関東弁護士会連合会は、関東甲信越の各県と静岡県にある13の弁護士会によって構成されている連合体です。

宣言・決議・意見書・声明等宣言・決議・意見書・声明等

平成28年度 大会宣言

医療における子どもの権利の保障の確立を求める宣言

 医療を受ける子どもは,子どもであり,かつ,患者である。
 子どもの権利条約は,最善の利益原則のもと,権利主体性及び成長発達権を中心とした子どもの権利を保障している。患者には,インフォームド・コンセント原則に代表される自己決定権が保障されるべきことは,当然のこととして受け入れられている。
 ところが,医療を受ける子どもは,治療などを受けていることに伴い,年齢に応じた遊びを行うことができなかったり,教育を受ける機会が量的及び質的に不十分となったり,特に入院中の場合に家族や友人等との交流をはじめとする通常の社会生活を営むことが困難となったりするなど,主に成長発達権を中心とした子どもの権利保障が不十分となりがちである。また,子どもは理解力や判断力がないものとみなされて,自己の病気や医療について説明を受けられなかったり,自己の受ける医療の決定に関与できなかったりしがちである。
 このように,医療を受ける子どもは,子どもの権利については患者という特性が,患者の権利については子どもという特性がそれぞれ負の要因として働き,そのどちらについても保障が不十分になりやすいという特徴がある。
 我々は,医療を受ける子どもの特性に応じた「医療における子どもの権利」という視点を持つべきことを訴え,医療における子どもの権利〜成長発達権と自己決定権〜の保障の確立を求めて,以下のとおり提言し,国や地方公共団体,患者および家族,医療従事者などの関係者とともに,そのあり方を検討し,具体的な制度の整備に向けた活動に取り組む意志を表明し,ここに宣言する。

  1. 1 国及び地方公共団体は,医療を受ける子どもの特性,発達段階その他の状況に応じてその健やかな成長を図るために,成長発達に合わせた遊びやレクリエーションへの参加,家族や友人との交流,保育士や心理社会的な支援を行う専門家の配置など良好な療養環境を整備し,その他必要な配慮を行う責務を負い,そのために必要な法制上又は財政上の措置その他の措置を講じること。
  2. 2 国及び地方公共団体は,医療を受ける子どもの教育を受ける権利を確実に保障するために,地域とのつながりの中でその能力を発展させるための一貫性と連続性のある教育を提供することを旨として,次の施策を実施すること。
    (1) 学校内や通学における人的・物的支援を拡充すること。
    (2) 病院に併設される病弱児特別支援学校又は病院内に設置され
    る病弱児特別支援学級を整備するとともに,教員が病院を訪問して行う学習指導の質及び量を大幅に拡充し,医療を受ける子どもが病気等の状態により身体的又は精神的負担に堪えられない場合を除き,通常の教育課程と同程度の日数・時間数及び質が確保された教育を提供すること。
    (3) 病院で教育を受けるにために学籍の異動を不要とする制度に改める等,教育機会を切れ目なく提供するために支障となる制度的な制約を解消すること。
    (4) 上記(1)ないし(3)に加え,とりわけ入院している子どもが高等学校の課程に就学できる体制を直ちに整備すること。
  3. 3 入院している子どもに保育を受ける機会を保障するため,その責務として,国は病院内での保育を実施する制度を構築し,国及び地方公共団体はこれを実施すること。
  4. 4 医療を受ける子どもの人格と尊厳を守り,個人として尊重し,その意見表明権ないし自己決定権を保障するために,次のことを確認し又は施策を実施すること。
    (1) 医療を受ける子どもは,自己の受ける医療行為について,年齢及び理解力,病気や医療行為の内容に従って,十分に分かりやすい,工夫された方法により説明を受け,自由な意思に基づき当該医療行為につき意見を表明することができ,その意見は相応に考慮されるべきこと。
    (2) 医療を受ける子どもに説明を理解する能力と医療行為に同意するための判断能力が備わっているときは,子ども本人が医療行為に同意することを認め,インフォームド・コンセントは子ども本人を対象として行われる必要があること。
    (3) 国及び地方公共団体は,医療を受ける子どもの主体的参加を保障するための措置を現実的に可能にする医療提供体制を確保する責務を負い,その責務を果たすための施策を実施すべきであること。
    (4) 国は,医療行為に対する同意は,一定の年齢に達している未成年者によるものであれば,その者が成年に達している場合と同様の効力を有するものとする旨を法定するなど,医療行為に同意する能力のある子どもの自己決定権保障を担保するための方策を検討し,実施すること。

