関東弁護士会連合会は、関東甲信越の各県と静岡県にある13の弁護士会によって構成されている連合体です。

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平成27年度 意見書

電子マネーに関する資金決済法の改正等を求める意見書

平成28年3月23日
関東弁護士会連合会

第1 意見の趣旨

 第三者型前払式支払手段におけるサーバー型電子マネー(以下,単に「電子マネー」という。)を決済手段とする悪質事業者による被害,及び,電子マネーのID番号等が詐取される被害が多発している実情に鑑み,資金決済に関する法律(以下「資金決済法」という。)の改正等により,以下の措置を講ずべきである。

  1.  電子マネーを発行する第三者型前払式支払手段発行者(以下「電子マネー発行業者」という。)に対する加盟店管理義務を徹底させるために,資金決済法を改正し,加盟店契約時における審査,加盟店契約締結後の随時審査,苦情発生時の調査・対応をすべき義務及びその具体的内容について明文化すること。
  2.  電子マネーのID番号等を詐取される被害を防止すべく,資金決済法を改正し,電子マネーの権利(ID番号等)の業としての転売等の禁止等の措置をすること。少なくとも,同法ないし古物営業法を改正し,業として転売等を行う事業者に対して,登録・許可制度を設け,買取時の本人確認義務及び疑わしい取引の申告義務について明文化すること。

