関東弁護士会連合会は、関東甲信越の各県と静岡県にある13の弁護士会によって構成されている連合体です。

宣言・決議・意見書・声明等宣言・決議・意見書・声明等

2019年度(令和元年度) 声明

多様な場面における連携の深化を目指す宣言

 今日においては、それまで存在はしても認識はされていなかった多くの人権課題が、社会問題として顕在化しています。また、少子高齢化やグローバリゼーションの進展によって人権課題がより深刻化し、情報通信技術の発展等によって新たな人権課題も発生しています。
 そのため、弁護士が人権課題に取り組むにあたっては、ますます幅広い知見と高い専門性が求められています。その結果、弁護士が単独では課題を十分に解決できない場面が増え、他分野の専門家や関係機関と連携して課題解決に取り組む必要性が高まっています。
 以上の認識のもと、弁護士及び弁護士会は、様々な場面で、他の分野の専門家等と連携して様々な課題の解決に取り組んでいます。もっとも、弁護士の業務や職能について市民や他の分野の専門家等から未だなお十分な理解が得られていないことや、弁護士が業務の範囲に自ら限界を設けてきたこと等から、必要な場面に弁護士が関与していないことは少なくありません。
 いま、弁護士には、当事者の権利を本位としつつ、従来の限界から踏み出し、社会に出て他の分野の専門家等とさらに関わり、連携することが求められています。また、国及び地方自治体等の組織内で活動している弁護士との連携も重要です。このような連携の重要性を踏まえ、関東弁護士会連合会(以下「当連合会」といいます。)は、弁護士及び弁護士会による連携について以下のとおり宣言します。

 【学校に関する連携】

  1. 1 子どもが学校において安心して豊かな教育を受けるためには、すべてのいじめ、体罰及び虐待を撲滅するとともに、教員の負担を軽減することが必要不可欠です。そのために、弁護士及び弁護士会は、学校設置者である各都道府県及び市町村、並びに学校法人等と連携して、学校における人権感覚をさらに磨き、コンプライアンスを徹底する1つの方法として、スクールロイヤーの活用を進めていきます。
  2. 2 弁護士会においては、先進的取組みを行う他の弁護士会からスキーム及びスキルの導入を図るほか、教員・教育委員会や、児童心理・医療・ソーシャルワーク等他分野の専門家及び警察関係者と協働し、子どもにとってよりよい学校環境を確保することに努めていきます。

 【事業者支援に関する連携】

  1. 1 弁護士及び弁護士会は、様々な事業者への適切な法的支援を実現するため、弁護士による支援の必要性が事業者には必ずしも十分に理解されていない現状を認識し、その必要性を広く周知していきます。
  2. 2 弁護士及び弁護士会は、事業者の個別具体的なニーズを汲み上げるため、既に弁護士が他機関と一定の連携関係を構築している事業承継等の業務分野においては、当該連携を個々の担当者同士の顔が見える関係にまで深化させる働きかけを行います。また、創業支援等新たな業務分野にあっては、連携を広めるために、弁護士が自ら出向き他機関との関係性を構築するような積極的なアウトリーチ活動に取り組みます。

 【高齢福祉に関する連携】

  1. 1 弁護士は、高齢者自身の抱える悩みや問題を十分に理解することはもとより、福祉従事者や行政機関等、他の支援者らそれぞれの役割や機能を十分理解し、かつ、これらの方々に対して、積極的に弁護士の使命や役割を理解していただくようコミュニケーション等に努めていきます。
  2. 2 弁護士及び弁護士会は、地域社会においてソーシャルワークを行うチームの一員であるとの自覚のもと、チームで問題を解決する必要性・重要性を十分に認識し、謙虚に、しかし積極的に、関係機関と連携しつつ、自らの役割を果たしていきます。

 【刑事司法に関する連携】

  1. 1 障がい等からくる生きづらさを抱えて罪に問われた人やその周囲の人を支援する上で、下記3つのAが重要であり、弁護士はこの認識を踏まえて弁護活動を行います。
     ① Awareness(気づき)
     その人の背後にある障がい等に気づき、抱えている生きづらさを想像することから支援が始まることを自覚します。
     ② Action(行動)
     その人のために必要な支援を考え、他分野の専門職や関係機関と連携しながら具体的な行動を起こします。
     ③ Aftercare(釈放後支援・出所後支援)
     弁護士は、刑事手続終了後の社会生活においても法的支援が必要となる場面は多いことを自覚し、刑事手続終了後も弁護士に求められる支援は何かを考え、実際に行動します。
  2. 2 弁護士会は、会員が上記3つのAを実践できるよう、必要な措置を講じます。
  3. 3 連携を伴う支援活動を継続的に行うためには、国及び地方自治体から福祉等の専門職に対して適正な費用や報酬等の経済的援助が行われることが必要であり、当連合会は国及び地方自治体に対し、そのような経済的援助措置を講ずるよう働きかけます。