2016年(平成28年)9月9日
関東弁護士会連合会

提案理由

第1 医療を受ける子どもの成長発達を支える療養環境

  1. 1 小児医療現場の意識
     医師及びその他の医療従事者は,安全で最善の医療を患者に提供すべく努力してきた。一方で,医療行為そのものの質が向上するにつれ,いわゆるQOLにも目を向けるべきことが,小児医療に従事する者の間で認識されてきた。
     さらに,近年は,子どもの権利の観点から,良好な療養環境が医療を受ける子どもの成長発達を支えるために不可欠であることが,小児医療の現場で意識されるようになっている。独自に患者の権利章典を定めて,「子どもたちは,親または親に代わる人と一緒に過ごすことができます」(国立成育医療研究センター病院・子どもの患者の憲章)といった療養環境に関する理念を掲げている病院も少なくない。
  2. 2 良好な療養環境の保障
     こうした意識や理念は,以下のとおり,国際的にも国内においても一定の共通認識となっている。
    (1) 世界医師会オタワ宣言
      世界医師会は,1998年10月,「ヘルスケアに対する子どもの権利に関するWMAオタワ宣言」を採択した。オタワ宣言は,①入院を許可された子どもは,年齢や健康状態に応じて設計され,設備の整った環境を提供されるべきである,②子どもは両親あるいはその代理人に付き添われて,入院できるようあらゆる努力が払われるべきである,③全ての入院小児患者は,それがよい治療となる場合,できる限り外部との接触を多くし,訪問者について年齢に関わりなく受け入れることができるようにすべきである,④入院小児患者は,遊戯,レクリエーションおよび教育を続けるためのあらゆる機会と適切な施設を利用できるようにすべきであるなど(以上,日本医師会訳)とうたっている。
    (2) EACH憲章
      病院の子どもヨーロッパ協会(European Association for Children in Hospital)は,子どもの権利条約に則った子どもの病院環境が具備すべき条件をまとめた「病院のこども憲章(EACH憲章)」を策定している。EACH憲章は,①病院における子どもたちは,いつでも親または親替わりの人が付き添う権利を有する,②すべての親に宿泊施設は提供されるべきであり,付き添えるように援助されたり奨励されるべきである。親には,負担増または収入減がおこらないようにすべきである,③子どもたちは,同様の発達的ニーズをもつ子どもたちと共にケアされるべきであり,成人病棟には入院させられない。病院における子どもたちのための見舞い客の年齢制限はなくすべきである,④子どもたちは,年齢や症状にあった遊び,レクリエーション,及び,教育に完全参加すると共に,ニーズにあうように設計され,しつらえられ,スタッフが配属され,設備が施された環境におかれるべきである,⑤子どもたちは,子どもたちや家族の身体的,情緒的,発達的なニーズに応えられる訓練を受け,技術を身につけたスタッフによってケアされるべきであるなど(以上,EACH憲章2002年版,野村みどり訳)とうたっている。
    (3) 厚生労働省指針
      医療を受ける子どもの療養環境一般に関する国の指針等はない。他方,厚生労働省は,「がん対策推進基本計画」(2012年6月)に基づき,同年9月,「小児がん拠点病院等の整備に関する指針」を策定した。同指針は,拠点病院の指定要件として,患者の発育及び教育等に関して必要な環境整備を求め,具体的には,①保育士を配置していること,②病弱の特別支援学校又は小中学校の病弱・身体虚弱の特別支援学級による教育支援が行われていること,③退院時の復園及び復学支援が行われていること,④子どもの発達段階に応じた遊戯室等を設置していること,⑤家族等が利用できる長期滞在施設又はこれに準じる施設が整備されていること,⑥家族等の希望により,24時間面会又は患者の付き添いができる体制を構築していること,⑦患者のきょうだいに対する保育の体制整備を行っていることが望ましいことを掲げている。また,チャイルド・ライフ・スペシャリスト,小児科領域に関する専門的知識を有する臨床心理士や社会福祉士等の療養を支援する担当者を配置していることが望ましいとの方向性も示している。
  3. 3 子どもの権利としての療養環境
    (1) 国及び地方公共団体の責務
     上記のような指摘と,子ども・若者育成支援推進法が子どもの健全育成を目的とし(同法1条),子どもの最善の利益を基本理念として掲げていること(同法2条2号),子どもの権利条約が定める「児童の最善の利益」(同条約3条1項)が柔軟性及び適応性を有する概念であり,当事者である子どもが置かれた特定の状況にしたがって,その個人的な背景,状況及びニーズを考慮に入れながら個別に調節・定義されるべきことをあわせ考えれば,医療を受けている子どもに対して,療養環境に関する上記のような各事項を保障することは,「子どもの発達段階,生活環境,特性その他の状況に応じてその健やかな成長が図られるよう,良好な社会環境(教育及び医療に係る環境を含む)の整備その他必要な配慮を行うこと」(子ども・若者育成支援推進法2条5号)にほかならないというべきである。
     医療を受ける子どもの成長発達を支える療養環境を保障すべく,国は,子ども・若者育成支援施策を策定し,及び実施する責務を有し(同法3条),地方公共団体は,国及び他の地方公共団体との連携を図りつつ,その区域内における子ども・若者の状況に応じた施策を策定し,及び実施する責務を有し(同法4条),政府は,子ども・若者育成支援施策を実施するため必要な法制上又は財政上の措置その他の措置を講じなければならない(同法5条)。
    (2) 医療を受ける子どもの成長発達を支える療養環境
     このように,医療を受ける子どもの成長発達を支えるための療養環境を整備することは,医療を受ける子どもの権利を保障することに他ならない。
     具体的には,上記2の指摘にならい,①医療を受ける子どもが,その成長発達に合わせた遊びやレクリエーションに参加できること,②処置や検査を受ける子どもへの親の付き添い(同伴)を認めること,③入院している子どもについて,希望により親又は親がわりの者が,時間的制約を受けずに面会・付き添いすることができること,④そのために,家族等が利用できる長期滞在施設等の整備など,面会・付き添いをしやすくすること,⑤入院している子どもも,きょうだいや友人と交流できること,⑥保育士や,子どもと家族に心理社会的な支援を行う専門家(チャイルド・ライフ・スペシャリスト,ホスピタル・プレイ・スペシャリスト,子ども療養支援士など)を配置することなどが求められる。
     現在,これらはほとんどが医療機関や医療従事者の配慮によって,限られた体制の中で実施されているに留まるが,元来,国及び地方公共団体の責務であることが認識されなければならない。