第2 意見の理由

  1.  はじめに
    1. (1) 被害実情
       近時,「サクラサイト(出会い系サイト)商法」や「情報商材」に関する深刻な消費者被害が多発している。詐欺等の犯罪や公序良俗違反ともなるこれら商法の被害の特徴の1つに,クレジットカードとともに,電子マネーが決済手段として多用されている点が挙げられる。警察庁が発表した「平成27年の特殊詐欺認知・検挙状況等について」において,電子マネーで支払わせる手口による平成26年上半期の認知件数は11件,被害額が660万円であったにもかかわらず,平成27年下半期には認知件数550件,被害額3億8970万円となり,認知件数,被害額ともに急増していることが明らかとなっている。
       さらに,電子マネーに関しては,加盟店ではない業者がその匿名性を悪用し,電子マネー発行業者が発行したID番号等を消費者から詐取し,これを転売して利益を得るといった形の被害も多発している(以下「プリカ詐欺型」という。)。
    2. (2) 内閣府消費者委員会における建議
       上記のような被害実情に鑑み,内閣府消費者委員会は,平成27年8月18日,「電子マネーに関する問題についての建議」(以下,単に「建議」という。)を行い,金融庁に対して,以下の3つの観点につき対応及び報告を求めた。
       Ⅰ 加盟店管理及び苦情処理体制の整備
       Ⅱ プリカ詐欺型への被害防止策
       Ⅲ 消費者教育及び情報提供
    3. (3) そこで,以下,悪質な加盟店を排除し,電子マネー決済の適正化を確保すべく,電子マネー発行業者における加盟店管理の徹底及び苦情処理対応,並びに,プリカ詐欺型の被害防止に向けた対応策に関し,意見を述べるものである。
  2.  加盟店管理及び苦情処理対応
    1. (1) 電子マネー発行業者の加盟店管理責任等について,建議(Ⅰ)においては,「金融庁は,電子マネーを利用した取引における悪質な加盟店による消費者の被害の発生・拡大防止及び回復を図るため,電子マネー発行業者に対し,資金決済に関する法律における義務付けを含む,加盟店の管理及び苦情処理体制の制度整備に向けた措置を講ずること。」としている。
       現行の資金決済法は,電子マネー発行業者に対する登録制度,表示義務,行政的監督権限などの規制等(同法7条等)が存するものの,その内容は,主として財産保全措置が中心である。電子マネー発行業者による加盟店管理責任に関しては,「購入できる物品等が,公序良俗を害するおそれがないことを確保するために必要な措置を講じていない法人」を電子マネー発行業者の登録拒否事由としており(同法10条1項3号),違反行為については業務停止命令ないし登録取消事由の対象としているが(同法25条ないし27条),その具体的内容は事務ガイドライン(事務ガイドライン第三分冊5Ⅱ-3-3-1)に規定されているに過ぎず,法的義務の実効性としては不十分と言わざるを得ない。
    2. (2) 電子マネー発行業者は,販売業者又は役務提供業者を加盟店とし,消費者との取引おいて,継続的に決済手段に関与していくという構造を有しており,この点でクレジット会社と類似している。そのため,割賦販売法における加盟店管理義務の規程が参考になる。
       現に,電子マネー発行業者への規制につき,金融庁の金融審議会における平成27年12月22日付け「決済業務等の高度化に関するワーキング・グループ報告~決済高度化に向けた戦略的取組み~」においても,「割賦販売法の見直しの動きも踏まえつつ,消費者被害の実効的な防止・解決策を講じるとの要請に的確に応えていく必要があるものと考えられる。」としてクレジット制度が参考にされているところである。
       現在の割賦販売法においては,加盟店管理義務として,業務適正化義務の中の苦情の適正処理義務(同法30条の5の2,省令60条)とともに,個別信用購入あつせん業者(個別クレジット)における不適正与信防止義務(同法35条の3の5第1項)を規定している。
       そして,あらたに加盟店契約会社(アクワイアラー)に対する加盟店管理等の義務に関する改正がなされる予定であることが,経済産業省産業構造審議会商務流通情報分科会割賦販売小委員会の平成27年7月3日付け「報告書」によって言及されている。
       悪質な加盟店を適切に排除するという目的を達成するためには,電子マネー会社に対しても,このようなクレジット制度と同等の苦情処理等の加盟店管理義務を課すことは必須であるといえる。
    3. (3) そして,悪質加盟店が消費者の利益の保護に欠ける業務を行っていることが判明する契機としては,加盟店契約締結時の初期審査が重要であることは勿論であるが,その後の加盟店の事業実態を電子マネー発行業者が適正に把握することもまた重要である。
       悪質加盟店排除という目的のために,電子マネー発行業者に対して,割賦販売法におけるクレジット会社への加盟店管理義務と少なくとも同等の規制を及ぼす必要性があり,資金決済法のガイドラインにおいても加盟店が公序良俗に反する物品・役務の提供を行わないよう監視する体制を求めるものであるから,その具体的方策として加盟店契約締結時における審査のみならず,契約締結後の定期的な審査,並びに,消費者から電子マネー発行業者に対する苦情が発生した時に適切かつ迅速な対応をすべき義務が求められるものである。
       これら電子マネー発行業者の義務は,現行法の下で被害が改善されないどころかむしろ拡大しているとの状況からすれば,単なるガイドライン等による体制整備の追加のみではなく,法律上の義務として明確にすべきである。
    4. (4) 以上の観点より,具体的には,以下のような加盟店管理義務について,資金決済法を改正し,明文化すべきである。
      1. ア 加盟店契約締結時の義務
         電子マネー発行業者は,加盟店との間で,前払式支払手段に係る契約を締結しようとする場合には,その契約の締結に先立って,加盟店に関する名称,住所,電話番号,代表者氏名,特定取引・商品等の種類,苦情処理体制などの事項を調査しなければならない。
      2. イ 加盟店契約締結後の義務
         電子マネー発行業者は,加盟店契約締結時に確認した事項に関する著しい変化の有無について,一定期間(半年から1年程度)ごとに調査をしなければならない。