以上

2019年(令和元年)9月27日

関東弁護士会連合会

提案理由

 【学校に関する連携について】

  1. 1 子どもは、一人の人間としてその尊厳を尊重されるべきであり、人格及び能力を最大限に発達させ開花させるための学習権が保障されています(憲法13条、26条、子どもの権利条約6条、29条1項)。
     いじめ、体罰又は虐待を受けた子どもは深く傷つくとともに、本来、楽しく教育を受け、自己を発達させる場である学校において、学習する権利を奪われています。
     学校現場は、時代の進展に伴い求められる役割が大きくなるとともに、教員に対する期待の高まり等の理由により保護者への対応が年々難しくなり、教員の絶対数が増えない中で、個々の教員の負担が重くなっています。その結果、教員が、子どもが送るサインを見落とす危険が増加し、痛ましい事件が多数生じています。
     そのため、いじめ、体罰及び虐待を撲滅し、子どもの人権を護るとともに、教員の長時間労働の防止をはじめとした学校におけるコンプライアンスを徹底するためには、弁護士が、スクールロイヤーとして学校現場に対してサポートを行うことが必要不可欠です。
     具体的には、いじめ予防教育及び学校における法的相談対応を行うとともに、いじめを含む問題に対する法令に基づく対応の徹底を図り、従来は発見・解決が困難であった事案について、弁護士が助言・指導を行うことにより学校と連携して問題を解消し、子どもが幸せに学習する権利を全うさせる必要があります。
  2. 2 当連合会所属の各弁護士会のうち、会員数が数百名を超える大規模な弁護士会は、スクールロイヤー事業を担当する人的余裕があるといえます。これに対し、たとえば小規模な弁護士会では、特にいじめ予防授業の教材準備等を負担するなど大規模な弁護士会と同程度のサービスを行うことが容易ではありません。
     そのため、弁護士会においては、先進的な取組みを行っている大規模弁護士会などと連携を深め、スクールロイヤーに関するスキーム及びスキルの導入を図るほか、必要があればマンパワーのサポートを受けることも検討すべきです。
     また、弁護士は、あくまでも法的分野の専門家にすぎないことから、学校教育の専門家である教員・教育委員会はもちろん、児童心理(研究者・スクールカウンセラー)、医療(医師・歯科医師)、ソーシャルワーカー及び警察関係者(少年犯罪防止のための啓発・不当要求対策関係)等幅広い分野の専門家と協働することにより、子どもに対して必要かつ十分なサポートを行い、子どもにとって、よりよい教育環境を確保することに一層努めていきます。

 【事業者支援に関する連携について】

  1. 1 我が国の経済、雇用の担い手である事業者(営利・非営利の別、規模、業種・業態を問いません。)に対する法的支援は、弁護士の中心的業務の1つです。その業務範囲は、紛争対応のみならず紛争予防、事業戦略など様々な場面に及びます。
     個々の弁護士や弁護士会は、その重要性を認識し、事業者に対する積極的な活動を行っています。日本弁護士連合会も、2017年に、「中小企業・小規模事業者に対する法的支援を更に積極的に推進する宣言」を発し、さらなる弁護士及び弁護士会の関与の必要性を訴えているところです。
     もっとも、事業者への弁護士による法的支援の必要性は、必ずしも十分に理解されているとはいえず、なお周知を行っていく必要があります。
  2. 2 事業者への法的支援の必要性が指摘される一場面として、事業承継の場面が挙げられます。中小、零細企業に目を向ければ、経営者の高齢化が進んで久しく、廃業や事業承継への対応が、全国的な喫緊の課題となっています。
     事業承継の場面では、弁護士のみでは問題の抜本的解決が図れず、関係機関との連携が必要不可欠です。そのため、個々の弁護士及び弁護士会は、これまで様々な施策に取り組むとともに、関係機関との連携活動に注力してきました。既に築き上げられた、関係行政官庁、地方自治体、中小企業支援団体、金融機関、専門士業団体等との連携・提携は、各地での熱心な活動の成果です。
     一方、実際の事業承継支援の現場に目を向けると、法的支援を必要とする局面に直面している事業者にさえ、弁護士は第一の相談相手とは認識されていません。それどころか、弁護士に相談しようという発想自体がない事業者が多いと思われます。また、これまで築き上げられた連携・提携関係は、具体的な事業者への支援に結びついていない傾向もあります。これらの問題の背景には、弁護士の業務範囲について紛争対応に限定されると誤って認識されていること、弁護士に対し敷居が高く相談しづらいイメージを持たれていること等の事情があります。
     このような状況を打開するためには、弁護士会と他機関との団体としての連携関係を、個々の弁護士と担当者との顔が見える関係にまで深化させ、連携機関の担当者を通じて、個々の弁護士が支援を要する事業者に迅速かつ適切に関与できる環境にしていく必要があります。
  3. 3 また、事業者への法的支援は、事業承継分野のように、既に多くの弁護士が携わっているもの以外にもあります。創業後間もない事業者は、事業基盤が弱く、一度法的トラブルに巻き込まれると、事業自体の挫折に繋がりかねないという側面があります。そのため、弁護士が創業者や創業後間もない事業者に対して適切な法的支援を行うことが不可欠です。これは、我が国経済の活性化にも繋がる重要な役割です。
     しかし、事業承継などの分野以上に、創業者や創業支援機関には、創業の段階で弁護士による支援を受けることの必要性・有用性について十分な認識を持たれていないのが実情です。
     そのため、従前のように弁護士が受け身の姿勢では、創業支援を実現することはおよそ不可能です。弁護士及び弁護士会は、既存の連携関係を活用して、創業者若しくは創業後間もない事業者と接点が持てる場へ積極的に出向き、創業時における弁護士による法的支援の必要性と有用性を伝えるなど、アウトリーチの活動が必要です。

