関東弁護士会連合会は、関東甲信越の各県と静岡県にある13の弁護士会によって構成されている連合体です。

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平成30年度 意見書

機能性表示食品制度に対する意見書

2019年(平成31年)3月19日
関東弁護士会連合会

 機能性表示食品制度が2015年4月1日から運用され,4年近くが経過した。同制度は,特定保健用食品,栄養機能食品以外のいわゆる健康食品等について,食品関連事業者の責任において,消費者庁長官に届け出ることによって,一定の機能性の表示を可能とする制度である。
 しかしながら,同制度の運用のために策定された「機能性表示食品の届出等に関するガイドライン」(以下,単に「ガイドライン」という。)は非常に緩やかであり,制度開始直後から食品関連事業者が消費者庁長官に届け出た機能性表示食品について安全性に疑義がある,機能性の科学的根拠が不十分であるといった様々な問題点が指摘されている。
 それにもかかわらず,消費者庁は平成30年3月28日にガイドラインの第3次改正を行い同制度の利用拡充を図るものの,安全性に疑義があることや機能性の科学的根拠が不十分であること等の問題点について十分な改善がなされていない。
 このような機能性表示食品制度の現状に鑑み,当連合会は,以下のとおり意見を述べる。

第1 意見の趣旨

  1.   機能性表示食品制度については,以下の問題点があるため,廃止すべきである。
    1. (1)特定保健用食品の申請手続において安全性が確認できずに許可されなかった場合でも,機能性表示食品としての届出が受理され得る制度設計となっており,現実に,特定保健用食品として許可されなかった食品が,現在もなお届出撤回等がなされずに機能性表示食品として登録され続けていること。
    2. (2)事業者の責任で届出を行うとの制度設計となっているため,健康被害等のリスクがあるという既存情報がない場合には,民間の一研究者等が調査等したにすぎない結果を基に,事業者が医薬品等との相互作用がないものとして届出を行うだけで,医薬品等との相互作用がないことの科学的証明が不十分であっても,機能性表示食品としての届出が受理され,その機能性表示食品を摂取した消費者の人体に悪影響を及ぼす相互作用を生じさせるおそれがあること。
    3. (3)機能性関与成分の科学的根拠が乏しく,引用される研究レビューの質,量ともに効能を謳うには不十分であること。
    4. (4)包装容器の表示については,消費者庁長官による個別審査を受けたものではないため,商業目的から機能性の表示が過度に強調される一方で,消費者庁長官による個別審査を受けたものではないことや,機能性関与成分の摂取上限量,摂取方法,摂取する上での注意事項といった消費者にとって必要な情報の表示が控えめに表示される実態があり,消費者に誤認や健康被害などの不利益を生じさせるおそれがあること。

