第1項において,戦争と武力による威嚇又は武力の行使は,国際紛争を解決する手段として永久に放棄するとし,同条第2項は,戦力の不保持と交戦権の否認を規定して,徹底した恒久平和主義を採用したのである。
     このように,日本国憲法は,諸国民の公正と信義を信頼し,平和的生存権を明文化して,戦争を放棄し,交戦権を否認したのであるから,武力により平和の実現を図るのではなく,専ら対話(外交)による平和の実現を憲法規範として定めているのであり,政府に対して,専ら対話(外交)による平和の実現を要請しているのである。
     したがって,我が国の防衛に関する制度の制定及びその整備は,武力の行使を前提とするものではなく,専ら対話(外交)による平和の実現という日本国憲法の基本原理に則って行わなければならない。
     日本国憲法における平和主義は,単に自国の安全を他国に守ってもらうという消極的なものではなく,平和構想を提示したり,国際的な紛争・対立の緩和に向けて提言を行ったりして,専ら対話(外交)により平和を実現するための積極的行動をとるべきことを要請しているのである。
  2.  日本国憲法の基本原理である立憲主義
    立憲主義は,憲法によって国民の基本的人権を保障し,この基本的人権を確保するため,国家権力を制限することを目的とする近代憲法の基本理念である。日本国憲法が個人の尊重を規定し(第13条),基本的人権を第三章で保障するとともに基本的人権が永久不可侵であるとし(第97条),憲法が国の最高法規であり,その条規に反する法律,命令,詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は,その効力を有しないこと(第98条第1項),公務員の憲法尊重義務(第99条)を規定していることから,日本国憲法は,立憲主義を基本理念として採用しているのである。

第2 本閣議決定,新ガイドライン及び安保関連法案の問題点

  1.  本閣議決定について
     当連合会は,前述の通り,昨年度定期弁護士大会において,本閣議決定は憲法に違反する旨を詳細な理由に基づき述べた。すなわち,(1)「積極的平和主義」は,自衛隊が海外で活動するに当たって,幅広く武器の使用を認めることを指向しており,武力ではなく,専ら対話(外交)による平和を実現するという日本国憲法の基本原理に違背するものであること,(2)これまで,政府は,集団的自衛権の行使は,憲法上許されないと解釈してきた(1972(昭和47)年10月14日参議院決算委員会における内閣法制局の提出資料等)のに対し,本閣議決定は「他国」への武力攻撃を契機として我が国が武力を行使することは日本国憲法上許容されないとしてきたこれまでの政府見解を180度転換するものであるから,まさに政府の解釈により日本国憲法を改正するものであること,(3)外国に対しての武力攻撃は,国民の権利侵害に関しては間接的なものであることから,政府の恣意的判断を広く許すものであること,(4)「我が国と密接な関係にある他国」における「他国」の範囲は際限なく拡大し,我が国から極めて遠くに位置する中東諸国などの国もこの「他国」に該当すると解されるおそれがあること,(5)「明白な危険」という概念を用いることで,外国に対する武力攻撃が生じた場合に,我が国の武力行使を許容することは,政府に恣意的判断を許す余地を多分に残すことになること,(6)既に42年という長期にわたり,国会等において議論の積み重ねを経て確立され,定着している憲法解釈を変更するものであり,法的安定性を害するものであること,(7)さらには,本閣議決定において「集団的自衛権」行使に関連して指摘されている事項については,いずれもこれを認める必要性はなく,本閣議決定の合理性を基礎づける事実も存しないこと,等を根拠に,武力による平和の実現を指向するものであり,日本国憲法前文及び第9条における対話(外交)による平和の実現という理念・要請に背理するものであり,かつ,この理念・要請の下,長期間,国会等で議論を積み重ね,確立された専守防衛という憲法解釈を,変更する必要性がないにもかかわらず,踏み越えて変更するものであり,これは日本国憲法前文及び第9条,さらには日本国憲法の基本原理である立憲主義に抵触する旨を結論付けた。
  2.  新ガイドラインについて