第2 医療を受ける子どもの教育を受ける権利

  1. 1 教育を受ける権利
     子どもは教育を受ける権利を保障されている(日本国憲法26条1項,子どもの権利条約28条1項)。
     教育とは,一定の知識及び教養を身につけ,その者の能力を発展させ,個人の人格を形成することをいう。教育を受ける権利を保障することとは,その者の能力を発展させるために一貫性と連続性のある教育を提供することである。
     この理念が医療を受ける子どもにも等しく適用されるべきことに異論はあるまい。しかしながら,現実には,入院している子どもはもとより在宅で療養している子どもについても,教育を受ける機会が量的及び質的に不十分なものとなっている。
  2. 2 人的・物的支援の拡充
    (1) 障害者権利条約
     障害者の権利に関する条約は,「全ての障害者によるあらゆる人権及び基本的自由の完全かつ平等な享有を促進し,保護し,及び確保すること並びに障害者の固有の尊厳の尊重を促進すること」を目的として(同条約1条1項),障がいのある人の権利の実現のために締約国が立法,行政をはじめとする全ての適当な措置をとるべきことを定めている(同条約4条)。条約の批准に向けて,関連する国内法の整備も行われた。
     これらを踏まえ,障がいのある子どもの権利として,義務教育のみならずあらゆる段階の教育においてともに学ぶための合理的配慮を保障し,ともに学ぶ中で各人が必要とする人的・物的支援を拡充することが求められている。これは,現行法制上の「障がい」にあたるとされている難病の子どもであると否とを問わず,配慮を必要とする医療を受ける子どもに適用されるべき理念である。
    (2) 医療的ケア
     たんの吸引,経管栄養,導尿などのいわゆる医療的ケアを日常的に必要とする児童生徒に対しては,人的・物的体制の不備等から,入学を拒まれたり,保護者等の付添いを求められたりすることがある。このため,場合によっては学校に通学すること自体を断念せざるを得ないこともある。このようなことは,医療的ケアを必要とする子どもの教育を受ける機会を事実上阻害するものである。また,学校は,同年代の子どもたちとの交流を通じて自立を学ぶ場でもあり,そのような場に保護者が付き添っていることが,教育上の観点から適切かどうかという問題も指摘されている。
     医療的ケアを必要とする子どもへの合理的配慮として,学校内で医療的ケアを行えるようにするための人的・物的支援体制の整備が必要である。
    (3) 遠足・修学旅行
     同様のことは,医療的ケアの要否にかかわらず,医療を受ける子どもが,遠足や修学旅行等の移動や宿泊を伴う校外活動について,参加の見合わせを求められたり,保護者の同伴を条件とされたりする事例として表れている。
     教育を受ける権利の保障,合理的配慮の観点からは,必要に応じて看護師や特別支援教育支援員を同行させるなど,保護者等の付添いなく学校外の活動に参加できる体制を取らなければならない。
  3. 3 入院が必要な子どもの教育
  4.  (1) 実態
     文部科学省が初めて行った「長期入院児童生徒に対する教育支援に関する実態調査」(2015年5月)によれば,2013年4月1日から2014年3月31日までの間に病気やけがによる入院により転学等をした児童生徒は約5000 人(延べ)であり,小・中学校からの主な転学先は,同一都道府県内の特別支援学校であり,他方,高等学校では,主に特別支援学校以外の学校に転学等をするか,もしくは退学している。また,長期入院した児童生徒への学習指導は教員が病院を訪問する形式が多いが,その実施頻度等は,小・中学校及び高等学校の場合,週一日以下,一日75分未満が過半数を占めている。そして,長期入院した児童生徒の約半数には,転学先の学校による学習指導が行われていない。