 【高齢福祉に関する連携について】

  1. 1 高齢化が急速に進む社会の中で、高齢者の基本的人権を確保し、高齢者が安心して豊かな生活を送るためには、自助のみでは不十分であって、互助、共助や公助のための連携が必要です。
  2. 2 高齢者支援においてこれらの取組みを効果的に機能させるには、それぞれの担い手の対等な協力関係が前提となります。そのためには、相互理解が欠かせません。
     弁護士は、法的問題の解消という側面において高齢者支援の重要な担い手となり得る存在ですが、単独で判断し仕事を進めることが多いという職務上の特徴から、他職種や地域社会の機能や役割への理解が不十分である傾向があります。
     また、「敷居が高い」等の弁護士に対する社会的な評価が示すように、他の支援者らと同じ目線でコミュニケーションをとることに慣れていない傾向もあります。
     弁護士には、以上の傾向を自覚し、福祉従事者や行政機関等、他の支援者らとの相互理解のため、支援者らの役割を積極的に理解し、かつ、弁護士の使命や役割について理解を広めることについて、より工夫や努力をすることが求められています。
  3. 3 次に、高齢者支援の効果的な実践のためには、上記相互理解を前提として、支援者らそれぞれが緊密に連携し、高齢者に寄り添うことが必要です。
     弁護士は、高齢者支援に関わる中で、独断でことを進めようとしたり、反対に他の職種に任せきりにしたりなど、「チーム・プレー」に不慣れな傾向があります。
     しかし、要支援高齢者が抱える「問題」は、生活上の全般に及ぶものであり、法的問題への対応だけ、弁護士の働きだけでは、「解決」できないことを自覚する必要があります。福祉従事者や行政機関は、それぞれ高いスキルを有する専門家です。高齢者の基本的人権が擁護された状態を確保し、高齢者が安心して豊かな生活を送るためには、これらの方々と適切に役割を分担し、緊密に連携する努力、寄り添う姿勢が欠かせません。

 【刑事司法に関する連携について】

  1. 1 障がいや経済的ハンディキャップ等を抱えた人たちが罪に問われたとき、背後にある生きづらさに踏み込むことなく、減刑につながると考えられる証言や供述を単に引き出すという弁護活動を行うにとどまった結果、真の解決につながらず、以後の生活環境の調整がなされず、又は不十分なまま社会に戻り、再び罪に問われることとなる例は少なくありません。しかし、これではその人の人生にとっても、また、費やされた人的・経済的資源に見合う実益が得られないという点でも、あまりに無益です。
     刑事手続の中では、弁護士が人それぞれの生きづらさに応じて福祉、医療、社会保障等必要な支援のあり方を検討し、多くの関係者が相互に連携して継続的な支援が行われるようにすることが、本人や周囲の人の幸福追求や人権擁護に寄与します。
     私たちは、今回の調査を通じ、このことの重要性を改めて認識しました。
  2. 2 福祉等の専門職と適切な連携・協力を行うためには、各弁護士会において、福祉等専門職と常日頃から交流を持つと同時に、広く会員に対して福祉等専門職の活動について情報を共有することによって、罪に問われた人やその周囲の方が適切に支援を受けられる状況を構築することが急務です。
     もっとも、福祉等専門職との連携については、個々の弁護人の積極性や経験等によって大きな差異が生じている現実があります。そのため、障がい等を抱えて刑事手続の対象となったすべての人が適切な支援を受けられているとは必ずしもいえません。
     そこで、弁護士会は、会員が福祉等の専門職との連携を適切に行えるようにするため、適切な環境づくりなどの措置を講ずる必要があります。
  3. 3 また、刑事手続に関与する福祉等専門職の費用及び報酬等については、これを公費によって支出する制度がなく、①福祉等専門職の厚意によって無償にて福祉的支援が行われているか、②弁護士会等が一部負担しているという現状があります。
     しかしながら、①は福祉等専門職が刑事手続に関与することをためらわせ、現在生じている引受け手の不足を解消することが困難となり、長期的にみれば、福祉的な支援を継続することが不可能となりかねないという問題があります。また、②については、本来対等であるはずの弁護人と福祉等専門職との間で一種の主従的な関係が生じる懸念があり、弁護人と福祉等専門職との間の協働関係としてあるべき形とはいえません。
     上記のように、刑事手続において福祉等の専門知識を活用した支援を行うことが、支援を受ける人にとっても社会にとっても大いに有益であることから、私たちは、無理なく支援が継続できるよう、国及び地方自治体に対し福祉等専門職への経済的な援助措置を求め、また、当該措置が講じられるよう働きかけます。
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