関東弁護士会連合会は、関東甲信越の各県と静岡県にある13の弁護士会によって構成されている連合体です。

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平成29年度 大会宣言

将来の災害に備える平時の災害対策に関する宣言

 我が国は,世界の中でも,地震,津波,噴火,台風,豪雨等の大規模自然災害の多発地帯に位置し,その災害史はこれを実証するところである。特に,私たち自身が経験した阪神・淡路大震災(1995年),新潟県中越地震(2004年),新潟県中越沖地震(2007年),東日本大震災(2011年),広島豪雨(2014年),関東・東北豪雨(2015年),熊本地震(2016年)及び九州北部豪雨(本年7月)等々は記憶に新しいところである。
 また,将来においては,南海トラフ震源域における東海地震,東南海地震及び南海地震,さらには,首都直下型地震の発生も懸念されている。地震だけにとどまらない。我が国には,年平均11.5個の台風が接近し,毎年のように豪雨や洪水をもたらし,活火山の数は110に上り,世界の危険な火山トップテンの中に,硫黄島と阿蘇山の2つがランクインしている。
 上記事実から明らかなとおり,我が国では,何時でも,どこでも大規模災害に見舞われる危険があることを十分に認識しなければならない。
 関東弁護士会連合会(以下「当連合会」という。)は,基本的人権を擁護し社会正義を実現する見地から,日本弁護士連合会,全国の弁護士会と相協力し合って,災害の被災者の人権を擁護するため,上記大規模災害時においても,法律相談活動を中心とした被災者支援活動に努めてきたところである。
 この度,当連合会は,改めてこれまでの被災者支援活動の在り方を検証し,被災地調査を重ねた結果,将来の災害に備える災害対策の在り方として,弁護士会が,平時から,行政,士業団体,社会福祉協議会,災害ボランティア団体,企業,自治会・町内会等の諸団体と連携して被災者支援活動に取り組むべきことが重要であるとの認識に到達し,ここに,各団体との連携の在り方について以下のとおり提言する。

  1. 1 行政との連携
     弁護士会と自治体は,被災者相談活動,救済・復旧・復興支援活動を円滑に実施するため,相互に被災者支援活動のための強固な信頼関係を構築することが不可欠である。そのために,弁護士会は,平時から,各自治体(都道府県及び各市町村)と災害協定を締結したうえ,互いに実際に顔を合わせ,それぞれが持つ情報を交換・共有し,自由に意見を交換できる場を設けるなどの活動を継続的に行う。
  2. 2 士業種との連携
     被災者の様々なニーズや被災地の復旧・復興のためには,士業の専門的知識,経験が有用であることは勿論であるが,大規模災害支援活動時においては,士業によるワンパック相談(ワンストップサービス)は,同一時点における様々なニーズ(横軸)と,時間の経過によるニーズの変化(縦軸)に対応するためにも有用である。弁護士会は,平時から,士業連絡協議会等の運営の活性化などを通じ,各士業団体との強固な連携関係を構築し,その中心的役割を担っていく。
  3. 3 各種ボランティア団体等との連携
     弁護士会は,被災者支援活動における社会福祉協議会,災害ボランティア及びNPO法人等の諸団体との連携の必要性と重要性を認識し,平時から,勉強会や講習会を実施するなど,同団体相互間の交流に努め,さらに,災害ボランティアセンター等の在り方について提言をし,連携を深める。
  4. 4 企業等との連携
     弁護士会は,弁護士が企業の事業継続計画(BCP=Business Continuity Plan)策定支援に関与する能力と責務を有することを自覚し,大規模災害時における,経済団体,事業者団体等の民間団体の知恵と活力を生かした復旧・復興を目指すべく,平時から,企業等との連携関係を構築し,安全配慮義務を意識した適切なBCP策定支援活動を継続的に行っていく。
  5. 5 自治会・町内会等との連携
     弁護士会は,2014年に災害対策基本法の改正によって地区防災計画制度が創設されたことを踏まえ,自助,共助,公助が相俟って初めて住民の災害対策が有効に機能することを認識し,平時から,自治会・町内会等の住民団体との連携を心掛け,住民の地区防災計画の策定にあたっても,その手順やひな型を提示するなどして,その策定に協力し助言していく。

