関東弁護士会連合会は、関東甲信越の各県と静岡県にある13の弁護士会によって構成されている連合体です。

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平成30年度 意見書

遺伝子組換え食品表示制度に関する意見書

2019年(平成31年)1月18日
関東弁護士会連合会

第1 意見の趣旨

 消費者に誤認を生じさせる可能性を無くし、消費者の自主的かつ合理的な食品選択の機会を確保するため、遺伝子組換え表示制度に関して、最低限、以下のとおりの見直しを行うべきである。

  1. 1 表示義務対象範囲に関して、組換えられたDNA及びこれによって生じたタンパク質が加工工程後に検出できない加工食品(大豆油、しょうゆ、コーン油、異性化液糖等)も含め、遺伝子組換え農産物を原材料とする全ての加工食品を、遺伝子組換えの表示制度の対象とする。
  2. 2 分別生産流通管理が実施された農産物について、「遺伝子組換えでない」旨の任意表示が認められる意図せざる混入率を、現行の5%以下から不検出まで引き下げる。

第2 意見の理由

 現在、日本国内に流通している遺伝子組換え食品は、厚生労働省の安全性審査を受け、その安全性が確認されたもののみが流通しているとされている。
 しかしながら、平成28年12月12日から平成29年1月4日までに実施された遺伝子組換え食品に関する消費者意向調査(以下、「消費者意向調査」という。)によれば、「食品衛生法に基づく安全性審査を経て流通しているものであっても、遺伝子組換え食品について不安がありますか」との質問に対し、「不安がある」との回答が約40.7%となっている。また、「不安がある」と回答した者のうち、約93%が遺伝子組換え食品を忌避しており、「不安はない」と回答した者においても約45%が遺伝子組換え食品を忌避しているとの回答結果となっている。
 そのため、たとえ安全性が確認されているとしても、遺伝子組換え食品に対して不安を抱き、またそれを忌避したい消費者が一定数存在する以上、消費者の自主的かつ合理的な食品選択の機会を確保する表示制度が必要となる。
 消費者庁は、遺伝子組換え表示制度の在り方について、平成29年4月より遺伝子組換え表示制度に関する検討会(以下、「検討会」という。)を開催し、平成30年3月28日に検討会の報告書(以下、「報告書」という。)を公表している。しかしながら、報告書で整理された方向性では、消費者に誤認を生じさせている全ての点についての見直しがなされておらず、消費者の自主的かつ合理的な食品選択の機会が確保されているとは言い難い。
 そのため、現行の遺伝子組換え表示制度において、数多く存在する表示義務の例外を国民が認知しているとは言い難く、また、消費者に誤認を生じさせる現状ともなっていることに鑑み、最低限、以下の点について制度の見直しを行うべきである。