      3. ウ 苦情発生時の義務
        1. ① 電子マネー発行業者は,利用者(前払式支払手段の保有者)の利益の保護を図るため,その利用者からの苦情の適切かつ迅速な処理のために必要な措置を講じなければならない。
        2. ② 電子マネー発行業者は,利用者からの苦情の適切かつ迅速な処理のために必要な措置を講じるときは,次の各号に定めるところによらなければならない。
          1. ⅰ 利用者からの苦情を受け付けたときは,遅滞なく,当該苦情に係る事項の原因を究明すること。
          2. ⅱ 原因究明により知った事項からみて,当該苦情の内容に応じ,当該苦情の処理のために必要な事項を調査すること。
          3. ⅲ 調査の結果に基づき,加盟店契約の解除,決済の停止,利用者への調査結果の情報提供・返金等の対応をすること。
         なお,平成28年3月4日に閣議決定のうえ公表された「情報通信技術の進展等の環境変化に対応するための銀行法等の一部を改正する法律案」では,資金決済法に関する部分で「前払式支払手段発行者は,前払式支払手段の発行及び利用に関する利用者からの苦情の適切かつ迅速な処理のために必要な措置を講じなければならないことを明確化することとする。」とされている。苦情処理義務を法律上の義務として規定しようとする点については評価できるが,被害が激増している現状においては,抽象的な苦情処理義務を定めただけでは不十分であり,前記のような具体的な措置内容についても,法律で規定すべきである。
  3.  プリカ詐欺型の被害防止
    1. (1) プリカ詐欺型被害について,建議(Ⅱ)において,「金融庁は,消費者が電子マネーのIDを詐取されることによる被害を防止するため,以下の措置を講ずること。」とし,具体的内容として下記ア及びイの指摘がなされている。
      1. ア 消費者が電子マネーを詐取される被害が発生している電子マネー発行業者に対し,各発行業者のウェブサイトや販売時における注意喚起の表示,販売上限額の引き下げなどの販売方法の見直し並びに被害発生状況のモニタリング及び分析を通じて消費者の被害の予防及び救済に向けた取組を促すこと。
      2. イ 経済産業省,警察庁,消費者庁と連携し,電子マネーを販売する事業者に対し,電子マネーの販売店において高額又は大量の電子マネーを購入しようとする消費者に対して,従業員から注意喚起の声かけを行うことなどにより,電子マネーを詐取しようとする者に支払うことを目的とした電子マネーの購入を未然に防ぐ取組について協力を要請すること。
    2. (2) 建議の指摘は,被害の未然防止という観点において重要な事項である。しかし,建議には電子マネーを現金化することが事実上可能となっており,このことがプリカ詐欺型被害の拡大に寄与してしまっている点についての重大な問題についての対応が指摘されていない。
       電子マネーの現金化については,電子マネー発行業者による払戻が原則禁止となっていること(資金決済法20条2項),電子マネー発行業者の規約において,原則として,ID番号等(権利)の第三者への譲渡・転売を禁止していること,及び,電子マネーの多くは一度の使用により権利の移転が不可逆的に不可能となることといった事情に照らせば,本来であれば現金化という問題が生じないように思われる。しかし,現実には,詐取されたID番号等の買い取り・転売をする業者(以下「RMT業者」という。RMTとは,「Real Money Trade」の意。)が存在し,これらのRMT業者に対し,未使用の電子マネーのID番号を事実上通知することによって現金を得ることが可能になっている。このように,RMT業者を通じた現金化の途が存在することが,プリカ詐欺型被害の増大につながっている。
       銀行振込やクレジットカードについては,口座開設時や会員登録時に厳格な本人確認がなされるが,電子マネーにおいては,匿名性を維持したままの発行・譲渡・転売しうる。これは,事実上の資金移動やマネーロンダリングを容易にするものであり,重大な問題といえる。
       さらに,匿名性を維持したまま譲渡・転売できることから,転売者であるID詐取者を特定することも極めて困難である。結果として,悪質業者等にとっては,被害者から電子マネーのID番号等を詐取することが,最も安全かつ容易に利益を得る手段となっている。
       そこで,プリカ詐欺型の被害を防止するためには,RMT業者への規制も含めた被害実態に即した適切な規制を行うべきである。
    3. (3) 以上の観点より,具体的には,クローズドループ型(権利が転々流通することを想定されていないもの)の電子マネーについては,現在の匿名性を維持しつつも,少なくとも業としての権利の転売等(売買以外の交換,売買等の委託を受ける,市場経営,インターネット上の競りなども含む)を禁止すべきである。権利の転売等は,電子マネー発行業者の規約等で現に禁止されていることから,これは決して行き過ぎた規制ではない。
       ところで,オープンループ型(転々流通することが前提とされるもの)の電子マネーも観念上存在しうるところ,その機能として,現実の貨幣と同様の機能を有するものであるから,未登録業者による為替業といった脱法行為の阻止のため,預金における口座開設同様に,電子マネー発行業者に対する本人確認義務を課すべきであることも指摘しておく。
       また,仮に,権利の転売等を禁止し得ないとしても,RMT業者に対して,商品券等(動産である前払式支払手段)に対する古物営業法と同様の規制をすべきである。具体的には,資金決済法ないし古物営業法を改正し,RMT業者の登録・許可制(古物営業法3条等参照),買取時等における本人確認義務(同法15条1項,21条の2参照),及び,疑わしい取引の申告義務(同法15条3項,21条の3参照)を課すべきである。
       なお,プリカ型詐欺の被害に関しても,消費者から電子マネー発行業者に対する苦情の申立があった場合には,前記加盟店管理義務に基づき,苦情の適切かつ迅速な処理のために必要な措置(消費者への情報開示を含む)を講じるべきものとすべきでもある。

以上

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