 阪神・淡路大震災の大規模火災,そして東日本大震災の大津波を目の当たりにしたとき,私たちは「これは現実のことなのか。」と目を疑った。そして,多くの弁護士が「座してこれを黙認できるのか。」「今動かなくて,何時動くのか。」と立ち上がり,被災者支援に乗り出した。しかし,乗り出して,そこに見たものは,被災地の筆舌に尽くしがたい惨状と被災者の慟哭であった。
 弁護士は,その惨状と慟哭に直面し,被災者支援のための知恵を学ばせていただいた。これを,将来の被災者支援活動に生かさなければ,弁護士としての使命を果たしたことにはならない。そうでなければ,災害で亡くなられた方々の魂はうかばれない。今なお胸がはり裂けるほどの悲しみに耐えている被災者の方々の無念は癒されない。弁護士は今改めて自覚しなければならない。弁護士の使命は,被災者支援活動の継続と,将来の災害に備えた平時の災害対策に万全を期することにある。
 当連合会は,今後も,基本的人権の擁護と社会正義を実現する見地から,被災者支援活動に総力をあげて臨む所存である。
 以上のとおり宣言する。

2017年(平成29年)9月29日
関東弁護士会連合会

提案理由

  1. 1 はじめに
    1. (1) 我が国は,世界の中でも,地震,津波,噴火,台風,豪雨の大規模自然災害の多発地帯に位置している。日本には活断層といわれる場所が約2000か所あり,うち約100か所が活動中と言われている。まさに,活断層の上にあると言っても過言ではない。我が国の災害史はこれを実証するものである。この30年間に私たち自身が経験した阪神・淡路大震災(1995年,死者・行方不明者6437人 2005年12月22日現在),新潟県中越地震(2004年,同68人),新潟県中越沖地震(2007年,同15人),東日本大震災(2011年,同2万2118人 2017年3月1日現在),広島豪雨(2014年,同77人),関東・東北豪雨(2015年,同14人),熊本地震(2016年,同228人 2017年4月13日現在)及び九州北部豪雨(本年7月,同43人 本年8月21日現在)は記憶に新しいところである(数値はいずれも死者・行方不明者の数。資料は2017年(平成29年)版防災白書付属資料の附5~8及び同年内閣府防災情報のページ「6月30日からの梅雨前線に伴う大雨及び平成29年台風第3号による被害状況等について」3頁)。
    2. (2) 特に地震については,南海トラフ震源域では,過去約100年から150年の間隔で大規模地震が発生しているが,1854年の東海地震,1944年の東南海地震,1946年の南海地震を最後に同震源域での大規模地震は発生していない。このことから,近い将来の地震として,南海トラフを震源とする東海地震,東南海地震及び南海地震の発生が懸念されている。さらに,近年では,首都直下型地震の発生も想定すべきことが叫ばれるようになってきている。
      また,台風は,1年間で平均26.4個が発生し,内11.5個が日本に接近する。台風は豪雨と大洪水を招来し,日本にとって避けては通れない自然災害の一つである。戦後の台風に限っても,枕崎台風(1945年,死者・行方不明者3756人),狩野川台風(1958年,同1269人),伊勢湾台風(1959年,同5098人)では,上記のとおり,数千人規模の命が失われた(数値はいずれも死者・行方不明者の数。資料は2017年(平成29年)版防災白書附属資料の附5~8)。
      さらに,我が国の活火山数は110を数え,世界の危険な火山トップテンの中に,硫黄島と阿蘇山の二つもランクインしている。記憶に新しい雲仙普賢岳噴火(1990年~1995年,同44人),三宅島噴火及び新島・神津島地震(2000年~2005年,同1人),御嶽山噴火(2014年,同63人)でも甚大な被害が発生した(数値はいずれも死者・行方不明者の数。資料は2017年(平成29年)版防災白書附属資料の附5~8)。
      まさに,我が国は,何時でも,どこでも大規模災害に見舞われる危険があることを十分に認識しなければならない。
  2. 2 弁護士会の活動
    1. (1) 弁護士は,1995年1月17日発生の阪神・淡路大震災において,兵庫県弁護士会,大阪弁護士会を中心に被災者支援活動に取り組んだ。また,全国の弁護士が,神戸に駆け付け実施した法律相談は震災後の1年間で約10万件以上に達した(2011年(平成23年)4月20日神戸婦人有権者連盟4月勉強会 弁護士永井幸寿「災害時における弁護士の活動について」)。特に,兵庫県弁護士会が,行政の手が行き届かない地域を中心に災害復興支援活動に取り組んだことは,被災者支援活動として特筆すべきことである。