    (2) 院内学級等の整備
     一般に,入院中の児童生徒に対しては,病院内で行われる教育と,病院に併設された特別支援学校で行われる教育がある。また,病院内で行われる教育には,小・中学校や特別支援学校が病院内に設置した学級(病弱児特別支援学級)で行われる学習指導と,教員が病院を訪問して行う学習指導とがある。いずれも,子どもが病気等の状態により身体的又は精神的負担に堪えられない場合があるという点を除いて,通常の教育課程と同程度の日数・時間数及び質が確保された教育が提供されるべきである。
     子どもが入院する全ての病院に学校が併設され又は学級が設置されているわけではなく,それらはむしろ少数である。しかし,学校は,同年代の子どもたちとの交流を通じて自立を学ぶ場であることからすれば,病院に併設される特別支援学校又は病院内に設置される病弱児特別支援学級が整備されることが望ましい。
     また,特別支援学校や病弱児特別支援学級が整備されていない場合は,入院している子どもへの教育は,訪問による学習指導によって実施せざるを得ない。ところが,前述のとおり,訪問による学習指導の実施回数は週一日以下,実施時間は一日75分未満が,それぞれ過半数を占めている(ただし,特別支援学校では,実施頻度,時間ともにやや多い)。これでは,教育の機会が保障されているとは言い難く,大幅な拡充が必要である。
    (3) 学籍異動問題
     入院している子どもが病院内で教育を受けるためには,当該教育を行っている学校への転校(学籍異動)が必要とされている。しかしながら,転校により,もともと通っていた学校(前籍校)との関係が切れてしまうと感じる子どもや保護者にとって,その精神的負担ないし不安は無視できないものである。現にそうしたことから,入院しても転校しない子どももいるという。
     また,特別支援教育の対象となる病弱者とは,その状態が継続して医療又は生活規制を必要とする程度のものとされている(学校教育法施行令22条の3)。近年,治療技術の進歩等により慢性疾患児においても入院の短期間化の傾向にあり,上記「継続して」の要件を満たさずに特別支援学校等への転校がそもそも認められず,入院中はいずれの学校にも通えない(欠席となる)という事態が生じやすくなっている。加えて,短期の入院を繰り返す頻回化の傾向と相まって,総じてみれば長期間にわたって学校に通えない事態となることが問題となっている。
     学籍異動は,学校が児童・生徒の在籍数で教員数が規定されるために必要であるとされる。しかし,これがために,入院をする子どもが教育を受ける機会を失うことは,子どもが等しく教育を受ける権利を有することに照らして正当化することはできない。
     このようなことから,入院している子どもは,学籍を異動していなくても,病院内での教育を行っている学校による教育を受けられるように制度を改めなければならず,それは,国及び地方公共団体に課せられた喫緊の課題である。
    (4) 高校教育
     高等学校については,前記「長期入院児童生徒に対する教育支援に関する実態調査」によれば,病院において教育を実施している学校に転校する児童生徒の割合が,小・中学生では約66パーセントであるのに対し,高校生では約21パーセントである。転校をした生徒の復籍を認めない高校が約25パーセントである。また,高校生の約36パーセントが退学している。このようなこともあり,転校もせず,長期欠席せざるを得ず,長期入院した高校生の多くが,療養中に学習支援を一切受けることができていない。高等学校への進学率が97パーセントを超えている中で,義務教育ではないというだけでは,かかる事態が容認されるものではない。
     国及び地方公共団体は,高校生も,入院するなど療養中であっても教育を受けることができる体制を早急に整備しなければならない。

