関東弁護士会連合会は、関東甲信越の各県と静岡県にある13の弁護士会によって構成されている連合体です。

宣言・決議・意見書・声明等宣言・決議・意見書・声明等

平成28年度 大会決議

重要情報を開示しない特定秘密の保護に関する法律が憲法違反であり,併せて,この法律が,憲法違反の安全保障関連法やその創設が提唱されている立憲主義違反の国家緊急権との関係においては,濫用を防止しえない危機的事態に陥る虞れがあるため,速やかにこの法律の廃止を求める決議

  1. 1  特定秘密の保護に関する法律は,「特定秘密」の範囲が広範かつ極めてあいまいであり,行政による秘密指定の範囲が広くなされやすい上,秘密指定の適切さの判断及び指定解除手続及び不当に文書を破棄させないこと等について点検・監視・保障するメカニズムが十分でなく,また,刑事手続における適正手続の保障も不十分である。そして,教唆,扇動という犯罪類型は処罰が不当に広範であり,メディア・ジャーナリズムに対する威嚇効果が極めて強く,国民の表現の自由・知る権利を著しく害し,ひいては,政府の行動を批判するために必要な情報が流通せず,政府の独善を許すこととなる虞れがある。
  2. 2  併せて,この法律は,昨年成立した安全保障関連法との関係においては,防衛に関する情報が秘密指定されていることによって,厳格に制限されている武力行使要件を満たすか否かの判断の基礎となる情報が開示されないため,政府の取った行動が適切であったかどうかの判断ができず,結果的に政府の恣意的な判断を抑制することが極めて困難となる。
    加えて,災害や他国の武力行使による被害対策を理由に憲法改正によって創設が主張されている国家緊急権との関係においても,防衛に関する情報が秘密指定されていることにより,外部からの武力攻撃に際しての国家緊急権の発動要件を厳しく限定しても,その発動要件を満たすか否かの判断の基礎となる情報が開示されないため,政府の濫用的発動の危険性を抑制することが困難となる。
  3. 3  このように,特定秘密保護法は,防衛に関する情報等を秘密指定することによって,国民にとって必要な情報が流通しなくなり,安全保障関連法における防衛出動の要件の厳格規制を無力化し,憲法改正による制度化の議論が始まろうとしている国家緊急権の発動要件の厳格規制も空洞化することとなる。これは,国民の意見や批判による政治運営を基本とする民主政治の根本を著しく阻害することとなり, ひいては,立憲主義,平和主義を著しく脆弱化することとなる虞れを生じせしめるものである。
  4. 4  我々は,日本国憲法が,民主主義を根幹とした恒久平和主義,人権尊重主義を根本規範としていること,これらを害しないように国家権力を制御するためにこそ憲法の存在意義があるとする立憲主義に貫かれていることを尊重すべきであるとする立場に立ち,多くの問題点を指摘されながら現在に至っても改正等をされないまま運用されている特定秘密の保護に関する法律については,その危険性から即時廃止を求めざるを得ないものである。