    2. (2) また,2011年3月11日発生の東日本大震災においては,翌年5月までに行なった弁護士の法律相談件数は約4万件以上にのぼった(2012年10月現在 日本弁護士連合会「東日本大震災無料法律相談情報分析結果(第5次分析)」)。当連合会も,阪神・淡路大震災,新潟県中越地震,東日本大震災に多数の会員を派遣して被災者支援活動に取り組んできた。特に,東日本大震災においては,被災地(福島県,宮城県,岩手県等)に駆け付け,あるいは新潟県,東京都,静岡県等他県に避難された被災者の方々に対し,法律相談活動,東京電力に対する原発災害の損害賠償請求等の被災者支援活動に取り組んできた。
  3. 3 被災者支援活動に関する提言
     当連合会は,本年度のシンポジウムの開催にあたり,これまでの弁護士及び弁護士会の被災者支援活動を検証した。その結果,弁護士及び弁護士会による法律相談活動だけでは,被災者支援活動としては決して十分ではなく,将来の災害に備え,平時から,弁護士会,行政,士業団体,ボランティア団体,企業,自治会・町内会等の諸団体が相互に連携し,災害支援活動に取り組むべきことが重要であるとの認識に到達し,ここに,その具体的諸活動として,各団体との連携の在り方について以下のとおり提言する。
    1. (1) 弁護士会と行政との連携
      • ア 弁護士及び弁護士会は,これまでの被災者支援活動において,行政(都道府県及び各市町村)と連携をとりながら無料法律相談を実施してきた。その相談件数は,例えば,阪神・淡路大震災では発災後約1年間で約10万件,東日本大震災では同約4万件に上った。
        これらの法律相談活動には,法的紛争の解決にとどまらず,被災者当事者間の自主的紛争解決機能,被災者に対するカウンセリング機能,被災地の遵法精神を醸成する機能,公的サービスや支援情報を提供する機能及び相談活動から収集された被災者のニーズの分析に基づく立法提言に資する機能(被災ローン減免制度や相続放棄等の熟慮期間の延長等)などの諸機能が認められたことも確認されている。
        さらに,弁護士会の被災者支援活動においては,自治体が震災によって機能不全に陥った場合などには,行政と連携体制を築いて,行政の活動を補完し,あるいは行政に代わる被災者支援活動を実現した貴重な事例も認められた。
      • イ ところで,こうした法律相談等の支援活動は,その大半が,自治体の公的施設や自治体が開設する避難所等で行われる。これらの場所こそが,被災者にとって最も分かりやすく,また信頼感や安心感を抱く場所であるとの共通認識がある。
        弁護士会と自治体が,こうした被災者支援活動を円滑且つ有効に実施するためには,弁護士会と各自治体は,平時から,災害協定を締結し,同協定に基づき,弁護士と自治体の災害担当職員が定期・不定期に実際に顔を合わせ,自由に意見を交換し,それぞれが持つ情報を共有するなどして,顔の見える信頼関係を構築しておくことが重要であり,同関係に基づく不断の継続的活動が不可欠である。
    2. (2) 士業種との連携
      • ア 弁護士,司法書士,税理士,建築士等の士業の専門的知識・経験は,被災者支援活動にとって極めて有用であることは間違いないところである。特に,大規模災害支援活動時においては,士業によるワンパック相談(ワンストップサービス)が,同一時点における様々なニーズ(横軸)と,時間の経過によるニーズの変化(縦軸)に対応できるという意味で,その効用が認識されるに至った。
        実際,阪神・淡路大震災,東日本大震災においては,発災後時間の経過によって被災者の相談内容には変化があり,時間の経過に対応して,被災者の需要に応える士業による相談態勢の整備,とりわけ,「なんでも相談」という形態による,士業によるワンパック相談の有用性が実証された。
      • イ しかし,各士業が発災後に,連携し組織的に活動しようとしても,被災直後の混乱した状況下では必ずしも有効な活動ができないばかりか,支援活動が手遅れになる事態すら発生することも明らかとなった。まさに,平時からの連携,協力関係の構築が求められる所以である。
      • ウ 当連合会では,全国の全52弁護士会を対象とするアンケート調査を実施し,49弁護士会から回答を得た(2017年5月31日時点)。うち,士業団体と連携の計画のない弁護士会が18会あった。また,アンケートから,連携の課題として,連携のための事務の担い手の確保と継続性が浮かび上がった。士業連携が比較的うまくいっている弁護士会の回答からは,事務局を士業団体で交替していく方式よりは,比較的に慣れている弁護士会が事務局を担当した方がスムーズに運営が行われるとの報告もあった。ただし,その場合,士業団体が対等であることを前提に,温度差がある団体間の調整をしていくという意識を忘れてはならないことが指摘された。