第3 入院している子どもの保育

  1. 1 保育の必要性
     入院している子どもの養育及び発達を確保するため,遊びを始めとした様々な体験を提供する保育の重要性が認められる。また,入院している子どもに,親又は親がわりの者が常に付き添うことは現実的に不可能であるし,長時間に及べば,それを行う親等や家族にとっては,身体的・経済的・心理的に大きな負担となる。親がいないとき,いわばその代わりとして,保育士による保育支援の必要性が認められる。
  2. 2 「保育士加算」
     現在,診療報酬上,小児入院医療管理料の中に,30平方メートルのプレイルームを備え,常勤の保育士が1名以上配置されていることを条件に,一日につき100点(1000円)の加算が認められており,医療機関が保育士を配置するための財源ともなっている。しかし,複数の保育士を配置して十分な保育支援をするには足りないと言われている。
  3. 3 病院における公的保育
     児童福祉法は,市町村は,「保護者の労働又は疾病その他の事由により,その監護すべき乳児・幼児その他の児童について保育を必要とする場合において,」当該児童を保育所において保育しなければならないと定めている(同法24条1項)。これを入院している子どもについてみれば,保護者が病院において,その監護すべき子どもと生活を共にすることができないのであるから,上記規定にいう「その他の事由」により,保育を必要とする場合にあたると言える。
     ところが,現状において,病院に入院している子どもは,市町村が行う公的保育の対象外であると考えられている。
     しかし,子どもの権利条約は,「締約国は,父母が働いている児童が利用する資格を有する児童の養護のための役務の提供及び設備からその児童が便益を受ける権利を有することを確保するためのすべての適当な措置をとる」としており(同条約18条3項),これは保育サービスの利用についても規定したものと解されている。保育が必要である原因が,親が働いていることであろうと,子ども自身が病院に入院していることであろうと,子どもからみての必要性に変わりはないものと考えられる。また,就学前の子どもに関する教育,保育等の総合的な提供の推進に関する法律は,「幼児期の教育及び保育が生涯にわたる人格形成の基礎を培う重要なものである」などと規定し(同法1条),保育が人格形成に関わる重要なものであることを認めて,保育を推進するための措置を講じるとしている。保育が人格形成に関わる重要なものであることは,入院している子どもにとっても何ら変わるところはない。
     そうすると,病院で教育を受けることができる制度があるのと同じように,入院している子どもは,制度として提供されている公的保育サービスの対象となり得べきものである。
  4. 4 国及び地方公共団体の責務
     現行の仕組みにおいて,病院内での保育支援は病院の配慮と努力に大きく依存しており,国及び地方公共団体の責務を果たしたものとは言えない。病院内で行われる保育の形態は様々であろうが,一般に行われている保育と同様,国及び地方公共団体が実施に責任を持つ制度として,実施されるべきである。国は,それを可能とするよう現行の諸制度を改め,体制を整備すべきである。