2016年(平成28年)9月9日
関東弁護士会連合会

提案理由

第1 特定秘密の保護に関する法律について

  1. 1  国家における重要な公的情報は,国民主権の下では国民の資産であり,国民自身に帰属すべきものであって,その公開は国の当然の責務である。さらにこれは,憲法第21条第1項の保障する国民の知る権利に資するものであって,民主的な政治過程を健全に機能させることに鑑み,原則として公開されなければならない。もちろん安全保障に関する情報は,重要な公的情報の典型である。
      他方,国家には,対外的な合意形成の交渉過程における相互信頼の保持の必要性や,組織の維持運営・その時々の社会情勢の安定化等の要請から,一定の情報を秘匿する必要性が認められることも否定できない。
      そこで,このような秘密の保持の必要性と国民の知る権利の最大限の尊重を調整する必要がある。そのためには,秘密指定の必要性が正当であり,指定範囲が明確かつ必要最小限度に限定されており,秘密指定が不当に長期間に及ばないように解除制度が適切に定められており,これらの適正さを担保しうる第三者機関の審査制度が定められていることなどが必要である。
      しかしながら,平成25年に制定された特定秘密の保護に関する法律(以下「特定秘密保護法」という。)は,これらの基本的な枠組みに準拠しておらず,次のような問題点が指摘されている。すなわち,①「特定秘密」の指定が過度に広範囲であり,かつ,極めてあいまいであり,行政による秘密指定の範囲が広くなされやすいこと,②秘密指定の適切さの判断及び指定解除手続及び不当に文書を破棄させないこと等について点検・監視・保障するメカニズムが十分でないこと,③このような広範,あいまいかつ恣意的な「特定秘密」の漏えいに対する処罰範囲が広く適正手続の保障も不十分であること,④教唆,扇動という犯罪類型は処罰が不当に広範であり,メディア・ジャーナリズムに対する威嚇効果が極めて強く,国民の表現の自由・知る権利を著しく害する虞れが大きく,ひいては,政府の行動を批判するために必要な情報が流通せず,政府の独善を許すこととなる虞れがあること,⑤国会の行政に対する監視機能が空洞化する可能性が高いこと,⑥適正評価制度はプライバシー侵害の危険性が極めて高いことなどの重大な問題が存在する。このような点から,「知る権利」と秘密保護の調整をはかる国際的な標準である「ツワネ原則」(註)にも反すると言われている。
      そこで,当連合会では,平成25年11月21日,「特定秘密の保護に関する法律案に反対する理事長声明」を発し,特定秘密保護法には反対の姿勢を示していた。しかしながら,同年12月6日,同法が成立し,平成26年12月10日に施行された。
  2. 2  このような中で,国連人権理事会が任命した「意見及び表現の自由」の調査を担当する国連特別報告者のデービッド・ケイ氏が本年4月12日から18日まで日本の表現の自由と知る権利に関する調査を行い,4月19日,日本政府に対する暫定的調査結果を公表した。これによると,特定秘密保護法は,原子力発電,国家安全保障及び防災等,公共の利益という重大な分野において国民の知る権利を危機にさらしていると指摘した。
      また,①特定秘密の定義が広範に過ぎ,適切に限定されていないこと,②ジャーナリストに対する保護規定(同法第22条)は不十分であり,公共のために秘密を開示したジャーナリストや公務員を処罰の対象から除くべきこと,③特定秘密についても,公益通報した者が刑事罰から保護されるように同法を改めるべきこと,④特定秘密の指定と解除について同法が設定した監視のメカニズムが十分に独立性のあるものとなっていないこと,とりわけ国会内の情報監視審査会の勧告に拘束力がないこと等を改善すべき点として具体的に指摘した。これらの指摘は,当連合会が同法成立前から指摘した意見と一致するものであり,法制定後に定められた運用基準等によっても,多くの問題点があることが国際的に明らかにされたといえる。そのような中で,次々と新たな秘密指定がなされているのが現状である。
      なお,暫定的調査結果は,高市早苗総務大臣による,放送法の求める「政治的公平性」をめぐる法解釈を誤った発言について,メディア規制に対する脅しだと受け止められているといわざるを得ないとし,メディアが政府に対する監視役として積極的に問題を提起していく役割を負っていることを指摘している。
  3. 3  このように政府のメディアに対する介入の姿勢が見られる今,前記のような問題のある特定秘密保護法の存在自体がメディアに対する委縮効果を生じさせかねないし,濫用による威嚇も懸念される。
      すなわち,仮に特定秘密保護法に違反するとして刑事訴追された場合,指定された秘密の内容について,刑事裁判において,いかなる取扱がなされ,被告人の適正手続の保障がいかにして図られるかということ等についての法整備は甚だ不十分であると言わざるを得ない。したがって,被告人に十分な防御権が保障されないまま刑事罰を科される虞れがあり,また,裁判の非公開について異議をとなえる機会が全く規定されていないなど,刑罰権の適正な行使を検証する措置もない状態であるから,時の政府によって刑罰権が濫用される虞れがある。実際に刑事処罰が実行されれば,メディア・ジャーナリズムへの威嚇効果は計り知れない。すなわち,特定秘密保護法の制定により,国民の知る権利は危機に瀕しているのである。さらに言えば,結果的に不起訴処分になったとしても,その前段階において被疑者として逮捕・勾留され身柄が拘束されることになれば,そのことだけでもジャーナリズムに対する威嚇としては十分であり,その後の取材等の活動が萎縮し,国民の知る権利に奉仕する目的を果たせないのである。
      また,特定秘密保護法の下では,国民は,防衛・外交などの国の安全保障に関する広範な情報に関する知る権利を奪われ,政府の判断の根拠を知らされないばかりか,その是非の事後的な検証すら保障されないことになる。このことは,安全保障関連法が成立し,さらに国家緊急権の制度化が叫ばれている今日においては,以下に述べる通り,極めて重大な問題を生じさせることとなる。
  4. 4  以上の通り,特定秘密保護法は,国民の知る権利を奪い,表現の自由を空洞化させて民主主義の根幹を揺るがすものであり,特に防衛・外交などの国の安全保障に関する広範な情報が秘匿されることによって,立憲主義及び憲法の平和主義の理念に深刻なダメージを与える虞れがあるのである。
      特に,以下に述べる通り,安全保障法制,国家緊急権との関係においては,この法律のために,防衛・外交などの国の安全保障に関する重要情報が国民に知らされないため,その濫用の防止を阻止するためのチェック機能が働かないという意味において,濫用の危険性が相乗的に高まるものと言える。
      権力が濫用されがちであることは歴史的事実であり,一旦濫用されると,憲法が保障する人権は,広範囲に深刻な侵害を受ける。したがって,権力の濫用のチェックを阻害する特定秘密保護法は,即時廃止を求めざるを得ないものである。