  1. 1 意見の趣旨1(表示義務対象範囲)について
     現行制度における遺伝子組換え表示制度の対象品目は、農産物8品目(ばれいしょ、大豆、てん菜、とうもろこし、なたね、綿実、アルファルファ、パパイヤ)及びそれらを原材料とした加工食品のうち、加工工程後も組換えられたDNA又はこれによって生じたたんぱく質が残存する33品目とされ、組換えられたDNA及びこれによって生じたタンパク質(以下、「DNA等」という。)が加工工程後に最新の検出技術によってDNA等を検出することができない加工食品(大豆油、しょうゆ、 コーン油、異性化液糖等)は、対象とされていない。
     そのため、原材料に遺伝子組換え農産物を使用していたとしても、加工工程後にDNA等が検出不能というだけで遺伝子組換え表示制度における表示義務一切を免れることとなっている。
     この現行制度において、加工工程後にDNA等が検出不能な加工食品を遺伝子組換え表示制度から除外している理由は、科学的検証による事後的な監視ができず表示の信頼性を担保することができないためとされ、報告書においても現行制度を維持することが適当と考えられると結論づけられている。
     しかしながら、消費者意向調査によると、DNA等が検出不能な加工食品が表示義務の対象となっていないことについて、約71.3%の消費者が「知らない」と回答している。このような30%に満たない低い認知度では、例えば多くの消費者が購入するであろう「しょうゆ」について、原材料の大豆に「遺伝子組換えである」旨の表示がない場合、たとえ遺伝子組換え大豆が使用されていたとしても、遺伝子組換え大豆が含まれていないと誤認する可能性が極めて高い。
     また、加工工程後にDNA等が検出されないため最終的な加工食品に対する科学的検証ができないとしても、加工食品となる以前の原材料自体を対象として遺伝子組換え農産物が含まれているか否かを科学的に検証すること自体は可能であり、そこに分別生産流通管理による社会的検証が加わることによって、表示の信頼性を担保することが可能であると考えられる。現に、DNA等が検出不能とされているしょうゆ等について、任意表示で「遺伝子組換えでない」旨の表示がなされている例があり、かかる表示の信頼については、事業者から取り寄せた原材料サンプルの科学的検証、分別生産流通管理による社会的検証及び事業への聞き取りで担保をしている旨の説明が検討会においてなされている。そのため、報告書における表示の信頼性を十分に担保することが困難という理由で現行制度を維持する結論は妥当ではない。
     したがって、消費者が誤認する可能性を無くす必要があり、また、加工食品となる以前の原材料に対する科学的検証と分別生産流通管理による社会的検証により表示の信頼性を担保することが可能であることから、DNA等が加工工程後に検出できない加工食品も含め、遺伝子組換え農産物を原材料とする全ての加工食品を、遺伝子組換えの表示制度の対象とすべきである。
  2. 2 意見の趣旨2(遺伝子組換えでない旨の表示)について
     現行制度において、適切に分別生産流通管理が行われたことを確認した非遺伝子組換え農産物及びこれを原材料とする加工食品については、「遺伝子組換えである」ことの義務表示及び「分別生産流通管理が行われていない」旨の義務表示が免除される一方で、任意表示として「遺伝子組換えでない」旨を表示することが認められている。
     そして、適切に分別生産流通管理が行われていたとしても、遺伝子組換え農産物が一定量混入する可能性があることから、「意図せざる混入率5%以下」である場合でも「遺伝子組換えでない」旨の表示をすることができる。
     しかしながら、このような現行制度では、「遺伝子組換えでない」という表示文言の一般的な意味内容と遺伝子組換え農産物を含有している実体が一致しておらず、消費者に遺伝子組換え農産物を含むか否かについて消費者に重大な誤認を生じさせるおそれがある。現に、バイテク情報普及会による「遺伝子組換え(バイテク)食品に対する消費者の意識調査~2017年度調査結果~」によれば、「遺伝子組換えでないという表示をどのように理解していますか。」との問いについて、回答者の74%が「遺伝子組換え農産物が全く含まれていない」と回答する結果となっている。
     また、消費者意向調査によると、意図せざる混入を許容して「遺伝子組換えでない農産物」として流通されていることを知らないとする回答が約73%となっている。
     そのため、消費者の「意図せざる混入率」に関する低い認知度と「遺伝子組換えでない」旨の表示に対する認識からすると、「意図せざる混入率5%以下」という水準で「遺伝子組換えでない」旨の表示を許容している現行制度は、消費者に重大な誤認を生じさせており、消費者の自主的かつ合理的な食品選択の機会を確保する制度として十分に機能しているとはいえない。
     したがって、「遺伝子組換えでない」旨の表示を事業者に認めるのであれば、消費者に誤認を生じさせる可能性がない表示とすべきであり、すなわち、「遺伝子組換えでない」旨の任意表示が認められる「意図せざる混入率」を、現行の5%以下から不検出まで引き下げるべきである。
  3. 3 結語
     以上のとおり、現行制度では、消費者に誤認を生じさせるおそれがあり、消費者の自主的かつ合理的な食品選択の機会を確保する制度として十分に機能していないため、意見の趣旨記載のとおり見直されるべきである。
     なお、本意見は当会が最低限見直すべきと思料する問題点に限定して指摘をするものであり、その余に見直すべき点がないという趣旨ではないことを念のため付言する。
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