関東弁護士会連合会は、関東甲信越の各県と静岡県にある13の弁護士会によって構成されている連合体です。

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平成30年度 声明

調停委員任命に際し外国籍の者を排除しないことを求める理事長声明

  1. 1 声明の趣旨
     最高裁判所は,外国籍の調停委員の採用を認めない事務取扱いを直ちに廃止し,「弁護士となる資格を有する者,民事若しくは家事の紛争の解決に有用な専門的知識経験を有する者又は社会生活の上で豊富な知識経験を有する者で,人格識見の高い年齢四十年以上七十年未満のもの」(民事調停委員及び家事調停委員規則1条本文)であれば,日本国籍の有無にかかわらず,等しく民事・家事調停委員に任命することを求める。
  2. 2 声明の理由
    1. (1) 問題の背景
       現在,最高裁判所は,日本国籍を有しない者を調停委員に任命しないとの取扱いをしている。
       例えば,最高裁判所は,日本国籍を有しない弁護士の調停委員の任命について,法令上等の明文の根拠規定はないとしながら,「公権力の行使に当たる行為を行い,もしくは重要な施策に関する決定を行い,又はこれらに参画することを職務とする公務員には,日本国籍を有する者が就任することが想定されていると考えられるところ,調停委員…はこれらの公務員に該当するため,その就任のためには日本国籍が必要と考えている。」との認識を示している(日本弁護士連合会の照会に対する2008(平成20)年10月14日付最高裁判所事務総局人事局任用課回答)。
       全国の各家庭裁判所および地方裁判所は,最高裁判所の上記認識に則り,これまで,仙台弁護士会,東京弁護士会,京都弁護士会,大阪弁護士会,兵庫県弁護士会等が,調停委員となるべき者として推薦した外国籍の弁護士に対して,日本国籍を有しないことのみを理由に,最高裁判所への任命上申を行わない対応をとり続けている。このような対応は,遅くとも2003(平成15)年の兵庫県弁護士会による外国籍の調停委員候補者推薦に対するものから始まり,現在まで延べ30人以上にのぼっている。本年においても,横浜家庭裁判所が,神奈川県弁護士会が調停委員として推薦した外国籍会員の任命上申を拒否している。
    2. (2) 憲法14条の平等原則に違反している
       憲法14条の平等原則を含む憲法第3章に規定している基本的人権の諸規定は,権利の性質上,日本国民のみを対象としていると解されるものを除き,我が国に在留する外国人に対しても等しく及ぶ(最高裁判所昭和53年10月4日大法廷判決)。
       平等原則は,日本国憲法の人権体系の中核をなし,法的に平等に扱われる権利を保障し,不合理な差別的取扱いを禁止している。
       民事調停法,家事事件手続法は,調停委員の任命資格に日本国籍を有することを要件としておらず,また,民事調停委員及び家事調停委員規則1条は,「民事調停委員及び家事調停委員は,弁護士となる資格を有する者,民事若しくは家事の紛争の解決に有用な専門的知識経験を有する者又は社会生活の上で豊富な知識経験を有する者で,人格識見の高い年齢四十年以上七十年未満のものの中から,最高裁判所が任命する。」と定めるにとどまり,同規則2条の欠格事由についての定めにも,外国籍を欠格事由とする規定はない。
       このように,法令上,日本国籍を有することは調停委員任命の要件とされていないにもかかわらず,国籍を有しないことのみを理由として,一般的に調停委員に任命しないという裁判所の取扱いは,外国籍者に対する不合理な差別に他ならず,平等原則に違反している。
    3. (3) 調停委員は公権力を行使しないので,国民主権には反しない
       調停手続における調停委員の役割は,双方当事者の言い分や心情に十分に耳を傾け,当事者間の意思疎通を図り,民事の紛争について,当事者の互譲により,条理にかない実情に即した合意の形成に向けて,説得や調整を試みることにある(民事調停法1条)。
       したがって,調停手続において最終的な合意の成否は,当事者の判断に委ねられており,調停委員は,もっぱら説得や調整を試みるという形で合意形成に関与するにすぎない。
       具体的にいえば,調停委員は,調停委員会の構成員としてその決議に参加するものの,この決議は当事者の権利を公権的に制約するものではない。
       すなわち,調停調書は確定判決と同一の効力を有するが,この拘束力はそもそも当事者の合意に由来するものであって,公権的に当事者の権利を制約するものではない。
       また,調停委員会による事件の関係人の呼び出し,調停前の措置,調停前の処分命令に対する不出頭,違反などには過料の制裁があるものの,過料は裁判所が決定するものであって,調停委員あるいは調停委員会が決定するものではない。いずれも調停制度の実効性を担保するための補完的職務にすぎない。呼出状等に調停委員の氏名が記載されないのはその表れである。
       さらに,調停委員会は事実調査及び必要と認める証拠調べを行う権限を有しているが,事実調査は強制力を有していないし,証拠調べについても,現実には強制的な権限行使を想定していない。
       むしろ破産管財人,相続財産管理人,不在者財産管理人など,公的側面も有する職務について,外国籍の弁護士等の就任が認められていることに照らしても,外国籍の調停委員を排除する理由にはなりえない。
       このように,調停委員の職務内容は,専門的もしくは社会生活上の知識経験や人格見識などを発揮し,これにより当事者の互譲による合意形成を促すものであり,公権力の行使という手段によるものではない。国民主権に反することはない。
    4. (4) 外国籍の調停委員の必要性
       現在,日本には250万人以上の外国籍者が居住し,50万人以上の外国籍からの日本国籍取得者が居住している。外国人登録者の国籍は200カ国に迫ろうとしている。
       さらに,朝鮮や台湾などの旧植民地出身者で日本国籍を取得した者,長期の在留を経て日本国籍を取得した者など,民族的少数者としての立場にある者も多数居住し,他民族・多文化が急速に進展している。
       しかも,少子高齢化に伴う人口減少への対策や経済社会の国際化・グローバル化に伴う外国人就労の促進からすると,調停の場に外国籍者が調停委員として参画することは,多様な当事者の実情に即した紛争解決という観点において,調停制度を充実させることに役立ち,他民族・多文化共生社会の実現に不可欠なものである。
       実際,過去には,1974(昭和49)年から1988(同63)年まで,中国(台湾)籍の大阪弁護士会会員(張有忠弁護士)が,外国籍のままで民事調停委員に任命され,14年余りにわたり何らの支障なく調停委員としての職務を行っていた。上記弁護士が大阪地方裁判所所長から表彰を受けていることからしても,外国籍の調停委員の必要性は大きく,調停委員の職務を行うことに何ら不都合がないことが明らかになったといえる。
    5. (5) よって,当連合会は,最高裁判所に対して,外国籍の調停委員の採用を認めない事務取扱いを直ちに廃止し,「弁護士となる資格を有する者,民事若しくは家事の紛争の解決に有用な専門的知識経験を有する者又は社会生活の上で豊富な知識経験を有する者で,人格識見の高い年齢四十年以上七十年未満のもの」(民事調停委員及び家事調停委員規則1条本文)であれば,日本国籍の有無にかかわらず,等しく民事・家事調停委員に任命することを求めるべく,本声明を発出するものである。

以上

2018(平成30)年10月3日
関東弁護士会連合会
理事長 三宅 弘

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