関東弁護士会連合会は、関東甲信越の各県と静岡県にある13の弁護士会によって構成されている連合体です。

宣言・決議・意見書・声明等宣言・決議・意見書・声明等

平成30年度 声明

朝鮮学校について高校無償化制度の速やかな適用を求める理事長声明

  • 1 「公立高等学校にかかる授業料の不徴収及び高等学校等就学支援金の支給に関する法律」(2010年4月1日施行。以下「高校無償化法」という。)は、「社会全体であなたの学びを支えます」とのキャッチフレーズの下、日本に住むすべての高校生、高校進学を希望する生徒たちの学びを、社会をあげてサポートすることを目指して制定された法律であって、朝鮮学校を含む外国人学校への適用を当然の前提としていた点でも画期的なものであった。
     これまで日本政府は、外国人学校なかでも朝鮮学校について積極的価値を認めないという政策をとった時期もあったが、高校無償化法はこのような政策を、日本に住むすべての子どもを支援するというもっぱら「教育についての子どもの権利」という見地から転換する画期となりうる法律であった。
  • 2 しかるに、日本政府は、同法の施行後、申請を行った朝鮮学校以外の外国人学校を適用対象とした一方で、朝鮮学校については拉致問題を含め、政治的・外交的問題を理由に同法に基づく審査を先延ばしにすることを繰り返したのち、2013年2月20日には朝鮮学校の指定根拠規定自体を削除する省令改正を行うとともに、適正な学校運営(規程第13条)の要件に適合すると認めるに至らなかったという点を理由に、各地の朝鮮学校について不指定の処分をした。
     このような日本政府の対応は、高校無償化法の趣旨に反するものである。のみならず、生徒たちやその保護者たちにとっては、自身ではどうすることもできない問題を理由に、生徒たちの学びの権利を制約するものであって、生徒たちの教育を受ける権利(憲法26条1項)や平等権(憲法14条1項)、さらに国際人権規約・自由権規約26条・27条、社会権規約2条2項、13条1項、人種差別撤廃条約5条、子どもの権利条約28条1項、29条1項、30条、「ユネスコ学習権(学びの権利right to learn)宣言」(1985年採択)の趣旨など、種々の権利条項に抵触している。
     これらの条約に関し、国連の人種差別撤廃委員会は、2010年と2014年の日本政府報告書審査の各総括所見において、高校無償化制度からの朝鮮学校の除外に関する法規定及び政府による行為に懸念を表明した。また、子どもの権利委員会の2010年総括所見、社会権規約委員会の2013年総括所見も、民族的マイノリティに属する子どもへの差別の解消や高校無償化制度が朝鮮学校に通う子どもたちにも適用されることを確保するよう、日本政府に求めている。さらに、2017年11月の国連人権理事会における第3回UPR日本審査でも、一部の国より朝鮮学校の高校無償化適用を求める勧告がされた。
     このように、日本政府による各地の朝鮮学校についての不指定処分については、国際的にも批判を受けている。
  • 3 日本政府の対応については各地で訴訟が提起されている。
     このうち、朝鮮学校の指定根拠規定自体を削除することは、高校無償化法の目的である教育の機会均等とは無関係な外交的・政治的判断に基づくものであることから、高校無償化法の委任の趣旨に反するものとして、違法・無効とするとともに、適正な学校運営(規程第13条)の要件に適合しているか否かについては、既に同様の根拠規定で指定されている他の外国人学校と同様の基準を満たしていれば、「他に特段の事情がない限り」基準に適合するという枠組みを設定し、結論として大阪朝鮮高級学校についての適合性を認めている判決もある。
     一方で、当該朝鮮学校につき、就学支援金の授業料に係る債権の弁済への確実な充当が行われることや、学校運営が法令に従った適正なものであることについて、十分な確証を得ることができないことなどを理由として、上記不指定処分は文部科学大臣の裁量を逸脱濫用していないとするものもある。
     本件においては、高校無償化法の趣旨や憲法の規定、特に国際人権条約の規定、国際人権委員会の総括所見や勧告を踏まえて判断が行われるべきである。
  • 4 結論
     当連合会は、内閣総理大臣及び文部科学大臣に対し、朝鮮学校に高校無償化制度を速やかに適用する措置を講じるよう求めるとともに、外国人、民族的マイノリティが差別なく人権を保障されるために継続的に活動してきたことを踏まえて、日本に居住するすべての外国人、民族的マイノリティが自身のアイデンティティを有しながら教育を受けることができる社会の実現に向けて引き続き邁進していく所存である。

2018年7月26日
関東弁護士会連合会
理事長 三宅 弘

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