     しかしながら,その後,内閣は,本閣議決定を受け,本年4月27日,日米防衛協力のための指針(ガイドライン)の改定,すなわち新ガイドラインを外務大臣・防衛大臣と米国務長官・米国防長官との間で合意した。
     日米防衛協力のための指針とは,日本の外務大臣及び防衛大臣,米国の国務長官及び国防長官により構成される日米安全保障協議委員会(Japan-United States Security Consultative Committee)における,日米両政府の防衛協力の在り方についての合意である。
     この新ガイドラインは,米国など密接な関係にある国に対する武力攻撃が発生し,それにより,我が国の存立が脅かされ,国民の生命,自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があると判断される場合に,集団的自衛権等を行使し,自衛隊が海上交通の安全を確保するために機雷を掃海することや,艦船防護のための護衛や弾道ミサイルの迎撃を行うことなどを具体的に定めている。また,これまでの「周辺事態」の概念を取り払い,自衛隊が「我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態」への対処として,また,アジア太平洋地域やこれを超えた「グローバルな平和と安全のための協力」への対応としても,地理的な制約なしに,世界中どこであっても戦闘中の米軍などを「後方支援」することなどを定めている。
     このような内容の新ガイドラインは,武力による平和の実現を指向するものであり,日米安全保障条約の範囲すらも超えるものであり,日本国憲法前文及び第9条における対話(外交)による平和の実現という理念・要請に背理するものであり,日本国憲法前文及び第9条,さらには憲法改正手続を潜脱して,政府間で合意することは,立憲主義の根本理念を踏みにじるものである。
     しかも,安保関連法案が国会に提出される前,しかも法案さえ出来ていない段階でなされたものであり,国民主権及び立憲民主主義に著しく反するものである。
  3.  安保関連法案について
     本年5月14日に閣議決定され翌15日衆議院に提出された安保関連法案は,自衛隊法他計10の法案である平和安全法制整備法案の改正と,新法の国際平和支援法案で構成されているが,いずれも本閣議決定を具体化する法案であり,当連合会昨年度定期弁護士大会決議で詳細に述べた本閣議決定が日本国憲法に違反する理由は,安保関連法案にもそのまま当て嵌まる。
     さらに詳述すれば,以下の問題点を指摘できる。
     安保関連法案は,我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し,これにより我が国の存立が脅かされる等の要件を満たす事態を「存立危機事態」と称し,世界のどこででも自衛隊が米国及び他国軍隊とともに武力を行使することを可能としている。これは,違憲とされる集団的自衛権の行使を容認するものであり,しかも,「存立危機事態」なる概念は極めて抽象的で,どのようなケースが「存立危機事態」となるか,政府の恣意的判断を広く許すものである。
     また,周辺事態法第1条の「周辺事態」の定義である「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態等我が国周辺の地域における我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態」から,「我が国周辺の地域における」を削除して,「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態等我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態」を「重要影響事態」と改正している(重要影響事態法案第1条)。これにより,地球上どこで発生した事態でも「我が国の平和及び安全に重要な影響を与える」と政府が認定しさえすれば,自衛隊の活動地域を飛躍的に拡大し,他国の軍隊に対して無制限な支援ができることになってしまう。
