関東弁護士会連合会は、関東甲信越の各県と静岡県にある13の弁護士会によって構成されている連合体です。

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平成27年 意見書

公益通報者保護制度に関する意見書

2015年(平成27年)8月3日
関東弁護士会連合会

第1 意見の趣旨

  1. 1 公益通報を理由とする不利益取扱いを行った事業者等に対する罰則等を導入するべきである。
  2. 2 公益通報者の証拠の持ち出し等に対する民事責任及び刑事責任の免除等,公益通報者を保護する制度を導入するべきである。
  3. 3 公益通報を自ら受け付けて,事業者に対して行政処分を行ったり,行政庁に対して行政処分を勧告したりする等,受け皿となる行政組織を作るべきである。
  4. 4 「その他外部への通報」のための要件を見直し,行政機関への通報と同程度の要件とすべきである。

第2 意見の理由

  1. 1 はじめに
     公益通報制度は,企業や行政等の不正を知った者がこれを是正するために関係機関に通報した場合に,その通報者を保護し,もって企業活動等の適正化を目指す制度である。偽装表示や製品事故,福祉施設での虐待等,外部からはわかりにくい企業・組織の不祥事では,内部事情を詳しく把握しうる立場にある内部通報者による情報提供が大きな意味をもつ。我が国ではこの制度の中核として,平成18年4月から公益通報者保護法が施行されているが,後述のとおり必ずしも十分な効果を上げているとは言い難い状況にある。
     公益通報者保護法は,附則第2条において,「法律の施行後五年を目途として,この法律の施行の状況について検討を加え,その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする」と定め,衆議院内閣委員会附帯決議において,「附則第2条の規定に基づく本法の見直しは,通報対象事実の範囲,外部通報の要件及び外部通報先の範囲の再検討を含めて行うこと」とされていた。これらを受け,2009年12月に内閣府消費者委員会に公益通報者保護専門調査会(以下,「専門調査会」という。)が設置され,2011年2月に専門調査会の取りまとめがなされた。また,2013年6月には,消費者庁において「公益通報者保護制度に関する実態調査報告書」が公表され,同年7月には内閣府消費者委員会の「公益通報者保護制度に関する消費者委員会意見~消費者庁の実態調査を踏まえた今後の取組について~」が公表された。
     そのような中,消費者庁は,公益通報に係る実情・実態の更なる把握と課題の詳細な把握をし,課題解決の方策について検討を進めるため,2014年5月から「公益通報者保護制度に関する意見聴取(ヒアリング)」を実施し,2015年4月15日付けで主な意見を取りまとめて公表した。
     この中では,公益通報者保護制度の評価,公益通報者保護制度の目的・在り方,通報者の範囲,通報対象事実の範囲,通報先の範囲,保護の要件,保護の効果等,事業者がとるべき措置,行政機関がとるべき措置,周知・普及,運用の充実・実効性の向上,通報者の支援,について意見聴取がなされ,意見が出されている。通報当事者も含めたこれらの意見を見ると,公益通報者保護制度は,依然として世間に浸透しておらず,また,通報者の保護も不十分であり利用しやすい制度となっていない状況がつぶさに伺える。したがって,今後は,これらの意見を踏まえた上で,以下のとおり,公益通報者保護法の見直しを行うべきである。
  2. 2 公益通報を理由とする不利益取扱いを行った事業者等に対する罰則等を導入するべきである(意見の趣旨1)。
     現在,公益通報者保護法があるにもかかわらず,公益通報をした結果,通報者が不利益な取扱いを受けることが多い,という実態がある。公益通報者保護制度が広く社会に浸透するためには,法制度の周知徹底に加え,通報者を保護するという法目的の実効性を担保することが必要である。
     この点,アメリカでは内部告発者保護法等において内部通報者に不利益取扱い等をした者に対する懲戒処分ないし罰則が定められているし,韓国では公益通報者保護法において不利益取扱いの禁止違反に対する刑事罰や不利益措置の推定規定が定められており,通報者の保護に資する規定となっている。日本においても,通報者に対する不利益取扱いや解雇を禁ずる規定を導入するなど,事業者が通報者に対して不利益取扱いをしないような動機づけとなる方策を導入する必要がある。
  3. 3 公益通報者の証拠の持ち出し等に対する民事責任及び刑事責任の免除等,公益通報者を保護する制度を導入するべきである(意見の趣旨2)。
     通報者が公益通報をするにあたっては,裏付け資料の収集が不可欠であるところ,裏付け資料収集に当たって,事業者からの損害賠償請求や資料収集に関する刑事責任・懲戒処分等を受けるおそれから通報を諦めるケースが多く見られる。また,保護法で保護される要件は厳格であり,その内容を聞くと相談者が通報を思いとどまるというケースも見られる。
     この点,公益通報者保護制度を実効性あるものとするためには,広く,通報者が利用できるように通報者の保護を強化する必要がある。韓国では公益通報者保護法において秘密保持義務の解除を含めた民事上・刑事上の責任の減免が定められている。日本においても,ガイドラインや規定例等により,内部通報制度において通報者に対する民事上・刑事上の責任の減免や懲戒処分の発動を抑制する旨の規定を設ける必要がある。
  4. 4 公益通報を自ら受け付けて,事業者に対して行政処分を行ったり,行政庁に対して行政処分を勧告したりする等,受け皿となる行政組織を作るべきである(意見の趣旨3)。
     公益通報者保護法においては,通報先として,通報対象事実について処分・勧告等の権限を有する行政機関,があり,通報者としては,中立的な第三者である行政機関に対する期待から行政機関に対する通報を選択することも多い。
     しかしながら,現在,通報者が行政機関に通報をしても,通報を受けた行政機関が適時に十分な対応を行うことができていないという実態がある。また,通報先が処分権限のある行政機関だけに限定されているが,事業者の違法行為が発覚すると通報先の行政機関の監督が怠慢であると疑われる可能性からどうしても調査に消極的になってしまうのではないかという指摘もあった。
     これらの現状に鑑みれば,行政機関への通報先は第三者機関とし,公益通報を包括的に受け付け,専門性をもって対応・処理する常設機関であることが望ましいといえ,その際,当該行政機関には,公益通報を受け付けて事業者に対して行政処分を行ったり,行政庁に対して行政処分を勧告したりする権限を与える必要がある。
  5. 5 「その他外部への通報」のための要件を見直し,行政機関への通報と同程度の要件とすべきである(意見の趣旨4)。
     公益通報者保護法では,「企業内部への通報」「行政機関への通報」「その他外部への通報」に向かうに従い,要件のハードルが高くなっている。とくに,「その他外部への通報」の要件は,複雑で分かりにくいものとなっており(公益通報者保護法第3条第3号),通報をしようとしている者が通報を躊躇し諦める原因となってしまう。外部通報の要件を緩和することで,外部通報へのハードルを下げ,その結果,通報しようとする者が自由に通報先を選択できるようにすることで,企業内部への通報制度について企業にきちんと整備し機能させる契機となると思われる。
     したがって,外部通報の要件を見直し,せめて行政機関への通報と同程度の要件とする必要がある。

以上

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