第4 子ども自身の医療行為への主体的参加

  1. 1 問題点
     すべての人は,十分な情報提供と分かりやすい説明を受け,理解したうえで,自由な意思に基づき自己の受ける医療行為に同意し,選択し,拒否する権利を有する。このインフォームド・コンセント原則は自己決定権に由来するものであるから,本来,医療行為を受ける患者自身が説明を受け,自ら判断及び決定に関与できるべきであり,そのために必要な援助がなされるべきである。
     ところが,患者が子どもすなわち未成年者である場合,親権者である親が説明を受け,医療行為に同意し,選択し,拒否しているのが,むしろ普通である。しかし,単に未成年者であるというだけで,親権者が子どもの医療行為を決定できるというのは,子ども自身の権利主体性を認め,その人格を尊重する子どもの権利条約の立場からは説明ができない。そこで,医療を受ける子ども自身の主体的参加という観点から検討される必要が生ずる。
  2. 2 子ども自身が説明を受ける権利
     医師及びその他の医療従事者に対し,自己に対する医療行為につき,理解できるよう,十分かつ適切な説明を求めることができることは,今日,広く医療機関や患者らに概ね当然のこととして受け入れられている。患者が自主的に医療行為を同意・選択・拒否するためには,自己の病状や医療行為の詳細について正しい説明を受け理解することが必要であるとされているからである。
     では,患者が子どもであって,必ずしもインフォームド・コンセントの原則の対象とならない場合には,子どもに対する説明を行う必要はないのであろうか。
     子どもの権利条約は,「締約国は,自己の意見を形成する能力のある児童がその児童に影響を及ぼすすべての事項について自由に自己の意見を表明する権利を確保する。この場合において,児童の意見は,その児童の年齢及び成熟度に従って相応に考慮されるものとする」として(同条約12条1項),意見表明権を保障している。これは,子どもを保護の客体としてのみ捉えていたかつての保護主義的子ども観から脱却を図るとともに,子ども自身を権利の「主体」として捉えるものである。また,意見表明権は,子ども自身の問題の決定に際して,広く子ども自身の意思を反映させる適正手続を求める権利であり,かつ自己の生活条件(自らの成長発達の場を含む)や社会条件の決定に対して,子ども自身の意思を尊重すること(自己決定の促進)を求めた権利であると指摘されている。子どもによるこのような意見表明を可能とするためには,当然のことながら,子どもに対して生活条件や社会条件の決定に関係のある十分な情報が提供され,子どもにも分かるような工夫を凝らした説明がなされる必要がある。その中でも,医療行為は特に侵襲性が強く,生命及び身体に直接関わる事柄であるため,医療行為が意見表明権の対象となり,子どもが医療行為の詳細について説明を受ける必要があることは言うまでもない。
     そもそも,子どもは,独立した人格と尊厳を持ち,個人として最大限に尊重される。このことは,日本国憲法や子どもの権利条約からも明らかである。そして,子どもの人格の重さは,成人のそれと何ら変わりがない。
     これらのことからすれば,子どもが自己の受ける医療行為について説明を受けることは,医療における子どもの権利であると言える。そして,この権利を実質的に保障するためには,子どもの年齢及び理解力のほか,病気や医療行為の内容に従い,十分にわかりやすい,工夫された方法による説明がなされる必要がある。
  3. 3 子ども自身の同意
    (1) インフォームド・コンセント原則
     子どもの年齢や成熟度は様々であり,対象となる医療行為によって,理解し判断するために必要とされる能力の程度も一定ではない。しかし,前述のとおり,インフォームド・コンセント原則は自己決定権に由来するから,子どもであるというだけで,同意・選択・拒否する能力が欠け又は不足するものとみなしてはならない。実際,医師をはじめとする医療従事者の多くは,子どもの年齢,理解力,疾患又は処置の内容などを考慮しつつ,医療行為につき,子ども自身の同意を得ようとしている。