     支援対象についても,周辺事態法第1条は,「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約(以下「日米安保条約」という。)の効果的な運用に寄与し,我が国の平和及び安全の確保に資することを目的とする。」と規定されているところ,「効果的な運用に寄与することを中核とする重要影響事態に対処する外国との連携を強化し」との文言を追加する改正を加え,同第3条第1項第1号で「アメリカ合衆国の軍隊」に限られていたものを,「及びその他の国際連合憲章の目的の達成に寄与する活動を行う外国の軍隊その他これに類する組織」を追加する改正を加えることにより,支援対象を極めて広くしているものである。
     さらに,実施地域を,「後方地域」すなわち「我が国領域並びに現に戦闘行為が行われておらず,かつ,そこで実施される活動の期間を通じて戦闘行為が行われることがないと認められる我が国周辺の公海(海洋法に関する国際連合条約に規定する排他的経済水域を含む。以下同じ。)及びその上空の範囲をいう。」から,「後方支援活動及び捜索救助活動は,現に戦闘地域が行われている現場では実施しないものとする」(重要影響事態法案第2条第3項本文)とし,かつ,外国領域についても当該外国の同意を要件として対応措置の実施を可能とする(同第2条第4項)。これにより,当該外国の同意がない外国領域を除けば,「現に戦闘行為が行われている現場」でない限りグローバル規模で対応措置を実施可能としており極めて拡大している。
     そして,「重要影響事態」や,国際社会の平和と安全を脅かす「国際平和共同対処事態」において,現に戦闘行為が行われている現場でなければ,自衛隊が戦争を行っている米国及び他国軍隊に,後方支援活動として,新たに弾薬の提供や戦闘機に対する給油活動を行うことを可能としているが,これら兵站活動は戦闘活動の一部であり攻撃の対象となる恐れが高く,自衛隊が戦闘行為に巻き込まれる危険性を格段に高めるものである。これは,まさに憲法第9条第2項の禁止する武力行使の一体化をもたらすものである。
     さらに,「国連が統括しない国際平和協力活動」に自衛隊を参加させることができるようになったり,紛争地での「治安維持活動」に従事を可能としたりする等,自衛隊を危険な任務に従事させることを可能としており,また武力衝突が発生していない平時であっても,同盟軍の武器等を防護するために自衛隊が武器を使用することを可能にもしている。このような自衛隊の活動は,偶発的な武力紛争を誘発するものであって,武力行使を禁ずる憲法第9条に違反するものである。

第3 手続上の問題点

  1.  本閣議決定に基づき本年5月14日に閣議決定され翌15日衆議院に提出された安保関連法案は,自衛隊法他計10の法案である平和安全法制整備法案の改正と,新法の国際平和支援法案で構成されているが,この計11の法案は,本年2月13日から5月11日まで計13回開催された与党協議で作成されたが,計13回の協議にかけた時間は,わずか15時間余りにすぎない。そして,直後の5月14日に閣議決定したものであり,そもそも,「他国」への武力攻撃を契機として我が国が武力を行使することは日本国憲法上許容されないとしてきたこれまでの政府見解を180度転換する法案であることを鑑みれば,計11の安保関連法案は極めて短い期間で作られたことになる。しかも,安保関連法案の作成にあたっては,内閣は,国民に対し意見(パブリックコメント)の聴取の機会すら一切設けず,一方的に法案作成を断行したものである。
  2.  また,法案作成の与党協議が終了する前,すなわち法案すら出来ていない本年4月27日,本閣議決定に基づく集団的自衛権の行使容認等を内容とする新ガイドラインを日米安全保障協議委員会において外務大臣・防衛大臣と米国務長官・米国防長官との間で合意したことは,国民主権及び立憲民主主義に著しく反するものであるが,さらに同月29日には,安倍晋三内閣総理大臣は,米国議会で行った演説において,「この法整備によって,自衛隊と米軍の協力関係は強化され,日米同盟は,より一層堅固になります。それは地域の平和のため,確かな抑止力をもたらすでしょう。戦後,初めての大改革です。この夏までに,成就させます。・・・日本は,世界の平和と安定のため,これまで以上に責任を果たしていく。そう決意しています。そのために必要な法案の成立を,この夏までに,必ず実現します。」と明言したものである。しかしながら,集団的自衛権の行使容認等を内容とする法案を本年夏までに必ず実現する旨のかかる発言は,日本国憲法に違反する法案の成立を,しかも法案を国会に提出する前に,しかも法案自体が与党協議で出来上がる前の段階で,米国議会に明言するものであって,日本国憲法における立憲民主主義を蔑ろにし,国民主権,主権者である国民を蔑ろにするものであり,憲法を最も尊重すべき義務を負うべき内閣総理大臣にあるまじき行為である。
