関東弁護士会連合会は,関東甲信越の各県と静岡県にある13の弁護士会によって構成されている連合体です。

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2020年度(令和2年度) 声明

新型コロナウイルス対策にあたり外国人の権利を擁護し差別を禁止する取組みの強化を求める理事長声明

  新型コロナウイルス対策の一環として,国や地方自治体等において,在留外国人のための様々な情報提供が行われており,入管分野においても,在留資格変更及び期間更新許可申請受付期間の延長や仮放免者の出頭を不要とする措置等が採られている。
 しかし,現実には,日本に在留する外国人の権利が侵害される状況が発生しており,差別的な取扱いも行われている。
 ウイルスは国籍も在留資格にも関係なく感染するものである以上,国籍や在留資格にかかわらず日本国内に居住する全員について対策を採ることでしか,感染を抑制することはできない。また,非常事態の際には社会的・経済的弱者への差別が生じやすいことは,これまでの歴史が示すところである。
 そこで,当連合会は,今般の緊急事態宣言発出という事態にも鑑み,国及び地方自治体に対し,国籍や在留資格の有無を問わず,以下の通り,日本に在留する全ての外国人の権利を擁護し差別を禁止する取組みを強化するよう求める。
  1. 1 外国人労働者とその家族の権利・生活保障
     外国人技能実習生が解雇され,また外国人労働者に対する派遣切りや雇止めが相次いでいるとの報道がなされている。外国人労働者を「雇用の調整弁」として真っ先に解雇・雇止めの対象とすることは労働基準法3条の禁止する国籍を理由とする差別的取扱いにほかならない。
     また,外国人労働者が失職した場合には,その家族も経済的基盤を失うことになる。しかし,生活保護等のセーフティーネットに関しては,従前から,永住者等の入管法別表第2の在留資格を有していなければ支給されない取扱いとなっている。さらに,従前より不就学児の問題が指摘される等,外国にルーツを持つ子どもの教育を受ける権利の保障は不十分であったところ,家族が経済的基盤を失うことで,さらに子どもの権利保障が損なわれるおそれがある。
     そこで,事業者に対する助成金・給付金支給の拡大を含め,外国人労働者やその家族の権利擁護のための取組みをより強化すべきである。
  2. 2 差別禁止の徹底
     新型コロナウイルス対策として,政府において,世帯単位でのマスクや現金の給付が検討されているが,差別的取扱い禁止の観点からも,給付にあたっては,国籍や在留資格の有無を問うべきではない。
     ましてや,当初さいたま市が備蓄用マスクの配布先から埼玉朝鮮幼稚園を除外したことや,一部の国会議員が上記現金給付について日本国民に限ると発言したこと等のように,差別を助長する行為は許されない。
     各地方自治体において海外からの帰国者や中国出身者に対する差別・偏見等をしないよう呼び掛けているが,国においても,国籍や在留資格に基づく差別を決して容認しないよう積極的に発信すべきである。
  3. 3 入管分野における不利益の防止
     入管分野においても,法務省は,本年4月3日以降に出国した外国人については,永住者等の入管法別表第2の在留資格を有する者であっても原則として上陸拒否の対象となるとする。しかし,永住者等は日本に生活基盤を有する者であり,やむを得ず出国した者が再入国を希望する場合は,日本国民が海外から帰国した場合と同様の対応(14日間の隔離・待機)で足りるというべきである。
     また,冒頭述べた通り,在留期間更新許可申請等の受付期間の延長措置は採られているものの,在留期間そのものを伸長する措置は採られていない。そのため,期間経過後に従前の資格に基づく就労が違法になり,また,留学生等の資格外活動許可が得られないという問題が生じないよう,手当てすべきである。
  4. 4 入管収容施設からの解放
     刑事収容施設や警察署における新型コロナウイルス感染事例が報道されているところ,入管の収容施設だけが例外ということはあり得ない。収容施設においては,いわゆるソーシャル・ディスタンスを確保することは困難であり,被収容者及び職員の安全を確保するためにも,身元保証人がいる被収容者については在留特別許可,特別放免,仮放免等を活用し,速やかに解放するべきである。なお,報道によると,欧州諸国においては被収容者の解放を認め,欧州評議会において解放するよう求める声明も発出されているとのことである。さらに,解放をすることが困難な者については,収容施設内において十分な感染症対策及び医療体制を速やかに確保するべきである。

2020年(令和2年)4月24日
関東弁護士会連合会
理事長 伊藤 茂昭

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