関東弁護士会連合会は、関東甲信越の各県と静岡県にある13の弁護士会によって構成されている連合体です。

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2019年度(令和元年度) 大会決議

特定複合観光施設区域整備法(いわゆるカジノ解禁実施法)におけるカジノ施設等から構成される特定複合観光施設の誘致をしないように求める決議

 2018年7月に特定複合観光施設区域整備法(いわゆるカジノ解禁実施法)が成立した。
 同法は,日本で初めて民間賭博を公認し,民間事業者が,営利の目的でギャンブル事業を営み,顧客の負けを事業者の利益とすることを認めるものである。カジノ事業者は,カジノ行為粗利益の3割の納付金を義務づけられるとはいえ,その余の収益の使途は,制限されない。これまで,特別法により公営ギャンブルの違法性を阻却する際には,「目的の公益性(収益の使途を公益性のあるものに限ることも含む)」や「運営主体等の性格(官又はそれに準じる団体に限るなど)」等が考慮要素とされ,そのために民間賭博が認められることはなかった。カジノ解禁は,法秩序全体の整合性を著しく損なうものである。
 また,カジノ施設におけるスロットマシンやテーブルゲームは,ゲームの速度や頻度の多さから,賭け金も無秩序に高額なものになりがちであり,同法は,入場回数制限を7日間で3回,28日間で10回までとし,入場料を6000円とするが,24時間営業のギャンブル施設に連続して3日,最大72時間も居続けることができ,賭け金額の規制も行われないというのでは,ギャンブル依存症の発症率は相当に高くなることが懸念される。
 さらに,同法では,一定の金額を預け入れた顧客に対しては,カジノ事業者から資金の貸付を行うことが想定されている(特定資金貸付業務)。しかし,その一定の金額がいくらであるかは,現時点では不明であるし,この貸付には,年収の3分の1を超える貸付を禁止する貸金業法の総量規制が適用されることもない。カジノの賭け金を捻出するための借入が可能となれば,ギャンブル依存症を誘発する危険性は高い。
 特定複合観光施設を設置するには,特定複合観光施設を誘致する都道府県ないしは指定都市において,特定複合観光施設区域の整備の実施に関する方針を策定し,区域整備計画の認定申請を行うことになる。
 2018年に政府が都道府県及び指定都市に対して実施したIR(統合型リゾート)誘致に関する意向調査において,大阪府と大阪市は誘致を申請する意向であり,東京都,横浜市,千葉市などが検討中であると回答した。
 このうち横浜市は,2019年8月22日,横浜市でのIR誘致実現のため,IR区域整備計画の申請に向け,本格的な検討・準備に必要な予算を計上し,議会に提出する旨公表した。東京都は,2019年3月に東京都に特定複合観光施設を立地した場合の影響調査をしており,7000億円から9000億円の経済波及効果があるなどとした報告書を公表し,千葉市は,千葉市まち・ひと・しごと創生 人口ビジョン・総合戦略 (2018改訂版)において,「幕張新都心におけるMICE強化の選択肢の一つとして,統合型リゾート(IR)導入の可能性について,国の動向を注視しながら検討を進める。」としている。
 各種世論調査では,カジノ解禁実施法が成立した後も,カジノ解禁に反対あるいは慎重との意見が賛成意見を圧倒しているにもかかわらず,これらの都道府県及び指定都市においては,周辺住民の意思に反して,あるいは周辺住民の意思を問うこともなく,誘致の申請に踏み切る懸念が払拭できない状況が続いている。
 よって,当連合会は,弊害の大きなカジノ施設を含む特定複合観光施設を設置させないためにも,特定複合観光施設区域整備法の廃止を目指しつつ,各都道府県及び指定都市に対して,特定複合観光施設を誘致しないよう強く求めるものである。
 以上,決議する。