      • エ 結論として,弁護士会は,平時の連携を構築するにあたっては,各士業団体間に,災害対策に温度差があることを十分に自覚しつつも,積極的に中心的役割を果たすことが重要である。具体的には,専門士業同士が,連絡協議会等を組織し,定期的会合を持つことで顔の見える関係を構築し,あるいは士業連携の勉強会を開催し,あるいは平時の合同相談会を開催するなどして,相互に仕事内容を理解し,顔の見える関係作りに努めることが肝要である。
    3. (3) 各種ボランティア団体等との連携
      • ア 1995年の阪神・淡路大震災では,発災直後から多くの災害ボランティアが被災地の支援活動に携わり,同年は「ボランティア元年」と言われるようになった。その後,鳥取県西部地震(2000年),有珠山噴火(2000年),芸予地震(2001年),新潟中越地震(2004年),能登半島地震(2007年),新潟中越沖地震(2007年),岩手・宮城内陸地震(2008年)において,被災地に災害ボランティアセンターが設置され,同センターが中心となって,災害ボランティアの受付,支援活動と災害ボランティアとのマッチング作業等が行われるなど,災害時における災害ボランティアの活動が拡がった。そして,東日本大震災(2011年),さらには熊本大地震(2016年),新潟糸魚川大規模火災(2016年)においては,多くの災害ボランティアの活動が被災地の支援に重要な役割を果たすことに繋がった。
      • イ 災害ボランティアの主な活動としては,発災後の応急期では,瓦礫の撤去や建物の泥出し,避難物資の運搬提供,炊き出し等の支援,復興期としては,建物の片付けや避難所や仮設住宅における被災者に対する生活支援等がある。
        弁護士,弁護士会も大規模災害発生後に,無料電話相談や避難所や仮設住宅に赴いてのアウトリーチ型の相談を行い,被災者に対する法律相談だけではなく,生活相談や避難所での困りごとなどを聞き取り,その内容を行政に伝えて改善を求めるなど,災害時における被災者支援活動として意義があった。
      • ウ ところで,弁護士,弁護士会が避難所や仮設住宅に赴いて相談活動を行う場合には,避難所や仮設住宅を担当している行政だけではなく,避難所等で支援活動をしている災害ボランティアと協力することにより,相談会の広報や相談場所の設置・案内等の運営において被災者支援をより有効に行うことができる。
        そこで,当連合会は,社会福祉協議会や災害ボランティア団体に対するアンケート及び熊本と仙台等の被災地調査を行なった。
        その結果,平時における,以下のような対策が有用且つ重要であるとの結論に達した。
        第1に,弁護士,弁護士会は,平時から,社会福祉協議会との交流を持つことを心掛け,弁護士及び社会福祉協議会職員の双方が,互いの仕事内容,能力,役割,現状などを理解し合い,いわゆる顔の見える関係を構築しておかなければならない。
        第2に,弁護士,弁護士会は,災害時において,被災者に対する直接の支援のみならず,被災者を支援する相談員,ボランティア,NPOなどを対象とする相談窓口を設置する等,間接型被災者支援の活動を行うべきである。そして,そのための準備として,平時から,社会福祉協議会や災害ボランティア団体において相互に勉強会や講習会を開催し,また相談窓口の告知・広報を行うことを心掛けなければならない。
        第3に,弁護士,弁護士会は,災害発生後に,社会福祉協議会ができるだけ早く被災者ニーズの把握・整理・調整機能を発揮できるようにするため,社会福祉協議会が,災害ボランティアセンターの設立・運営,特に作業系ニーズのマッチング活動に偏った活動とならないよう,新たな活動体制に向けた提言,助言を行うことが重要である。
    4. (4) 企業等との連携
      • ア 1995年の阪神・淡路大震災,2004年の新潟県中越地震,2011年の東日本大震災,そして,2016年の熊本地震の経験から,事業者においても自然災害対策への関心が高まるところとなった。地震,津波などの大規模自然災害では,事業活動に重大な影響を被るケースが見られるところであるが,かかる影響を回避する為,事業者は取引先との契約関係,労務管理の分野を含む会社業務全体を見渡し,各種の対応をする必要がある。そのような事前の準備対応の1つとして,事業継続計画(BCP=Business Continuity Plan)が注目されるところとなっている。BCPとは,「災害時に特定された重要業務が中断しないこと,また万一事業活動が中断した場合に目標復旧時間内に重要な機能を再開させ,業務中断に伴う顧客取引の競合他社への流出,マーケットシェアの低下,企業評価の低下などから企業を守るための経営戦略をいう」(内閣府防災情報のページ「事業継続計画(BCP)を策定する」)。