  3.  そして,内閣は,前述の通り,憲法改正手続を潜脱して,本年5月15日に安保関連法案を衆議院に提出し,同月26日より衆議院で審議が開始された。本年6月4日には,衆議院憲法審査会において,自民党推薦の長谷部泰男教授を含む参考人3名の憲法学者全員が憲法違反と明言し,また,報道機関の世論調査においても,国会における政府の説明は不十分であり,今国会での成立に反対であるとの意見が多数を占めるに至った。しかしながら,安保関連法案は,計11の法案であるにもかかわらず約116時間という審議時間で,本年7月15日,衆議院平和安全法制特別委員会において強行採決され,翌16日には,衆議院本会議において強行採決され,本年7月27日に参議院で審議が開始されたが,本年9月17日に参議院平和安全法制特別委員会において強行採決され,参議院本会議で審議中である。

第4 結論

  1.  我が国は,海外において国際連合の平和維持活動等をするために自衛隊を派遣している。係る諸活動において,他国の軍隊は少なからぬ犠牲者を出しているにもかかわらず,自衛隊は,人的な被害を被ることはなく,他国民の生命身体を害することもなかった。これは,徹底した恒久平和主義を唱える日本国憲法の下,自衛隊の諸活動が我が国に対する武力攻撃があった場合を想定し,海外における活動について極めて限定的に解した結果であり,専ら「対話(外交)による平和の実現」を要請する日本国憲法の精神に適うものである。日本国憲法における平和主義は,単に自国の安全を他国に守ってもらうという消極的なものではなく,平和構想を提示したり,国際的な紛争・対立の緩和に向けて提言を行ったりして,専ら対話(外交)により平和を実現するための積極的行動をとるべきことを要請しているのであり,政府は,我が国の憲法の係る精神に則って,外交政策及び防衛政策を策定すべきである。
  2.  本閣議決定,本閣議決定に基づく新ガイドライン及び本閣議決定に基づく安保関連法案は,集団的自衛権の行使を容認することを前提としている。これは,専ら対話(外交)による平和の実現という日本国憲法の基本原理に違背し,立憲主義,前文及び第9条にも違反するものである。しかも,憲法に違反する法案等について,憲法改正手続を経ずに法律の制定,改正で実現しようとし,さらには十分な審議をしないまま衆議院で強行採決するような所為は,日本が自国の憲法を無視し,法の支配がなされていない国として,国際社会からの信用を著しく低下させるものである。したがって,これらの撤回,廃案を強く求める。
  3.  日本弁護士連合会を始め全国の弁護士会は,本閣議決定,新ガイドライン及び安保関連法案に反対する決議,声明,そして各種反対運動を展開している。当連合会管内の13の弁護士会も,この間,本閣議決定の撤回に向けて,総会決議や意見表明を行った。昨年8月には各弁護士会が各地で街頭宣伝行動,シンポジウム,集会等の一斉行動を行い,そして昨年9月26日の定期弁護士大会にて前述の大会決議を行った。今年になってから,各弁護士会は,新ガイドラインや安保関連法案に反対する旨の会長声明,総会決議等を行い,昨年度に引き続き,7月から8月にかけての1か月間の一斉行動期間において,街頭宣伝行動,シンポジウム,集会等の多くの活動を実施した。
     また,一斉行動期間中の本年7月16日に,衆議院本会議において同法案が強行採決の上,可決されたことを受け,当連合会理事長及び管内13弁護士会会長の連名により,同日付で「安全保障関連法案に反対し,衆議院本会議における強行採決に抗議する声明」を公表した。本声明の公表に当たり,翌日には司法記者クラブにおいて,当連合会正副理事長及び管内弁護士会会長等による記者会見も行った。
  4.  当連合会は,これまでの諸活動を踏まえ,今般,標記の決議を行うものである。
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