第2 安全保障関連法について

  1. 1  平成27年9月19日に成立した安全保障関連法は,前年平成26年7月1日に,従前の「現行憲法9条のもとでは集団的自衛権の行使はできない」との政府の憲法解釈を180度転換し,「我が国と密接な関係にある他国」に対する武力攻撃についても,我が国の存立危機の名の下で自衛隊が自衛権を行使できるとして集団的自衛権行使を容認し,さらに自衛隊の活動に関する厳格な制限を緩和する閣議決定を行い,これに基づいて立法化されたものである。
     その内容は,前年の閣議決定の内容をさらに具体化したものであり,その要旨は,(ア)存立危機事態の名の下での集団的自衛権行使の一部容認,(イ)重要影響事態や国際平和共同対処事態の名の下での武力行使と一体化する虞れが強い自衛隊の後方支援活動の拡大,(ウ)PKO協力法等の改正による武力行使や,紛争の拡大につながりかねない駆け付け警護の容認,(エ)米艦防護等を含み,平時から有事まで切れ目のない安全保障等を謳うものである。
  2. 2  これを支える論理は,田中角栄内閣時代のいわゆる旧三要件(集団的自衛権行使を否定しつつ,個別的自衛権の行使を限定して容認するもの)の枠組みに則っているから限定されているというものである。しかしながら,これは,旧三要件の枠組みを借用しつつ,逆に否定していたはずの集団的自衛権の行使を部分的に容認するというものであり,徹底した平和主義の下で,実力行使を限定するという本来の意図を骨抜きにしたものである。
      国策の根幹にかかわる領域においてこのような手法を用いることは,論理を弄ぶものとの批判を免れない。しかも用いられている言葉もあいまいである点で,極めて恣意的な運用を可能にする危険性がある。
      もちろん,解釈論としても,憲法前文の恒久平和主義の下で「戦争の放棄」「武力の行使や武力による威嚇の禁止」「戦力・軍隊の不保持」を規定した憲法9条に,多くの点において明らかに限界を超えたものであり,憲法学者の90%以上がこの法律は違憲であると断じているものであって,このように明らかに違憲である法案を内閣が提出し,国会が可決することは立憲主義に反するというべきである。
  3. 3  しかも,安倍晋三内閣がこの法案を成立させるために用いた一連の手段も,極めて非民主的であるといわざるを得ない。
     まず首相の私的諮問機関でしかない安保法制懇(構成員の中に憲法学者を含まず,かつ全員が集団的自衛権行使を容認する立場を表明していた)に集団的自衛権行使を容認する意見書を出させた。さらに,集団的自衛権行使を容認する立場の外務省OBを内閣法制局長官に任命して内閣法制局に「解釈改憲」と称される見解を作成させて閣議決定した。そして,これに基づいて安全保障関連法案を立案させ,集団的自衛権行使容認を争点としない選挙で選出された議員が占める国会において,アメリカの軍艦で救助される祖父母や孫たちや,ホルムズ海峡の機雷封鎖などの的外れの例を持ち出して情緒に訴えたり,砂川判決を意図的に曲解して利用するなどの極めて不適切な手法を用いた。
      そして,採決直前の世論調査では6割の国民がその内容に反対し,8割の国民が早急な成立に反対していたにもかかわらず,採決に踏み切ったのである。
      これら,一連の手続や論理構成,説明方法,審議のあり方などの手法は,民意を尊重しなかったという点において,憲法の基本原理である国民主権を蔑ろにするものであり,また,憲法違反の法律を成立させたという意味で,立憲主義という人類の英知を踏みにじるものといわざるをえない。
  4. 4  そしてこのような安全保障関連法は,特定秘密保護法とともに具体的に運用され機能する点において,憲法の基本理念を破壊する危険性を相乗的に高めるものであることこそ強調されなければならない。
      いかに要件が厳格に定められても,防衛・外交などの国の安全保障に関する広範な情報が開示されないままでは,政府の取った行動が適切であったかどうかの判断ができず,結果的に政府の恣意的な判断を抑制することが極めて困難となる。このように,政府によって,秘密裏に法が執行されかねない点で,国民が知らないうちに憲法の徹底した恒久平和主義がなし崩し的に侵襲される虞れがあるのである。