    (2) 子ども本人に対するインフォームド・コンセント
     子ども本人に説明を理解する能力と判断能力がある程度備わっているときは,子ども本人に同意能力を認めて,子ども本人につきインフォームド・コンセントがなされるべきである。子どもの同意能力の有無を年齢により一概に規定することはできないが,それが重要な指標であることは明らかであり,一定の年齢を基準とすることは現実的に有力な手段である。
    (3) インフォームド・アセント
     意見表明権の趣旨からも,患者である子ども本人が,その年齢及び成熟度にしたがって,説明を受け,その説明に基づき当該医療行為について意見を表明する機会を保障され,表明された意見は相応に考慮されるべきである。子ども本人の説明を理解する能力と判断能力が不十分であるときは,当該子どもに同意能力を認めることはできないが,その場合であっても,子ども本人が理解できる範囲でわかりやすい説明をし,子ども本人の賛意(「法的規制を受けない小児患者からの同意」)を得る手続き(インフォームド・アセント)が実践されるべきである。
  4. 4 子ども自身の理解を助け,自ら決定に参加するための支援
     子どもの自己決定権ないし意見表明権とその前提としての説明を受ける権利を実質的に保障するためには,子どもの理解を助け,自ら決定に参加するための支援が不可欠である。
     障害者権利条約12条(法律の前にひとしく認められる権利)から,医療行為を含む日常的・社会的な生活を送る上で必要とされるあらゆる場面における意思決定支援の必要性が説かれている。
    意思決定支援とは,「その人が『意思決定することができない』という判断をする前に,本人と信頼関係を築いている身近にある支援者や家族等が本人に寄り添い,本人が自分で意思決定ができるように必要な情報をその人の特性に応じて提供し,選択とその結果を見通せるような工夫された説明や体験の機会を作る等を通じて,本人が意思決定をすることが可能となるように,様々な『合理的配慮』を尽くす実践の総体である」(日本弁護士連合会・総合的な意思決定支援に関する制度整備を求める宣言)とされる。このような意思決定支援の必要性が子どもには適用されないとの理由は見出し難い。
     この点,小児医療においては,主にチャイルド・ライフ・スペシャリスト,ホスピタル・プレイ・スペシャリスト,子ども療養支援士などによってプレパレーションと呼ばれる手法が行われる。これは,子どもに対して,それぞれの認知発達段階に適応した方法で説明を行い,子どもの対処能力を引き出すような環境及び機会を与えるものとされており,子どもの意思決定支援の具体的な手法の一つとして注目される。
  5. 5 子どもの自己決定権保障を担保するための仕組みの必要性
    (1) 親権者等による代行決定の実情
     子ども(未成年者)も同意能力がある者とない者とに分けられる。同意能力がない子どもの場合は,親権者あるいは未成年後見人が,子どもに代わって同意することができる。その根拠は,親権の本質や子の監護権を定めた民法820条に求められ,子どもの保護を必要とする範囲で,親権者,未成年後見人らは子どもの身体に対する侵害に同意することができるとされている。