2019年(令和元年)9月27日
関東弁護士会連合会

提案理由

  1. 1, 我が国では,刑法制定以前から,賭博行為は歴史的に厳に禁止され,刑罰の対象とされてきた。そして,これまで特別法により,賭博行為の違法性を阻却するにあたって,刑法を所管する法務省の立場からは,「目的の公益性(収益の使途を公益性のあるものに限ることも含む)」や,「運営主体の性格(官またはそれに準じる団体に限る)」,「収益の扱い」,「射幸性の程度」,「運営主体の廉潔性」,「運営主体への公的監督」,「運営主体の財政的健全性」,「副次的弊害の防止」などが考慮要素とされており,このような観点から,民間賭博が公認されることはなかった。
     それにもかかわらず,2018年7月に成立した特定複合観光施設区域整備法(いわゆるカジノ解禁実施法)では,日本で初めて民間賭博を公認している。
     そして,同法において認められるカジノ事業者は,カジノ行為粗利益について3割の納付金の支払いを義務付けられるとはいえ,その余の収益の使途は何ら制限されていないなど,これまでの違法性阻却の議論における考慮要素を満たしているとは思われず,刑法が賭博を犯罪とし,刑罰をもって禁止している趣旨を没却しかねず,法秩序全体の整合性を著しく損なうものであるといえる。
  2. 2, 当連合会では,2015年10月20日,「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案(いわゆる「カジノ解禁推進法案」)に反対する意見書」を発出し,以降,カジノ解禁推進に対し,一貫して反対を行ってきた。
     同意見書においては,カジノの解禁によって,既に深刻化しているギャンブル依存の問題をさらに悪化させる危険性が高いこと,多重債務問題の再燃,暴力団等の反社会的勢力の資金源となることやマネー・ロンダリングの恐れを排除できないこと,カジノ解禁がもたらす経済的効果に関しても,短絡的なプラス面のみが喧伝され,ギャンブル依存症患者が増加すること等による生産性の喪失や社会的コストの増加については何らの検討がなされていないことなどを指摘しているが,それらの懸念は何ら解消されていない。
     特に,いわゆるカジノ解禁実施法では,ギャンブル依存症対策として,入場回数制限を「7日間で3回,28日間で10日まで」とし,入場料を「6000円」と定めているが,24時間営業のカジノ施設に連続して3日,最大72時間も滞在して遊戯することが可能な上,掛け金制限も何ら行われないというのであるから,ギャンブル依存症対策としては極めて不十分である。
     また,同法では,「特定資金貸付業務」として,顧客に金銭を貸し付ける業務が認められているところ,そこでは,一定の金額を預け入れた顧客に対しては,カジノ事業者が直接ギャンブル資金を貸し付けることが予定されている。その一定の金額がいくらになるかは,後に「カジノ管理委員会規則で定める」ものとされており現時点では不明であるほか,当該貸付には,年収の3分の1を超える貸付を禁止する貸金業法の総量規制が適用されることもないことからすれば,特定資金貸付業務の導入は,多重債務問題の再燃に繋がりかねない。しかも,ギャンブル場内でのギャンブル資金の貸付を認めることにより,ギャンブル依存症を誘発する危険性も高いと言わざるを得ず,ギャンブル依存症対策の観点からも問題は大きい。
  3. 3, 同法においては,このような特定複合観光施設を設置するには,特定複合観光施設を誘致する都道府県ないしは指定都市において,特定複合観光施設区域の整備の実施に関する方針を策定し,区域整備計画の認定申請を行わなければならないとされている。
     そして,2018年に政府が都道府県及び指定都市に対して実施したIR(統合型リゾート)誘致に関する意向調査において,大阪府と大阪市は誘致を申請する意向であり,当連合会の管内自治体では,東京都,横浜市,千葉市などが検討中であると回答し,このうち横浜市は,2019年8月,IR誘致の意向を表明した。
     交通手段の発達等により,東京都や横浜市,千葉市などの東京周辺の大都市への移動は,金銭的にも時間的にも安く手軽に行えるようになっていることを考えると,これら自治体に特定複合観光施設が誘致された場合には,ギャンブル依存症の増加を始めとする前述のカジノに関する諸懸念は,単に誘致自治体だけの問題にとどまらず,当連合会管内を含む周辺自治体に広く及ぶことは明らかである。
     したがって,当連合会は,特定複合観光施設区域整備法の廃止を目指しつつ,各都道府県及び指定都市に対して,特定複合観光施設を誘致しないよう強く求めるものである。

以上

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