第3 国家緊急権について

  1. 1  国家緊急権とは,戦争・内乱・恐慌・大規模な自然災害など,平時の統治機構をもっては対処できない非常事態において,国家の存立を維持するために,憲法秩序を一時停止して非常措置をとる権限をいう。
     すなわち,国家緊急権は,一時的にせよ行政権への強度の権限集中と憲法上保障された人権の制限を内容とするものであるから,基本的人権の尊重と権力分立を旨とする立憲主義体制を根底から覆す大きな危険を孕むものである。
      国家緊急権は,その発動の程度や期間について,行政権が独断で行う場合は,行政権による濫用の危険性が高いことは,歴史が証明するとおりである。
  2. 2  それゆえに,日本の現行憲法は,あえて国家緊急権の規定を設けていないものと解される(この点については,昭和21年7月2日の当時の衆議院帝国憲法改正案委員会における金森徳治郎憲法担当大臣の「緊急事態条項は国民の意思をある期間有力に無視し得る制度でもあり,民主政治の根本原則を尊重するか否かの問題である」という答弁からも推認される)。
      ちなみに,災害対策については,厳重な要件を課したうえで,法律により整備している。たとえば,非常災害が発生して国に重大な影響を及ぼすような場合,内閣総理大臣が災害緊急事態を布告し(災害対策基本法第105条),生活必需物資等の授受の制限,価格統制,及び債務支払の延期等を決定できるほか(同法第109条),防衛大臣が災害時に部隊を派遣できる規定もある(自衛隊法第83条)。さらに,都道府県知事の強制権(災害救助法第7条~第10条等),市町村長の強制権(災害対策基本法第59条,第60条,第63条~第65条等)など,憲法上の人権保障規定には劣後することは前提としたうえで,私人の権利を一定範囲で制限する規定も設けている。このように,緊急事態に対応するための規定は,現行憲法の下,法律で十分に整備されているのである。
      実際に,阪神大震災・東日本大震災など被災地の弁護士会は勿論,被災地外の弁護士会もまたその被災者支援活動を通じて体験したことからも明らかであるが,被災者の救済,支援と被災地の復興に必要なことは,事前の災害への準備とこれに習熟するための適切な訓練である。これらの災害における政府の初動対応は極めて不十分であったが,それは既存の法制度の不備によるものではなく,災害対策に関する事前の備えを怠り,災害法制を十分に活用できなかったところに最大の原因がある。さらに,被災自治体の調査結果によれば,ほとんどの自治体が,国に権限を集中させても,現地の状況やニーズの把握が迅速にできるわけではないため,むしろ自治体の長の権限の強化の方が有効であり,緊急事態条項の憲法編入に反対すると回答している。
     そのような真の原因や被災地の実情に向き合うことなく,時の政府による濫用的発動の危険が大きくかつその実効性すら全く実証されていない国家緊急権なるものを,先般の東日本大震災や広島・茨城の豪雨災害,平成28年熊本地震などを契機にわが国で導入しようとするのは,災害にかこつけた立憲主義の破壊にほかならず,決して許されない。
  3. 3  しかしながら,与党自由民主党は,憲法改正草案の第98条及び第99条において緊急事態宣言という名称で「国家緊急権」を明記している。そして,その発動要件については,大規模自然災害やテロ等が発生した場合と規定するだけで包括的に法律に委任している。しかも国会の事前承認なしに,存続期間を短期間と限定することなく発動しうることとしているため,極めて濫用の虞れが強いものであり,著しく不当な案である。
      そして,現政権も,先に述べた通り,災害発生の都度,自然災害対策を理由とする国家緊急権の憲法条項化の必要性を主張しているのであり,平成28年熊本地震の直後にも,その必要性を訴えた。しかし,自然災害対策を理由とする国家緊急権の創設は,前述の通り,その必要性がない点で不当であるだけでなく,9条改正などの先鞭を切る「お試し改憲」として利用されること,及び一旦条項化されると,自然災害以外の場合における発動という形での濫用の虞れが強い点で,条項化は極めて危険である。
     特に,国家緊急権は,内乱・テロ・他国からの武力攻撃などの対策としても必要であるとされているが,これらについても,国家緊急権が権力によって濫用される危険性が高いこと,一旦濫用されると,深刻な人権侵害を招き,その回復には,多大の困難が伴うことなどは,歴史的事実であり,自然災害の場面をはるかに上回る危険性を孕んでいる。
      加えて,これらを理由とする国家緊急権については,発動要件を厳格に定めても,それを充足しているか否かの判断を行うための情報が十分に認識されている必要がある。
      しかし,この点については,特定秘密保護法が,防衛・外交などの国の安全保障に関する広範な重要情報を秘密指定して開示しないこととしているため,濫用的発動防止のための法規制が機能しないという極めて危険な状況が予想される。
  4. 4  以上の通り,災害対策に是非とも必要だという,国民の心情に訴えるような理由を掲げてあえて国家緊急権なるものを憲法上に創設することは,その必要性がないだけでなく,これを理由とする憲法改正が,他の分野に及ぼす好ましくない影響があることをここに指摘する。また,他の理由による国家緊急権創設についても,特定秘密保護法が存在するため,この法律により,その判断の基礎となる情報が秘密指定されることによって,その濫用的発動の危険性を抑制することが著しく困難となる。そして,一旦,これが濫用された場合には,憲法が保障する人権は,広範囲に深刻な侵害を受けることとなる。したがって,立憲主義の理念と相容れない極めて危険なものというべきであるから,国家緊急権なるものを創設することについて,当連合会はこれに断固として反対する。