     ところが,医療行為につき同意能力があると認められる子どもから同意を得た場合でも,さらに親権者等からも同意を得ているのが実態である。子どもの医療は親や家族によって支えられており,親などの意向を無視して医療行為を行うことは望ましいことではないから,子ども本人に加えて親などからも同意を得ることは,たいていの場合(ただし,同意能力のある子どもが親などに知られずに医療を受けたい場合もあり,子ども本人のそのような意向に沿うことが相当である例も想定される),相当である。もっとも,小児医療の現場において,同意能力があると認められる子ども本人の同意がないが,親権者等が承諾している場合については,医療行為を実施することが多いとされる。反対に,子ども本人の同意を得ているが,親権者等が拒否している場合については,医療行為を実施しないことが多いとされている。すなわち,子ども本人に同意能力があると認められるかどうかにかかわらず,実際には親権者等の意向がより重視されており,実質的には,親権者等による代行決定がなされている実情があると言える。
    (2) 医療同意年齢の法定等
     小児医療従事者の大半は,概ね15歳以上の子どもには実質的に同意能力があるものと認めていると言われる。ところが,前述のとおり,実際には親権者等の意向を重視している。これは,子どもの最善の利益を確保するために,慎重に判断したいとの心情が働いているものとも窺える。このほか,親権が強いものと受け取られがちである反面,子ども本人に同意能力が認められることを担保する仕組みがない中で,子ども本人による同意に瑕疵または欠缺があった場合の当該医療行為の適法性への懸念が,その背景にあるものと考えられる。
     この点,イギリスでは,1969年家族法改正法8条によって,16歳に達している未成年者に医療行為に対する同意能力を認めている。この規定により,16歳に達している未成年者が医療行為に対して同意している場合には,親などの保護者から同意を得ることは必要ないとされている。デンマークでも,1998年に制定された患者の権利に関する法律によって,15歳に達した患者にインフォームド・コンセントを与える権利と自己に関する情報へのアクセス権を認めている。
     医療行為は生命及び心身の健康に直接影響を与える重大な事柄であり,それゆえ医療行為は子どもの意見表明権の対象となることは明らかである。したがって,締約国は,子どもの権利条約に認められる権利を実施するための措置を取る義務があることなどに鑑み,国は,医療行為に対する同意能力のある子どもが,みずから医療行為に同意を与えることができ,親権者等による代行決定がこれに取って代わることのないようにするための措置を取らなければならないと言うべきである。そのために,法律で,医療行為に対して同意することのできる一定の年齢を定めることは有力な手段である。その場合,諸外国の立法例と同様,15歳又は16歳が目安になると思われるが,幅広く検討されたうえ,社会的合意の形成が求められる。
  6. 6 医療を受ける子どもの主体的参加を保障するための国及び地方公共団体の責務
  7.    以上のような医療を受ける子どもの主体的参加を保障することは,子どもの権利条約に認められる権利を実施することにほかならず,また,患者の権利を保障することでもある。これらは医療従事者や医療機関の関わりが不可欠ではあるけれども,子どもの主体的参加を現実的に可能にする医療提供体制を確保するのは,国及び地方公共団体の責務である。かかる責務に基づき国及び地方公共団体が実施すべき施策としては,①医療における子どもの主体的参加を実現することが責務であることの明示的確認,②子どもとその親に対する「主体的参加の権利」の普及,③医療従事者に対する啓発,④診療報酬上の評価や専門職の養成などの子どもの主体的参加を促進・可能にするための物的・人的環境整備であり,前述のとおり,医療行為に対して同意することのできる年齢を法定することなども含まれる。

第5 結論
 よって,当連合会は,医療を受ける子どもの成長発達権と自己決定権の保障の確立を求めて,上記のとおり提言し,国や地方公共団体,患者および家族,医療従事者などの関係者とともに,そのあり方を検討し,具体的な制度の整備に向けた活動に取り組む意志を表明し,ここに宣言するものである。

以上

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