関東弁護士会連合会は、関東甲信越の各県と静岡県にある13の弁護士会によって構成されている連合体です。

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平成29年度 声明

被収容者・外国人の裁判を受ける権利を奪い,人道上の問題がある強制送還の実施に改めて強く反対する意見書

2018年(平成30年)3月27日
関東弁護士会連合会

1 意見の趣旨

  1.   関東弁護士会連合会は,被収容者・外国人の裁判を受ける権利を奪い,人道上の問題がある法務省入国管理局による強制送還の実施に改めて強く反対する。

2 意見の理由

    1. (1) チャーター機による強制送還の実施
       法務省入国管理局は,以下のとおり平成25年7月から平成29年2月まで毎年チャーター機による強制送還を実施してきた。
        平成25年 7月 6日 フィリピン国籍者75名
        平成25年12月 8日 タイ国籍者46名
        平成26年12月18日 スリランカ国籍者26名,ベトナム国籍者6名
        平成27年11月25日 バングラデシュ国籍者22名
        平成28年 9月22日 スリランカ国籍者30名
        平成29年 2月20日 タイ国籍者32名,ベトナム国籍者10名
                    アフガニスタン国籍者1名
       これまでの被送還者のなかには難民不認定処分に対する異議申出が棄却され,裁判を希望していた方や日本での滞在が27年にも及ぶ方も含まれていた。
       当連合会は,これらの強制送還に対して3回にわたり反対する意見を表明してきた(平成26年1月16日,平成27年2月18日,平成29年1月30日)。
       また,平成26年にスリランカへチャーター機によって強制送還された被送還者のなかには,日本弁護士連合会に対して人権救済申立を行っている方や名古屋地方裁判所及び東京地方裁判所に国家賠償請求訴訟を提起している方もおり,現在でも法務省入国管理局によるチャーター機による強制送還という方法の是非が問われている最中である。
       このようななか,法務省入国管理局は,再び平成30年2月8日,ベトナム国籍者47名を再びチャーター機によって強制送還したが,今後も実施していくとのことである(平成30年2月9日法務大臣閣議後記者会見の概要より)。
       当連合会は,このような被送還者の個別事情を考慮しないまま一斉に強制送還を実施することは人権上多くの問題が含まれているとして当初より反対してきたものであるが,改めて反対の意見を表明するものである。
    2. (2) 裁判を受ける権利を実質的に奪う
      1. ア 新聞報道やNGO団体による各声明等によれば,今回の送還にあたっても法務省入国管理局が送還した者のなかには難民申請手続(審査請求含む)中の者はいないとのことである。
         しかし,NGOの声明によると,今回送還された47名のうち,16名が難民不認定処分後の異議申立て棄却又は却下処分の告知を受けてから,24時間以内に送還されたとのことである。そして,これらの事情はこれまでのチャーター機を使用した強制送還においてもほぼ同様の状況であったのであり,今回の送還を含む各送還は次の段階への手続きの間隙を突いて実施されたものといわざるをえず,重大な問題を含むものである。
         すなわち,難民申請をしている者は,送還後に生命等に危険が存在することを理由としているのであり,その判断が誤りであった場合には取り返しのつかない結果となることからその判断は慎重の上にも慎重を期すべきである。ゆえに難民の地位に関する条約33条1項及び拷問等禁止条約3条1項において,生命または自由が脅威にさらされるおそれのある領域の国境へ追放し又は送還してはならないというノン・ルフールマン原則が定められているのである。このような危険性がある場合の送還は,この原則を無意味にすることは明白であり,拷問等禁止条約に関する個人通報制度に基づく国連拷問禁止委員会の意見においても,送還後の全ての救済措置は無意味であり,国内救済措置が効果的であるというためには最終的な執行前に合理的な期間が確保される必要があるとの指摘がなされている(ADEL TEBOURSKI vs FRANCE(CAT/C/38/D/300/2006))。なお,日本は個人通報制度の受諾はしていないものの,拷問等禁止条約には加入している。
         そして,難民不認定処分を受けた者は異議申立(審査請求)ができるが,異議棄却決定から6か月の間は,難民不認定処分が正しいものかを裁判所で判断してもらう難民不認定処分取消訴訟を提起できる権利(憲法32条)がある。裁判を受ける権利は国籍に関係なく誰にでも認められている権利であり,在留資格を有しない者や難民不認定処分を受けた者も当然に有する権利である。その結果,裁判所において入国管理局の判断が覆されることもあり,入国管理局の判断は決して終局的なものではない。
         さらに,難民であるためには「国籍国の外にいる者」(難民条約1条,出入国管理及び難民認定法2条)である必要があり,国籍国にいる者は「難民」に該当せず,難民不認定処分に対する裁判における取消を求める訴えの利益がないとされている(最高裁平成8年7月12日判決)。したがって,自らが難民であることを主張する者を強制送還することは,その者の生命等の危険のみならず,難民不認定処分に対する裁判を受ける権利という重要な権利を奪うことになる。
         この重要な権利を行使するためには,多くの場合弁護士と打合せをする必要があるが,不認定処分後24時間以内に送還されてしまったのではそのような機会すらない。難民申請ないし異議申立(審査請求)手続の際に弁護士を代理人として選任していた場合には,不認定処分後の方針について,自らの代理人と打合せをする必要性が非常に高いことはいうまでもないが,弁護士を代理人としていなかった場合でも,不認定処分を受けて裁判を提起するか否かの判断にあたって弁護士と相談する機会を与えることは裁判を受ける権利の重要性に鑑みるとその必要性は高い。
         なお,今回の送還では退去強制令書発付処分の告知から6か月未満の者が23人含まれていたとのことであるが,退去強制令書発付処分に対しても6か月以内に当該処分の取り消しを求めて裁判を提起することができるのであり,6か月経過前の送還は,法が定める期間を無視するものであり,裁判を受ける権利を侵害するものである。
      2. イ また,送還された者のなかには日本に法律婚をした家族が残されている者が12名もいたとのことである。このような場合,退去強制令書が発付されていたとしても家族の存在は在留特別許可の可能性があり,この点を裁判手続等で主張していくことは十分に考えられる。実際に退去強制令書が発付されていても配偶者等家族との関係性を理由に当該退去強制令書発付処分が取り消された裁判例もあるし,退去強制令書発付処分後に入国管理局が在留資格を付与した例もある。
         そして,難民手続きにおいても在留特別許可の判断がなされることになっているのであるから,配偶者等家族の存在は難民手続きにも関わるものであり,この点も裁判で争うことができるのである。
      3. ウ したがって,チャーター機を使用した強制送還は,憲法上保障されている裁判を受ける権利という重要な権利を実質的に奪うものであり,人道上重大な問題を含む送還方法である。
    3. (3) 人道上の配慮を欠く
       さらに,今回の強制送還時には,21年以上もの期間日本に滞在していた者が含まれていたとのことであるが,長期間日本に滞在していた者の生活基盤は日本にしかなく,母国での生活は困難を極めることは明白である。このような者を強制送還することは,人道に反する。
    4. (4) なお,これらの問題点はチャーター機を使用した一斉強制送還に限られる問題ではなく,個別送還の際にも生じる問題であることから,法務省入国管理局には送還の際にはそれぞれの個別事情に対する十分かつ人道的な配慮を求める。
    5. (5) 結論
       よって,当連合会は,このような被収容者・外国人の裁判を受ける権利を奪い,また,人道上の見地等からも問題がある強制送還の実施に改めて強く反対する。

以上

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