第4 まとめ
  特定秘密保護法は,知る権利を害するなどの点において,それ自体が憲法に反するものであるが,この法律は,昨年成立した憲法違反の安全保障関連法,及び近時その憲法条項化が提唱されている立憲主義の理念に反する国家緊急権条項との関係においては,相乗的に極めて危険な状況を招来するものある。
  すなわち,これらの法制度が自衛隊の出動や行政権による緊急権の発動を厳格に制限する要件を規定したとしても,特定秘密保護法によって防衛・外交などの国の安全保障に関する広範な情報が秘密指定されているため,その厳格な要件を充足するか否かを検討するための基礎的な情報が欠落している。このため,主権者である国民はその判断の当否を適切に検討しえないまま紛争に巻き込まれたり,回復しがたい重大な人権制限を受ける事態に直面することとなるのであって,国民主権,人権尊重,平和主義という憲法の中核となる理念を著しく脆弱化することとなる虞れを生じせしめ,憲法を支える立憲主義の理念を危殆化させることとなるのである。
 それゆえ,多くの問題点を指摘されながら現在に至っても改正等をされないまま運用されている特定秘密保護法は,可及的速やかに廃止を求めざるを得ないものである。


  「ツワネ原則」とは,国家安全保障と情報への権利に関する国際原則のことである。70カ国以上の500人を超える専門家との2年以上におよぶ協議を経て,22の団体によって起草され,2013年6月12日に発表された。本原則は,起草の過程で重要な会議が行われた南アフリカ共和国の都市ツワネの名を冠している。

PAGE TOP