      • イ 我が国には,中小企業・小規模事業者は,中小企業庁の集計によると,約380万社あるが,BCPを策定しているのはその約15.5%にすぎない。したがって,中小企業,小規模事業者のBCP策定には専門家のアドバイスが必要である。
        ところで,熊本地震,東日本大震災の被災地調査をした結果,被災地で事業継続を考える事業者は,異口同音に「業務を継続する際の最大のポイントは従業員の安全を確保することである。」と述べている。如何に機械設備が保全され,顧客を確保したとしても,従業員が死傷してしまっては業務の継続は不可能となる。また,無事だった従業員にしても,同僚を失ってはモチベーションも上がるはずがない。災害時における事業継続は,従業員の安全を第一にしてこそ達成できるはずであるし,逆に,それなくして達成できるものではない。こうした会社の姿勢こそが,従業員の「会社に対する信頼」に繋がり,ひいては,非常事態すなわち経営環境の急激な変化という難局に直面した際に,従業員が一致団結してそれを乗り切ろうというモチベーションに繋がっていくことになる。
      • ウ 当連合会は,法律専門家として,事業者,特に中小企業・小規模事業者のBCP策定のため,アドバイスを担うことが可能であるし,担う責務を負うべきであるとの結論に達した。すなわち,弁護士は,このような平常時と災害時における安全配慮義務を含む法的諸問題に対処し得る専門家として,BCP策定のアドバイスを行う適任者である。弁護士は,積極的に,事業者のBCP策定に協力,関与し,有益な資料の作成,提供に努めるべきである。弁護士会はBCP策定支援に弁護士が適切に関与できるよう経済団体,事業者団体等と連携して,その仕組みを構築するべきである。
    5. (5) 自治会・町内会等の住民団体との連携
      • ア 行政の災害対策は,被災住民のためであるが,被災住民自身の視点からの災害対策も不可欠である。特に,阪神・淡路大震災を契機として,公助だけでなく,地域の住民の主体的,自発的な自助・共助による活動の重要性が認識されるようになった。
        このような背景事情を踏まえ,国は,2013年6月の災害対策基本法の改正(2014年4月施行)により地区防災計画制度を創設した。この制度は,地域コミュニティにおける共助による防災活動の推進の観点から,市町村内の一定の地区の居住者及び事業者(地区居住者等)が行う自発的な防災活動に関する地区防災計画制度である。その骨子は,市町村の判断で地区防災計画を定めることにある(内閣府防災情報のページ「地区防災計画について」)。
      • イ 当連合会は,地区防災計画に関する自治体・自治会の取組の現状と課題を調査し,地区防災計画に対して弁護士・弁護士会が関与する可能性を考察する目的で調査を実施した。
        地区防災計画の策定には行政による支援が必要とされ,既に地区防災計画が策定された自治会をみると,地方自治体の支援が有効になされていることが認められた。例えば,相模原市では,地区防災計画にあたり,区域ごとに,合計3人の市の職員が担当として割り当てられ,地区防災計画検討協議会の事務局などの役割を担っている。
        現実には,多くの自治体では,地区防災計画策定のために自治体の職員を割り当てる余裕がなく,行政による支援なしに,自治会が自力で地区防災計画を策定するのは困難であるのが実情である。
      • ウ 弁護士は,地区防災計画策定に支援者として,行政による支援を補う役割を果たすことが考えられる。特に,行政による十分な支援が得られない自治会・町内会等の住民団体等に対しては,弁護士が,地区防災計画の策定の手順や地区防災計画のひな型を提示し,住民による調査や議論の進め方に関する助言をするなどして,地区防災計画の策定を助ける役割を担うことが可能である。
  4. 4 まとめ
     弁護士が,過去の被災者支援活動の中で見たものは,筆舌に尽くし難い惨状と慟哭であった。同時に,自らの力の足らざるところを自覚した。自覚して,これを補うために,意を共にする被災者支援団体の方々と連携することを志向し,その連携関係は平時においてこそ構築しなければならないという知恵を学んだ。今こそ,私たちは,この志向と知恵を,実際に機能する連携関係に発展させることにより現実化しなければならない。
     当連合会は,今後も,基本的人権の擁護と社会正義を実現する見地から,被災者支援活動に総力をあげて臨む所存である。

    以上

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