第2 意見の理由

  1. 1 機能性表示食品制度の概要について
     機能性表示食品制度とは,事業者の責任で,科学的根拠に基づいたとされる機能性関与成分が含有され,身体の生理学的機能などに良好な影響を与える機能性を有する旨を容器包装に表示することが可能となる制度である。
     疾病に罹患していない者に対し,機能性関与成分によって健康の維持及び増進に資する特定の保健の目的が期待できる旨を科学的根拠に基づいて容器包装に表示をする食品であって,当該食品に関する表示の内容,食品関連事業者名及び連絡先等の食品関連事業者に関する基本情報,安全性及び機能性の根拠に関する情報,生産・製造及び品質の管理に関する情報,健康被害の情報収集体制その他必要な事項を販売日の六十日前までに消費者庁長官に届け出たものと定義される(食品表示基準第2条第1項第10号)。
     特定保健用食品とは異なり,消費者庁による許可又は承認を受ける必要がなく,事業者の届出のみによって機能性の表示が許容される点に特徴がある。
  2. 2 機能性表示食品制度の見直しを求める理由
     機能性表示食品制度には,意見の趣旨で列挙した数々の問題点がある。このように多くの問題点を抱える制度であっては,消費者の誤認を招くことで合理的な選択の自由を阻害するばかりか,不特定多数の消費者の健康被害を招く危険性すら存在する。したがって,本制度は早急に廃止すべきである。
    1. (1)問題点1項について
      1.   平成27年の制度開始直後に,同一関与成分を使った別の商品が特定保健用食品として申請されたものの,食品安全委員会が「安全性が確認できない」と評価したにもかかわらず,機能性表示食品としての届出がなされて受理された食品があることが判明し,報道機関にも大きく取り上げられた。
         かかる運用については,特定保健用食品の制度の潜脱を許容するものとして行政作用の統一性に反するとの批判が当時よりなされており,当時の内閣府特命担当大臣(消費者及び食品安全担当)までもが,特定保健用食品と機能性表示食品の違いが分かりにくいとコメントするような状況であった。
         食品は消費者が体内に摂取するものである以上,安全性の確保には十分な配慮が必要であり,他の行政機関において安全性が確認できないとされたものを機能性表示食品として流通させることは到底許されるものではないが,このような状況が3年以上にわたり何らの対策がされることなく放置されている。
         かかる事態を招いたのは,機能性表示食品制度が届出制とされており,事前の国の実質的な審査が行われない上,表示内容の変更や撤回も事業者の責任とされており,国による取消権も認められていないことに大きな原因があるものといえるが,本制度には本項以外に述べる問題点もあることから,制度自体を廃止すべきである。
    2. (2)問題点2項について
      1.   機能性表示食品が機能性関与成分を含有するものであり,機能性関与成分が人体の生理学的機能に影響を与える成分である以上,機能性表示食品を摂取した後,別の機能性表示食品や医療用医薬品を摂取した場合,機能性関与成分同士,あるいは医療用医薬品との間で種々の相互作用が生じることは十分に考えられる。
         この点,医療用医薬品同士であれば,添付文書(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律第52条)により相互作用,禁忌等について詳細に情報開示がなされていることから,人体に悪影響を及ぼす相互作用を生じさせる危険は事前に回避可能である。
         しかしながら,機能性表示食品については事業者の責任で届出を行うとの制度設計となっていることから,事業者が医薬品との相互作用がないものとして届出を行うことで,その科学的証明が不十分であっても機能性表示食品としての届出が受理されて,機能性表示食品として市場に出回ることになる。そのため,ある機能性表示食品を,別の機能性表示食品や医療用医薬品とともに摂取したことが原因で,人体に悪影響を及ぼす相互作用を生じさせるおそれがある。
         さらに,実際に人体に悪影響を及ぼす相互作用を生じたかどうかの情報収集及び判断も事業者が行うという制度設計になっており,問題である。なぜならば,かかる制度設計によれば,事業者が健康被害ではないと判断すれば,健康被害情報が消費者庁に報告されないからである。
    3. (3)問題点3項について
      1.   機能性表示食品の機能性に関する科学的根拠は,「最終製品を用いた臨床試験」,「最終製品又は機能性関与成分に関する研究レビュー」のいずれかで示すこととされており,研究レビューの方法については,定性研究レビュー又は定量研究レビュー(メタアナリシス)を実施し,「totality of evidence」(関連研究について,肯定的・否定的内容及び研究デザインを問わず検討し,総合的観点から肯定的といえるかを判断)の観点から,表示しようとする機能性について肯定的と判断できるものに限り,科学的根拠になり得るとされている。
         機能性表示食品において機能性を確保するためには,研究レビューが適切に行われ,その内容が適切に届け出られていることが必要である。しかしながら,消費者庁が,機能性表示食品の機能性の科学的根拠として提出された研究レビューについて検証事業を行ったところ(消費者庁「『機能性表示食品』制度における機能性に関する科学的根拠の検証―届け出られた研究レビューの質に関する検証事業報告書」(平成28年3月)),エビデンス総体の非直接性,不精確,非一貫性の評価方法・評価結果や,その結果をどのようにエビデンス総体に反映させたかというエビデンス総体の評価の適正性について,十分に記述されていないものが多く,第三者がエビデンス総体の内容を十分に把握し,理解できるものは少なかったなど,不十分なものが多かったことが判明した。
         また,消費者庁によって毎年実施されている機能性関与成分の分析方法の検証においても,分析方法の情報に不足等があったものが,平成27年度は届出件数の半分近くに及び,平成28年度は届出総数の3分の2近くに及ぶ上,かかる指摘を受けて撤回の届出がなされた商品が,平成27年度は6件,平成28年度は13件に上ることが明らかとなっており(消費者庁「機能性表示食品制度の施行後の検証結果と今後の方向について」(平成30年6月14日)),事業者の謳う効能に対する信用性が乏しいことが明らかとなった。
    4. (4)問題点4項について
      1.   機能性表示食品については,容器包装上,商業目的から機能性関与成分が有する機能性については,容器包装の一番目立つ箇所に強調されて記載されているのに対し,機能性及び安全性について消費者庁長官の個別審査を受けたものではないことや摂取目安量,摂取する上での注意事項などについては,容器包装の目立たない場所に記載されていたり,文字の大きさが小さかったり,文字色が目立たない色味であったりすることが多い。このような記載方法が許容されているため,消費者が,当該食品の機能性及び安全性につき消費者庁長官の個別審査を受けたものではないことなどに気付かず,当該食品の性質を誤解する危険がある。
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